大逆転! 大東亜戦争を勝利せよ!!   作:休日ぐーたら暇人

56 / 63
前号の結果とそれぞれの反応。


56 激怒のスターリン 称賛のヒトラー

2日後 1月18日 モスクワ クレムリン宮殿内 会議室

 

 

「この被害は! この醜態は!! どう言う事だ!!!」

 

朝一番の会議の初っ端から、クレムリン宮殿どころかモスクワ市街にも響き渡りそうな絶叫の怒声をスターリンは吠えていた。

無論、その理由は先日(前号)のフィンランド・日本軍によるカレリア地峡攻勢、レニングラード空襲の件を踏まえた(推定)被害報告とその甚大さ(まだ推定)が原因だ。

 

 

「今までの被害すら霞む程だ! なんだ、これは!? 前線は崩壊し、10キロも後退! 配置された部隊は武器も装備も物資も捨て敗走! レニングラードは軍需工場や駅、倉庫も飛行場も全て空爆されて燃やされた! しかも、一機も落とせなかっただと!!」

 

怒りのあまりに机すら破壊しかねない勢いで吠えるスターリン。

だが、被害の概要は彼の言う通りだった…しかし、その内容は深刻であった。

カレリア地峡での件は10キロの後退に対して人的被害は少なかった。だが、それ以外は『大損害』と言っていいレベルだ。

何故なら、現地部隊は撤退の際に武器や装備等を邪魔になるからと投棄・放棄していた為、それらは追撃するフィンランド・日本軍に回収され、『フィンランド軍の装備』になっていた。

特に銃火器や火砲、戦車と付属する弾薬類はフィンランド軍からすれば喉から手が出る程であったから、後に『スターリン給与』と言う皮肉たっぷりな文言まで生まれた。

では、なぜこんなん事になったかと言うと、結局のところ、『フィンランド軍が攻勢を仕掛けてくる事はない』と言う油断と、前線にいた部隊が今までマンネルヘイム線に攻勢を仕掛けて消耗していた敗残部隊であり、その後方に大規模攻勢の為に送られてきた新兵中心の新参部隊であった事だった。

攻勢の矢面に立たされた前線部隊はそれまでの消耗とそれに伴う士気低下、更には『敵の手強さ』を認知している為が故に大半が防衛を放棄、その撤退してきた前線部隊に押される形で後方待機の新参部隊も撤退したのである。

本来なら、この新参部隊と共に留まればこれ程の『惨敗敗走』にならなかったのだが、新参部隊は新参部隊で状況無理解な上に突然の攻勢によるパニックで統制が取れなかったことが原因だった。

更にこの敗走を止めようにも現場の士官も部隊司令部もベテランが少ないが故に混乱し、レニングラードへの指示要請も不通(レニングラードへの空襲が原因)となり、一部の静止の声も混乱と恐怖心による崩壊の波浪の前には何の塞き止めにもならなかった。

 

話は変わり、レニングラードの件だが、此方の方が前線の敗走よりも問題は深刻であった。

艦上機隊、並びに陸攻隊によって行われた軍需工場らに行われた空爆は手始めに飛行場を空爆した事もあり、何の妨害もなく実施された為、大成功を納めており、それがレニングラードもモスクワも絶望させていた。

空爆により、同時期に複数箇所で発生した大規模火災は延焼こそ何とか防いだものの、施設の大半が全焼レベルで焼失していた。

これにより、倉庫は格納されていた物資、駅は各種貨車や施設、飛行場は格納庫ら施設と航空機が一緒に焼失しており、軍需工場は中の製造機器自体が使用不能となっていた。

これらの被害自体も相当深刻で、カレリア地峡から撤退した部隊の再編成の為に備蓄していた物を使う事も、新たに補充し、それを輸送・格納する事も出来ず、航空作戦もレニングラード防空も行う事が出来なかった。

これだけでも絶望ものだが、更に厄介な問題が存在していた。

それは『復旧作業が春にならないと出来ない』事だった。

そんな馬鹿な、と言いたくなるのだが、ちゃんと理由がある。

それは消火による放水が冬季の極寒により火事現場を凍結させてしまい、瓦礫撤去が冬季中は実質不可能と判断された為だ。

(現場では無理矢理解凍し、人海戦術で復旧作業を行う気でいたが、『今度はレニングラードを焦土にする気ですか!』と調査担当者に抗議された事もあり断念)

しかも、春期になり、瓦礫撤去が出来ても、先ず鉄道施設の復旧が必要な為、特に軍需工場の生産活動再開は『春期から数えて3ヶ月から半年が必要』との概算が出ていた。

そして、これが滝崎の『狙い』であった。

滝崎は『史実のソ連』が利用した冬季の『冬将軍』と言う自然の脅威を最大限に逆利用し、ソ連側に大打撃をくらわせたのである。

そして、それは見事にど真ん中で的中し、この概算報告の時点でモスクワの上層部を絶望させ、スターリンを激昂させていた。

 

 

「これで我々は世界一の笑い者だ!! 世界最大の恥さらし者だ!! フィンランドの様な小国相手に、この体たらくなんだからな!!!」

 

スターリン以外の者が押し黙る中、スターリンは怒りに任せて怒鳴る。

しかし、怒鳴ったところで自体は好転する訳がないのだが……怒鳴るしか出来ないのであった。

 

 

 

 

その頃 ドイツ ベルリン 総統官邸

 

 

「はっはっは! 何とも愉快な事じゃないか! 今頃、スターリンは額に青筋を浮かべて激怒しているだろうな。その姿が容易に想像出来る。そうだろう?」

 

愉快そうに笑いながら、スイスの新聞を片手にヒトラーがゲーリングをはじめとした面々に言う。

もちろん、新聞の一面記事はレニングラードとカレリア地峡の事がデカデカと書かれている。

もちろん、ドイツは『仮想敵』であるソ連の重要拠点のレニングラードにも『探り』を入れている為、ソ連上層部に入っている報告とほぼ同様の情報を(段階的とは言え)入手していた。

 

 

「私も日本軍と日本への認識を改めねばならない。レーダー元帥があれ程日本との対立を避けようとしたのも頷ける。レーダー元帥の慧眼には感謝するしかないな」

 

 

「はっ、ありがとうございます」

 

控え目に謙遜しながらレーダー元帥は頭を下げる。

無論、レーダー元帥からしてみれば『海軍からの知見』で語っただけで、これ程の大事になるとは予想していなかったのだが、それを言うのは無粋であるので口にしない。

そんな中、ゲーリングは諜報部から入ってきたレニングラード空襲の概要報告を読んでいた。

 

 

「ゲーリングよ、さっきから熱心に読んでいるが、どうしたんだ?」

 

 

「え、あ、すみません。実は『日本の新型戦闘機を見た』と言う記載がありまして…空軍を預かる者としては気になったものですから…」

 

 

「そうか…うろ覚えだが、日本の戦闘機は単葉固定脚だった筈だが?」

 

 

「はい…ですが、どうやら、引き込み脚機のようでして…場合によっては我が軍のメッサーシュミットと互角の可能性もあります。無論、推測ばかりの話ではありますが、我々にもバレずに北欧まで持ち出してくるとは…」

 

 

「先程も言ったではないか、ゲーリング。『日本への認識を改めねばならん』と。だが、これは良いかもしれん。赤軍大粛清と今回の戦争で弱体化したソ連を牽制する意味では、日本との技術提供協定枠内の拡大も視野に入れるのも良いかもな」

 

 

「海軍としては直接的影響はないので、総統にお任せ致しますが…上手くいきますかな?」

 

 

「レーダー元帥よ、君が先の大戦の事もあって、イギリスを注視する様に、この数年で日本に散々な目にあったソ連ならば自ら仕掛ける気が当分無くても、日本の動きには相当敏感になる筈だ。日本もソ連に仕掛ける事がなくても、シベリアと満州の国境で睨みを利かせてくれれば、それだけ我々にも利がある。ゲーリングよ、空軍も何か出来ないか検討してくれ」

 

 

「わかりました。新型機の件もありますので、失礼します」

 

 

「うむ」

 

そう言ってゲーリングが退席し、他の面々も退席する。

そして、最後に残ったレーダー元帥がヒトラーに声を掛ける。

 

 

「総統閣下、例の『出向員』の事ですが…」

 

 

「ん? 何か問題があったか?」

 

 

「あ、いえ、問題と申しますか…あの者で大丈夫かと…」

 

 

「うむ、堅物ではあるが、身分もしっかりしていて、下手に偏見を持たん者を選んだのだが…」

 

 

「なるほど、ならば問題は無いかと。愚問を御許し下さい」

 

実はこの時、レーダー元帥の質問とヒトラー総統の答えに認識の差があったのだが、それに気付いたレーダー元帥は敢えて指摘せず、この話を終わらせる事にした。

 

 

 

次号へ




ご意見ご感想をお待ちしております。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。