オーバーロード ―さまよう死霊―   作:スペシャルティアイス

7 / 23
書いていると早くナザリックに合流したくてたまらなくなってしまいます
それと説明回ばかりで申し訳ありません


第六話

―――奇妙なことになった。それが、ブレイン・アングラウスの率直な気持ちだ。

曇り気味の空の下、王都への街道を一人歩く。

 

『いやー、こうして他人と連れ合って歩けるなんて、何年ぶりかねぇ』

 

姿は見えねど声は聞こえる、しかも自分にだけ。おかげで街の中では狂人を見るような目で見られてしまった。

腹立たしい。そんな気持ちが自分に残っていることに驚く。

 

『俺って異形種だろ?だからいっつもPKの的になっててさ。

しかも所属してたギルド、潰されちまったけどそこで活動してたってことで掲示板に晒されちまうし、俺を積極的に狩ろうとするのもいて、パーティーなんて組んでられなかったんだよな。

………まあ自業自得なんだが』

 

支離滅裂なことばかり喋りまくる。そもそも聞いたことがない単語ばかりでわけがわからない。

 

「イラつくから黙れ?久々の会話を楽しんでるだけなのにヒドいぜブレインくんよぉ。

待て待て、刀を抜くんじゃねえよ、憑いてる俺をどうやって切るんだよ?」

 

……待て。今、『憑いてる』という言葉が聞こえたが、つまり それは。

 

『あれ?お前さん俺の姿見ただろ。俺は幽霊系の異形種だよ』

 

なんだとっ。それじゃあ、今俺は。

嘘とも思ったが、その理由がわからない。幽霊だとしたら、姿が見えないことも理由がつく気がする。

その事実を受け入れた時、知らずに笑いがこみ上げてくる。まるで道化だ。

 

『……おいどうした、いきなり笑い出して。怖いんですけど』

 

化物から逃げた挙句、幽霊に取り憑かれ、あげくそいつに縋ったのだ。これが他人事なら滑稽で失笑で済んだが、自らの身の上ならただただ笑いが湧き上がる。

 

『やべぇ……これあかん奴だ。涙流しながらめっちゃ笑顔や。……やっぱ異形種は嫌われものかよ。うぅ』

 

ふと自分の体から力が抜け、そして身軽になった感覚を覚える。

そして頭の上から水のようなものがかかる。冷たい感触が染みて、自分の中の感情が急激に落ち着くのがわかった。

 

『自前で状態異常の“狂気”とか洒落なんねえよ……。精神異常回復のポーション一本で効くのかこれ?』

 

振り返るとそこには死神、いや死霊がいた。闇が凝り固まったかのような身体で、その表面には無数の亡者の顔が浮かんでいる。

顔には紅玉のような双つの光が輝き、その頭上には不思議な紋章が浮かんでいる。

そして、いきなりそんな存在を目の当たりにしても、心は平静そのものだった。

 

「気絶しないってことは、ポーションが効いてるのか。……うん、あとこれくらいは装備したほうがいいか」

 

そう言って死霊が俺へ向け、どこからか取り出したのかペンダントを放り投げた。

とっさにそれを掴んでしまう。手の中のペンダントは青く輝く金属片が取り付けられたものだった。

 

「どっかのプレイヤーからぶんどった精神異常無効のアクセサリーだ、やるよ。名前が変なのはご愛嬌ってことにしてくれ。それつけりゃ俺相手に頭おかしくなることもないだろ」

 

……正直に言えば、信用出来ない。しかし先程の液体、俺を冷静にしたのは目の前の死霊のようだ。

 

「やっぱ発動してる“アリップ”のスキルが原因か?でも憑依中はスキルが無効になってるはずだし、でもそうならあの幽霊どもだって……。いや待てよ、アンデッドは耐性があるから効かないだろ!吸血姫の花嫁の二人組にも効かなかったし」

 

ぶつぶつと独り言をこぼし始めた死霊はまるで隙だらけだった。しかし、手の中の刀を抜くことは出来なかった。

妙なことだが奴の纏う雰囲気、オーラとでもいうものが自分の精神を良くない方向へ刺激する気がした。

目の前の敵を攻撃しろ、そいつは容易に倒せる、お前のほうが強い、そう何者かが自分へ語りかけている気がした。

不自然に湧き上がる敵愾心にのることが危険だと、自分の勘がそう告げていた。

……考えることが面倒になってきた。そもそも俺はもう死んでもいいと考えていたはずなのに、なにを躊躇しているのだろうか。

もしこの首飾りがなにかの罠なら、その時はこれごと自分の首を掻っ切ってしまえばいい。

そう思い、その首飾りを身につける。

するとどうだ、先程まで自分を焦がす感情が波ひくように消失した。

 

「なに驚いた顔してるんだよ?ユグドラシルなら状態異常対策は当たり前じゃねえか。混乱や狂気みたいな精神異常は、まあこれつけりゃ問題ねえべ。

たださっきみたいなお前さん自身の精神疾患とかには効かねえと思うぞ。あくまで外からのものを弾くだけだから」

 

こいつは何を言っているんだ?人の精神は複雑なものであり、それを装備一つで防ぐ代物など、この国の秘宝にも存在しない貴重品なはずだ。

それを気軽に他人に譲るなど、一体どういうことだ!?

 

「って言われてもアイテム欄の肥やしになってたもんだし、俺装備できないっていうかアンデッドだから元から精神作用無効だし。

まあ俺と同行するための支給品?みたいなもんだと思いねぇ」

 

なんなんだ、こいつは。今のことだけでも余計にわからないことが増えた。

 

「やっぱ憑かれるの嫌か?それ装備したなら問題ないと思うんだが」

 

こちらをおそるおそる伺う死霊からは、こちらを害しようとする意思は感じなかった。

……警戒していた身体から力が抜けていく。もう好きにすればいい。

 

「お、マジか。ありがたいねえ。《透明化》や《霧化》を使ってもいいけど、やっぱ憑いてるほうが楽だわ」

 

そう言って奴の姿が消え、自分の左肩に重みが加わる気がした。しかしそれ以上に、身体から力が湧き上がるのを感じる。

特に五感が冴え渡り、武技である《領域》を使ったような錯覚さえ感じる。

また全身に今まで感じたことがないうねりを感じる。もしかしたらこれが魔力というやつなのだろうか?

一度失ったものが再び戻ってきたために、先程よりもその違いが明確に感じ取れた。

 

『おーい、何自分の手のひら見つめてるんだよ。手相でも見んのか?』

 

………本当に妙なことになったものだ。だが王都に着くまでにはまだ時間がかかる。

その間にこいつ、トライあんぐるという死霊からは聞きたいことが山程できた。

 

『あん?憑かれたら強くなった?《憑依》の本来の効果が出てるんでないか?

それよりも今度はブレインのこと聞かせてくれや。此処に来てからはほとんどアンデッドとしか話してない気がするし、人間種の話も聞いてみてえわ』

 

機嫌良さそうな死霊の声を聞きながら街道を進む。王都への先の空模様は良くないようで、黒々とした雲が視線の先にあった。

 

―――未来のブレインがこの時のことを思い出せば、これから始まる出来事を暗示していた空模様だった、そう述懐したかもしれない。

 

 

 

この大陸西部には様々な国があることはご存知であろう。

その中でも、人間種が主な国が三つほど存在する。

一つはリ・エスティーゼ王国。国土の中央から西寄りに王都があり、直轄領を除けば各地の領主による封建制が堅持された国。

そこから東、南北にはしるトプ大森林とアゼルリシア山脈に分かたれる形にバハルス帝国がある。

皇帝に権力を集中させた独裁政治を敷いており、昨今は鮮血帝の御代において発展著しい国だ。

そしてこの二国の南方にて国土を接するスレイン法国。

かつて人間を守護したという六大神を信仰する宗教国家であり、おそらくこの三国の中では国力、軍事力ともに頭一つ抜きん出たものを持つ国だ。

三国の中でも、王国と帝国は敵対しており、毎年国境沿いにあるカッツェ平野にて紛争が起こっている。

そのカッツェ平野から西へ移動すると、三国の貿易の要衝でありリ・エスティーゼ王国直轄地、城塞都市エ・ランテルがある。

三重の城壁に囲われており、外側から、軍管区・住宅区・行政区を仕切るものになっている。

昼間の今は人の往来が盛んで、宿屋や商店などが立ち並ぶ住宅区は活気があった。

その中で、武器防具に身を包んだ人間が多く出入りする建物がある。冒険者ギルドだ。

中へ入れば、そこには様々な職種の冒険者がいる。

戦士、盗賊、野伏など。数は少ないが魔法詠唱者などもいた。

いずれも胸元より上の位置にプレートをつけており、今日は銅色の者が多いだろうか。

その中で、依頼を受け付けるカウンターに二人の人物がいた。

一人は十人いれば十人が振り返るような美女。艶やかな黒髪を動きやすいよう後ろに括っている。

ありふれた茶色のマントの下は動きやすいシャツにズボンだが、布越しにはっきりと女性らしさを主張していた。

他称ではあるが、彼女は“美姫”と呼ばれていた。本人から言わせれば、自分より美しいお方がいらっしゃる、そう反論するだろう。

ナーベ、と名乗る彼女は人間ではない。ドッペルゲンガーという種族だ。そのことを知るものはこの場には彼女を除いて一人だけだ。

 

「請け負ったゴースト討伐は完了した」

 

声音の主は男の剣士だった。漆黒の全身鎧とフルフェイスの兜、真紅のマントに身を包み、背には双振りのグレートソード。

胸元にはミスリル製の金属プレートが輝き、彼が上位に位置する冒険者だと示している。モモンと名乗る彼もまた、ナーベと同じく人間ではない。

人間の街での情報収集のため彼らは人間と偽り、冒険者のパーティーとして活動している。

エ・ランテルのアンデッド襲撃を筆頭に困難な依頼を次々とこなし、いずれはオリハルコン、そしてアダマンタイトへ至るだろうと目されている凄腕の冒険者。

彼らへ注がれる酒場の視線はほぼ尊敬や羨望だが、中には嫉妬も多分に含まれている。なにせ彼らがこの街で活動を始めてからそれほど時間が経っていない。

普通は数年をかけ、少しずつ実績と信頼を積み重ねて冒険者の級は昇格していくものだ。

 

「現場でモモン様に同行していた者からも報告を受けております。お疲れ様でした」

 

業務上の対応をする受付嬢の対応を眺めながら、モモンは自分の思惑が外れたことに軽い落胆を抱いていた。

 

「(変わったゴーストが街道沿いに出ると聞いてもしかしたらと思ったが、そう簡単に見つかるものじゃないか……)」

 

彼の正体は、ナザリックの支配者であるアインズ・ウール・ゴウンと名を改めたモモンガだ。

何故、組織のトップがわざわざ情報収集を行っているのかというと、ユグドラシルから転移してきたアインズにとってここは未知の世界だ。

そのため自分の目で見て歩き、生きた情報と常識を身につけるため、というのが大義名分だ。

まあ他にも理由はあるのだが。

転移する前は一サラリーマンとして人に使われていた彼が、この世界では神話に登場するような悪魔や魔物の上に立ち、他人に傅かれ他人を使う側になってしまったのだ。

帝王学など知らぬアインズ、鈴木悟にとっての息抜きという目的が、冒険者モモンとして活動することに繋がっているのだ。

 

「ところで、次の依頼を見繕って欲しいのだが?」

「モモン様、申し訳ありません。現在モモン様に請け負っていただける仕事は入っておりません」

 

申し訳無さそうに眉を下げた受付嬢の対応にモモンは、さてどうしたものかと思考する。

しかしそれもすぐに中断された。彼にむけて《伝言》の魔法が届いたからだ。

 

「ちょうど良かった、急用を思い出したので失礼する。もし何かあれば宿屋に来てくれ」

「は、はい。“黄金の輝き亭”ですね」

 

その言葉にモモンは背中越しに片手を上げて応える。その颯爽と歩く姿に、多くの冒険者達は憧れの視線でもって見送った。

一部には、モモンに追従するナーベの麗容に見惚れる者もいたが。

外に出たモモンは《伝言》を発動させる。さきほどの《伝言》に応えるためだ。

 

「……ガルガンチュアに起動を命じろ。ヴィクティムも呼び出せ」

 

その声は僅かに高揚したものだった。

まるで自らの思惑通りに事が運ぶことに満足する声音、背後に続くナーベにはそのように聞こえた。

 

「コキュートスが戻り次第、全階層守護者で向かうとしよう!」

 

ここに、一つの種族(リザードマン)の命運が決した。

 




エ・ランテル近郊の吸血鬼イベントが起こっていないため、モモンさんは現在ミスリル級であります。
また作者の捏造が入ってるので、イベントのフラグに若干のズレがみうけられるかもしれません。
それとシャルティアたちを襲った野盗の亡霊は漆黒の英雄に討ち取っていただきました。


それと作中のアリップはD&DのAllipをモチーフにしております。
しかしここにも作者の捏造スキルが加わっているので、原作のアリップとは別物とお考えください。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。