大逆転! 大東亜戦争を勝利せよ!!   作:休日ぐーたら暇人

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明けましておめでとうございます。
昨年はお世話になりました。
今年もよろしくお願いいたします。

新年最初の投稿致します。


37 駆逐艦『朝顔』

8月8日 呉軍港

 

 

 

「……なんで、こうなったんだろうか?」

 

 

「それ、何回目か覚えてる?」

 

駆逐艦の露天艦橋で夏服姿の2人は喋っていた。

2人が乗り込んでいるのは若竹型二等駆逐艦五番艦『朝顔』。

基準排水量820トン(日本海軍では基準排水量1000トン未満は二等駆逐艦)、主砲12㎝砲3基、53㎝連装魚雷発射管2基を搭載し、速度35.5ノット、航続距離14ノットで3000海里の小型駆逐艦である。

そして、2人はこの『朝顔』の艦長(松島宮)と副長(滝崎)として乗り組み、指揮を執っていた。

 

 

「確かに現場配属は希望した……だが、海軍省勤めの経験皆無な士官をいきなり駆逐艦の艦長にするのはどうなんだ?」

 

 

「まあ、確かにそうなんだけど……何かしら意図がある、と思って真面目に勤めるしかないと思うよ」

 

普通であれば、駆逐艦か巡洋艦へ一士官として配属し、経験を積ませてから艦長・副長として赴任させればいいのだが、今回はこの過程を吹っ飛ばしての異動な為、素人に艦長・副長職を任せていいのだろうか、と2人は思っている。

無論、実際はそうで、赴任直後は2人とも通常業務ですら、てんてこ舞いであった。

それが何とかなっていたのは……乗り組んでいるベテラン陣のお陰であった。

 

 

 

「艦長、至急決済が必要な物がある、と主計が…」

 

 

「うむ、わかった。直ぐに行く。副長、済まんが頼む」

 

 

「了解。預かるよ」

 

そのお世話になっているベテラン陣の1人である運用長のお呼びに松島宮は滝崎に場を預けると、主計長の居る艦内へと降りて行った。

 

 

「……艦長は大丈夫ですかね?」

 

松島宮が艦内に入ったのを見届けて近付いて来たベテランの運用長が滝崎に話し掛けてきた。

 

 

「と、言いますと?」

 

 

「いえね……なんせ、艦長は皇族出身なんで…」

 

それを聞いた滝崎は合点がいくと共に内心で苦笑する。

やはり、皇族出身と言うのはそれだけで微妙な距離感による『壁』が出来てしまうものだ。

 

 

「いや、違うよ。駆逐艦配属ではなく、いきなり経験不足な素人が艦の指揮を執っていると言う、自虐的な愚痴だよ。まあ、これに関しては私も人の事は言えないがね」

 

 

「あぁ、なるほど…大丈夫ですよ、自分もそうだったし、他の人間もそうですが、最初は誰でも未経験、誰かに相談したり、失敗したりして、馴れていくものですよ」

 

滝崎の答えに運用長の疑問が解けたらしく、一転変わってニヤリと笑みを浮かべながら言った。

実際、着任から11日が経過した段階で、運用長らベテラン陣の助けを多分に借りて、この『朝顔』を動かしているのが実状だった。

 

 

「それはわかっているのですが…御迷惑ばかりで、申し訳ない」

 

 

「いえいえ、それに、我々としては名誉にさえ思えますよ。余り赴任する事がない宮様がこうして新米艦長として赴任されている。それを我々が指導する…なかなかない事ですからな」

 

滝崎の言葉に何の心配もなくなったのか、運用長の口が軽くなった。

 

 

「では、ついでにもう一つ質問してもよろしいですか?」

 

 

「まあ、答えられる範囲でなら…どうぞ」

 

 

「では、副長のお言葉に甘えまして…副長、今のところ、この『朝顔』に移動も訓練の指示も出ていません。最低限、私はそんな予定は聞いてもいない。しかし、長距離航海の為の物資の積み込みが行われている。しかも、似た様な事が特定の複数の艦で行われている…察しのいい副長なら、言いたい事は解るのでは?」

 

先程とは違い、神経な表情で訊いてくる運用長に滝崎は下手に誤魔化すのは悪手と判断した。

 

 

「ふむ…….後学の為に聞きたいんですが、『特定の複数の艦』と言う情報はどの様にして入手したんでしょうか?」

 

 

「それについては簡単です。この歳に役職ともなれば、あちこちにいる同期をはじめとした伝手がありますので…で、話題になったのが『乗組員分の防寒着をはじめとした冬季装備を積み込んでいる』との事でしたので…ウチも積み込みましたからね。ついこの間まで次官付きだった艦長や副長なら、何か知ってるのではないか、と」

 

どうやら、独自の『情報網』の証拠を基に『何かある』と気付いた様だ。

 

 

「……まだ、不確定要素が多く、情勢次第では取り止めになる可能性がある。あと、これは『その時』まで他言無用で頼みます」

 

滝崎の神経な表情と言葉に『わかっています』と言いたげ静かにに頷く運用長。

 

 

「……北ヨーロッパだ。正確に言うなら、北極圏の北欧だ」

 

 

「……北欧ですか?」

 

オホーツク海辺りだと思っていたらしい運用長は意外な答えに聞き返すかの様に呟く。

 

 

「あぁ…どうやら、上層部はソ連が満州ノモンハンでの国境紛争中にも関わらず、ヨーロッパ方面から戦力を抽出しない訳を探っていたみたいなんだが…どうも、北欧周辺に何かあり、と検討をつけたみたいですね」

 

 

「なるほど……だから、防寒具やらなんやらを…いや、すみませんでした、副長」

 

 

「いや、まだ、『かも話』だしね。それに運用長が知っていたら、それはそれで話が早いから、『ここまでの話』を話しただけさ」

 

 

「副長もお人が悪い……しかし、ソ連の動きが事実だとして、それをイギリスやフランスなどの近所である欧米が黙っているでしょうか?」

 

 

「ナチスドイツの動きもあるから…なんとも言えませんね」

 

……本来なら、ほぼ歴史の動きを知っている滝崎だが、下手に喋って混乱を巻き起こす訳にはいかないので、『ここまでの話』で済ましておくしかなかった。

そして、二度目の世界大戦は直ぐそこまで迫っていた。

 

 

 

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