欲望にはチュウジツに!   作:猫毛布

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駄文です。繋ぎだから仕方ないネ。
タイトル詐欺です(迫真


ハイキック・パンティ

「…………」

 

 簪さんが目の前の投影されたディスプレイを注視して、瞼をゆっくりと閉じた。息を吐き出して、一つ一つ、丁寧に消していく。

 全部が消えて俺達の前に変わらず鎮座しているIS――打鉄弐式。心なしか輝いて見える彼女をぼんやりと眺めながら、俺と簪さんは溜め息を吐き出して、張っていた肩の力を抜いた。

 

「出来た……」

「そうッスね」

 

 パチクリと俺の方を向いて、まるで現実かどうかを確認するように呟いた簪さんに俺は同意する。

 出てきたエラーは消したし、調整も終わった。

 完璧である――とは決していない。むしろ不足の方が多いだろう。時間が足りなかった、とは言わない。限界ギリギリが今であり、そして俺達はやり切った。

 簪さんは一歩踏み出して、打鉄弐式に触れた。

 

「大丈夫……かな?」

「さあ、どうだろ」

 

 大丈夫、とは言えなかった。なんせ俺も簪さんも打鉄弐式が不十分である事に気付いているから。けれど、不十分であるが、簪さんはコレを"完成"と言った。だからこそ、ココまでだ。

 ヘラリと笑った俺の一言に少しだけ不貞腐れた簪さんは溜め息を大きく吐き出した。

 

「そこは……大丈夫、って言ってくれても……いい」

「俺は嘘が吐けないのさ。それに自信のない事を言い切れないんスよ」

 

 へらへらと笑い浮かべて言ってみれば、むすっとした簪さんはまた打鉄弐式に向いた。

 

「まあ相手が誰であれ、簪さんは守りぬくさ。簪さんは落ち着いてロックオンすりゃぁいいさ」

「…………へぅ」

 

 どうしてか耳が真っ赤になった簪さんが小さく呟いた。

 頭を振った簪さんが俺へと振り向く。顔はまだ少しだけ赤い。

 

「よろしく……穂次くん」

「任せなボス!!」

「ボスじゃない……」

 

 ニヤリと笑った俺に崩した表情の簪さんがいつものように言葉を吐き出した。

 

 

 

 

 簪さんと整備室の前で別れた俺は肩を落とす。

 簪さんの前ではなるべく見せないようにしていた疲れた表情を出している事は理解しているが、幸いな事に廊下に人気は全く無い。調整に時間が掛かったから仕方ないか。

 それにしても、どうしたモノか。困ったことがある。

 別に今しがた目の前に出てきた更識会長ではない。確かにこの人は困ったさんだけど、そんな事で困る意味もない。

 

「こんばんは、穂次くん」

「こんばんは、更識会長。疲れてるんで、タッグマッチに向けた精神攻撃はやめてもらっていいッスかね?」

「あら、簪ちゃんの相手はして私の相手はしてくれないのかしら?」

「簪さんとアンタを比べる意味はねーでしょ。つーか、マジで何ですかね……」

 

 さっさと帰って寝たいのだ。俺は傷心なのだ。目の前で更識会長が扇を広げているけれど、何だあの漢字……達筆すぎて分からん。でも、なんかハートマークがあるから、きっと恋人の名前でも書いてあるんだろ。

 

「というか、傷つきすぎじゃないかしら?」

「何がッスか?」

「セシリアちゃんやシャルロットちゃんに無視されたり苗字で呼ばれたりしただけで」

「ガハッ……」

 

 現実を叩きつけられた。もう俺は生きていけないかもしれない。痛む心臓を抑えて、息を吐き出してしまう。

 

 苗字で呼ばれた瞬間は頭が真っ白になってしまったのだ。ちょっと現実逃避もした。その場でシャルロットに謝られもしたけれど、俺はいつもの調子を装う事でその場から逃げ出した。

 いや、簪さんの手助けをしていた事は悪くない筈なんだ。でも、この仕打はヒドいと思うのだ。

 決心が揺らぐ様な事は無かったけれど、全力疾走してわからなかった恋愛感情というヤツは痛いほどわかった。結果的に分かりたくはなかった。

 

「えー、っと、そのゴメン」

「……くっ、精神攻撃をして俺を弱らせるとは」

「案外余裕そうね」

「余裕を装ってるだけッスよ。これでも初恋だと思うんで」

「……あらそう」

 

 眉間を寄せてそう零した更識会長は少しだけ視線を下げて、スグに俺の方へと向き直した。

 

「それで、簪さんが帰る所見てたって事は俺に用ッスかね?」

「……アナタなんかに用がある訳ないでしょ?」

「じゃあ打鉄弐式にでも?」

「…………アナタには関係ないでしょ」

「関係ない、って言えないんすよね。アレは簪さんが一人で仕上げた機体だから、更識会長が手を出すと意味がないんですよ」

「……はぁ。不完全な機体に乗せて簪ちゃんを危険な目に合わせたくないの」

「わぁー正論だー」

「なら退いて。邪魔よ」

「嫌ッス」

 

 ニッコリと笑みを浮かべてみれば、更識会長もニコリと笑みを浮かべた。

 瞬間、俺の側頭部に蹴りが迫る。ソレを腕で抑えて踏みとどまる。何故更識会長はスパッツを履いているのか……。

 

「退きなさい」

「そんな事よりなんでスパッツ履いてるんですか。こういう時はパンティを見せてくれる流れでしょ? 俺知ってんですよ。漫画で読んだ」

「主人公になって出直して来なさい」

「それは無理な相談ッスね。まあスパッツでも大いに結構。その脚線美が素晴らしいッス!」

「そういう事を言ってるからセシリアちゃん達に怒られるんじゃないのかしら?」

「怒られてる時は好きッスよ。ああ、マゾって訳じゃねーですけど」

「…………それで、退いてくれない?」

「嫌ッスよ。それに時間切れみたいッス」

「……ハァ。わかったわ。簪ちゃん何かアレばわかってるわね?」

「わー、怖ーいなー」

 

 へらへら笑ってやればコチラをキツく睨む更識会長。残念ながら、時間切れである。

 踵を返して歩き出した更識会長とは逆にコチラに寄ってきた影。

 

「……」

「やあ簪さん。さっきぶり!」

 

 しょんぼりしてコチラに歩いてきた簪さんは俺の前で止まった。

 

「……なんで」

「ん? ああ、更識会長が来た理由? 簪さんが心配だったらしいッスよ」

「……嘘」

「ほう、その心は?」

「あの人は……私に無能で居てほしいから……」

 

 そんな言葉に思わず苦笑して簪さんの頭をグシャグシャと撫でる。なんとも心が繋がらない二人だなー、とボンヤリと考えもする。俺には何も出来ないけど。

 

「無能で居てほしいなら、わざわざ打鉄弐式の調整に来てないさ」

「……わかってる」

「そっか」

 

 そう、簪さんはきっと気付いているのだ。ただソレが不安で仕方ないのだろう。

 グシャグシャと撫でていた手を払われて、簪さんはちょいちょい、と自分の髪を手櫛で直していく。

 

「んじゃ、あの姉に認めてもらう為に頑張ろうぜ」

「うん……!」

 

 きっと簪さんが認めてもらいたいのは、あの姉なのだろう。俺から見たら残念なお姉さんなんだけれど、簪さんから見たならばさぞかし素晴らしいお姉ちゃんなんだろう。

 

「ま、こういう時は決勝とかで当たって戦うんだろ」

「物語の鉄則だね……!」

「ああ! 未調整部分、つーかマルチロックオンはほとんど出来てないからな。そこらも調整しながら戦おうぜ」

「……出来るの?」

「簪さんが頑張ればね。俺は守るだけだから」

 

 へらりと笑う。守るだけ、というのなら問題はないし、後ろに置くであろう簪さんに接近を許す事もないだろう。

 

「開発部分は全然手伝えなかったからな。戦闘なら任せろーバリバリ」

「……やめて」

 

 反応してしまってハッとしてから外方向いた簪さんに吹き出してしまう。

 へらへらと笑っていれば簪さんも釣られてクスクスと笑う。

 

 そうさ。不十分だからこそ、羨むのだ。

 完璧だったり、天才だったり、色々を――羨むのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日になり、開会式が行われる。俺はクラスの列に並んでいるが、一夏は生徒会の為壇上に居て、隣にいる布仏さんを支えている。

 支えた瞬間に近くから舌打ちが聞こえた。きっとおっぱいの大きな人が舌打ちをしたんだろう。一番近いラウラさんからは聞こえなかったけれど、もう一人居る貧乳代表はきっと舌打ちをしたに違いない。

 

 欠伸を零しながら、開会の挨拶をしている更識会長を見つめる。相変わらずの美人である。

 どうせあのシスコンポンコツ会長の事だから「簪ちゃんに手なんて出せない……決勝までにどうにかしないと……」とか考えているのだろう。俺には分かる。だからきっとあのポンコツと戦うのは決勝戦になる筈だ。

 ついでに一夏の補正的な何かを考えれば前評判が雑魚もいい所である俺と簪さんペアに当たる訳がない。篠ノ之さんと当たるのだろう。

 

 へへっ、今日は勘が冴えてやがる。

 

 さて、もう現実逃避は十分だろう。意識を現実へと戻して発表された対戦表を改めて見る。

 

 第一試合

   織斑一夏&更識楯無  

        対 

       夏野穂次&更識簪 

 

「あーはいはい知ってた知ってた」

 

 思わずそう呟いた俺を慰めてくれる存在はココには居なかった。

 

 

 

 

「穂次くん……」

 

 対戦表を見て呆然としていた俺の裾を簪さんが控えめに引っ張った事で俺は改めて現実に戻ってきた。

 不安そうな簪さんの顔が俺の目に映る。ココは俺が気の利いたセリフを言わなくてはいけないのだろう。

 

「ヤバイ、簪さん。スゲーお腹痛い」

「!?」

「もうマジ無理……初戦とか無理だって」

 

 お腹を抑えた俺は悪くない。悪くない筈だ。

 

「だ、大丈夫……!」

「ん?」

「頑張ったから……勝てる、よ!」

「…………生意気めー」

「あぅあぅ」

 

 珍しく勇気の満ち溢れている簪さんの頭を乱暴に撫でて気持ちを切り替える。相変わらず気持ちいい髪をしている。

 気持ちを切り替えた俺は前を向く。セシリアが居た。光彩の無くなった瞳で俺を見て、ニッコリ。俺もニッコリ。

 セシリアは踵を返した。

 

「待って! 待ってくれ、セシリア。これは、えーっと、その」

「何かご用でして? アナタは第四アリーナまで行くのでしょう? 早く行けばいいですわ」

「怒ってませんかね? 俺が何をしたって言うんですか」

「別に何もしていないのではないのではありませんの? 少なくとも()()()()の中では」

「―――――」

 

 息が止まりそうになった。

 膝が折れ曲がり、倒れそうになるのを両手でどうにか止める。

 そんな俺を一瞥して、少しだけ心配そうにしたセシリアがやはり何も言わずに俺の前から立ち去った。

 

「え、っと……」

「……んじゃ、行こうか簪さん……俺、この戦いが終わったら……終わったら……うぅっ」

「めんどくさいからヤメテ」

「はいはい。ボスの言うとおりに」

 

 どうして演技だとバレてしまうのか。心にダメージ食らったのは本当だからバレないと思ったけど。

 へらりと立ち上がった俺を見て簪さんが訝しげな表情を作る。

 

「どした?」

「ちょっと……嬉しそう」

「まあな」

 

 むにむにと頬を触って、ニヤつく顔をどうにか収める。いつものヘラリとした笑いを浮かべて歩き始める。

 そんな俺の隣で一緒に歩きながら疑問を表情に出している簪さん。

 

「嫉妬ってわかるから、嬉しいんだろうな」

「……惚気?」

「ちょっとだけな」

 

 照れが溢れて笑みになってしまう。

 俺が言葉を漏らせば、簪さんは少し驚いた顔をして目をパチクリとさせる。どうにも俺は嫉妬すらも理解出来ていない朴念仁と思われていた様だ。誠に遺憾である。そういう役割は一夏が担ってるから、俺は決して朴念仁ではない。

 

 ソレを言葉にして溜め息と一緒に吐き出そう口を開き――

 

 

 轟音と震動がアリーナを支配した。




>>打鉄弐式完成
 結局一人で完成させた。なお調整はガバガバなので原作よりも幾分か劣ってる。戦闘中にデータ取りと調整をこなす予定。簪ちゃんのスペックは上げてます(白目

>>穂次が読めない扇の字
 『簪』を達筆で書かれるとわからない。

>>仏「どうしたのかな? 夏野くん」
 原作準拠。穂次に対しては高ダメージを叩きだしたもよう

>>英「どうかしまして? 夏野さん」
 無表情とか笑顔とかじゃなくて拗ねてる感じが伝わるセシリー可愛い

>>穂「はいはい知ってた知ってた」
 現実逃避

>>精神攻撃
 精神攻撃は基本

>>ゴーレムさん戦開始
 次回からだから(震え声

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