(え、今まで? カウンターパンチですよ?)
1月12日 ミッケリ 日本帝国陸軍派遣軍司令部
フィンランド軍本部に隣接する場所を借りた日本帝国陸軍派遣軍司令部に滝崎と松島宮が来ていた。
「なるほど…それにしても、前線後方はもちろん、後方拠点となるレニングラードをこれ程細かく写真撮影出来るとは…苦労しましたでしょう」
航空写真を基に現状説明を受けていた滝崎が航空写真の事に触れる。
これに自ら説明していた小畑英良少将(史実では第31軍司令 グアム島で戦死)は首を振りながら答える。
「いえいえ、実は今回、我々の部隊には97司偵だけでなく、今年制式採用予定の『新司偵』の増加試作機が『実践試験』名目で配備され、その増加試作機を存分に使いましたので、何ら問題はありませんでしたよ」
「新しい司偵…ですか。なるほど」
この時点で滝崎はこれが『100式司偵』の事だと感づいていたが、下手に口に出すのは止める。
ここで松島宮が話題を変える為に口を開く。
「ちなみに、『例の件』ですが…陸軍の予測は?」
「フィンランド軍と擦り合わせ中ですが…チャンスは近日中かと」
小畑少将の答えに松島宮は頷く。
「では、小畑少将。此方のレニングラード関連の偵察写真と解析資料、お借り致します」
「あぁ、海軍さんの作戦成功の為、我々の物が役に立つ事を願っていますよ」
「はい。では、また、数日後の合同会議で」
そう言って松島宮と滝崎は小畑少将に敬礼すると退出した。
2日後 1月14日 ミッケリ フィンランド軍本部
この日、海軍からは豊田中将、小澤少将、南雲少将、山口少将、大西少将、松島宮と滝崎、陸軍からは山下中将と小畑少将がマンネルハイム元帥らフィンランド軍首脳陣らと『作戦会議』を行っていた。
「その後の我々の航空偵察により、カレリヤ地峡を中心に前線への兵員移動が行われている様です。また、レニングラードでも鉄道を中心に兵員・軍需物資の運送が活発化しております。また、飛行場の航空機も日々増加しています。よって、ソ連軍が大規模攻勢の為の準備に入った事は間違いないでしょう」
前線後方で兵員や兵器が集団で移動する写真、駅舎で人や武器、物資を満載した列車、または貨車から物資の積み降ろしでごちゃごちゃしている場面を撮った写真、更に格納庫や掩体壕に入りきらない航空機が無防備な状態で駐機場に置かれている飛行場の写真なとをを面々に見せなから説明する陸軍航空隊の担当者。
それを面々(マンネルハイム元帥は通訳を通して)は頷きながら聞いている。
「現状がこれですから、更に増えるでしょう。海軍さんの『作戦』が空振りに終わる事はまずありません」
それを聞いて豊田中将の視線が滝崎に向けられる。
『発案者だから内容を話せ』と言う事である。
「では…既に概要は聞いておられると思いますが、今回の作戦は『レニングラードに点在する軍需工場、軍需倉庫、並びに飛行場を空爆する事です」
そう言って滝崎は拡げられているレニングラードの地図に点在する標的を示した赤丸を指差しながら言った。
「緒戦で敗退したソ連軍は一大攻勢によるマンネルハイム線を中心としたフィンランド軍防衛線を突破し、この戦争に決着をつけるつもりである事は確実です。故に最前線は勿論、前線後方の拠点であるレニングラードに戦力と物資を集結させています。よって、我々はこれを海軍航空隊の陸攻隊で叩きます」
ここまでは既に概要を聞いていれば簡単に察せられる内容である。
では、何故に『陸軍やフィンランド軍と擦り合わせを行うのか』である。
「ですが、それでは効果は薄いでしょう。確かに後方拠点を空爆され、直接的影響を受けても、ソ連ならば『そこに人を集中すればいい』で終わります」
無論、滝崎はこの空爆に対して、ソ連側のその意識を挫く方法を導き出しているが、それだけでは『足りない』と思っている。
また、『日本ばかりがいいとこ取りをしている』現状ではフィンランド側には(軍や政府は別として)不満を生む要素が多分にある。
更に人間心理として、『厄介事が一つなら、それに集中出来る』のは心に余裕が生まれ、ミスを犯しにくい。
では、『人が更にミスを犯すのはどういう状況か?』と問われた時に思い浮かぶ事はなんであろうか?
「ここでフィンランド軍と陸軍には『攻勢』に出てもらいます。陽動的意味合いもありますが、出来れば本格的な攻勢…領土奪還の為の攻勢をお願いしたいのです」
それを聞いた山下中将とマンネルハイム元帥がニヤリと笑う。
「あー、滝崎…大尉。守勢で支えているからこその互角な状況でそれは自さ…いや、無謀ではないかな?」
空爆の事で『付属事項』として攻勢の件は聞いているものの、『本格的攻勢なんて聞いてない』と松島宮は周りの目もあり、普段喋りを修正して訊く。
「….と同じ事を前線のソ連兵士はもちろん、レニングラードのソ連軍司令部、下手をすればスターリンも意識の片隅に持っています。そこが付け目、心理的な隙です」
「……へぇ??」
さも当然な言葉と言う様な滝崎の返しに松島宮は追い付けずに間抜けな言葉が口から出てしまう。
「つまり、侵略者で一度撃退された身にも関わらず、まったく反転攻勢を意識してない連中に『それは油断ですよ』と言いながら今までの分を殴り返してやれ、と言う事だな? うむ、やってみよう」
「領土奪還の為ならば、我々としても不満はない。その攻勢、実施しようではないか」
山下中将とマンネルハイム元帥(通訳を通して)がウンウンと頷きながら言った。
「そうなると艦隊はどうなるかな? 今のところ、出番はないようだが?」
そこに南雲少将が質問を入れる。
「艦隊に関しては対地艦砲射撃にて攻勢の支援になります。艦砲射撃範囲外を陸軍航空隊、空爆を終えた海軍航空隊で支援し、フィンランド軍の前進を容易にします」
「ふむ、何もせんで見物と言うのも居心地が悪いからな」
納得したように南雲少将が言った。
「攻勢準備間の牽制か、コッラー河付近でのソ連軍の攻勢が確認されている日本陸軍には増援をお願いしたが…どうかね?」
「栗林少将の歩兵師団に戦車連隊からの分遣隊を出していおり、既に到着、現地部隊と陣地構築を始めております。ですので、此方の攻勢間は大丈夫でしょう」
「では、何時実施するか、ですが…」
「君の理想な天気が2日後の夜になる、とウチの気象担当の予想だが…陸軍さんの方は?」
「此方も同じです。なお、フィンランドの気象台にも確認したところ、同じ回答がかえってきました」
小澤少将の問いに小畑少将も頷きながら肯定する。
「わかりました。では、2日後の夜に…ちなみに作戦符丁はどうしますか?」
「夜襲なんだ、『ヤ号』でよかろう。単純な方がフィンランド側にも解りやすい」
滝崎の問いに松島宮が答える。
こうして、後に『冬戦争の行く末を決めた』と言われる、『ヤ号作戦』『ヤ号攻勢』が決定した。
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