引き続き戦闘回。
いやぁ、戦乙女は強敵でしたね
2015/12/6
誤字、脱字、設定の修正
負けたくなかった。
いいや、それはきっと正しくない。
強くなりたかった。
いいや、それもきっと正しくはない。
ラウラ・ボーデヴィッヒは暗闇の中で問答する。誰に問う訳でもない。誰が答えられる訳でもない。
ただただ問答を繰り返す。
織斑千冬。憧れ。尊敬。自分の中に存在している全ての感謝を与えられる存在。そんな彼女がドコか照れくさそうに語った弟、織斑一夏。
だからこそ、ソレが堪らなく許せなかった。
コレは嫉妬ではない。いいや、そんな感情、ラウラ・ボーデヴィッヒは持ち合わせていない。
憧れの織斑千冬が、あの人が優しい表情をして誰かを語るなど、ありえてはいけない。
強く、凛々しく、自信に満ちた彼女に憧れていた。だからこそ許せない。織斑一夏が許せない。
織斑千冬は孤高であるべきだ。
だからこそ、織斑一夏など必要ではない。
完膚なきまで叩きのめせば、きっとあの人は私を選んでくれる。私を認めてくれる。私を――、私を――。
ラウラを認めてくれる。
ラウラの脳内で、ガチリ、と歯車が噛み合う。何かが声を掛けてくる。
力が欲しいか? と何度も問いかけてくる。
煩い。ただただ煩いだけの声だった。既に答えは出ているのだ、既に歯車は回り始めたのだ。
だからこそ、
――黙って力を寄越せ。アレを完膚なきまで潰せるだけの、あの人に認められるだけの、あの人の隣にいれるだけの力を、私に、寄越せ!!
ラウラは渇望した。ソレは不純な動機だったかも知れない。けれどソレは純粋な願いだった。ソレは至極真っ当な望みだった。ソレは屈折しきった感情だった。
だからこそ、声を掛けた何かは、相棒の願いをただ叶える為だけに、そのシステムへと身を投じた。
◆
「アアアアアッ!!!」
「うわっ!?」
「くっ……!?」
ラウラ・ボーデヴィッヒが身を裂かんばかりの叫びを上げ、シュヴァルツェア・レーゲンから電撃が迸る。
近くに居たシャルル・デュノアはしっかりと回避したにも関わらず、夏野穂次はその背中にしっかりと電撃を浴びて驚きの声を上げて距離を置いた。
「なになに? アレ。つーか、え? 囮とか言われてたけど全体攻撃出来るとか聞いてないんですけど……」
「いや、アレは違うだろ」
あからさまにキョドっている穂次を否定する様に一夏の視線はラウラに集中している。
ドロリと、装甲が溶けている。ラウラの顔すらも隠す様に、肌の露出すらも許さないように、ISが変形していく。
「うげぇ……つーか、一夏が呪われてるんじゃね?」
「なんでだよ」
「前のクラス対抗とか。女に恨まれることでもしたの? お前」
「してねぇよ!」
「ふーん……え?」
「なんで信用してないんだよ」
事態が飲み込めないからと言って談笑をしている男二人は放置する。現実逃避もいい所である。
ドロリと溶けたISはその装甲を流動的に波打たせ、ゆっくりと形を形成していく。
最小限の腕と脚の装甲。フルフェイスの装甲。目の部分に怪しく赤い光が灯っている。何度か明滅したソレがようやく安定して鈍く光る。
「雪片……」
一夏の声に穂次は反応しなかった。ただ細められた瞳がそのISを見つめ、その一挙手一投足の全てを把握しようとしていた。
手に持った刀を一度振るったラウラだったモノはまるで息を吐き出したように肩を一度下げた。
瞬間、穂次は横に押し出されていた。
「はっ?」
雪片弐型と黒い雪片がかち合い激しく金属音を響かせた。歯を食いしばって攻撃を防いだ一夏はラウラだったモノの行動と同時に遥か後方へと飛びのいた。
一夏の居た場所に斬撃が走る。あの一太刀を浴びていたならば、織斑一夏は真っ二つになっていただろう。そう予想するに容易い一撃であった。
穂次は眉間に皺を寄せて飛び退いた一夏へと近付く。白式は白い粒子へと戻っている事から先ほどの強制撤退で力を使い果たしたのであろう。
「おいおい、なんだよ、アレ。おっかねぇな」
「……千冬姉だ」
「は? おいおい、よく見ろよ。ボーデヴィッヒさんはそんなにおっぱいねぇだろ」
「違う! アレは、アレがッ!!」
怒りを顕わにして拳を握り締めた織斑一夏が一歩を踏み出す。その二歩目は地に着く事もなく、空を切った。
「はい待った。お前って自殺志願でもあったの?」
「うっせぇ! 止めるな!!」
「ヒェッ……」
「離せ! あいつ、ふざけやがって!! ぶっ飛ばしてやる!!」
「えぇ……お前が織斑先生ぐらい強靭無敵最強だったら離したけど」
「邪魔すんな!」
「……はぁ。しゃーねぇっすな」
穂次は一夏を持った手を離し、地面へと一夏を下ろす。溜め息を吐き出してからISを解除した穂次は駆け出そうとしている一夏の肩を掴んで振り向かせる。
「ふんっ!」
「がっ」
そして力の限りの拳を一夏の頬へと叩き込んだ。
力の限りではあったが、一夏がギャグ漫画みたいに吹き飛ぶこともなく、多少身体をよろめかすだけで終わり、一夏の怒りが穂次へと向く。
「何しやがる!!」
「何って、人助けだよ。コノヤロウ」
「俺はアレを止めるんだよ! 邪魔するならお前も――」
「へいへい。んじゃまぁ、状況教えろって。ホモのお前でもそのくらいは出来るだろ?」
「ホモじゃねぇよ!?」
「うっせぇホモ。やーい、ホモ!」
「コノヤロウ」
「お、やんのか? 俺はお前と違ってISがあるんだぞ!!」
「卑怯だぞ!」
「アッハッハッ! お前は手も足も出ないだろう!」
「くっ……」
「……んじゃ、まあその手も足も出ない状態でアレに攻撃挑もうとした織斑君、馬鹿なの?」
「うぐっ……悪い」
「俺も殴ってるし。つーか、出来るならもう一発殴りたい。気分的に」
「ソレはイヤだ」
「チッ」
「それで、ソッチの話は終わったかな?」
「シャルル。大丈夫か?」
「まあ、足止めの相手が弱かったお陰であんまりエネルギーを使ってないからね」
「ヒッ……いきなり毒舌すぎやしませんかね……」
ニッコリと笑って毒を吐き出したシャルル・デュノアに怯えるように声を出した穂次。
さて、と声を出したのは誰だったのだろうか。三人は同時にアリーナの中心にいるソレに視線を集めた。
『非常事態発令! トーナメントの全試合は中止! 状況をレベルDと認定――』
「うへぇ、マジか……」
「どうした?」
「レベルDって事は鎮圧に先生らが狩り出されるってこと、ついでに言えば生徒達にも避難勧告が出されてるだろうな」
「というか、穂次はそんな事も覚えてんのかよ」
「先生達に叩き込まれたんだよ……ほら、手伝わされたりするし」
「エグイなぁ」
「嬉々として覚えさせたのはお前の姉なんだよなぁ……」
「あ……」
「……んじゃまあ俺らも撤退するか。後は先生方に――」
「なあ、穂次。――」
「……ハイハイ。どーせ許せないとか言ってアレを止めるんだろ。まったく、何なのかねー。織斑って人使いが荒い血族なのか?」
「ありがとよ」
「へいへい。つーか、お前エネルギーないじゃん。無理だな! はい、撤収!」
「――エネルギーがあればいいんだね?」
そう声を上げたのはシャルルであった。そのシャルルに向かって至極嫌そうな顔をしてしまった穂次。誰が楽しくてあんな恐ろしい動きのISを止めないといけないのだろうか、というのが穂次の気持ちである。
そんな事を知るはずもないシャルルはニッコリと笑顔のまま言葉を続ける。
「リヴァイヴならコア・バイパスでエネルギーを渡せると思う」
「本当か!」
「うん、やってみるよ!」
「ホント、俺と一夏のやりとりを見て輝かしい目をしてた奴とは思えない有能さ」
「穂次、何か言った?」
「いえいえ、何も。シャルルは優秀って話だよ」
「ふーん。覚えていてね?」
「ひっ……聞こえてるじゃないッスか……。つーか、一夏。大丈夫なのか? 分の悪い賭けは嫌いだぞ」
「問題ねぇよ。俺は勝つ。男に二言はない」
「んじゃ、負けたら何かしろよ」
「げっ……」
「! 負けたら穂次が女装して登校しよう!」
「ふぁっ!?」
「それでいいな!!」
「待てぃ! どうして俺が巻き込まれてんだよ!?」
「いいじゃないか。一夏も穂次も負けないんでしょ?」
「ぐぬぬ……。んじゃ、俺らが勝ったらシャルルは女の格好で登校しろよ」
「え?」
「よし、決定。一夏、終わったか?」
「……ああ」
右手だけに装甲を出現させた一夏。その手にはしっかりと雪片弐型が握られている。ソレを見た穂次はやや眉間を寄せたけれど、まあ、仕方ないといわんばかりに溜め息を吐き出した。
二人は隣合わせで立ち、前にいるISを見つめる。
「んじゃ、一回だけ隙を作るから」
「おいおい、アレでも一応千冬姉だぞ?」
「腹が痛いって言ってどこかに行ってもいいなら帰るけど?」
「お前ならできる!!」
「手首にモーターでも仕込んでるのかよ……」
「というか、本当に大丈夫なのか?」
「ふっ、安心しろ。俺は故郷に恋人を残してるんだ」
「お、おう」
「この戦闘が終わったら俺、結婚するんだ。将来は海岸の見える白い家を買って大型犬と一緒に」
「穂次……お前、死ぬのか……」
「ま、ほぼ生身のお前をエスコートできるぐらいの働きはしてやるさ」
穂次は緩やかに盾が付いている左腕を上げる。隣に居た一夏はソレを横目で見て同じ様に雪片を握り締める右腕を上げた。
「つー事で、締めは任せるぜ、相棒」
「ああ、任せろ、相棒」
ゴツンと金属の拳がぶつかり合った。
穂次が一歩目を踏み出す。その一歩こそ村雨の特異点であり、同時に唯一加速が可能な方法だ。そしてその加速は瞬時加速に引けをとらない。
瞬間的に景色が動く中、穂次の心は驚く程に落ち着いていた。迷いはない。恐れもない。
戦術が湧き出る訳ではない。夏野穂次は天才ではない。
戦略を編み出せる訳でもない。夏野穂次に才能はない。
圧倒できる力を得れる訳でもない。夏野穂次は秀才ではない。
だからこそ、夏野穂次はその瞼をゆっくりと降ろした。
戦乙女は接近してきた黄色い騎士に反応し、刀を振るった。絶死の一撃であるその剣は容易く騎士の盾に防がれる。
戦乙女は黄色い騎士を視界に入れた。ソレはヘラヘラと笑うこともなく、瞼を下ろした騎士であった。
盾で剣を防いだ騎士は戦乙女に蹴りを放つ。鋭い蹴りが空気を裂きながら戦乙女の顔スレスレを通り過ぎる。
戦乙女が回避と同時に振るった一太刀は騎士に当たらず寸で回避され、二撃目は盾で防がれる。
戦乙女はシステムに含まれていない舌打ちがしたくなる。果たしてトレースした本人であったならば盛大に舌打ちをしたであろう。
まるで、コチラの攻撃が読まれている。
そんな訳が無い。ある筈ない。
世界最強を謳ったブリュンヒルデと同等であるべき戦乙女の攻撃を全て初見で見切れる訳はない。ならばどうしてコレはコチラの攻撃を全て防ぎきっている。
ISに記録されていた先ほどの彼の力量ではない。少なからず、現在目の前でブリュンヒルデに肉薄しているコレを先ほどまでの力量だとは言えない。
ならば、なればこそ。相手の力量を設定しなおせばいい。全てをもってして打倒すべき相手だ。
戦乙女が正眼に、真正面に刀を構え直す。対して騎士はダラリと脱力している。
全てを両断する剣がある。戦乙女は空を駆ける。騎士の左腰を、左腕に付随されている盾ごと両断すべく、攻撃を仕掛ける。
一閃。戦乙女の右から空を滑るように裂き切り、刀は騎士の盾へとぶつかる。
ぶつかり――――静止した。
瞬間、盾が黒々とした粒子を撒き散らす。まるで溜め込んだ何かを吐き出す様に、その息吹をあげた。
盾の上部から何かが飛び出す。戦乙女はソレに視線をズラす。ソレは――棒であった。
長方形型の棒がクルクルと回転する。二尺程度の棒。片方の端には菱形の穴が空いているだけの、棒。
騎士はその棒を掴み、自身の左腰に貯めを作る。
「――隠し剣」
夏野穂次はようやく瞼を上げて息を吐き出す様に、言葉を吐き出していく。
一言目を吐き出せば、右手に持った柄から黒い刃が映える。ソレは暴力的なまでのエネルギーを秘めているのか刃の端々から黒い粒子を舞わせ、正しく形を保つことが出来ない様に不安定な刃を吐き出し続けている。
「鬼の爪ェ!!」
穂次の絶叫と共に刃がかち上げられる。決して身体を狙った訳でない。確実に回避できない、少なからず相手の攻撃の手段を奪えるであろう箇所。
黒い粒子を軌跡に残し、鬼の爪は戦乙女の右腕を通過した。避ける様に身を引いた戦乙女、けれどもソレでは遅すぎる。軌跡の先に残っている刀までは逃げ切れなかった。
黒い奔流剣は刀に当たり、弾き飛ばした。
撃破までに至らない。戦乙女は瞬時に判断し、刀を手に取る方法を思案した。けれども、それは要らぬ苦労だった。
「何度でも言ってやるよ。コレは、俺たちは――」
「ふたり組みなんだぜ!!」
穂次の背後から出てきた白い極光。それこそが真の両断の刀。全てを両断する為だけの、ラウラの憧れた一太刀だった。
真っ二つに割れた黒いISの中から眼帯で隠されていた金色の瞳を顕わにしたラウラ・ボーデヴィッヒが一夏を見つめる。ソレは一瞬だけの、ラウラ・ボーデヴィッヒが気絶するまでの一秒もない間だったかもしれない。けれど、確かにその瞳は織斑一夏を捉えていた。
酷く弱った瞳は緩やかに閉じられて、一夏が倒れそうになったラウラを抱きとめる。
「……ぶん殴るのは止めにしといてやるよ」
「つーか、なんでお前って自然に抱きとめてんの? ロリコン? ホモでロリコンとかもうわっかんねぇな」
「穂次、もうちょっと空気読め」
「イヤだね!! コッチは武装使った事の始末書とか色々あるんだからちょっとぐらいいい思いしたい! アァ!! 女の子をクンクンしたいよぉぉぉおお!! おっぱいサワサワしたいのぉぉぉおお!!」
「お前には絶対に渡せないってわかった。というか、穂次。ソレなんだよ」
「クックックッ、知りたいかね。ああ、そうだろう知りたいだろう!!」
「いや、別にいいや」
「イケズゥ。もっとノリよく行こうぜー」
「どうせセシリア達に詰め寄られるんだからその時に一緒に聞くわ」
「…………おぅ……」
先に起こるであろう未来を想像して夏野穂次の顔はドンヨリと暗くなった。そんな顔を見て一夏は苦笑をする。
空は驚く程に快晴であった。
>>穂「締めは任せるぜ、相棒」
>>一「任せろ、相棒」
薄い本が厚くなるな……
>>ちょーっと穂次君強すぎないッスかね?
アレは夏野穂次ではない。伝説のスーパー穂次だ……!!
冗談はさておき、実際にモンドグロッソ時の千冬さんの攻撃を反撃も込みで捌けてるのでかなりの力量です。
穂次自身の力はアレではなくて、シャルルに防戦一方だったソレなんですが……。まあ、ソコラは適度に読んでいただければ、と思います。
やっぱ、スーパー穂次で納得させとくか……。
>>スーパー穂次
怒りのパワーで金髪になって、なんかゴウゴウしてる。してなくない?
>>隠し剣『鬼の爪』
ギミック盾の一つ目のギミック。今回のビックリドッキリメカ。
二尺(60cm)程度の柄。先から黒いエネルギー刃が溢れる。凄い。強い。やったぜ!
形的にはサイサリスのビームサーベルを黒くしたと思っていただければ……。
二度説明を書くのも嫌なので、次話辺りに細かい設定を書こうとは思います。書けなかったらアトガキにでも書いとくので問題ありあせん。
鬼の爪のクセにデカクないかって? そもそも『鬼の爪』はIS村雨の兵装としての正式名称じゃないので何も問題ありません。だから、何も問題ないんですよ。いいですね?