欲望にはチュウジツに!   作:猫毛布

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右斜め上から勢いをつけてチョップ
もう通じないらしい。
久しぶりに一人称を書いたから、ちょっと変です。許してください


記憶喪失の直し方

 目を、覚ました。

 眼前には天井。綺麗な板で出来ていて、継ぎ目など無い。

 瞬きを一度。大きく息を吐き出して、視線を下に向ける。ソコには金が在った。二つの金だ。ベッドに横たわっている俺を挟むように、座った彼女達が頭をベッドに押し付けて眠っていた。

 色合いの違う金を視界に入れて、俺は彼女らに手を伸ばしてみせる。まるでソレが否定された様に、手が痛み出す。

 

「イ゛ッ」

 

 漏れだした声を無理やり止めて、続く痛みを食いしばり、押し黙る。指だけではなく、ソレに連なる様に腕の筋肉が引きつる。

 痛みで叫ぶ事も出来ず、息を飲み込んで、ゆっくりと吐き出して、力を抜く。

 

「ぅん……?」

 

 俺の身動ぎに反応したのか、濃い金色の少女がゆっくりと顔を上げ、ぼんやりとした目で俺を見つける。目が合う。

 

 一秒

 

    2秒

 

 少女の瞳に水が溜まり、何が嬉しいのか口角がゆっくりと持ち上がる。

 

「穂次! 目を覚ましたんだね!!」

「アデデデデデデデデ!!」

 

 大きく目を開けた彼女が俺に飛びつき泣き始める。その泣いた声で起きたのか、淡い金色の少女も目を覚まし、俺を視界に入れて涙を瞼に溜め込む。

 そんな事はいい、痛いです! 痛いですよ!!

 

 

 

 少女二人が盛大に泣いて、ようやく泣き止んだ頃を見計らったかのように同い年程度の男が一人と三人の少女が入ってきた。

 

「起きたのか」

「あ、ああ……」

「大丈夫か? 何かオカシイとか……」

「……いや、スマン。誰だ? アンタら」

 

 沈黙した。全員が目を見開き、俺を見る。男が何かを決した様に、代表して口を開く。

 

「覚えて……ないのか?」

「何を……、くっ、頭がっ! ……どうしてだ、お前の顔を見てると……! うっ」

「穂次!」

「一夏さん、と、とにかく保健室から出て行ってくださいまし!」

「あ、ああ」

「穂次、大丈夫?」

「すまない、誰かのおっぱいさえ揉めばきっと記憶喪失も治ると思うんだ……!!」

 

 沈黙。保健室を出ていこうとしていた一夏も含めて俺の事をスゲー睨んでいる。

 なるほど、聞こえなかったんだな!

 

「誰かのおっぱいさえ揉めれば!」

「聞こえてたわよ、馬鹿!」

 

 この後無茶苦茶ボコボコにされた。

 

 

 

 

「いやー、あっはっはっはっ」

「アンタね、言っていい冗談と悪い冗談があるってわかってる? いや、分からなかったわね」

「鈴音さん、鈴音さん。スグに否定されると俺も困るんですが」

「あ?」

「スイマセンデシタ!」

 

 溜め息を吐き出されて鈴音さんが肩を落とした。俺はいつもの様にへらへらと笑ってだらし無くベッドの頭に凭れる。

 ボコボコにされた、と言っても皆ちゃんと俺を怪我人だという認識はあったのかベシベシと頭を叩く程度の物だったりする。ちなみに力が強かったのはセシリアさんとシャルロットさんである。

 

「それで、本当に大丈夫なのか?」

「ご安心を篠ノ之さん、俺は正常だゼ!」

「……本当ですの?」

「信用ないッスねぇ……まあ仕方ないか。

 

 俺は裏切り者ですからなぁ」

「は?」

「え? ……おいおい、一夏! なんで情報共有してねーんだよ!」

「いや、ソコをお前に怒られるのは俺は意味がわかんんねぇよ」

「えぇ……。俺自滅? よし、じゃあ無かったことにしよう。俺は君らの情報を売りつけてない。オーケー?」

「ノーだ、馬鹿者」

「デッスヨネー……」

「というよりもソレも本当だったのか……」

「そりゃぁ、事実だな。つーか、俺は何処まで説明すりゃぁいいの?」

「全部ですわ!」

「全部だね」

「ヒェッ……俺はおっぱいが好きです!」

「ソレはどうでもいいですわ!」

 

 えぇ……。全部っていうから一番知ってほしい事を言ったというのに! なんて理不尽な世界なんだ!

 このやろう、おっぱい揉むぞ! 揉ませてください! でも指がマトモに動かないんだよなぁ……。

 

「んじゃ、まあ、俺は政府に雇われたスパイみたいなモノで。国家代表候補と一夏、後は今は篠ノ之さん、あとはIS学園の情報を集めて政府に売ってた。ここまではオーケー?」

「むしろ了承出来る所が無いのだが?」

「ソレな。うーん、事実だからどうしようも無いんだけどね」

「……どうして、売ってましたの?」

「そりゃぁ、金の為?」

 

 ヘラヘラ笑ってそう言えば全員が俺を見つめ、視線を鋭くしていく。

 実に、心地いい。

 

「む、なんだ、全員揃っていたのか」

「千冬姉」

「織斑先生だ、馬鹿者め」

「……教官は、穂次が政府に情報を売っていた事は知っていたのですか?」

「当然だろう」

「は?」

「あー、まあそういう事ッス」

「どういう事だ?」

「俺は二重スパイだったのさ!

 

 な、なんだってー!」

「穂次、一人でやってて悲しくないか?」

 

 うるせー。誰もやってくれないから一人でやるしか無いんだよ!

 俺だってやりたくてやった訳じゃねぇよ! この野郎!

 

「えっと、つまり?」

「俺が政府に渡してた情報は全部織斑先生の了解をとったモノだけって事。ある程度のフェイクも込みで送ってるから実際安全」

「……お前、本当に穂次か?」

「失礼だな、相棒。俺は凄腕のエージェント(エージェンッツ)、なんだ、ゼ★」

「うぜぇ」

「酷いよぉ……まあ、冗談は置いといて。二重スパイってのはホント、そこらは織斑先生が証明してくれるさ」

「こいつは単なるスパイだ。誰か捕縛してくれ」

「待って! 織斑先生!? つーか、どうしてセシリアさんとシャルロットさんはそんなに嬉々として俺を捕縛しようとしてるんですかね!? 怪我人! 俺、怪我人だから!」

「……そうでしたわね」

「怪我してないみたいに振る舞われると」

「えぇ……まあ美人に縛られるのは吝かではない」

 

 セシリアさんとかに縛られて足でフニフニされるのも、シャルロットさんに緩く縛られて顎クイとかされるのも、実に素晴らしいと思う。ゾクゾクするな(確信

 ともあれ、織斑先生がアッサリと俺が二重スパイであることをバラしたという事は、大丈夫なのだろう。

 

「まあ、もう政府との繋がりも切れたっぽいし、皆の情報を売るとかはしないよ」

「ホント?」

「つーか、元々俺がそんな事出来る程器用に見える? 二重スパイとかカッケー! とか思ってたけど実際は織斑先生の言う事聞いてただけだからな?」

「そうよね……アンタがそんなに器用な事が出来るなんてあり得ないわ」

「あのさ、鈴音さん。鈴音さんの中での俺は何なんですかね? スゲー杜撰な扱いを受けてる感じがするんですが」

「友人だけど?」

「キュンッ」

「キモいわよ」

「お、そうだな」

「それで……自意識が希薄とはどういう事だ?」

「ん? 俺がISに乗れる理由だけど?」

「……どういう事ですの?」

「どういう事って言われても……」

 

 コレばっかりは感覚でしか分からないからどうしたものか、と考える。織斑先生の方を向いても腕を組んで壁に凭れてコチラには助けを出してくれないらしい。

 鬼! 悪魔! ヒェッ、コッチ見た……。嘘ですよ。ハハハ……。

 

「あー……うーん、俺自身はコレが普通だからよくわかってないんだけど。ISが俺をパーツとして認識してるらしいッスよ」

「……は?」

「俺自身がISパーツと成ることだッ!」

「いや、冗談はやめなさいよ」

「冗談だったらよかったね。いや、まあコレはどうでもいいか」

 

 本当にどうでもいい。表向きでそうなっているだけである。流石にISコアが語りかけてきてソレを聞いて、動かす手助けをしてもらっている、なんて頭のぶっ飛んだ事は言えないだろう。

 篠ノ之博士からしっかりと「頭のイカれた存在」とか言われてるもんね! あぁ、ラファールちゃんかわいいよラファールちゃん。くっ、左薬指がッ!

 

「どうでも、いい訳ありませんわ!」

「? いや、なんでセシリアさんが怒ってるの?」

「ッ……、もういいですわ」

「あ、待ってよセシリア!」

 

 コチラを一睨みして出て行ったセシリアさんを追いかけるシャルロットさん。急に怒りだしてどうしたってんだ。

 

「……えっと、俺?」

「そりゃぁ、アンタでしょ」

「えぇ……つーか、俺が怒られる理由は結構わかるけど、あんな感じにセシリアさんが怒る理由がわからないんですが……」

「……アンタ、ソレ本気?」

「結構マジなんですが……つーか、どうして皆も俺をびっくりした様に見てるんですかね……俺はウーパールーパーだった可能性が?」

「うーぱーるーぱー?」

 

 小首を傾げて俺の言葉を繰り返したラウラさんがスゲー可愛い。くっ、俺はロリコンじゃないんだ……はっ! 彼女は同い年って事はロリの枠組みには入らないんじゃないだろうか……!

 あぁ、美少女が可愛いんじゃ~。

 

「さて、こいつの事はある程度理解しただろう。面会時間は過ぎているんだ、さっさと寮に戻れ」

「よっし、戻ろうぜ一夏!」

「お前はまだ安静にしておけ、阿呆」

「安静とか言いながらアイアンクローってどうなァダダダダダダ!!」

「……お前達にも、こいつにも時間が必要だろう」

 

 俺は絶対安静だしな! 頭痛がヤバイ。この頭痛が物理的に痛いってのもヤバイ。

 一夏達は俺を一瞥してから、保健室から出て行った。残ったのは俺と織斑先生の二人だけ。

 ダメです、先生! 俺とアナタは教員と生徒なんですよ!

 

「アダダダダダダダダ!!」

「いらない事を考えるな、阿呆」

「どうしてわかったんスか!? 読心術もびっくりのスピードですよ!」

 

 脅威と生徒の関係だったなんて、聞いてませんよ!

 俺の頭を離して溜め息を吐き出した織斑先生が近くの椅子に座り腕を組む。スーツに上からでもわかるおっぱいが、おっとこれ以上はやめておこう。死ぬ。

 

「まったく、お前だってわかっている事だろう」

「皆が心配してたって事ッスか?」

「ああ」

「まあ状況自体は理解出来ますけど、心情はさっぱりッスね。卑屈に言うなら俺を見下したい、って思いますけど、皆の事だから普通に心配してるんでしょーね。どちらにしろさっぱり意味がわかりませんけど」

「……一応、フォローはしておけよ」

 

 そんなに睨みながら言わなくてもわかってますよ。

 事実を事実として言っただけなのだから、それほど怒る事もないだろう。どちらにしろ、怒らせてしまったのだから、どうにかしないと。

 

「それで現状はどうなってんスか?」

「お前を攫った集団は政界からは消えたよ」

「あー、あの人が頑張ってんスね」

「ああ。それで、お前の方はどうなんだ?」

「ご覧の通り拷問をされましたけど、織斑先生の事は一言も言ってませんよ」

「ソレに関しては信用しているさ」

「俺、織斑先生に信用されてたのか……」

「何の為に何度もお前の頭を掴んでいると思っていたんだ」

「あ、痛みの耐性つけてたんスね……ナニソレコワイ」

 

 こう、もっといい方法とかが在ったんじゃないだろうか。いや、この阿修羅様がそんな素晴らしい事が出来るなんて思わない。

 出来たとしても、どうせアイアンクローからは逃れられない……。

 もうマジ無理。ふて寝したい。

 

「お前と村雨だ」

「ん、ああ、それッスか。大丈――」

 

 織斑先生の腕が伸ばされ、出席簿を鋭く俺へと振り下ろしてくる。

 俺は()()()()()()()()()()()

 ビタリと俺の頭スレスレで停止した出席簿に安堵の息が出た。面じゃなくて背表紙だったのに風を感じるとかどういうスピードが出てるんですかね……。

 

「何するんスか」

「……手っ取り早いだろう」

「まあそうッスけど。当たってたらどうするつもりだったんスか……トマトみたいに頭が潰れてますよ、絶対」

「当てるつもりはなかった。それに当たりもしなかっただろ」

「結果論じゃないッスか……」

「推論だ、阿呆。それで、体に違和感とかは無いのか?」

「まあ無理やり村雨との繋がりは深くされましたけど、別に問題らしい問題はありませんよ。

 クククッ、今なら織斑千冬だって倒せるかもしれないな」

「ほう」

「いや、冗談ッスよ? そんな獰猛な笑みをされても困るんですよ」

「吐いた言葉は飲み込めないぞ」

「ひぇっ……」

 

 怪我人には手を出さないとか言ってた人はどこに行ったんですか! あ、怪我が治ったら? ……怪我を治さない方法を探さなきゃ(使命感。

 

「まあ良いだろう。だが無理はするな」

「へいへい。無理なんてしたことねぇッスよ」

「だろうな」

「俺、織斑先生に理解されてる……!」

「お前の事など一片の理解もしてる訳がないだろう」

「ひぇっ……ソレが教師の言葉なんですか」

「ああ、教師の言葉だ」

 

 ナニソレコワイ。

 こんな教師がいて良いのだろうか……いや、いいんだろう。いいから睨まないでください織斑先生! 怖いです!

 

「お前は検査の結果が出るまでは絶対安静でいてもらう」

「授業がサボれるだって!? なんて不運なんだ!」

「補習があるから安心しておけ」

「…………ヤッター」

 

 いいや、山田先生と二人きりならまだ大丈夫だろう。おっぱいを眺めながら補習を受けて、偶に分からない事があったらあの柔らかい二つのお山があぁぁぁああああああ!!

 

「ちなみに私の担当だ」

「ぁぁぁ……夢は、やっぱり夢なんだなって……」

 

 そして、人の夢は儚いのである。神様は死んでしまったのだ。




>>二重スパイ
 感想欄で色々言われてた事。ポンポンペイン。
 一応、了解を千冬さんに取らせている、と言っているけれど、もう一枚フィルター政府側のフィルターがある。
 ちゃんと「かの天災と織斑千冬の計画に乗っている」と口に出していた筈です。


>>ISの乗れる詳しい説明
 穂次の口から出来る訳が無いじゃないですか。だって彼はソレが普通なんですから。
 誰だよ! 前の話で「穂次がしてくれるからソコで説明します」とか言った奴!! まったくもう!

 村雨が乗り手を乗っ取って自身を動かすISであるというなら、穂次はISの要求を受け入れて動く人間、という感じです。
 この作品ではISコア一つ一つに意思がある様に書いているのでソレで通します。

 ちなみにパーツとして認識されているのでIS性能は100%で引き出せます。スペック通りが出来ます。
 逆に言えば、穂次は100%以上の力を発揮できません。
 前話で一夏と白式が限界を超えたエネルギーを絞り出していましたが、穂次ではソレが出来ない、と思っていただければソレで問題はありません。穂次にそれほどの意思力、自意識、自分で動くという感情はありません。

 穂次は受け手のヒロインだって、ハッキリ分かんだね。

>>おっぱいを触れば記憶喪失がなくなる筈
 おっぱいはすごい(確信

>>記憶喪失ネタ
 二度目だから自重

>>……ん?
 違和感は違和感として留めておきましょう。どうしても気になったら感想ではなくて私に直接メッセージを送るんだ! 私の性格を考えれば内容によってはネタバレしちゃうぞ★

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