ラーメンの注文みたいだな(白目
意識が浮上した。ぼんやりと目を覚ます。
ソコは漆黒に染められていた。寝ていた筈なのにハッキリとした視界。
ソコは白が積もっていた。アクビすらも出ずに溜め息を吐き出す。
ソコには壊れた武器が捨てられていた。立ち上がりカラリと鳴る地面を踏む。
弦の千切れた弓が捨てられていた。白い絨毯の切れ目を目指して歩いて行く。
刃の欠けた斧が捨てられていた。絨毯は鉄格子で遮られている。
柄が中ほどで折れた槍が捨てられていた。目の前には仏頂面の彼女が居た。
「のぉ、主。また負けたのぉ」
「ああ、また負けた」
黒い髪をユラリと伸ばした彼女が鉄格子に凭れながら、少しだけ不機嫌そうにそう言った。
負けた。負けてしまった。ソレは事実で、ソレは覆しようがないモノで、ソレは現実だった。
よっこいしょ、と声を漏らして骨の絨毯に座り、鉄格子に背を預ける。
「そもそもじゃ。
「今の俺にはアレが限界」
「むぅ……まあ妾も主と交われてよかったとは思うがのぉ」
「すげーエロい言い方でグッドだと思います」
「そうかそうか」
きっとグッドの意味はわかってないだろう村雨が俺に褒められたと感じたのかクツクツと喉を鳴らす。
彼女はスルリと鉄格子を抜けて骨の絨毯に足を付けた。透き通るような肌に赤が差した。
「どうしてお前がコッチに来れてるんですかね」
「そもそも、どうして妾が
「あ、そうッスか」
「思考を放棄しおったのぉ……まあ主が気にするなら戻るが」
「別に気にしねぇよ」
「そうじゃろうそうじゃろう。妾の様な美女を目の前にしとるんじゃから」
「あーはいはい」
「イケズじゃのぉ」
俺の顔を抱きしめてクツクツと皮肉を込めて嗤っている村雨に溜め息を吐き出す。柔らかく、温もりがあるけれど、喜びはさっぱり湧いてこない。
溜め息を吐き出す。
「それで、俺に負けた事を知らしめに来たんじゃないんだろ?」
「おお! そうじゃった。主の為の武器である妾が主の為に玩具を作ったんじゃよ」
「……が、アレッスか」
目の前に広がる骨の世界。そしてソコに刺さっている壊れた武器達。
ソレを視界に入れていた俺の視界に彼女の黒い髪が揺れて、夜を内包した瞳が俺を見つめる。
「どうじゃ? 凄いじゃろ」
「ソウッスネー」
「じゃろう! 妾も頑張ったんじゃよ!」
むふふん、と胸を張って誇る村雨を見て思わず笑いが漏れてしまった。
武器のくせに感情豊か過ぎやしませんかね……。別に良いけどさ。もっと打鉄みたいに静かな感じが――。
「主、今他の女の事を考えとったろう」
「……考えてない」
「嘘じゃの。妾は主と繋がっておるんじゃ。もう離さんぞ」
「えぇ……」
「主の武器は妾だけで良い。妾も主だけの武器でよい。ソレでよいではないか」
まあ、そう言われれば、そうなのかも知れない。
少しだけ不安そうな顔をしている村雨の頭に手を置いて、溢れた笑いをそのまま口から出す。
「そうだな」
「じゃろう? じゃから、全世界の武器共を破壊するんじゃ」
「いや、その理屈はオカシイ」
鋭い瞳を少しだけ蕩けさせた俺の武器は口角を持ち上げて、その顔を愉悦へと染める。
更に空気を溜め息で薄めて、俺はゆっくりと立ち上がる。
「んじゃ、始めようか。俺の武器」
「任せい。妾の主」
◆◆
自意識。自己に対する意識。
ソレが薄ければどうなるのか。結果はもう味わった。嫌という程に。
『なんでセシリアさんが怒ってるの?』
彼の口から吐き出された言葉が心を締め付けていく。
コチラを理解していない訳ではないだろう。
わたくしを考えていない訳ではないだろう。
そんな事、今までの彼を見ていれば十分にわかる事だ。わかっている事なのに。
彼にはきっと理解出来ていない。自分がどれほど彼の事を心配したかなど、わかってくれない。
いいや、わかっているのかも知れない。それでも、彼はきっと「何故自分が心配されているか」をわかっていないのだろう。
ゾクリと背筋に冷たいモノが走る。
彼が生きている世界を僅かに垣間見て、想像して、そして普段の彼を見て、余計に締め付けられていく。
全部が敵だと思っていた頃の自分よりも、きっと彼は辛い。けれど彼はその辛さを理解していない。理解出来ていない。
彼の世界に敵は居ない。味方も居ない。なんせ自分すら居ないのだ。
ああ、彼がへらへらと笑いながら、まるで他人事の様に語った身の上話。その時は彼が自分を取り繕って、心配させない様に語っていたのだと思っていた。ソレでも理解なんて出来ない事なのに。
彼は自分を取り繕ったりはしていなかった。彼はただ当たり前の事を、当たり前に吐き出しただけなのだ。
彼が消えていく感覚。ソレはきっと正確ではない。
ぼんやりと視界が開ける。デジタル時計に刻まれた時間は自分が起きるには早過ぎる時間だった。当然の様に眠っているルームメイトも居る。
ボサボサになった髪を一撫でして、セシリア・オルコットは息を吐き出した。
嫌な夢を見た。
口から出る事もなかった呟きの代わりに出た息を静かに見送り、セシリアはベッドから立ち上がった。
「ん、おはよう。セシリアさん」
「…………はぁ」
「えぇ……挨拶も無しに溜め息は傷つくんだゾ!」
コチラの気持ちも知らずにへらへらと笑った夏野穂次がソコには居た。相変わらずの表情に若干苛立ちを覚えてから、挨拶をしておく。
彼の手には包帯が巻かれ、彼は両手で四角の紙パックを挟みストローを咥えていた。
「絶対安静ではありませんでしたの?」
「診察結果は概ね良好だからね。手以外は健康そのものだし」
「……そうですか」
「自分で聞いたのに素っ気ないッスねぇ」
セシリアの返事に対して穂次は肩を落として、またへらへらとした笑いを顔に貼り付けた。
「まあ絶対安静から開放されただけで、手の方で検査とか、リハビリとか、そこらは色々残ってるんだけどね」
「…………」
「何? そんなに見て……まさか! この俺の超カッケー顔に何か付いてるとか?」
「はぁ」
「溜め息での対応はヤメテクダサイ」
情けない顔になった穂次を見て、改めてもう一度溜め息を吐き出したセシリア。
そんなセシリアを見ても変わらずにヘラヘラと穂次は笑った。
「……――穂次さんはISにパーツとして認識されてていいんですの?」
「ん? あー、まあ良いんじゃない?」
「…………」
「どうして睨まれてるんですかね……いや、まあ倫理的に問題だけどさー」
そういう事ではない。心配しているのだ。
一夏や箒から話は聞いた。戦闘になった事も聞いた。その時のアナタの状態も聞いた。
そして極めつけの様に、パーツ宣言だ。
「どうしてそうやって自分を蔑ろにするんですの……」
「実際どうでもいいから、って素直に答えたら睨むし」
「当然ですわ」
「じゃあ言葉を変えよう。俺よりも皆の方が大切なのさ」
「一緒ですわ」
「そりゃぁ、言葉を変えただけだし。皆の笑顔が見たいから、なんてヒーローみたいだろ?」
ニッと歯を見せて笑う穂次を見て、セシリアは眉間を寄せた。
彼にとって彼自身はとても低い位置にいるのだろう。きっと誰にも認識されない様な場所にいる。
どうでも良くなんてない。
私は彼が大切なのだ。私が彼を必要としているのだ。
味方も敵も居ない、彼さえも居ない世界で。私は彼の横に並び、笑っていたいのだ。
「穂次さん」
「ん?」
「好きですわ」
「………………は?」
「え?」
たっぷりと沈黙をもって、彼は意味が分からない様に言葉を吐き出して、わたくしも同様に意味が分からないように言葉が出てきた。
理解していくと顔が熱くなっていく。落ち着け、冷静になるのよ、セシリア。ココで慌てては意味がない。
心の中で大きく深呼吸をして、真っ直ぐに彼を見る。
そこには珍しくへらへらと笑わずに、唖然としていた彼が居た。
「今は返事を求めませんわ。ただわたくしが想っている事を覚えていてくださいまし」
「お、お? うん、はい」
「では失礼致しますわ」
席を立ち上がり、優雅な足取りで食堂をあとにする。
ああ、食器を戻すのを忘れてしまった……。いや、そんな事はどうでもいい。いや良くない。
徐々に早くなる足取りで自室に戻ってきて、急いで扉を閉めた。
心臓がバクバクと鳴っている。
ルームメイトがコチラを驚いた様に見ている。
「どうしたの? セシリア。そんなに慌てて」
「え、ええ。あぁ、ハイ」
赤くなる顔を意識しながら、ぺたりと膝を着いてしまった。
ロマンチックとは程遠いソレだけが、自分を呪い殺す様に頭の中で反復した。
>>は?
うん、まあ、聞いてください。私も同じ感覚で書ききったんです。
どうしてかセシリーが勝手に告白をしていた。何を言っているかわからないと思うが私も何を書いたのかわからなかった。頭がどうにかなりそうだった。AA略
展開的に大丈夫なのか? と聞かれれば「たぶん問題ないんじゃナイッスかね?」
あとはシャルルルルォットさんを何処で告白させるかですね……。
朝の食堂でロマンの欠片も無い告白した女の子がいるらしい(白目
>>名誉説明役 セシリア・オルコット
客観的な現実の考察とかは彼女がスゴイ=ベンリ。それでいて可愛くて、お尻も素敵で、脚も素晴らしく、おっぱいも言わずもがな。
おっと料理には触れるんじゃない火傷(化学反応)するぜ……!
>>俺の武器//妾の主
ある意味彼の世界で一番近いのは彼女かも知れない。でも彼女は武器だからノーカン。
美女だけど武器だからノーカン。