仕事と、一時ブロックされていたので更新が遅れました。
本日は終戦記念日です。
ウクライナの件もあり、先の大戦を見直そうとする動きもあり、何とも言えない日々も続きます。
ですが、本日はそんな事は抜きにして、ただ、慰霊の気持ちを。
英霊の方々、ありがとうございます。安らかに。
同じ頃 哈爾浜 関東軍司令部
「とりあえず、初戦は勝利、と言ったところですな」
「うむ、東條さんのお陰だな」
石原少将と小畑中将はノモンハン近辺の地図を広げながら話す。
実は今回のノモンハンの戦闘においては東條参謀長による下準備があったからこその話であった。
今や前任となってしまった東條(前)関東軍参謀長は張鼓峰の戦闘後、関東軍全体に『ソ連国境、並びに蒙古国境で武力衝突が発生した場合、関東軍単独での事態対処を禁ずる』と厳命していた。
更に『事が発生した場合、満州帝国・満州軍は勿論の事、政府や参謀本部と連携し、一貫した姿勢をもって状況の打開にあたるべし』との訓示を示していた。
よって、最初の国境での発砲から直ぐに関東軍司令部は政府と参謀本部に連絡し、決して単独で事にあたらない様にしていた。
「予め防衛陣地作成やその為の測量、軽便鉄道の敷設、それらに関する関東軍内の訓練と準備、外部への準備や協力要請、それらを東條さんは自分で出来る範囲で進めていた」
「満州の企業にもユニバーサルキャリアーの生産、満州帝国軍への配備手配、これ等もあり、現地では防衛線は日が経つ毎に強化されているとか。しかも、野戦飛行場をあちこちに建設し、負担と被害の分散に努めている様です」
「これはあれかな? 滝崎君に触発されたかな?」
「かもしれませんな。まあ、『統制派のトップ』などと言う似合わない役目を押し付けられていない事で、精神的に余裕が出来たのかもしれません」
「なるほど…さて、問題はこれからだ。確かに我々は出鼻を挫いた。だが、今はそれだけだ。前にも話したが、スターリンの目的が日本への牽制なら、まだまだ終わらんが…滝崎君の世界の『歴史』を参考にどう進める?」
「この為に我々は西安事件を邪魔し、支那事変を阻止した訳です。そして、我々には余裕があり、ソ連には無い。久々に派手にやりましょう」
「はっはっは、なるほど……ならば、本土にも動いて貰うかな」
「その為に小畑さんがいる訳ですからな」
互いにニヤリと笑いながら、今後を詰めていく。
この頃、日本政府はソ連に対し、度重なる国境侵犯と挑発、そして、今回の満州帝国への領土進攻に対して抗議していた。
7月14日 ノモンハン ハルハ
約一週間の戦力回復期間の後、ソ連・蒙古両軍(主体はソ連軍)は増強の増援を加えた戦力で再び日本軍防衛線へと攻撃を開始した。
だが、それは防衛線に迫る時点で頓挫した。
「ん? どうした?」
「な、何かに引っ掛かった様です!」
順調に進んでいたBT-5戦車の車長はいきなり乗車が進まなくなった事に疑問を投げ掛けると、ドライバーが悲鳴の様に答えた。
これに車長はハッチを開け、後ろから随伴している歩兵隊に確認しようとしたが、その歩兵隊は質問をするまでもなく、直ぐに答えをくれた。
「おい、何か巻き込んでいるぞ」
「これは…ピアノ線か?」
この会話を聞いた車長は素早く周りを見回す。
周囲でも同じく急停止し、スタックしたり、擱坐したりする戦車や装甲車があちこち見受けられた。
「くそ、罠だ! 歩兵は下がれ! 車輌を放棄しろ! ぐずぐずするな! 死ぬぞ!!」
そう叫びながら車長はハッチから飛び出し、車体を走って後ろに逃げる。
これに先程のドライバーともう1人の乗員も手近なハッチから出ると、車長に続いて車体をつたって後ろへと逃げる。
そして、ドライバーが地上に降りて、数歩離れた瞬間、先程まで乗っていたBT-5が爆発した。
少し前 日本軍防衛線
「いいか、まだだ。まだだぞ」
ジリジリと近付くソ連・蒙古両軍に対し、防衛線内のある一角で軍曹が指揮下の兵士達にそう声を掛ける。
既に息を潜ませて待ち受ける兵士達は何時でも撃てる様に各種火器の引き金に指を添えている。
「ぐ、軍曹殿!」
「バカ、焦るな。もっと大量に罠に引っ掛かってからだ」
1輌の戦車がピアノ線杭に引っ掛かったのを見て、兵士の1人が声をあげるが、軍曹は落ち着いた声で宥める。
そして、次々にかなりの車輌がピアノ線で動きを止められた時、『待ち』は終わった。
「よし! よく我慢した! 撃ちまくれ!!」
軍曹の声が合図であったかの様に防衛線のあちこちから、立ち止まったソ連・蒙古両軍に向けて無数の銃砲弾が放たれる。
対戦車砲、野砲、山砲と言った対戦車で効果的な火器は動けない、或いは動きが制限された戦車や装甲車を撃破し、迫撃砲や擲弾筒、重軽機関銃、小銃は歩兵を撃ち倒す。
そんな猛烈な弾幕射撃の中、ソ連・蒙古両軍歩兵は戦車や装甲車が撃破され、顔もろくに上げれない中を匍匐でジリジリと前に行く。
しかし、その先には何重もある鉄条網が待ち構えており、彼らはくぎ付けにされるのみだった。
同じ頃 日本軍防衛線末端
防衛線の端の方は火力の指向と優先性から、中央に比べれば弱く、進攻してくるソ連軍部隊の消耗は少なかった。
また、ここには『出撃路』と言う事で、ある各種障害物の中を突っ切る形で道が作られていた。
無論、そんなところを見逃す筈はなく、この整備された1本道にソ連軍部隊は殺到した……ここも防衛線中央正面同様の『殺しの間』である事も知らずに。
「よし、あの正面の奴だ。撃て!」
分隊指揮官の指示の下、帝国陸軍唯一の対戦車ライフル『97式20㎜自動砲』の射手は『出撃路』の先頭を進んでいた戦車の履帯に命中させる。
履帯が外れ、動きが止まったところに、『98式37㎜軽砲(無反動砲)の装填手兼後方確認係が射手の鉄帽をはたく。
と同時に射手が引き金を引き、発射された対戦車弾は側面に命中し、先頭の戦車を撃破する。
続けて、別の軽砲が後尾の戦車を撃破し、前進も後退も出来ない状態となったソ連軍隊列に投入出来る火力が撃ち込まれる。
自動砲や軽砲の対戦車弾、更には火力指向性を改善するために配備された『98式対戦車自走砲改』の47㎜対戦車砲は戦車や装甲車の装甲を易々と貫いて撃破し、擲弾筒や軽砲の対人榴弾はソ連兵を吹き飛ばす。
そこには防衛線中央とほぼ変わらない情景があるだけだった。
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