ラブコメは強敵でしたね……
やっぱりセシリーが可愛いんやなって。
一人称と三人称がゴッチャですな……まあ読めればいいから(震え声
セシリア・オルコットは深呼吸をした。
そんな事をした所で緊張はさっぱり収まらないけれど、それでも幾分かはマシになった。何度も深呼吸を繰り返しているというのに、一向に収まってくれない心臓。
こうまでして緊張するモノなのだろうか、と昨晩から何度も考えているのだけれど、結局答えは出ずに朝になり、こうしてとある部屋の前に立っている訳である。
部屋の主の名前は夏野穂次。セカンドと呼ばれる、男性IS操縦者の二人目である。
休日の朝。確かに時計の表示は未だにAMであるし、デジタル時計は無限の記号を横に倒した形を表示している。そもそも穂次は起きているのだろうか、という疑問もあるが、以前は起きていたという点からきっと起きているだろう、とセシリアは推測した。
当然、ココに至るまでに食堂を通過して、しっかりと彼がいない事を確認してから、ここまでの最短距離を移動してきたのだから、きっとまだ彼はこの部屋にいる筈なのだ。
もしも、彼が未だに眠っていたならば。とセシリアは想像して少しだけ顔を赤くする。乙女の様に妄想をして、その妄想を振り払う。眠っている穂次を見て、眺めて、きっと自分は慈愛に満ちた笑みを浮かべるだろうけれど……いいや、それではまるで自分が彼に恋をしているみたいではないかッ!
そんな事はありえない。ありえる訳がない。
そう、アレである。自分のことを愛らしいとか、可愛いとか、美しいとか、色々言ってるから、仕方なく、本当に仕方なく起こしに来てあげたのだ。
いや、違う。目的を見失うな、セシリア。違うのよ。
そもそも起こしに来た理由は彼を買い物に誘うためにあるのだ。別にデートではない。デートじゃない!
必要最低限の、それこそ臨海学校で着る水着を買う為に行くのだ。決して、デートなんかじゃない。
だからもう少し落ち着くのよ、セシリア。
あの変態の事だから、きっと水着を買いに行くと言えば二つ返事で了承して着いてきてくれるに決まってる。そのついでにカフェでちょっとだけ休んだり、小物を見て回ったり、それでいて夕暮れで――。
「――――ッ!!」
一気に顔が熱くなる。いやいや、そんな訳が無い。これではまるで自分が彼を意識しているみたいではないか。ありえない。無い。無いったらない。
あんな変態で、お調子者で、口が軽くて、いつもへらへら笑って、それでもちょっとだけ格好良くて、何かと手伝ってくれたりして、自分のことを可愛いなんて言ってくれて……。
頭の中の理想をバタバタと振り払う。というより、あの変態は誰に対しても可愛いなんて言うし、美少女だと言うし、ここ最近は全然構ってくれないし、シャルロットさんの近くにいたりするし!
もっと自分の事を構ってくれてもいいんじゃないか?
もっと自分のことを見てくれてもいいんじゃないか?
「ふぁぁ……ん、おはよ、セシリアさん。今日もお美しい!」
「――ふんっ」
「えぇぇ……扉開けていたから挨拶したらそっぽ向かれたんですけど。まあ頬を膨らませてるセシリアさんも可愛いけどさー」
扉が開いて出てきた彼は本当に寝起きの様で欠伸を手で隠しながらいつもの様にへらりと笑う。自分の悩みも知らないで、こうして軽口の様にコチラを褒めてくる変態に不機嫌を見せてしまう。怒ってます、と形でわかる様にしているのは、彼が困っている姿が見たいからだったりする。当然、コレは秘密。
「ほらほら、朝からそんな不機嫌だと気が滅入っちゃうゾ☆」
「……穂次さんは朝から元気ですわね」
「そりゃぁ、まあ朝はゲンキじゃなきゃ!」
「? 含みがある言い方ですわね?」
「ソンナマサカ。おっと、もしかしてこれから朝食かな? 一緒に食べる?」
「いえ、その」
「ん?」
「一緒に街に行きませんこと? そう! 荷物持ちに! 最近買いたいモノも増えてきた事ですし! どうせ、どうせ暇な穂次さんを誘いに来てあげた訳ですわ!!」
「……あー、えっと、ゴメンね。今日はちょっと用事が――」
終わった。終わってしまった。振り絞った勇気は結構空回りしていたけれど、断られてしまった。
「あー、あー! うん、待った。うん、ちょっと待った。えっと、ほら、昼から、昼に街で集合しよう。ね? だからそんな泣きそうな顔をしないでくださいお願いします」
「別にそんな顔してませんわ……」
「うん、うん。そうだね! えっとさ、ほら、俺もセシリアさんと一緒に買い物に行きたかったし! 荷物持ち? するする! でも朝はちょーっと予定があるんだよ」
「……わたくしよりも大切な用事なのですか?」
「その言い方は卑怯ですよ! セシリアさん! 内容は言えないけど、まあ必要な事だから……」
「……誰にセクハラをしにいきますの?」
「俺、すっげぇ不当な扱い受けてる気がするんだけど? あのさ、俺が誰彼構わずセクハラつーか、変態発言してると思う? 俺はおっぱいの素晴らしい人にしかセクハラしに行きません!!」
「…………」
「コレで真っ当な扱いだぁ……」
冷たい瞳で睨んでやればへらへらとした笑いを変わらず浮かべながら確信したように言葉を漏らす。こうしてちゃっかりと話がズラされているのだけれど……。まあ許してやろう。
「では、昼に待ち合わせを致しましょう」
「そうッスね! 遅れない様にガンバリマス!」
「……遅れたらスターライトmkⅢですので」
「ヒェッ……脅しとしてでもIS武装を使うのはどうなんですかね……」
「ホントに遅れては嫌ですわよ?」
「ハッハッハッ! この俺が美少女を待たせる訳がないデショ!」
「…………まあ信じてあげますわ」
「信じられてなかった!? ま、集合場所とかは駅前でいいかな」
「それでわかりますの?」
「ご安心を! セシリアさんほどの美少女だったら目印無くても問題なくドコにいるかわかるよ!!」
「…………ちょっとだけ、期待してあげます」
「ヤッター! 期待されてるゾ☆ ちゃんと見つけれたら頭でも撫でて貰えるんですかね……」
「…………そうですわね。頬を思いっきり引っ叩いて差し上げますわ」
「ソレはご褒美とは言いませんよ! セシリアさん!」
でもちょっとだけ魅力的かも、なんて呟いている彼を再度冷たい瞳で見つめてやればカラカラと笑った。
きっと彼の業界では叩かれることもご褒美なのだろう。どこの業界かは知りたくも無い。
やってしまった。コレは本格的にマズイかも知れない。
手首に止めた腕時計を確認すれば、予定していた時刻から短針が一つ動いている。
ちょっとした準備をしていた。まあ外に出るという事もあって少しだけ気合を入れた。決して穂次と一緒に買い物が出来るという事で気合が入ったわけじゃない。そんな訳がない。
ともかくとして、そんな自分を見て誰も何も思わない訳もなく、時間よりも余裕を持っていた筈なのに、気が付けばそんな足止めにより遅刻してしまっている。
駅に到着して、駆け出て改札を通過する。心の中で彼が遅れてしまっている事を願いはしているけれど、ソレはきっと無理な話だろう。なんせ自分があれほど脅しを掛けたのだから。
駅を出てすぐのロータリーをぐるりと見渡し、彼が居ない事を確認する。
いない事を確認してしまった。流石に一時間も待たせてしまったのだ。帰ったかも知れない。
いいや、そんな彼に限ってありえない。そんな訳があるわけが無い。でも、もしかしたら――
「あれ? もしかして待たせちゃった?」
「ひゃぁっ!?」
「えぇぇ……そんなに驚かれると俺も流石に傷つくんですが……」
後ろから掛けられた声に思わず叫んでしまい、振り返れば情けない表情の穂次が立っていた。そんな情けない表情もへらりと笑いに変化して駅に敷設されてる時計に視線を向ける。
「いやー、ゴメンゴメン。コッチの予定が立て込んじゃって……ホント、許してください。スターライトmkⅢだけは勘弁してください!」
「ま、まあ許してあげなくもありませんわ!」
「ハハー! セシリア様ァ!」
実際の所、自分も遅刻しているのだけれど、彼がこうして謝っているのならばソレにノッてあげよう。自分のミスを棚に上げる訳ではないけれど……まあ彼が言うのだから、仕方ない。
それにしても――。
「……」
「え? 何、そんなに見つめて。もしかして格好良すぎてホレちゃったとか? イヤー困っちゃうなぁ」
「今すぐ服を買いに行きますわよ」
「いやいやIS学園の制服でもないし、何も問題は――」
「いいですわね?」
「あッハイ……」
どうして彼はこんなにセンスが無いのだろうか……いや、そもそも自分の隣に立つ男がこんな服装でいいのだろうか、いやよくない。外見は普通ぐらいなのだから、もう少しオシャレをしてもいいのではないだろうか。というか、しろ。
「この格好のドコが悪いというのか」
「少なくとも全部ですわね」
「ふぇぇ……多いよぉ」
「荷物持ちであろうと、このセシリア・オルコットの隣に立つのですから、もっといい格好をなさい!」
「へいへい……お姫様の言うとおりに」
「行きますわよ!」
彼の手を引っ張って駅前のショッピング・モールへと向かう。少しだけ驚いたような声を出した彼は少しあとに何やら考える様に、「あー」だの「うー」だのと唸っていた様な気がするが、きっと空耳なのだろう。
「ふぅ、こんなモノですわね」
「はぇぇ……。セシリアさんってホントセンスがあるんスねぇ」
「少なくとも穂次さんよりかは自信がありますわ」
「いやー、ハッハッハッ」
「……」
「スイマセン、そっちの勉強もしときます」
「よろしいですわ」
彼を少しだけ自分好みに変える、というのは実に心が弾んだ。ジトリと彼を見てやれば両手を上げて情けない顔をする。
今の彼を見て、数分前まで見事なまでにセンスの欠片も無い格好だったとは思わないだろう。その服たちは既に彼の持つ紙袋の中へと封印されている。もう出てこなくてもいい。
「それよりも……お金はよろしかったのですか?」
「あー、問題ねぇッスよ。ほら、コレでも俺って、セ、レ、ブ、だからねッ☆」
「……? 確かに有名ではありますけど、それとお金は関係ありませんわよね?」
「え?」
「え?」
「ナニソレコワイ」
「セレブはcelebrty の略ですわ」
「お、おう……ん、日本特有の誤用か」
「なるほど……日本は奥が深いですわね」
「わびさびわさびなんて言うからな」
「わさびまでありますの!?」
「なんと、セシリアさんはソコまでは知らなかったのか……」
「わびざび、までは知っていましたが……まさかわさびまであるなんて……」
「しまった!? コレは日本に伝わる秘伝だったのか!!」
「……嘘でしたのね」
「あの俺の嘘にもちゃんとノッてくれた純粋なセシリアさんはドコに行ったんだ!!」
「元々そんなわたくしは居ませんでしてよ」
「なん……だと……」
ガックシと言わんばかりに肩を落とした彼は少しして顔を上げていつもの様にへらへらとした笑いを浮かべる。彼としては一つの段落が出来たのだろう。
「さ、んじゃま。さくっと水着を見に行きますか!」
「そうですわね」
「是非ともセシリアさんの水着姿をいっぱい見たい! ああ! 夏ってやっぱり最高だな!」
「アチラで待っていてくださいますか?」
「他意はない!」
「むしろ悪意しかないのですね」
「悪意とは失敬な。下心しかないんだよ!」
「悪意の方がまだマシでしたわ……」
「欲望には忠実に生きないと死んじゃう!」
「では試着せずに適当に買いますわ」
「死んじゃう!?」
しょんぼりとした彼が足を止めている。ジトリと見てやっても何も反応は無い。こういう所を見ると、ある程度の良識はあるのだろう。常識は無さそうだけれど。
「何をしてますの? わたくしの水着を選んでくださるのでしょ?」
「行きます! 生きます! いや、イくかも知れんな……」
「訳のわからない事を……」
「ソレより俺が選んでいいんスかね……?」
「……透明の水着、とかは流石に言わないですわよね?」
「いや、水着姿として見るからソレは絶対ない。ソコは安心してほしい。俺はセシリアさんの水着姿が見たいのであって、全裸は……見たい!」
「…………」
「ジト目はやめて! いや、まあ透明な水着(意味深)は別にいいよ。それよりも問題がある」
「? 何かありまして?」
「そう、俺のセンスの無さだ!!」
「…………」
ああ、ソレは忘れてはいけない事だった。彼のセンスの無さはよくわかった。わかってしまった。
彼に選んでもらう、という事は、つまりそういう事なのだろう。いっそ透明な方がいいかもしれない。いや、ソレはそれで問題だけれど。
「……はぁ、わたくしが選んだモノから選べば大丈夫ですわ」
「なるほど……セシリアさん、天才だな!」
「……馬鹿にされているようにしか聞こえませんわ」
「かなり本気なんだけどなぁ……ほら、セシリアさんは勉強も出来るし、可愛いし、ISだって操縦できるし、可愛いし、そして何より可愛いからね!」
「…………まあ許してあげます」
「ちょれー」
「は?」
「いえ、何にもないですよ! セシリアさん!」
何か聞き捨てならない言葉が聞こえたような気がするが、彼が何も言ってないという事は何も言ってないのだろう。でもちょっとだけイラっとしたからジトリと睨んでやろう。
あっさりと水着は青色のビキニに決定した。あっさり、というには彼による「全部可愛いッス」という一悶着があったりしたのだけれど、それでも彼が一番反応出来なかった、と言った青色のビキニを購入した。
「いやー、眼福でしたね……」
「あの、本当によろしくて?」
「え? 何が?」
「いえ、水着代も勝手に支払っていたようですので」
「あー、別にいいよ。ほら、お金だけはあるから、こういう時に消費しないと溜まっちゃうんだよー」
「……ふーん」
「信じられてないッスねー。まあ、ここは俺の顔を立てると思って、お気になさらずに。というよりは綺麗なセシリアさんをずっと見れるだけで俺は満足ですッ!」
「威張って言うような事ではありませんわね……」
「店員さんにもニッコリされて彼氏扱いされてた事が一番嬉しかったゾ! まあ、その後に即否定入れられたけど……」
「あ、あれは……その」
「まあ、俺如きがセシリアさんの彼氏っていうのもアレだしね。 きっと未来ではセシリアさんと彼氏さんは仲睦まじい生活をしてるんだ……妬ましい!」
未来、と彼が言った時にオルコット家に婿養子として来た彼を想像してしまう。当然、ソレは実の父親の様に多少弱腰ではあるけれど、今よりも幾分か年齢を重ねている未来の彼はしっかりと決める所は決めてくれるし、自分の目から見れば十二分にカッコ……。
「――ありえませんわ!」
「えぇぇ、急に独身宣言ッスか……最近の女の人はスゲーなぁ」
「ち、違いますわッ! あの、その!」
「まあまあ、落ち着いてセシリアさん。安心してくれ。たとえセシリアさんがずっと独身でも、俺たちズッ友だよッ☆」
「…………」
「あの、せめてツッコンでもらえると嬉しいかなーって」
「…………」
「あー、穂次知ってる! コレは死ねって言ってる目だね!!」
コチラの気持ちも知らないで、好き勝手言っている馬鹿者をただただ睨んでやればわたわたと慌てている彼が見れる。いや確かにイラつきもしたけれど、まあこんな彼が見れるのもちょっとだけ嬉しかったりするので、いいだろう。許してあげよう。
「もういいですわ。許してあげます」
「ヤッター! セシリアさんの機嫌が直ったぞ!」
「ただし、次にいらない事を言ったら――」
「スターライトmkⅢッスね! 知ってますよー!!」
「ブルー・ティアーズ付きですわ」
「防げないヤツじゃないですかヤダー!」
「ふふっ」
少しだけオカシクなり笑ってしまう。ソレを見てようやく彼もへらりと安心したように笑う。いつもの彼の表情だ。やっぱり彼はこういう表情が一番似合っているのかも知れない。いや、真面目な顔も、幾分か、彼にしては、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけカッコイイけれど。
コレは彼に言わないちょっとした秘密だったりする。
「コレってチョー可愛くない? かわいーいー!」
「…………」
「あの、セシリアさん。流石に反応もないと俺が凄い馬鹿みたいなんですけど」
「馬鹿ですわ」
「そうだった!」
「はぁ……」
並べられている商品を見て彼がふざけていたので冷たく睨んでしまった。ついでに溜め息も出た。
彼はどうしてか照れた様にしているが、いったいどこに照れる要素があったのだろうか。問いただすと面倒そうなので何も言わないけれど。
彼の見ていたネックレスは確かに可愛かった。小さなチェーン、雫型のシルバーに透明の石がはめ込まれている。ちょっとだけ欲しくなったけれど、値段を見れば気が引ける。
「こういうセンスはいいんですわね」
「可愛いモノを見極めるのは自信がある」
「凄く不純に聞こえるあたり、もっと普段をマトモにした方がよろしくてよ」
「マトモなんだけどなぁ」
「セクハラ発言してるアナタのドコがマトモなんですの?」
「アレが俺のマトモだ!」
「警備の方はドコにいるのかしら……」
「本気で探すのは怖いからやめてッ!」
少しキョロキョロとすれば彼から制止の声が掛かった。どうやら自覚はあるようだ。それならもう少し真面目にしてればいいのに。それなら自分だってもっと彼に、いやいや、何を考えているんだ。
「ねえ、そこのアンタ、ちょっとこの荷物を持っててくれないかしら?」
「は?」
「会計の間だけだから、頼むわよ」
「まあ、別にいいッスよー」
「ちょ、ちょっと! この方はわたくしの連れでしてよ!?」
「まあまあ、セシリアさん。たった数分だから。俺たちも来てすぐに出て行く訳じゃないし」
「穂次さん!?」
「あー、何? イイ訳? ダメなの?」
「別に――」
「ダメに決まってますわ! 行きますわよ!」
「あーあー、まあそういう事で、スイマセン」
「穂次さん!」
「ハイ! ゴメンナサイ!!」
「セシリアさんセシリアさん。どーしてそんなに不機嫌なんですかー」
「……別になんでもありませんわ!」
「あー、そうっすかぁ……」
イライラする自分を彼は誘導するようにこの喫茶店に座らせた。勝手に紅茶を頼んで、ついでにケーキも頼まれているけれど、やっぱりイライラしてしまう。
「……どうしてキッパリ断らなかったのですか?」
「え? 何が?」
「先ほどの事です!」
「あー、さっきの? 荷物持ってーってヤツか」
「そうですわ! あんなものハッキリと断ってしまえばいいのです!」
「時間とられるの嫌だったかぁ、ソレは断るべきだっ――」
「違いますわッ!!」
「あー、セシリアさん。お客さん皆コッチに視線向けてるから、ちょっと落ち着いて、ね? ほら、ココのケーキは美味しいよ」
話が全く噛み合わない。なんだというのだ。コッチはイライラしているというのに、どうして彼はこんなにヘラヘラと笑っているのだ!
コチラが不機嫌を示してやれば困ったように笑っているけれど、本当にどうして不機嫌なのかを理解できていないのだろうか。
「アナタは男としてのプライドはありませんの?」
「あー……あったらIS学園での生活は耐えれないんですが、ソレは……」
「…………」
ソレは……うん、何も言い返せない。不機嫌も引っ込んでしまう。基本的には自分も含む女生徒が悪い、いや、彼も相当悪いけれど。
「まあ、俺の男としてのプライド云々は置いといて。ちょっとだけ落ち着きなって。ほら、紅茶も美味しいよー」
「……むぅ」
少しだけ唸ってから、カップに手をやる。湯気と一緒に昇ってきた香りに頬が緩み、褐色オレンジの液体を飲み込めば口の中に香りと甘み、そして少しの渋みが広がった。
「……美味しい」
「そりゃぁよかった。紅茶だと、後は反対側にある喫茶店とかも美味しいッスなぁ」
「? 何度か行ってるんですの?」
「まあ、ほら、休日はコッチにいる事の方が多いし」
「……そういえば前の休日もわたくしの誘いを断りましたわね」
「あー、まあ、ほら、用事が立て込んでるのさ」
「……ふーん」
「信じられてないなぁ……まあいいけど。さて、話を戻すけど、さっきの事ね」
「そうですわ。言い返してやればよかったんです」
「アハハ、ブーメランかな?」
「?」
「いや、コッチの話。 まあ、荷物持ちに関してはホントに気にしてなかったんだよなぁ」
「……お知り合いでしたの?」
「いや、初対面。まあ世間の一部女性が男のことを使い勝手のいい何かだと思ってるのは仕方ない事でしょ」
「……納得いきませんわ」
「まあまあ。ついでにセシリアさんが居なくて俺が歯向かったとしたら、ものの見事に俺は逮捕だったんだぜ……!」
「……初対面でもセクハラするから」
「違ァう! 基本的に司法も女性が有利なの。あることないこと言われてサヨナラ、ってのも結構ありえるらしいよ」
「…………」
「あー、納得いかないって顔してるなぁ。 まあ、世の中そんなモノだって。受け入れなきゃやってけねーです」
へらへらと笑ってそう言った彼は「よっこらせ」とわざわざ声を出して立ち上がる。ソレを目で追いながら見ていると、彼はキョトンとする。
「え? 何?」
「むしろわたくしの言葉だと思うのですが……」
「あー、ほら、ちょっとお花摘みに」
「…………聞かなかった事にしてあげますわ」
「そいつはどうも。ゆっくり紅茶を飲んでてよ。スグに戻ってくる……筈」
「……」
「あ、目線が冷たくなったゾ!」
本当に、どうしてこんなに格好悪い男に気持ちを向けているのか、時折自分でもよくわからなくなる。
「ホント、カッコ悪い人」
呟きは紅茶の湯気を少しだけ揺らして、誰にも聞こえずに溶けていった。
「いやー……買いましたね」
「そうですわね……」
アレから鬱憤を晴らすようにショッピングは続いた。彼は何も言わずに荷物持ちに徹していたり、時折ふざけた事を言ったりと、ちょっとしたデートみたいになってしまった。念を押すようだが、コレはデートではない。
会計全てを彼が支払っていたり、歩くときは常に自分を壁側にされていたり、自分のリクエストに応じる店を案内されたり、そんな事があったけれど、これは決してデートではない。デートじゃない!
デートだったら恥ずかしすぎる。マトモに彼の顔を見れなくなっていたかも知れない。
しっかりと部屋の前まで送ってくれた彼はやっぱりへらへらと笑って荷物を渡してくる。
「流石に部屋に入るのはマズイでしょ」
「?」
「あー、ほら、ルームメイトさんもいるし。荷物持ちはココまで! ハイ! 解散!」
慌てるように、荷物を渡した彼はパタパタと逃げていく。あんな様子で逃げなくてもいいだろう。
少しだけ膨れてしまう。
「おかえりー、セシリア」
「ただいまもどりましたわ」
「それで、夏野君とのデートはどうだった?」
「べ、別にデートではありませんわ!」
「ふーん、それにしては随分と嬉しそうじゃない」
「そ、そんな事は……」
頬が熱くなる。いやいや、デートじゃないから。そんな、あんな変態と一緒にデートだなんて、そんなまさか。
ルームメイトの軽口も程ほどに買い込んだ荷物を出していく。我ながら随分と買ったものだ。いや、買ったのは彼なのだけれど。
「あら?」
はて、買った覚えのない箱が一つ出てきた。長方形のソレを手に取り、眺める。包装にリボンまで結ばれたソレ。どれだけ思い出そうと、いっこうに中身が思いつかない。
丁寧にリボンと包装を解き、白い箱を開く。
小さなチェーン、雫型のシルバーに透明な石がはめ込まれたネックレス。部屋の照明にかざして見れば、石が少しだけ青みを帯びているのがわかる。
「へぇ、可愛いね」
「……そうですわね」
数秒ほどネックレスを眺めていたセシリアはソレを首に着けて鏡で確かめる。
チェーンを指で絡めればチャリリと小さな音が響く。
「ホント……カッコイイ人」
セシリアは赤くなった頬を綻ばせた。今回の呟きは紅茶の湯気に溶け込むことはなかった。
>>朝はゲンキじゃないと!
あ、ふーん……
>>妄想セシリー
ほら、乙女だからね!
>>穂次の格好
描写がない理由は猫毛のセンスがないからだ。ソコを突っ込むんじゃないゾ!
>>わびさびわさび
語呂
>>穂次「コレってチョー可愛くない? かわいーいー」
まあ以前言ってたから……
>>ブーメランかな?
発言が自分に返ってますよ! セシリアさん!
とは言えない。
>>決める穂次
トイレに行くといいつつダッシュで買いに行くロマンチストの鏡。なお部屋に入らなかったのはネックレスがバレて目の前で恥ずかしい思いをするのが嫌だったもよう