欲望にはチュウジツに!   作:猫毛布

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お待たせいたしたました。
シャルロットとのデートです。ベタ展開の嵐です。
誰か私にデート指南をして下さい(切実


ちょいシリアス


これはデートであって荷物持ちではない

 パチリと目が覚めた。

 自然と起き上がった体を伸ばして、鳴りそうになっている時計を停止する。

 デジタル時計に表示されている時間と日付。ソレを見て、心が躍る。まるで子供みたいだ、と自分でも思ってしまうけれど。

 ベッドから降りて、準備をしていた服を着ていく。姿見の前に立ってみせ、少しだけ考える。もう少しいい格好があるんじゃないか、と。

 

「んぅ……」

 

 服を色々と漁っていれば同室である銀髪の少女、ラウラが目を擦りながらコチラを見ている。そうして私のしている事を確認して少しばかりゲンナリとした表情を作った。

 

「また服装選びか……」

「うん! ほら、可愛いって言ってもらいたいからねっ」

「アイツなら何にでも可愛い、と言いそうだがな……ふぁぁ」

「それでも一番可愛いと思わせたいじゃないか」

「……そういうモノか?」

「そういうモノだよ。ラウラだって一夏に可愛いって言われたいでしょ?」

「む……むぅ」

 

 こうして人の感情、特に恋や愛などのイイ感情に疎い同居人は簡単に顔を赤くする。どうやら一夏に「可愛い」と言わる事を想像したようだ。

 本当に初々しくて可愛い。

 二着目を着てみる。少しだけ清楚に魅せる服。

 

「うーん、もう少し露出が」

「……さて、朝食を食べに行くか」

「あ、待ってラウラ」

「先に言っておくが、シャルロットのファッションショーを見るつもりはないぞ?」

「そんな事言わずにぃ。もっと服買うから」

「私を着せ替え人形にしたいだけだろう」

 

 まったく、と溜め息を吐き出してベッドに座った彼女はどうやら私に意見をくれるらしい。やっぱりラウラは優しいなぁ。

 何着かを着直して、ようやく今日の服装が決まる。淡く色の付いたチュニックに八分丈のパンツ。首には待機状態のラファールがあるから――……

 

「決まったようだな。では私は行くぞ」

「あ、待ってよ」

「……まだ何かあるのか?」

「今日は犬着ぐるみのパジャマを買ってくるからね!」

「…………一番聞きたくない情報だった」

 

 頭痛でもするのか頭を抑えたラウラが溜め息を吐き出す。

 私、シャルロット・デュノアはそれに微笑んで、彼女にお礼を言った。さあ、待ちに待った荷物持ち(デート)だ。

 

 

 

 

 

 

 

 デート、いや、彼から言えば荷物持ちでも待ち合わせというのはあるらしい。そもそも彼曰く「朝はちょっと予定が入っちゃうから昼からで許してくださいなんでもしますから」という言葉があったのだからこうして待っている訳である。

 手首にした時計を何度も見る。先ほど見てから時間は二分も経っていない。

 そもそも待ち合わせ時間には余裕がありすぎる。流石に一時間も前に来てしまったのは間違いだっただろうか。

 それでも楽しみだったのだから仕方がない。今日の予定を頭の中で何度も繰り返す。

 

 ショッピングに行き、彼の大義名分を満たしてやる。コレは確定事項だ。

 その後、クラスの皆からオススメされていた恋愛映画を見て、適当に小物を見て回って一緒に帰宅する。

 大雑把な計画で十分だ。あとは臨機応変に対処すれば何も問題はない。ゆっくり深呼吸をして落ち着こう。

 時計を見る。先ほどから時間は一分も進んでいない。

 

「ん、シャルロットさん。随分と早いお着きで」

「お、おはよう! 穂次!」

「おはよう。一応、待たせない様に早く用事を終わらせてきたけど、待たせちゃったか……」

「ぼ、僕も今来た所だよ!」

「お、おう……。しかし、私服のシャルロットさんを見るのは初めてだけど、やっぱり可愛いですなぁ」

「あ、ありがとう。その……穂次もカッコイイよ」

 

 穂次に似合っている、というのが正しいのだろうか。何にせよ、いつもの穂次よりも二割増しぐらいで格好良く見える。いつもの穂次に格好よさがあるかどうかは置いといて。

 

「ありがとう。やっぱりセシリアさんのセンスがイイんだなって」

「え?」

「ん?」

「……セシリアが選んだの?」

「前の買出しの時に色々と選んでくれたんだよ。俺に服装のセンスは皆無らしいから」

「ふーん……」

「どーして不機嫌になるんですかね……」

「別に、怒ってないよ」

「不機嫌かどうかを聞いたのに、返答が怒ってないって、あ……(察し」

 

 怒っているのは察してくれても、どうして怒っているかは察してくれないのが彼である。知られればソレはそれでちょっとだけ困るけれど。

 ジトリと彼を睨んでやれば困ったように頬を指で掻き、いつもの様にへらりと笑う。

 

「まあどうして怒ってるかはさておき、荷物持ちの本業は果たします許してください」

「……そういえばなんでもするって言ったよね?」

「いや、ソレは言葉のアヤというか」

「言ったよね?」

「ハイ。無理そうなこと以外なら、死ぬことまでダイジョウブデス」

「むしろ死ぬのが大丈夫なことに驚きなんだけど……」

「ほら、シャルロット様の為ならこの命などー、って感じ」

「……じゃあ先ずは手を繋いでもらおうかな?」

「じゃあ、って事はこの先も要求されるんですか……」

「不満かな?」

「シャルロットさんの命令に従える喜びがこの先も続くのか……やったぜ!」

 

 一歩だけ退いてみれば、やはり彼はへらりと笑って「冗談だ」と言った。その後に小さくたぶん、と付け足されたのを私は聞き逃さなかったけれど。

 何にしろ、どうやらお願い(命令)は聞いてくれるようで、彼はコチラに手を伸ばしている。しっかりと溜め息を分かる様に吐き出してからその手を握り締める。

 

「おっほ、やわらけー」

「そういうのは言わないでいいから……」

「スベスベですね!」

「ソレも言わなくていいから!!」

 

 握った手をどうこうするつもりはないけれど、肌の感想とかを言われるとどうにも意識してしまう。

 汗とか、あとは近いから匂いとか、色々。こうして隣にいると分かるけれど、自分よりも身長が高いのだ。

 

「ん? どうしたのさ、俺をジッと見て」

「やっぱり穂次って男の子だったんだなぁって」

「え……ソレは俺を男として見てなかったって事か……俺は女の子であった可能性が?」

「ないから」

「でっすよね! おっぱい無いし!」

「女性かどうかの判断基準がソレ基準はダメだと思うよ?」

「他の判断基準か……ふむ」

「……ッ! な、何を言おうとしてるのさ!!」

「筋肉量とか? あれれぇ、顔を赤くしたシャルロットさんは何を想像したんですかねぇ?」

「さぁ、何かを食べてから買い物に行こうか」

「スゲー強引な話のすり替えだぁ……」

「なにか?」

「いいえ、シャルロットお嬢様のご命令に従いますよー。それこそ犬の様にね」

 

 へらりと笑って言った彼の手を引いてデパートへと向かう。少し前にラウラと来てはいるから道も覚えている。

 ラウラに「必需品は買ったのではないか?」と言われそうだけれど、ソレはそれ。コレはこれなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、秋物の服って高いッスねー」

「ゴメンね、何か全部買ってもらってる様な気がする」

「問題ねーですよ。むしろ会計の度に店員の人からニッコリされるのが俺としては嬉しい限りだ」

 

 そのニッコリが微笑ましい物を見るような目だったからこそ、私は気恥ずかしさに満たされている訳だけれど。

 見るだけならタダ、という至言の下。秋物の服を見て、試着して、やっぱり買おうか悩んでいると彼が会計を済ましていた。何を言ってるかよく分からないけれど、本当の事だ。

 

「それに綺麗なシャルロットさんを見れて俺は役得だし。そのお礼って事で」

「……ありがと」

「おう。だからもっとキワドイ服でもいいんですよ!」

「じゃあ下着も見に行こうか」

「やめてください俺が死んでしまいます!」

「……穂次なら喜んで来ると思った」

「幾ら俺でもランジェリーショップに突貫するのは無謀って分かってるから。つーか、俺を連れていってどうするのさ。試着して魅せてくれるの?」

「……見せてほしい?」

「そりゃぁ、まあ見たいけど。そういうのは意中の男にしなさいな。お兄さんとの約束だゾ☆」

「……ばぁか」

「どうして馬鹿にされたんですかね……馬鹿だからいいけど」

 

 口をへの字に曲げて不満を顔に出した穂次を横に見ながら更に小さく「鈍感」と呟く。コレは彼に聞こえてないみたいで反応はなかった。

 鈍感な彼に気付いてもらいたい。でも素直に言うのはまた違うのである。

 

「それで、着ぐるみパジャマも買ってたようだけど。アレ、着るの?」

「着ない物は買わないよ。買ってくれてる私が言うのもアレだけどね」

「ふーん……つまり、イヌロットさんになるのか」

「飼ってくれるの?」

「…………」

「いや、真剣に悩まれると私も反応に困るんだけど」

「あ、いや。むしろ飼われたい派である俺はどうしたらいいのかと思って」

「ナニソレコワイ」

「誰かに尻尾を振り続けないと生きていけないッ!」

 

 穂次にイヌ耳を付けて、首輪も着けて、どこか虚ろな瞳でまるでイヌの様に甘えてくるのか。線の細い彼を改めて見て、妄想を広げる。

 

「いや、そこで黙られると俺も困るんですけど」

「あ、いや、鎖よりもリードの方が好きそうかなぁって」

「……」

「……いや、その、今のは違うくて」

「あー……まあ落ち着け、落ち着くんだシャルロットさん。俺は何も聞いてない。聞いてない事にする。おーけー?」

「お、おーけー……」

 

 自分でも何を口走ったか思い出せない思い出したくない。ただリードの先を握っていたのは一夏じゃなくて私だったという事はよく覚えている。間違いない。アレは一夏ではなかった。

 果たして彼は私のナイト様なのか、それとも私の愛すべき犬なのか。ソレが問題だ。いいや、もう同じ失敗はしないけれど。

 

「それで、今からどうする? 荷物持ちとしてはもう持てない訳ですが」

「それじゃあ映画でも見に行く?」

「この荷物を持ってですか……」

「じゃあ荷物は送っちゃおう」

「え?」

「え?」

「なにそれこわい。俺の荷物持ちとしての尊厳がッ!」

「荷物持ちに尊厳なんて無いから」

「辛辣ゥ……って映画って何かやってたっけ?」

「恋愛映画が見たくてね」

「そういうのは女友達と……あ、スイマセン」

「まるで私に女友達がいないみたいな言い方はやめてくれるかな? それに穂次を誘ったのにはちゃんと理由があるんだよ」

「……ふっ。ようやく俺の魅力に――」

「はいはい、ソレはもう気付いてるから。それで男女一緒だと割引されるみたいだからね」

「なるほど、割引は重要だな……なんだろうか、いつもみたいに冷たくあしらわれるより辛い気がする……」

「ハハハ」

 

 どうしてか落ち込んでいる彼から目を逸らして作った笑い声を出しておく。随分と棒読みになった気がするけれど、これでもちょっとだけ勇気を出した方なのだ。

 魅力のある彼はやっぱり気付いていないようだけれど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 恋愛映画はとても面白かった。とてもありきたりな内容だった、とも言えるけれどソレも良かったと言える。

 ストーリーは本当にありきたりで、『好きでもない相手と任務の都合で恋人関係になった男が相手に惹かれていき、そして任務と彼女の選択を迫られる』というモノだ。結果的に男はヒロインを選び、勤めていた組織を捨てた。

 

「いやー、良かったッスなぁ」

「そうですなぁ」

 

 ちょっとした余韻を彼と味わう。意外な事に彼は眠らなかった。こういう映画は苦手かツマラナイと思ってそうだったのに。

 自分の偏った知識で何かを言うモノではないけれど、チラチラと彼を確認していると、穂次はしっかりと映画に集中していた。

 

「うーん、映画館とかで見たことなかったけど、これからは見ていくかな」

「え? なかったの?」

「コレがハジメテ。特に洋画だったからスゲー新鮮」

「……普通に字幕を選んじゃったけど大丈夫だった?」

「問題ねーですよ」

「ならよかったよ」

 

 ついつい当然だと思ってチケットを購入したけれど、なんとも危ない橋を渡っていたらしい。

 ツマラナイからと言って彼が不満を漏らすとは思えないけれど。『だからイイ』という訳でもない。どちらも楽しんでからこそのデートなのだ。

 

「ん、シャルロットさん。ちょいとココで待っててね」

「え? あ」

 

 少しだけ広くなっている場所で彼の手が離れて、彼が人ごみに消えていく。

 もう、と少しだけ零してベンチに座る。自分の手を眺めて、笑みが零れる。そういえばずっと握ってたんだなぁ。

 何かとエスコートしてくれるし。話に夢中になっている時でも何かにぶつかりそうになった時には軽く手を引いてくれるし。その度に私の心はどぎまぎするのだけれど。

 かなり無意識でやっているのか、ヘタレな彼が私を寄せても何も反応をしない。ヘタレの癖に。

 

「あれれ? もしかして彼に振られっちゃったかな?」

「え?」

 

 顔を上げると男性が三人。不恰好に染められた髪とニヤつく顔。

 

「俺らと遊ばね?」

「いえ、結構です」

「まあまあそう言わずにさ」

「いえ、彼氏を待っているんで」

「こんな可愛い子を一人で待たせる彼氏なんてイイじゃん」

「ッ、やめてください!」

「おーこわっ」

 

 片手を引っ張られ、思わず身構えてしまった。へらへらと下品に笑いながらコチラを見ている三人に睨む。

 

「警察を呼ぶよ?」

「どーぞ、ご勝手に? つーか、マジで。そうやって何でもホーリツに頼るとかやっぱ女ってクズだな」

「そーそー、一人じゃ何もデキネー癖に。マジウゼぇわ」

「んじゃ、君が呼んでる間に俺らカトーな男は君にイタズラしちゃうよ!」

「ハッハハハハ、ケーサツさんとテレフォンセックスとか、燃えるゥ」

 

 腕を再度取られて、引き寄せられる。周囲の人は見て見ぬ振りだ。誰も助けようとはしない。

 

「あー、えっと、すいませーん。ちょーっといいッスかね?」

「穂次!」

 

 人ごみの中から現れた穂次。その手にはクレープが二つ握られている。

 男達から逃れようと踏み出したけれど、腕を掴まれて逃げれない。何度か振り払おうとしたけれど、掴まれている力が余計に強くなって、痛みを顔に出してしまう。

 

「あ?」

「誰お前?」

「アナタ達が手を取ってる女の子の連れですけど?」

「悪ィな。お前の彼女が俺達と居たいってさ」

「そんな風に見えないんですけど」

「うっせぇよ」

 

 穂次の一番近くに居た男が穂次を殴る。鈍い音が鳴り、穂次の体が少しだけズレた。殴られた顔を上げた穂次は相変わらずヘラヘラと笑って、いつもの様に声を出す。

 

「あー、まあ殴ってもいいけどその子は放してください」

「ぷっ、アッハッハッハッハ! マジかよコイツ!」

「おいおいナイト様かよ!」

「誰が放すかよバーカ!」

 

 その一言と一緒にまた男が穂次を殴ろうとした。拳を振り切った。そこまでは、さっきと同じだった。

 

「は?」

「え?」

 

 驚いた声を出したのは殴った男と穂次だった。

 呆気に取られている男とは別に、穂次は何かを察した様に、少しだけ眉間に皺を寄せた。けれど、その表情もスグに消えていつものへらりとした笑いを浮かべた。

 

「あー……じゃあいいや。潰すから」

「一発避けれたぐらいでイイ気になんじゃ――」

 

 男の言葉は続かなかった。代わりに響いたのは何かが折れる鈍い音と男の絶叫だった。

 振りぬくはずだった腕は逆に曲り、立っている男に対して穂次は淡々と膝を蹴り抜いた。

 

「あぎゃぁああああ!!」

「テメっ!」

「……」

 

 迫る拳をしっかりと手で受け止めた穂次の顔にへらりとした笑いはない。ただ冷たく、まるで雑草でも見ている様な、ただただ冷酷な瞳があった。

 受け止めた拳を引き、男の顎が上がり、地面に伏した。倒れた男を見下した穂次は男の腕を掴み肩を踏み抜く。嫌な音が響いた。

 

「なんだよ……お前……」

「別にどうでもいいだろ? お前らはここで潰れるんだから」

「わ、わかった。わかったから、この子は放す。な?」

「え、わ、」

 

 放された私は押し出され、つんのめりそうになったけれど穂次がしっかりと受け止めてくれた。

 少しだけ戸惑ってから、穂次の顔を見る。いつもの様な笑いではない。けれど、穂次は嗤っていた。

 

「シャルロットさん。ちょっとだけ待っててね。スグに終らせるから」

「え?」

「ま、待てよ。放しただろ?」

「そうだな。で?」

「べ、別に何もしちゃいないだろ? ほら、悪ふざけだから」

「じゃあ俺も悪ふざけさ。()()()()が収まらない。それだけだ」

「ひっ」

 

 怯えた男などどうでも良かった。とにかく今の穂次を抑えなくてはいけないと感じた。

 だからこそ、後ろから彼に抱き着いて、動きを制限した。

 

「穂次、もういいから、ね?」

「……」

「穂次」

「……あー、うん。じゃあココから離れよう。クレープも落ちちゃったし」

 

 降参と行った様に両手を上げてクルリと踵を返した穂次の後を追う。彼はどうにも疲れた様に溜め息を吐き出して髪を掻く。

 男たちは喧騒の中へと紛れていった。

 

 

 

 

 

 

 

「それで、どうしたのさ穂次」

「あー……うん。変に昂ぶった」

 

 少し離れた公園のベンチに座った穂次は瞼を閉じて、大きく息を吐き出した。

 

「昂ぶったって……」

「今は大丈夫だから」

「大丈夫じゃないでしょ?」

「いやー。アハハ……」

「いつもの穂次みたいじゃなかったから、ちょっとだけ怖かったかも」

「……あー、まあ、うん。俺もビックリしてるから」

「どうして本人が驚いてるのさ」

「ちょっとだけ混乱してる。いや、マジで」

 

 また大きく息を吐き出した穂次を見るに、どうやら本当に混乱しているらしい。いつもなら「俺に秘められた力が暴走した」とか冗談を言っている筈なのに。

 

「……何か原因が思い当たるの?」

「……いや、まったく」

「思い当たってるんだね」

「何故バレタし」

「やっぱり」

「えぇー……シャルロットさんに騙されたー」

「騙された方が悪いんだよ」

「ご尤もで」

「それで? 何が原因なの?」

「あー……シャルロットさんって村雨の事を知ってるんだっけ?」

「……暴走を起こすって事は」

「…………んー、俺が適合率高いって事も知ってるんだよな。まあソレが原因っぽい」

 

 暴走、という文字が頭にループして先ほどの出来事と穂次の顔が浮かんでくる。

 笑いもせずに、ただ冷酷なだけの穂次。鋭利な刃の様な、まるで全てが敵である様に。

 

「まあ変に村雨のアレやソレが俺に影響してるだけで、普段の生活には問題ねーッスよ」

「問題はあるでしょ!」

「あー、まあ俺のことなんだから、そんなに辛そうな顔をされると困るんだけど」

「穂次の事は心配だよ!」

 

 少なくとも、あの時の穂次は異常だった。どうしようもなく遠くに彼を感じてしまった。

 穂次はキョトンとした顔を私に見せて、眉尻を下げてヘラリと情けなく笑う。

 

「まあもっと気軽に考えようぜ。俺が急に死ぬとか、別人格になるとか、そういう事は無い訳だし」

「そんな保障ないじゃないか……」

「俺が保障みたいなモノさ。夏野穂次はいつもの様にへらへら笑って、女の子が大好きな、変なヤツなのさ」

 

 「だからスマァイル」と、両指で口角を上げてみせた穂次。その顔が少しだけ可笑しくて、笑ってしまう。

 

「なにそれ」

「笑顔は大事だからなッ! 笑う門には、って言うだろ?」

「じゃあ穂次は幸せでいっぱいだろうね」

「そりゃぁ、毎日可愛い女の子見れてますし、適度に罵られてるし、なんと素晴らしい日常! できればもっとおっぱい成分があってもいいんですよ!」

「……はぁ、心配した私が馬鹿みたいじゃない」

「まあ俺の心配なんて必要ないんですよー」

「勝手に心配するから別にいいでしょ」

「……物好きだなぁ」

「仕方ないじゃないか」

 

 貴方に好意を抱いているのだから。

 そんな言葉は決して口からは出なかったけれど、つい穏やかに笑みを浮かべてしまう。

 そんな私を見て彼は口をへの字に曲げて、さっぱり分からない様に小さく呟く。

 

「いったい何が仕方ないんですかねぇ」

「私が物好きって事だよ」

「なるほど……え? どういう事?」

「さあ? どういう事だろうね」

 

 決して答えは言わないけれど、彼に気付いてほしいというのも本当の気持ちだ。

 その気持ちを言わない様に彼の手を取ってニコリと笑ってみせる。

 

「さあ、帰ろうか」

「いったいどういう事なんだ……」

「まあまあ」

「というか、腕に柔らかい感触があるんですが……」

「まーまー」

「……嬉しいから気付かないフリをしていよう! そうしよう!」

「……穂次のえっち」

「それは冤罪みたいなモノじゃないッスかね……」

 

 眉尻を下げた彼のそんな苦言など聞こえないフリをしよう。そうしよう。

 笑ってみせていれば、彼もへらへらとした笑いを浮かべ、軽口と冗談、映画の感想とかを言いながら僕達は帰路に着く。

 

 寮に着けば、不機嫌です、と言わんばかりのセシリアがきっと迎えてくれるのだ。ソレを「ふふん」と鼻で笑うまでが今日のデートである。

 困り顔の彼を二人で見るのは、きっと日常なのだ。




>>(やられ役の)三人はどういう関係なんだっけ?
女性優位のIS世界の中身。世論がどうなろうと、それほど変わらない。

>>()()()()が収まらない
そういう事。村雨さんとの適合率上昇の弊害

>>テンプレラ(ブストーリー)
個人的な趣味。上記をカッコで区切ったのは何か語呂がよかったから。他意はない。

>>無意識エスコート
ヘタレ特有の女性扱い

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