欲望にはチュウジツに!   作:猫毛布

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タイトル通り、暗い話じゃないです
難産

おっぱい成分はないけどちっぱい成分はいれました。
揉むんじゃなくて、"むにむに"か"ふにふに"したい(確信


君はいい道化だったよ

「はぁ……あのさ、穂次」

「なんだよ、相棒」

「お前が俺に対して怒ったのはわかる。だから俺は簪さんに対してもう口を出さない事を簪さんにも言ったし、穂次に怒られた事も言った。謝りもした」

「そうなのか?」

「……う、うん」

 

 第二整備室でいつもの様に自身のIS――打鉄弐式の調整をしながらも簪は穂次の問いかけに頷いた。相変わらず穂次はへらへらと笑っているし、その穂次の隣にいる一夏は不満顔だ。

 

「で? ソレがどうかしたのか?」

「なんで俺がココにいるのか、もう一度聞きたい」

「そりゃぁ、簪さんのIS武装に荷電粒子砲があって丁度いいサンプルがお前だったからだ」

「お前さ、俺に怒ったよな? 変な責任感とか無しとか、色々言ってたよな?」

「ああ!」

「じゃあどうして俺の手を借りる事になってるんだよ! 俺だって訓練とかで忙しいんだぞ!」

「まあまあ。モデルの仕事をする程度には暇だろ? データもらうだけだから。ほら、簪さんもこんなにお願いしてるし」

「べ、別に、大丈夫……」

「な?」

「明らかにデータ貰うのを嫌がってんだけど……」

「お前はこんなに誠心誠意頼んでる簪さんの気持ちがわからないのか!」

「あぅあぅ」

「凄い真っ赤になってお前を止めようとしてるのはよく分かるよ、ア穂次」

「大丈夫大丈夫。俺が適当に改竄(かいざん)して白式のデータって事は分からないようにしとくから!」

 

 任せろ! と言わんばかりにドヤ顔でサムズアップをした穂次の隣で涙目をグルグルとさせながら「あぅあぅ」と穂次を止めようと袖を握りしめている。

 そんなチグハグな二人を見ながら溜め息を吐き出して一夏は右腕の待機状態でガントレットに成っている白式を軽く持ち上げる。

 

「まあ別に俺はイイけどさ」

「やったぜ。んじゃ、失礼」

 

 穂次は自身の左薬指収まる村雨から伸びるコードを白式へと繋げて左瞼を閉じる。

 その様子を一夏は訝しげに睨み、少しの時間を掛けてからようやく疑問を口にした。

 

「というか、前もだけど。お前左目どうかしたのか?」

「ん? 村雨との適合率上げたら左目の視力がぶっ飛んだ」

「…………は?」

「…………え?」

「だから、ホレ」

 

 閉じた瞼を上げればソコには黒い目玉に黄色の瞳が浮かんでいる。

 あっかんべーの様に左目を指差してへらへらとする穂次に対して二人は唖然としてしまう。特に簪はさっぱりと理解出来ていない。

 ようやく頭を抱える程度に思考を戻せた一夏が言い淀む。

 

「つまり……えー、っと? 穂次の左目はラウラみたいにハイパーセンサーでも起動出来るって事か?」

「そんな高性能じゃねぇよ。村雨のデバイス替わりになってるだけで、実用性はない!」

「お前バカだろ!」

「ああ!」

 

 へらへらと笑いながら一夏へと応えた穂次。当然事態を理解出来ていない簪は頭に疑問を浮かべながら一夏の焦り具合を見て、悪い事であるのは理解出来た。

 

「ど、どういう事……?」

「んー……。俺の中に封印された特殊能力が作用して能力開放中は左目が変化してしまうのだッ!!」

「ほんとにっ!?」

「ああ、なんだろ。俺の中にあった簪さんの印象が凄い勢いで崩れていく」

「簪さんはずっとこんな感じだゾっ!」

「あと、穂次も変なキメポーズするな。なんというか、心にクる」

「男なら一回は通る道だから仕方ないね……」

 

 どうしてか過去を思い出して一夏は胸を抑えて、穂次はドコか遠い所を見つめている。簪はキラキラとした目で穂次を見つめている。

 

「まあ冗談は置いといて」

「冗……だん……」

「なーんで簪さんはそんなに落ち込んでるんスかね……」

「それで、大丈夫なのか?」

「別に問題ねーよ。ただちに影響はない」

「ならいいけど。何かあったら言えよ」

「安心しな。お前にだけは絶対言わねーよ」

 

 へらりと笑った穂次に対して一夏はなんとなく納得してしまい、溜め息を吐き出す。

 白式からコードを外して、村雨からも外した穂次の左目はいつもの様に戻っている。

 

「というか、なんで今変わってたんだ?」

「ん? リアルタイムでデータ確認するのに楽だからな」

 

 「こう、左側の視界がマトリックスみたいな感じになる」と付け加えた穂次の言葉に落ち込んでいた簪がまた目を輝かせている。一夏はそんな簪を眺めながら「楯無さんが言ってた感じじゃないなぁ」とボンヤリと思う。

 妹と弟の差異はあれど、偉大なる姉を持っている同類として、なんとなく簪の気持ちも分かるような気がする。と、そこまで考えた所で一夏は頭を振る。簪さんは自分ではないし、自分は簪さんではないのだ。

 

「つー訳で協力ご苦労、織斑一夏くん。君はいい道化だったよ」

「俺が倒されるみたいな言い方するな。普通に感謝してくれ」

「だ、騙して悪いが、コッチも仕事、でね?」

「なんで簪さんもノるんだよ!」

「つーか、訓練ログまで見たけど、スラスターの数値オカシくなってたぞ……」

「マジか……操縦してる時は普通なんだけどな」

「お前の変な癖を白式さんがフォローしてるんだろ……その所為でエネルギー効率落ちてんぞ。あとは――」

 

 ツラツラと語られる調整不足の部分。一夏は瞼をパチクリさせながら穂次の話を頭に叩き込んでいく。

 

「――ぐらいだな。白式さんに頼りっぱなしって事ッスね!」

「うへぇ……というか、データ見ただけでよくそこまで分かるよな」

「お前のデータ一番取ってるのは俺だからな。外部データばっかりで内部データ見たのは初めてだから多少間違いはあるだろうけど、たぶん合ってる筈だ。自分で確認して直せ」

「了解したよ。頼れる相棒だな、まったく」

「……穂次、くん」

「ん? どうしたんだ簪さん。ちなみに言うが俺はビームは撃てないぞ!」

「期待してない」

「というか、なんでビーム?」

「そこまで出来るなら……システムも手伝って」

 

 簪の申し出に穂次は目をパチクリと動かして驚きを隠す様子もない。そんな穂次に対して簪は首を傾げた。

 ちょっとの間があった後、穂次はへらへらといつもの様に笑いを浮かべて、簪の髪をクシャクシャにするように頭を撫でてニッコリと笑う。

 

「断る!」

「っ!?」

「嘘だよボス。ご命令には従いますよーへっへっへっ」

「――! ――!」

 

 へらへら笑う穂次に対して顔を少し赤くして声にならない声を唸りながらスパナを振り回す簪。

 なんとなく二人の関係性が分かった一夏はやっぱり溜め息を吐き出して、自分にスパナが当たらないように避難を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んじゃま、武装は置いといて、稼働データッスねー」

「う、うん……」

 

 ヘラリと笑った穂次は既に村雨を纏っており、ふわりと軽く宙に浮いている。どういう訳か逆さだけれど。

 そんな穂次に対面している簪は穂次の熱い視線に少しばかり引き気味である。

 

「ど……どうしたの?」

「いや。なんか下から見上げるとなかなかおっぱいあるんだなーって」

「っ……! ――!」

「ハッハッハッ、捕まえてごらんなさーい!」

 

 気色の悪い声色で怒る簪から逃げる様に空を蹴り飛ばした穂次。蹴飛ばしても肉眼で見える範囲で留まっているあたり、穂次らしいといえばらしいのだが。

 そんな穂次の意図を理解しても、ちょっぴりは恥ずかしさで怒りながらISを起動する。

 視界の端にコンソールを開きながら数値に目を通していく。何も問題はない。大丈夫、大丈夫。

 自分に少しだけ言い聞かせながら簪は偏向重力カタパルトに両足をセットして、一気に加速した。

 広い空。そんな空にポツンと黒い影がある。影は大きな盾を左腕に装着していた。

 心を上向きの感情で満たしてから、簪は数値に目を通していく。加速による機体制御、そしてハイパーセンサーとの接続及び連動。

 同時にハイパーセンサーが穂次を捉えて、ソレに気付いたのか、穂次がへらへらと笑みを浮かべていた。いつも通りだった。

 

『おーけー、簪さん。問題なさそうッスね』

「……まだ」

『おーけーおーけー。一応、俺の方でもモニタリングしてるから好きな様にしてくれ。何かあってもフォローするさ』

「……うん」

『任せな! ボス!』

「ボスじゃない……」

 

 そんなやり取りが秘匿通信で行われ、捻れた中央タワーを辿るようにゆっくりと簪は飛行を続ける。

 その横をゆったりと浮遊している穂次は簪の集中を乱さない為か、ソレ以降の通信はしておらず、打鉄弐式のシステムが変化していく様をボンヤリと眺めている。

 

 緩やかにタワーの頂上へと到着して、簪はホッと息を吐き出した。そんな簪に穂次はニコニコと笑いながら拍手をしている。拍手もガシャンガシャンと装甲を鳴らしながらである。

 

「お疲れ。リアルタイムでシステム構築とかスゲーッスわ……」

「そんな事……ない……お姉ちゃんなら」

「あの人、スペック高いけど変な所でポンコツだからなー……」

 

 二人の頭に更識楯無が思い浮かぶ。

 片方は完璧な女性である。ミスパーフェクトと言える。

 もう片方も完璧な女性である。どうしてか『簪ちゃんらぶ』とか書かれたタスキをしているが……まあ大凡の行動は完璧だった。

 どちらがドチラと言う不毛な事は言わないが、両方が両方自分の言葉に納得する。

 

「んじゃ、戻りは速度を出しながら行きますか」

「うん……」

 

 お先にどーぞ、とヘラリと笑った穂次に従って簪が加速を始める。

 その後ろに続く穂次をハイパーセンサーで捉えながら、システムが出来て余裕を持った簪がボンヤリと思考を始める。

 

 

 どうして彼は左目を犠牲にしたのだろうか。

 彼のIS――村雨の事に関しては聞いた。

 「一応、機密だから他言無用で」と付け加えられた説明だったが、簪はちゃんとそこで「それは聞いて大丈夫なの?」と聞いたし、穂次自身が問題ないと言い切ったので恐らく大丈夫なのだろう。たぶん。

 適合率を上げる為に犠牲にしたというのなら、どうして適合率を上げたのだろうか。その事を聞けば彼は情けない笑みを浮かべて「ソレは秘密」と言うのだ。

 

 彼がわからない。フザケている彼は知っている。だからこそ、自分の目を犠牲にする意味がまったくわからなかった。

 

 

 そんな思考に少し浸った簪の意識を正しく現実に戻したのは打鉄弐式であった。尤も、異常を知らせるエラーを吐き出す事によってであったが。

 

 右脚部ブースターが暴発した。

 爆発の影響で身体が回転しながらタワーへと流されていく中、簪は慌てはしたがスグに機体制御に意識を割いた。そんな相棒にエラーを返す打鉄弐式。

 エラー、エラー、エラー、エラー。

 数々のエラーが浮かびあがり、そしてシステムダウンが起こる。抵抗など出来ないまま、簪はタワーへとぶつかりそうになり、瞼を強く閉じた。

 そして衝撃では無くて、強く引っ張られる感触を得て瞼を上げる。

 

「あー、簪さん。IS解除してくれ。なーんか、制御がオカシイ事なってるわ」

「う、うん……」

「ちょっと速度出てっけど、安心してくれ」

 

 どこか頼り無さそうな声で簪を後ろから抱えた穂次が喋る。頼り無さそうな言葉であったけれど、最後に付け足された言葉だけはキッパリと言い切られた。

 そんな穂次に従い、簪はISを解除する。同時に穂次の腕がしっかりと身体へと回されて抱き込まれる。安定を優先したのか、腕部装甲は解除されて生身の腕がしっかりと回されていた。

 

「ん、よし。しっかし、随分エラー出たッスねー」

「うっ……うん」

「つーか、エラー出て当然だから落ち込まなくていいっしょ。一番問題なのはエラー吐き出さないエラーだから」

 

 大丈夫大丈夫と頭を軽く叩かれて簪は顔を赤くしてしまう。なんせ男に抱かれて撫でられているのだ。その男がどれほどのヘタレであろうと、自分を助けてくれた存在である。ヘタレだけど。

 そんな簪の事など知らずに穂次はいつも通りの口調で「んじゃ降りるからなー」と言葉に出してゆったりと下降をする。

 そこでようやく簪は気付いた。どうしてコイツの手は自分の胸を触っているのだろうか、と。

 回した手が奇跡的に胸に当たっているだけだから、と頭の中で必死に彼に対しての弁明を繰り返している簪に対して、顔が見られないのをいい事に穂次はムニムニとおっぱいの感触を楽しんでいる。

 事故だから事故。仕方ない仕方ないと言い訳を繰り返して、ほんのりと膨らみのある簪のおっぱいを押したりして楽しむ。腕に感じる鼓動がスゴく大きいのはきっと高さのせいだな! と自分に言い訳をするのも当然忘れない。

 

 果たしてゆったりと下降をしているのは誰のためなのか。きっと簪の為だろう。そうに決まってる。事故だから仕方ないのである。

 

 

 とにかく、ゆったりと下降をして地面に到着した二人。すんなりと拘束が解かれて顔を真っ赤にした簪は決して穂次の方を見ずに、とりあえず心をどうにか落ち着けて、まだ赤い顔のまま穂次に振り返った。

 キリッとした表情で顔を青くしている穂次がそこには居た。

 

「あ、あー、えっと、えぇ……っとですね……」

「どうかしましたの? 穂次さん。そんなに顔を青くして」

「ホントだね。どうしたのかな? 穂次」

 

 そんな二人の前には金色の髪をした美少女が二人。表情は笑顔だった。笑顔の筈である。笑顔だ。間違いない、笑顔である。

 そんなニッコリと笑った二人に呼ばれた穂次は冷や汗をダラダラと流している。両手を高々と上げて一歩後ずさる。

 

「ま、待ってください。コレは、えっと、その違うんだ、そう、違うんですよ。セシリア、シャルロット」

「何がデスの? わたくし、何も言ッテませんワよ?」

「そうダね。何ヲ弁明しテるのカなー? 私気にナるなー?」

「ひぃっ」

 

 パチリと開いた目は光の灯らない瞳であった。ドコか棒読みな口調ではあるが、笑顔は決して崩れていない。怯えた様に声を出した簪は何も悪くはない。怯えて穂次の背中に隠れてしまったのは悪手であったけれど。

 美少女二人の笑顔がよりハッキリとする。その笑顔がスッと消えて、蔑む様な視線が穂次を見下す。

 

「何か弁明は?」

「俺が悪いです全部俺の所為デス許してください何でもしますから」

「えーっと、更識さんだっけ? ちょっと穂次を返してもらうね」

 

 簪は首を激しく上下した。涙目である。

 簪に対してはニッコリとしっかりと笑顔を浮かべていたシャルロットであるが、簪は見てしまった。その笑顔が穂次を見た瞬間に消えてしまったことを。いいや、そんなコトはきっとない。簪は頭からその表情を消した。

 二人に挟まれて連れて行かれる穂次を眺めながら簪は彼の無事を祈った。頭の中では仔牛を売り飛ばす童謡が鳴り響いていた。




>>ヤミリアさんとヤミロットさん
 好き(唐突な告白

>>穂次の左目
 村雨さんのデバイスだと思うのが一番楽。「感情の~」とかを思ってる人は感情の昂ぶりに村雨さんが反応して「ヤローテメーブッコロッシャー」って言ってる感じで想像すればいいんじゃないかな(テキトー

>>一夏くん、制作参加
 必要事項。決して「あぅあぅ」してる簪ちゃんを書きたかった。ん?

>>ちっぱい
 むにむにしたい。手の平でむにむにしたい。でも簪ちゃんってイラスト確認してるとペタンじゃないんですよね。簪ちゃん可愛い。

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