欲望にはチュウジツに!   作:猫毛布

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冠する少女

 学園最強。この称号を手にする者は生徒会長として知られている。いいや、正確に言うなら、生徒会長という称号を手にするのに学園最強でなければいけない、らしい。

 らしい、というのは人伝に聞いたから正しい表現だろう。あとは政府からの諸注意に織斑先生と一緒に生徒会長様の名前も送られてきたのだから、きっと情報は正確なのだろう。

 

「おかえりなさい! ご飯にする? お菓子にする?」

 

 いや、うん。どうして俺の目の前にはその学園最強様がいらっしゃるのだろうか。

 ああ、美人だ。更に言えば制服にエプロンという実にツボを抑えた格好であるし、その制服とエプロンを押し上げているおっぱいは実に素晴らしい。慎ましやかという訳でもなく、デカイと一言が言えるという訳でもない。ただソコに在って、ソレが当然であり、ソレが美しいと言える程に、素晴らしい。

 スカートからスラリと伸びる脚。瑞々しい太もも、膝小僧、黒いソックスにスリッパ。

 ISと共有している視覚を、ハイパーセンサーを用いてその全てを一瞬で把握し、悔やんだ。

 

 

 なぜISには透視機能が無いのだろうか。篠ノ之博士に相談してみたら付けてくれるだろうか? いや、そもそも村雨には拡張領域が無い。

 ならばどうすればいい。考えろ、考えろ、考えるんだ、夏野穂次。その全てを賭けて、この美しい女性のおっぱいやパンツを見るのだ!

 

「あら? 聞いていたよりもノリが悪いのね」

「あ、スイマセン。どうしたらおっぱいを見れるか考えてました。つーか考えてます」

「お姉さん、そこまで正直に求められると困っちゃうなぁ」

「お姉さん?! なぜ生き別れのお姉さんがここに……逃げたのか? 自力で死から脱出を!? お姉さん!」

「私に弟は居ないわ」

「あ、ハイ……スイマセンデシタ」

 

 思わず正座になってしまった。つい癖の様に土下座までしてしまった。我ながら自然な動作だったと思う。

 …………白か。

 

「いやぁ、そこまでされるとお姉さんどうしていいかわかんないなぁ」

「いえ、俺がしたくてしてる事なので、お気になさらず! スイマセンデシタ! パンツ素敵です!」

「…………」

 

 何かに感づいたのか、二歩ほど後ろに下がられてスカートが抑えられた。くっ、しかし悔いる事はない! 既に目的は達成されたのだ!

 美女に近しい美少女の恥じらう顔とパンツ。これだけで十分だろう。おっぱいもあれば十二分だったな!

 

「あー、どうしてそんなジト目で見てるんですかね?」

「ある程度知っていたけど、その物言いはどうなのかしら?」

「……おパンツがとても素敵で俺の目には眩しく映りました」

「ちょっと待ってくれるかしら?」

 

 眉間を指で抑えて何かを耐えるようにする学園最強のお姉さん。まるで頭痛を耐えている様だ。

 とりあえず、立ち上がって紅茶の準備をしておこう。俺はこの制服エプロンのお姉さんから選択を与えられて、『お菓子』を選ぶのだから。

 

 

 

 

 

「美味しいわね……」

「そりゃぁ、どうも。なんせ詳しく教わりましたからね」

 

 一口飲んだ紅茶に対して納得いかない様に呟いた学園最強のお姉さんは相変わらずその朱色の瞳を細めて俺を見つめていた。美人にここまで睨まれていると、なんというか、照れるぜ。

 

「さて、じゃあ本題に入りましょうか」

「遂に俺がお姉さんと結婚するって話ですね!」

「君なんてお断りね」

「じゃあ妹さんを口説くしかないか……」

「ぶっ飛ばすわよ?」

「スイマセン、本気で殺す気にならないで下さい死んでしまいます」

 

 席からやや腰を上げていつでも逃げれる準備だけはしておく。目の前にいるのは俺の知っている鬼ではない。けれどもその領域に踏み込んでいる存在である事は確かだ。鬼達に毎日殺されかけてる俺が言うんだ、間違いない。

 ビビってる俺に対して少しだけ愉快そうに、そして呆れた様な顔つきになったお姉さんは威圧感を鎮めた。どうやら許されたらしい。

 

「次に簪ちゃんの事を言ったら、わかるわね」

「はィ」

 

 許されてはなかったらしい。

 そもそも目の前のお姉さんの妹さんとの接点はそれほど持っていない。以前に出向いた時もスゲー引かれてたし。

 

「それで? 本題って何ッスか? 心当たりがそれほど無いんですけど」

「あら。あるにはあるのね」

「そりゃぁ、こんな夜半にお姉さんみたいな美人が、制服エプロンで俺を迎えてくれたんですから。本題がソレでも俺は驚きませんよ。心臓は煩いぐらいにバクバク鳴ってますけど」

「織斑君に上手く取り次いでもらおうと思って」

「……ロッカールームで会ったんじゃないッスか? 午後の実技終わってから一夏から聞きましたけど」

「あー……ソレね」

 

 随分と歯切れが悪そうにそう言ったお姉さんは目を少し逸らして、言葉を探す様に口をモゴモゴと動かした。

 

「実は、ロッカールームに入って目隠ししたら凄く警戒されちゃって……」

「……自業自得って知ってます?」

「だって、ほら! ミステリアスな感じで、こう、秘密多きお姉さんをしたかったのよ!」

「自業自得じゃねぇか! 自分のミスを他人で尻拭いさせんなよ!」

「私だってまさか織斑君が私の事を忘れてると思わなかったもん!」

「いい年して「もん」とか言うなよ! 可愛いな!」

「君と一つしか違わないわよ! ありがとう!」

 

 互いに食いかかる様に言い合い、少しして落ち着いて紅茶を飲む。

 一息。

 

「ほら、君が政府側に攫われたじゃない? それで人を簡単に信じるなー、とか言われたみたい」

「……いや、学園側の人間なんだから信じろよぉ。不器用か、アイツ」

「あら、実は嬉しかったり?」

「なんでッスか……」

「ほら、愛しの織斑君が君の為に人を簡単に信じなくなった、なんて独占的で素敵じゃない?」

 

 駄目だ、遅かったんだ。この学園は……!!

 何処で間違えた、何処がおかしかった! どの選択が選ばれた!!

 俺が頭を抑えていると前からクスクスと愉快そうに笑う声が聞こえた。

 

「一応言っておきますけど、俺と一夏はそんな関係じゃないッスよ」

「そうなの? 学園ではもっぱらの噂だけれど」

「そもそも一夏が俺に見向きする訳もねーでしょ」

「…………あ、そう」

「なんスか、意味深な」

「別に。それで、一夏君との橋渡しはしてくれるのかしら?」

「報酬次第ッスね」

「現金ね……」

「そりゃぁ、お金が大好きで仕方ないッスからね。最近、政府を裏切って報酬が無かった所ッスから」

「……そうね。私の下着を見た事をチャラにしてあげる」

「……もっとちゃんと見たいです」

「欲望に忠実すぎない?」

「人間ですからね。欲望の為に動いてからこそでしょ」

「……まあいいわ」

「マジっすか!!」

「どうせ録画してるからソレで我慢してなさいな」

 

 なぜバレているのだろうか。俺のISの機能は決して知られていない筈なのに……。

 少し考えた素振りをしてみれば、大きく溜め息を吐き出された。どうやら謀られたらしい。

 

「ま、任務了解ッス。一夏には生徒会長さんの事をよく伝えときますよ」

「美人で優しいお姉さん、ってよろしくね」

「あの美人のパンツは白だって」

「……ブラも同色よ」

「超絶美人で強さも兼ね備えた優しきお姉様だって伝えさせていただきます」

「よろしい」

 

 スマン、一夏。俺は欲望には勝てないのだ!

 出来るならば柄とかも見せていただきたいが、ソレを求めるにはコレ以上のお願いを聞かなければイケナイ。ソレは、困る。

 くっ、どうすればいい。どうすれば俺は目の前の美人の下着を取得する事が出来るんだ……!!

 

 

 

 

◆◆

 

 

 翌日。意外にもアッサリと一夏は俺の言葉を信じた。

 

「ヘイ! 一夏! 昨日お前が会った超絶美人で強さも兼ね備えた優しきお姉様と話したぜ!」

「は!? どういう事だよ!」

「つーか、生徒会長じゃん! どうして知らないんですかね……」

「大丈夫か穂次、何もされなかったか?」

「怖いぐらいに過保護だな。あの人はそれほど警戒を抱く意味はねーよ。保証する」

「……そうか。穂次がそういうなら」

「……お前」

「ホモじゃねぇよ?」

「ああ!」

 

 そんな会話だった。ああ、間違いない。ただ付け加えるとしたら、その会話の後よく喋る女の子に拝まれながら「ごちそうさまでした!」と言われたぐらいだろうか。複数人に言われたのがなんとも言えないけど。

 

 ともあれ、早朝から一夏を待ち、偶然を装って食堂で鉢合わせた俺は宛ら恋する乙女の様だったと、その女の子に言われた。いや、違った。

 

 ともあれ、早朝に一夏の疑念や警戒を解いたのには訳がある。今月の半ばにある学園祭の説明にSHRと一限目の半分程を使った全校集会があるからだ。

 壇上に立つのは当然、学園最強の称号であり、生徒会長である超絶美人で強さも兼ね備えた優しきお姉様が立っている。

 

「やあみんな。おはよう」

 

 一瞬だけ俺と、その隣にいる一夏に対して目を合わせた彼女がニンマリと笑みを浮かべる。

 だから怪しまれるんじゃないッスかね……。内心溜め息を吐き出したい気持ちでいっぱいだった。

 

「なあ、穂次。本当に問題ないのか?」

「あー……イタズラ好きな猫みたいな人、ってのが俺の印象」

「……それ大丈夫なのか?」

「大丈夫だろ」

 

 たぶん。

 いや、一夏にとっては無害に等しいだろう。そもそも昨晩彼女が俺を尋ねたのだって色々と思惑があるのだろうし。俺にはさっぱり分からないけれど。

 生徒会長、学園最強、超絶美人で強さも兼ね備えた優しきお姉様こと更識楯無さんの自己紹介も終わり、話は学園祭の話へと移っていく。

 

「今年は特別ルールを導入するわ! 名付けて

 『各部対抗織斑一夏争奪戦 ~今ならオマケもついてくる~』!」

 

 ざわめく周囲を他所に一夏は俺の腕を肘でつつく。

 

「……なあ、オマケ。ホントに大丈夫なのか?」

「まあ待て景品。大丈夫かどうか俺も疑問に感じてきた」

 

 互いに顔を見合わせて溜め息を吐き出した。当然の様にその溜め息は姦しいを超えている周囲に容易く掻き消された。

 がらじゃない事をしたから、というか更識会長のお願いを変に行使したからか、それともセシリアさんとシャルロットさんが俺を睨んでいるからだろうか。何にしろオマケにされる事は俺のキャラじゃない。

 むしろ俺がお願いして女子クラブに入る。コレだろう。

 

「一夏、思い出したぞ……ッ!」

「なんだよ、穂次」

「制服エプロンは、イイな!」

「今の話と関係無さすぎるだろ!!」

 

 一夏、安心しろ。お前に味方なんて居ないのだ!俺は美少女の下僕だぜ!




ちょっと強引
もっと小気味いいネタを自然に入れて、その中に色々と混ぜ込みたい。
あと最近短すぎないですかね……
更新間隔長いクセに4000字程度とか申し訳ない気持ちいっぱいです。

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