12月1日 フィンランド湾 朝顔艦橋
「……………………まだか?」
「残念ながら、まだだ」
「………そうか」
イライラ気味に訊く松島宮に滝崎は冷静に返答する。
それを聞いて感情の爆発を抑えつつ、またイライラ気味にそっぽを向く松島宮。
「……艦長も難儀ですな」
「皇族とは言え、一艦長が『フィンランドに突入しろ』とは言えませんからね」
そんな様子に運用長と滝崎はヒソヒソと(は言えないが)話す。
その直後、96式艦戦2機が艦隊右舷方向へ飛んで行った。
「何かおきたか?」
「艦長、どうやら、ソ連機が彷徨いていたみたいで、それを追い払いに行った様です」
松島宮の問いに運用長が通信長経由で聞いた航空用無線の状況を報告した。
「……念のためだ。戦闘配置で待機。対空戦闘用意」
静かに指示を出す松島宮に滝崎と運用長は敬礼で応えた。
1時間後
「艦長! 露助が大群で来ましたよ!」
「大群! 詳細は!?」
「哨戒に出した比叡の95式水偵が接近中のソ連軍機編隊を確認! 天城と赤城からは迎撃隊発進中! なお、ソ連機編隊は右舷方向から接近中!」
運用長の報告に松島宮が問い、滝崎が答える。
それを聞いた松島宮は周辺を見回し、見える範囲で他の味方艦の動きを確認する。
「戦闘配置は良いな? どう来るかわからん。現状はそのままだ…ちなみに敵機種は?」
「既存機ばかりですな。戦闘機はポリカルポフI16とI153チャイカ、爆撃機はツポレフSB4とイリューシンIL4です」
どれもこれも、スペイン内戦など『空のソ連代表』と言える既存機体ばかり。
但し、ツポレフSB4は高速爆撃機として有名であり、96艦戦では厳しい。
実際、その後の迎撃では戦闘機こそ赤子の手を捻るが如く叩き落としていくが、ツポレフSB4はその高速を活かし迎撃を突破する。
「敵編隊、爆撃進路に入ります!」
見張りの報告が合図であったかの様に、比叡、霧島、天城、赤城、妙高型4隻から高角砲の対空射撃が開始される。
先導機に従って飛ぶ水平爆撃の為、対空射撃はやりやすい……当たるかどうかは別なのだが。(まあ、これはお互い様である)
その対空砲火を高度とスピードで走り抜け…れる筈もなく、数機が被弾し、火を噴くか、バラバラになりながら落ちていく。
「どうも、高角砲の射撃精度が悪い様だが?」
「あの様子ですと、敵さんは引き腰気味ですな。さっさと爆撃して、さっさと逃げ帰ろうと言う気がよく解りますわ。対して、此方は爆撃を当てに来る事を前提に撃ってますから、それは仕方ありませんよ」
松島宮の問いに運用長が答える。
実際、艦隊は回避行動を取りつつ射撃しているのに対し、ソ連軍爆撃機隊はそれに追従しようとする事なく、まっすぐに飛んでいる。
そして、爆撃を開始した……もちろん、爆弾は艦隊を掠りもしない場所に落下し、虚しく連続した水柱を作るだけで終わる。
「下手くそ! そんな事ではいつまでも当たらんわ!!」
「まあ、水平爆撃ですので……あんな爆撃をウチのところの陸攻隊がやったら、間違いなく、鉄拳制裁と始末書の嵐ですな」
「まったくですね」
無駄弾をばら蒔くソ連軍爆撃機隊に聞こえないと解りつつ、憤慨を
叫ぶ松島宮に苦笑いを浮かべながら呟く運用長と同調する滝崎。
しかし、首筋をチクリと刺された様な嫌な予感がして、周囲に視線を向ける。
そして、『それ』を見張りと同時に見付けた。
「右舷低空に双発4機! 腹に魚雷を抱えてます!!」
漸くシルエットが見えたと思えば、数百キロの速度で近付いている為、あっという間にイリューシンIL4が距離を詰めてくる。
「艦を右舷へ! 各銃砲座、各個に射撃! 射界に捉え次第、撃ち方初め!!」
松島宮の指示に既に戦闘配置に就いていた朝顔の乗組員達はイリューシンに銃砲身を向ける。
朝顔の動きを見て、或いは自身の見張りの報告で気付いた、周囲にいた僚艦の駆逐艦らが慌てて25㎜機銃を撃ち始める。
「僚艦の対処が後手に回っている」
「明らかに高空の爆撃機隊にばかり注意を向けていた様ですな…おっ、漸く1機落ちましたな」
滝崎のぼやきに運用長が答えている最中、僚艦らの対空射撃に捉えられた1機がバランスを崩し、海面に激突する。
その頃には、朝顔の艦首の12cm高角砲、M2 12.7㎜機銃が撃ち初め、それを皮切りに順次射撃を開始する。
「しめた! 露助はウチの艦攻や陸攻より高く飛んでる! 砲も機銃も撃ちまくれ!!」
「下手に狙うな! 鼻先に向かって撃てば当たる!! 当たらなくても、水柱で妨害するんだ!!」
「的がこっちに向かって来てるんだ! 射的の的より当たるぞ!!」
「弾だ! 曳光弾を多めに差し込んで、どんどん持って来い!!」
射撃指揮官や砲手、射手が射撃音に負けずに怒鳴る。
12cm高角砲3門、40㎜機銃1基、12.7㎜機銃3基の射撃に頭から突っ込んだイリューシンの末路は1機が12cm高角砲の直撃を受け、1機は機銃の弾幕にズタズタにされ、最後の1機はこの弾幕にビビったのか、慌てて魚雷を投下し、射軸がずれた為に有らぬところ進んでしまい、機体自体は離脱途中に僚艦からの対空射撃に撃墜された。
「雷撃隊は全機撃墜したみたいだな」
「あー、そう言えば、空襲自体も終わったみたいだね」
いつの間にか爆撃機隊の編隊も消え、対空砲火も止んでいた。
………こうして、2人の初戦闘は終わった。
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