大逆転! 大東亜戦争を勝利せよ!!   作:休日ぐーたら暇人

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さてはて、どうなる事やら…。


61 統領閣下と研修者

3月29日 ローマ市内 統領府

 

 

「……戦闘や指揮より疲れた…」

 

 

「お疲れ様」

 

1日空けた(互いにお伺いをたてる&調整)後、松島宮は滝崎を伴い、ローマ法皇ピウス13世、イタリア国王ヴィトリオ・エマヌエーレ3世(イタリアが王制を廃止したのは戦後であり、この時のイタリアは厳密的には『イタリア王国』である)に謁見し、(根本の)ムッソリーニが居る統領府へやってきた。

なお、松島宮がグロッキー気味なのは、ローマ法皇とイタリア国王謁見への移動中(車移動)にローマ市民が移動ルートに集まり、それに対応して手を振っていたりしたからだ。

 

 

「…言い出しといてなんだが、もう少し違った対応をすればよかった」

 

 

「まあ、でも、仕方ないよ。何処の世界でも『若い王族が活躍する』と言う事柄に惹かれない人はいないわけだし」

 

 

「いや、そうだが……いかん、いかん、本来の本命がこれからだ。気を引き締めてだな…」

 

 

「統領閣下が入室されます」

 

会話中に入った来た秘書官の言葉にグロッキー気味な表情を隠し、使い慣れてしまった『男子の皇族』として顔で入って来たムッソリーニに相対する。

 

 

「初めまして、殿下。イタリア王国統領ベニート・ムッソリーニです」

 

 

「初めまして、ムッソリーニ閣下。本来であれば、陸海軍の派遣部隊首脳陣との会談でありましたが、その首脳陣も多忙の為、代理として、本官と隣に居ります、本官の副官が参った次第でございます」

 

さすが皇族と言うべきか、社交辞令的な事をポーカーフェイスも交え、理由と共にポンポンと言う松島宮。

 

 

「いえいえ、多忙の断りにまさか日本のエンペラーの一族の方が来られるとは此方も予想外でしたので…法皇猊下、並びに国王陛下からは失礼のないよう、念押しをされております故、ご容赦を。ささ、お座り下さい」

 

どうやら、『念押しされてる』と言うのは本当らしく、少し緊張の表情を出しながら、ソファを薦めるムッソリーニ。

その後、当たり障りのない談笑が行われる。

 

 

 

暫くして

 

 

 

「そう言えば統領閣下。貴殿は先の大戦に参戦していたそうですね?」

 

 

「えぇ。まあ、殿下と違い前線の一兵士、下士官としてです。殿下の様な英雄とはとても比べれるものではありません」

 

 

 

「それなら、私も似た様なものだ。皇族で艦長と言えど、指示に従い、己の職務を遂行したベテランの乗組員達が居てこそだ。その場合、1人の能力など限界がある」

 

 

「随分と控えめな自己評価で」

 

 

「事実を言ったまでだ。あぁ、その中に隣に居る同期の副官も入っているぞ。なにせ、思考の回転と勘働きに関しては随一だからな」

 

 

そう言って松島宮は隣に居る滝崎の話を振る。

 

 

「この副官の思考や勘働きはよく当たるぞ、統領殿。実際、先の冬戦争で色々と読まれたソ連は脆かったからな。故にだ…個人的にはこの男は敵に回さん方がよい」

 

 

「殿下、お戯れが過ぎます。それに自分の事も誇張し過ぎです」

 

 

真面目な顔で滝崎が松島宮に注意を入れる。

実際、ムッソリーニの顔が何とも言えない愛想笑いの顔で固まっている。

 

 

「だが、お前も言っていたであろう? 『個人的感情や面子で戦争はするな』と」

 

 

「極力しない方がいい、と言ったまでです。ムッソリーニ閣下もお困りになっておりますよ」

 

 

「いやいや、なるほど、確かに優秀な副官ですな」

 

滝崎の言葉に未だに固いままの表情でムッソリーニが答える。

 

 

「それと、殿下。そろそろお時間の方が…」

 

 

「あぁ、もうそんな時間か。では、ムッソリーニ閣下。本日はお邪魔いたしました」

 

 

「いえいえ、また、イタリアに御越しになる機会がありましたら」

 

 

 

「うむ、その機会があればな」

 

……こうして会談は終わった。

 

 

 

 

1時間後 統領府 会議室

 

 

 

「単刀直入に聞こう。ナポリの日本艦隊、並びに陸軍部隊と今の我が軍が戦った場合、どうなる?」

 

会談後、ムッソリーニは陸海空軍の首脳陣を招集すると、真剣な表情で問う。

これに集まった首脳陣の顔は一斉に苦悶に曇る。

何故なら、答えは既に出ているからだ。

 

 

「…陸軍としましては、ハルヒン・ゴールを含めた極東での戦闘、並びに先の冬戦争の事を踏まえますと、装備・人員の質・量共に日本軍が圧倒的優勢であるとしか言い様がありません。ソ連を相手に戦う事を想定している以上、そうなるのは仕方ありませんが…スペイン内戦を経験した我々より装備の充実感は良いかと思われます」

 

意を決して一番に答える陸軍首脳。

 

 

「我々空軍も陸軍に同意します。人員・機材はイギリスやフランスに引けを取りませんが…特に冬戦争で投入された日本の新型機、憶測が多いとは言え、かなりの強敵であるのは間違いないかと」

 

陸軍が話した為か、答えやすくなって空軍首脳が答える。

 

 

「……海軍としましては全海軍戦力を投入しても勝利は難しいかと…フィンランド湾海戦の件もそうですが、空母の存在が一番の懸念事項です」

 

冷や汗をかきながら苦悶な表情で答える海軍首脳。

これを聞いたムッソリーニは額を抑える。

 

 

「……つまり、いま一悶着あれば、負けるのは我々の方なんだな?」

 

 

「「「………」」」

 

沈黙は肯定である、と言わんばかりの三軍首脳陣の沈黙にムッソリーニは苦悶に歪んだ表情で指示を出す。

 

 

「陸空軍はドイツに、海軍は日本に出向員を出せ。海軍は派遣艦隊に同行させる為、早急に人員を決めよ。艦隊への同行者は1人でもかまわん」

 

 

「わかりました」

 

 

「では、我が陸軍も日本への出向の許可を。ハルヒン・ゴールを見た観戦武官と冬戦争の動向から、日本軍が対戦車ライフル以外の歩兵が携帯可能な火砲『軽砲』を採用したらしいので」

 

 

「許可する。現状が改善されるなら、やれる事はやりたまえ」

 

……こうして、イタリアの方針は決まった。

 

 

 

 

暫くして イタリア海軍司令部

 

 

 

「……うーむ…困ったな」

 

解散後、海軍司令部に戻った海軍司令は腕を組みながら困惑していた。

その理由はもちろん、人選だ。

先程の招集でも見た通り、イタリア王国軍首脳陣は王国と国王に忠誠を誓ってはいるが、国王から統治を委託された形であるムッソリーニ統領(ドゥーチェ)にはあくまで『役職上』従っているに過ぎない。

だが、第二次エチオピア戦争で通用した装備・編成も、スペイン内戦のソ連義勇軍相手に苦戦した経験、並びに日本の冬戦争での奮闘により、更新・改善が必要なのはイタリア軍としても重々承知している。(史実ではそんな状況で対仏戦から第二次大戦に参戦)

しかし、心情的には『ムッソリーニの功績』となるのを避けたいとも思っており、なかなか難しい心中だった。

(そして、案の定、三軍の予算を含めたリソース対立がある)

 

 

「……あの問題児を送るか」

 

苦渋の決断とばかりに頭の隅に置いていた人物を任命する事にする海軍司令。

何かあっても『問題児ですので』と言い訳にもなるか怪しい建前で押し通す事で『問題化しても無問題』になる人選を選択したのだった。

 

 

 

 

2日後 比叡艦内 長官公室

 

 

「「……はい??」」

 

 

「…まあ、その反応になるな」

 

豊田中将から『イタリア海軍から研修者を1名同行させる』と聞いた上、その同行者の乗艦が自分達の乗る『朝顔』と聞いた2人の反応と豊田中将の反応。

 

 

「すみません、研修同行は解るとして、何故に乗艦が『朝顔』なんですか?」

 

 

「ムッソリーニ閣下の希望、と言う事らしい」

 

滝崎の問いに豊田中将が答える。

 

 

「…滝崎、もしかして、私はやり過ぎたか?」

 

 

「まあ、心理的に刺激したか、と言われたら、し過ぎたかな、と」

 

 

気まずそうに松島宮が訊くと滝崎は苦笑い気味に答える。

 

 

「まあ、どうやら先方も『イタリア軍の現状』に満足はしていなかった様だからな。そこは気にせんでもいいだろう……ただ、問題がな…」

 

松島宮を諌めつつ、苦い顔になる豊田中将。

 

 

「問題? 朝顔への受け入れは置いとくとして、艦隊に問題が?」

 

 

「あぁ、いや、此方にはない。問題があるのは同行者の方だ」

 

 

「「はい??」」

 

本日2度目のハモりをかます2人。

 

 

「うむ、イタリア貴族家の生まれで、経歴を見る限り、数度の軍規違反をしているが…問題はそっちではない」

 

 

「あのー、すみません。軍規違反以上の問題ってなんですか?」

 

『何が何だか知らないけど、早く教えて』と言いたげに滝崎が言うと、豊田中将が苦笑いと共に『写真付き経歴書類』を差し出す。

それを見た滝崎、横から割り込み見した2人は全てを察した。

 

 

 

 

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