なお、後半は時代背景もあって絡ませましたが、内心ガクブルです。
いや、ホントに……。
11月1日 イギリス プリマス軍港
「……プリマス軍港だな」
「なんだ、その腑抜けた様な言い様は?」
都合2ヶ月に及ぶ航海の末、表敬派遣艦隊は無事にイギリスのプリマス軍港に入港した。
表敬派遣艦隊は歓迎される中を次々に接岸していく。
「この後は…セレモニーやって、歓迎会に参加して…」
この後にやる事を指折りで数える滝崎。
実際、松島宮がいくら『随行員』ではなく、『艦隊構成員』であるとは言え、『皇族』である以上、この類いの『行事』には参加しなければならない。
故に松島宮をフォローしなければならない滝崎も忙しくなるのだが。
「とにもかくにもだ…運用長、本艦も接岸用意。乗組員の服装も忘れるな」
「はい。心得ております」
ベテランの運用長の指示もあり、着々と接岸の用意が整っていく。
久々に長期上陸も出来ると言う事もあり、乗組員の挙動も軽快だ。
「で、だ……この後、どうなると思う?」
「まあ、ドイツは文句を言うだろうね……意趣返しでもあるから、知ったこっちゃない」
「それは少し無責任過ぎるぞ」
周囲が忙しくなるのを見計らった松島宮の質問に滝崎は素っ気なく答え、松島宮を呆れさせる。
何故なら……それだけ、インパクトを持つ『事』が発表されるからだ。
その後、表敬派遣艦隊の歓迎セレモニーの中で挨拶をしたチェンバレン首相はある発表を行った。
それは『日英同盟の復活』、つまり、『第四次日英同盟』(第二次・第三次は明治38年・同44年の改定)締結を明らかにした。
内容自体は以前の日英同盟と同様とし、『欧州の混乱に伴う第二次大戦発生により、ワシントン軍縮会議において締結された四ヶ国条約では過不足が発生したと見受けられた。よって、欧州と極東の安定と相互協力を主眼に置き、日英同盟の復活が妥当と判断し、この良い機会を得て、締結を宣言させていただく』と発言した。
この発表はセレモニーの場では群衆の大きな拍手によって迎えられた。
この『日英同盟復活』にドイツは即日駐独日本大使館、並びに駐日ドイツ大使を通じて日本政府へ『文句(抗議)』を行った。
だが、日本大使館と日本政府の返答は『独ソ不可侵条約を結んでおいて何を言っているんだ!(直訳)』であり、更に『イギリスから技術提供・通商協定破棄を迫られながらも、中立の堅持との交換条件で認可されたんだから、我慢しろ!(直訳)』と反論した事にドイツは退き下がるしかなかった。
また、この一件では意外な国(…でもないかもしれない)が文句を言った。
それはソ連……ではなく、アメリカだった。
後日、駐イギリス大使自らがダウニング街10番地を訪問し、『確かに四ヶ国条約は現状役不足である』と認めた上で、『しかし、日英同盟を復活する程ではない筈だ。それこそ、条約や協定でも良いのではないか?』と質問をぶつけてきた。
これに対し、アメリカ大使来訪の報せに、説明役として来ていた推進者であったチャーチル海軍大臣(9月3日就任)自らが返答した。
内容は、『大戦が始まった以上、インド以東のオーストラリア、ニュージーランドを含めたイギリス植民地並びに自治領は重要な資源地帯であり、巨大な後方地帯である。先の大戦を見れば解る通り、戦局如何によっては駐留軍や自治領軍をヨーロッパに派遣する事になるだろう。その場合、当然の如く、治安維持能力の低下に繋がる。本国が対応出来ないとなれば、地理的に対処可能な日本を有力な同盟国とした方が様々な事に対応しやすいからだ。つまり、条約や協定では収まらないからこそ、かつての『日英同盟』を復活させる事になったのだ』と言う事だった。
この返答に駐英アメリカ大使もドイツ同様に退き下がるしかなかった。
なお、艦隊は歓迎セレモニーの後、各艦船の整備・艦底掃除の為、ドックに入渠した。
3日後 11月4日 プリマス軍港内 艦船ドック
「…と、言う事で、朝顔には海外から購入した武器の実地試験をしてもらう事になった」
入渠している朝顔に集まった松島宮や滝崎を中心とした朝顔の幹部達。
滝崎の説明を終えると、幹部達は視線を松島宮に向ける。
「やれやれ…どうも、上層部は都合の良い小間使にしかみてないのかな?」
苦笑いを浮かべながらそう呟く松島宮。
その言い様に幹部達も苦笑い。
「まあ、『現地受け取りついでに使ってみろ』、と誰も使っていない物を触ると言うのも悪くはない。運用長、人員はどうにかなるか?」
「そうですな…ボフォース40㎜機銃も、アメリカのM2 12.7㎜機銃も元の機銃手を充てるのが妥当ですが…特にボフォースは物が弾を含めてデカイ上に、操作の手間を考えますと、我が海軍も運用していた毘式(ビッカース)40㎜機銃を扱った事のある人間を探してみましょう」
「そうか。他の艦艇にいるなら、この寄港中であるなら、操作指導で来てもらう事も出来る。砲術長らと共に調整してくれ」
「わかりました」
そう言ってから、幹部達がボフォース社員から説明を受けるのを背にして滝崎と松島宮は話す。
「まあ、我々はあの説明を晩餐会(到着日のセレモニー後に行われた歓迎会)で聞いたからいいが…少し都合がよくないか?」
「まあ、仕方ないさ。イギリス陸軍は発注してるが、イギリス海軍はまだ契約してない状況で骨を折ってくれたチャーチル卿の計らいでもあるし…」
「ほお、儂がどうかしたか?」
横合いからの声に2人が振り向くと、話題にしていたチャーチル卿が居た。
「ちゃ、チャーチル卿…どうして此方に?」
「うん? もちろん、仕事だよ。名目は色々だしね。『海軍大臣として、売買交渉仲介に関わった案件の最終確認』『同盟国海軍艦艇の活動具合の視察』…他に訊くかね?」
「「あはは……いえ、結構です」」
滝崎の問いに葉巻を燻らせならが答えるチャーチル卿にハモって答える滝崎と松島宮。
「まあ、一番の理由は『お忍びに来ている王族のエスコート』だがね」
そう言うとチャーチル卿の背後から10代前半の少女が姿を表し、ちょこんとお辞儀をする。
「エリザベス・アレクサンドア・メアリー殿下だ。まあ、回りには私の親戚の娘っ子の様な風体で頼むよ?」
ブルドック顔のチャーチル卿が悪戯小僧の様な笑みを浮かべながら本来の事情を明かす。
しかし、2人からすれば『現在の称号』でなくとも、本名を聞けばわかった。
滝崎は歴史で、松島宮は皇族だからこそわかったと言える。
……後に松島宮が死去した時、『一生の友であり、憧れを抱いた半身の様な存在だった』とコメントし、個人的に喪に服した『エリザベス王女殿下』、後の『エリザベス女王陛下』齢13歳の時の事であった。
次号へ
ご意見ご感想をお待ちしております。