リメイクですので、後半が原作より大きく変わってます。
では、どうぞ。
7月14日 午後1時頃(現地時間) ロンドン 日本大使館
「では、定例会見を始めますかな」
そう言って吉田茂駐在英国大使は吸っていた葉巻を灰皿で消し、集まった各国各社の記者達の前で会見を始める。
この会見は主にノモンハンでの戦闘経過を発表するもので、発生直後から行われ、日本の正統性を主張するため、イギリスだけでなく、東京やアメリカのワシントンD.C.でも行われていた。
実際、この定例会見により、共産主義並びにソ連に懐疑的なイギリスを含めたヨーロッパ諸国内では日本を支持する論調が拡がりはじめていた。
無論、この『定例会見』の実施を進言したのは、もちろん滝崎である。
日本人の気質もあって、『宣伝戦』を苦手である事に『情報公開』と言う形で『情報・報道戦』に先手を打つ形で実施した。
これにより、スペイン内戦で醸成されていたヨーロッパでのソ連への不信感が一気に上昇し、皮肉にも『ナチスドイツより、ソ連の方が露骨に侵略の意図を露にしている』とヨーロッパ諸国に捉えられた。
未だに先が見えないノモンハンの戦いを『直接影響がないとは言え、無関係とは言い切れない諸外国』を潜在的な味方とする事は『今後』を考えると非常に重要であった。
また、この定例会見で日本側はあえて淡々と状況を説明する事によって『日本側に正統性があり、戦局も日本側有利に進んでいる』と言う余裕感を出す事によって、受け手の諸外国を心理的にも納得させていた。
対し、ソ連も当初は後手になりながらも『ソ連側の思惑』を含んだ状況説明をモスクワで実施したが、報道担当者の感情がもろに出ていた事から、『スペイン内戦に続いて、状況が上手くいっていない為にスターリンが激怒している。故に報道担当者も感情がもろに出ている』と『ソ連側の余裕の無さ』まで諸外国に見透かされた事が原因で今や不気味な沈黙を続けざるを得なくなっていた。
こうして、日本は再び『東洋の憲兵』の名を諸外国から授けられたのであった。
その頃 日本 帝都東京 とある料亭
一室には山本次官と永田次長が互いに杯を傾けていた。
「陸さんの方は上手くいっている様ですな」
「えぇ。まあ、言い方は悪いですが、滝崎君が彼処まで執拗に耳にタコが出来る程、口酸っぱく言ってくれましたからね。お陰で準備時間を多く貰えましたよ」
「それは良かった。海外での『報道戦』の方も上手くいっていて、特にヨーロッパ諸国の反応は良いとか」
「実は何ヵ国からか、観戦武官の派遣を打診されています。主に北欧や中欧、ソ連との問題を抱えてる国々からです」
「なるほど……まあ、それも滝崎くんの狙いでもありましたからな。受け入れの方は?」
「既に準備を準備しております。まあ、受け入れを拒否する理由もありませんし、機密に関しても『ノモンハンでは』軽砲の事だけですが…まあ、これは追々な話ですからな」
「確かに。まあ、それに我々『海軍の動き』の目を反らす事になりますからな」
「あぁ、そうですな。もうそろそろ、動く時期でしたな」
互いにニヤニヤと笑いあう2人。
そして、ふと何かを思い出した永田次長は『それ』に話題を振る。
「その海軍さんの一件ですが、東久邇宮殿下から聞きましたよ。あの2人も同行するそうですな?」
「えぇ、事が事ですからな。特に滝崎くんは日本に居るより、現地に居た方が良いかと思いましてね」
「なるほど。まあ、それについては我々にも関連する事ですから、解らんでもない話ですが………『随行員』ではなく、『乗組員』として送り込むのは意外と思いましてね」
この言葉に山本次官は杯を置いて答える。
「確かに『随行員』になる資格はあります。何なら、『皇族と侍従』で随行員としてもよかったのですがね」
「わざとしなかった、と?」
「なにせ、本人達が断って来ましたからな。『現場を他人に任せて、自分達が安全圏にいるのはおかしい』とね」
「……うーん、『立場を考えれて頂ければ』、では納得してくれはせんでしょうな。特に滝崎くんはその事で後ろめたく思ってもいましたし…松島宮殿下も殿下で、滝崎くんと似た思いがありますからな…止めても止まらんでしょう」
「はい。まあ、本人達も断ったのもありますが、2つの理由から『現場の人間』として送り出す事にしました」
「2つの理由?」
「まず、今後の昇進に関してです。陸海軍共に今回を以降は対米戦まで軍の出番は史実通りならないでしょう。そして、あの2人はその時にはそれなりの地位にいてもらわなければならない」
「だからこそ、今回の件に参加させて、『実績』を作ると。では、もう1つの理由は?」
「2人には実戦現場を経験しておいた方がよいかと。覚悟もありますし、人の死を『書類の数字』で認識する事はないとは思いますが……やはり、ある程度、慣れている必要はある……私も、あの日の日進艦上で体験しましたからな」
そう言って山本次官は杯の酒をぐいっと飲む。
言葉の意味が解る永田次長も静かに自分の杯を空けると、次の一献を山本次官の杯と自分の杯に注ぐ。
「……2人の若者にばかり頼ってはいられませんな」
「えぇ、まったくです」
そして、2人は同時に杯を傾けた。
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