大逆転! 大東亜戦争を勝利せよ!!   作:休日ぐーたら暇人

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地味に長くなった…。


執筆裏話

小畑少将(兄)の経歴を確認しよう。

(wikiにて)あれ、小畑少将の写真、こんなんだったっけ?

ふぁ!? 弟おって、陸軍かよ!!(にしても兄弟やからよく似てる)

なぁに!? 輜重科出身! 貴重枠やん!! 兄弟共々フィンランドにぶち込んでやる!!

以上


57 前兆

1月20日 ミッケリ 日本軍派遣司令部 ある一室

 

 

 

「つまり、『兵站部門』から見ても状況は悪い、と」

 

 

「はい。見ても解ります通り、ソ連の補給線は鉄道が主役です。ですので、レニングラードの鉄道施設や倉庫がほぼ『焼失』している以上、今や普段の部隊維持すら『過不足』と言えますね」

 

司令部の一室『輜重・兵站部門室』と札が扉に掲げられた部屋の中で滝崎と松島宮は大佐の階級章を着けた将校と机の航空写真を見ながら話していた。

 

 

「なるほど……もし、この状況で…いえ、この状況『だからこそ』攻勢を仕掛けるとしたら、限界まで何日だと思われますか?」

 

滝崎の質問に部門を預かる小畑信良(のぶよし)大佐は眼鏡の奥に軽蔑を込めた目になりながら答えた。

 

 

「……規模にもよりますが、このまま全戦力…いえ、半数を使ったとしても『半日保てれば良い方』かと」

 

正にドストレートに言えば『攻勢云々の前に兵站が崩壊している』と言う答えに滝崎は顎に手をあてて考える。

 

 

「滝崎、まさか、ソ連がこの状況で攻勢に出ると考えているのか?」

 

 

「残念ながら、『イエス』と答えるしかない。敗残部隊でも戦力が『保持』されてる『今』だから、『磨り潰す』こと前提に仕掛けてくるだろう。ソ連は『そう言う国』だ」

 

松島宮の問いに滝崎は冷酷な『現実』を言う。

いや、これは『敗戦しそうな国がやる賭け』と言うべきかもしれないが。

 

 

「大戦力を投入し、磨り潰す前提の損害度外視攻勢で防衛線を崩壊させ、その勢いのままフィンランドを制圧する、か…兵站も無視した『賭け』だね」

 

眼鏡を掛け直しながら小畑大佐は滝崎の言いたい事を口にした。

 

 

 

「…おっと、お時間取らせて申し訳ありませんでした、小畑大佐。航空偵察の判定だけの為に長居してしまいました」

 

 

「いえいえ、兄から連絡をもらっていましたので。それに私も輜重兵站を預かる身として、君と一度は会いたいと思っていたからね。ユニバーサルキャリアーや自動貨車の配備を主張し、輜重兵站の強化を熱心に説いていた、と永田参謀次長から聞いていたからね」

 

 

「それに関しましては…自分は当然の事を主張したまで、と言わせて頂きます」

 

滝崎はそう言うと松島宮と共に一礼して退室し、小畑大佐は敬礼で見送る。

(なお、小畑大佐の『兄』とは、小畑英良少将の事である)

そして……滝崎の懸念は現実の物となった。

 

 

 

1月25日 日本軍派遣司令部 会議室

 

 

「『ソ連兵の一団が凍結したフィンランド湾を探りながら歩いていた』と?」

 

 

「はい。フィンランド軍の巡回が見つけ、マンネルハイム元帥のところに上がってきたとの事です」

 

急遽陸軍から呼び出しがあり、海軍側の面々が来てみると、概要を聞いた豊田中将が山下中将に聞き返し、概要を説明する。

 

 

「滝崎、どうやらお前の『もしかすると』は当たった様だな」

 

 

「出来れば当たってほしくなかったよ。万人の為にね」

 

松島宮の言葉に滝崎が嫌そうに答える。

無論、集まっていた面々は2人に顔を向ける。

 

 

「何か懸念材料があったのかね?」

 

 

「そう言えば、先日会った時もその話になりましたが…なぜ、そう思ったのか、是非お聞きしたい」

 

山下中将の問いと小畑大佐の言葉に反応した他の面々の無言の『早く話せ』オーラに滝崎は話す。

 

 

「史実の独ソ戦であった事例ですが、レニングラードなど孤立した地域の中には冬季の厳寒で凍結した湖や河川を利用した補給輸送ルートを作り、耐え忍んだ事例があります」

 

滝崎の言葉に場がざわめきだす。

 

 

「兵站を預かる人間として訊きたいのだが、どれくらいの物を輸送していたのかね?」

 

 

「私も詳細までは…ですが、トラックやBTシリーズの比較的軽量な戦車を自走させていた様です。また、氷結具合等によってはレールを敷いて、臨時鉄道線を敷設、低速運行で鉄道輸送を行った事例もあるそうです」

 

小畑大佐の問いに『あくまで知ってる範囲』で答える滝崎。

だが、その話により、『凍結した氷上を使っての進攻攻勢』が与太話ではない事は集まった面々に認識される。

 

 

「ふむ…滝崎大尉の話は将来的にソ連と戦う上でも考慮する事項である。まあ、その話は置いとくして、その対処に意見はあるかね?」

 

山下中将の言葉にざわついていた場の空気が鎮まり、滝崎の方に向く。

 

 

「既にお気付きの方もいらっしゃると思いますが、この攻勢はソ連軍の窮状を打開する為の、賭けに近い作戦です。そして、ソ連軍がこの攻勢作戦を『成功』させるには2つの要素が大前提で必要です」

 

 

「『凍結した氷上を使う』なら、1つは『奇襲である事』か?」

 

滝崎の問いに話がわかったのか松島宮が答える。

 

 

「そうだ。まあ、この時点で奇襲は成り立たなくなりましたが…そうでもしなければカレリア地峡に展開したフィンランド軍に後退を強いる事は出来ません」

 

その言葉にその場の面々は頷く。

現在、カレリア地峡に防衛線を引き直し、マンネルハイム線には予備部隊を配置している。

つまり、マンネルハイム線は空き家ではないので、そのままソ連軍の手に落ちる事はないが、『背後に敵が居る』のは厄介であり、現在のフィンランド軍は限界ギリギリまで動員しているので、状況推移によっては鉄壁のマンネルハイム線が奪取される可能性は低くない。

 

 

「そして、もう1つですが…これが一番の要素であり、ソ連側の『敵』ですね」

 

 

「『時間』だね」

 

滝崎の言葉に小畑大佐が答えを出し、それに滝崎は頷く。

 

 

「小畑大佐、その理由は?」

 

 

「一番の理由は輜重兵站です。繰り返しになりますが、先の我が方の攻勢とレニングラードへの空襲、これにより大攻勢の為の各種軍需物資をソ連側は失いました。普段の大兵力の維持すら困難な状況ですから、このまま何もしないにしろ、逆に攻勢をするにしても、短時間で成果を出さねばソ連側は物資不足で自壊します」

 

山下中将の問いに輜重兵站部門の長としての見解を述べる小畑大佐。

史実でも数少ない『輜重兵站』部門を歩んできたスペシャリストであり、インパール作戦に異を唱えた人物の1人にして、永田参謀次長が『彼しか任せられない』と派遣軍の輜重兵站部門の長に抜擢した人間であるが故の説得力もあり、陸軍側の人間が納得した様に頷く。

 

 

「更に言うなら、各所に時間の制約が多いのが原因です。奇襲的効果を狙うなら夜が望ましい。ですが、氷上である為に移動に時間が掛かる。その為に早く出発すれば早期に捕捉され、奇襲効果を失うばかりか、空爆などで阻止される。また、戦略的効果を狙うあまり、下手に西側に進攻すれば、我々海軍の艦砲射撃を受ける…ソ連側としては、これこそ最も避けたい事かと」

 

 

「確かに。いくら分厚いとは言え、氷に約670キロの鉄の塊をぶつけたら、一溜りもないからな」

 

滝崎の言葉に豊田中将が頷きながら同意する。

そもそも、例え表面的に何も無くても、亀裂がはしり、割れ目が出来てしまえばどうなるか……想像出来た者の顔は若干青くなっている。

 

 

「ふむ…攻勢の可能性だけを考えるつもりが、『攻勢をやる』と言う結論に達してしまったな。となれば、我々は何を出来るか、となるが…」

 

 

「ならば、我々陸戦隊の出番ですな」

 

今まで聞き手に回っていた海軍陸戦隊司令の大田実大佐が手を挙げる。

 

 

「陸軍さんがフィンランド軍支援で人を下手に回せないなら、我々が該当地域の守備を行いましょう」

 

 

「やれるかね、大田大佐?」

 

大田大佐の言葉に豊田中将が念押しとばかりに問う。

 

 

「滝崎大尉の言葉通りなら、足止め出来れば我々の勝ちです。艦砲射撃や空母からの航空支援があれば充分やれますよ」

 

 

「と言う事だ、山下中将」

 

 

「わかりました。我々陸軍も出来る限り支援します」

 

 

 

 

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