大逆転! 大東亜戦争を勝利せよ!!   作:休日ぐーたら暇人

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微妙に時事ネタに近いお話が付属。


28 迫る暗雲

9月13日 中島飛行機 武蔵野製作所

 

 

「さすが、中島飛行機。生産は順調の様だな」

 

 

「陸軍機主軸の製作所でありますが、お褒め頂き光栄でございます」

 

中島社長案内の下、松島宮と滝崎は武蔵野製作所内を見学している。(なお、武蔵野製作所は4月に開設)

 

 

「光栄もなにも、先の張鼓峰で97戦をはじめとした陸軍機は活躍したではないか。事実を述べてるに過ぎん」

 

 

「そうでございますが…まあ、まだまだ稼働したばかりの工場でございますので」

 

 

そう言って中島社長は2人を外へと案内する。

そこには陸軍工兵隊がユニバーサルキャリアーを用いて作業に当たっていた。

 

 

「エンジンの製作所に滑走路か?」

 

 

「品質検査をするのであれば実機に取り付けた方がよいので。まあ、そうでなくとも、稼働試験では場所を取りますし…それに、この造成作業も『工兵隊の機材への習熟と野戦飛行場造成訓練』の名目で行われております」

 

実際、動き回るユニバーサルキャリアーは排土板を付けたブルドーザー型、ローラーを付けたロードローラー型、山盛の土を載せたリヤカーを牽引するダンプカー擬き、と大まかに3種類があった。

 

 

「なるほど、確かにいい練習場所と、いい練習理由だな、これは」

 

 

「はい。そう言えば、ユニバーサルキャリアーの採用を助言したのは滝崎君だとお聞きしましたが…」

 

 

「あはは……いや、痛い、痛い、痛い。もの凄く痛いからやめて、松島宮」

 

中島社長の言葉に滝崎は苦笑いを浮かべつつ、背後からゲジゲジと背中を殴る松島宮に抗議する。

 

 

「その話は本当だぞ、中島社長。何せ、東條参謀長にそう言って啖呵を切ったからな。しかし、その様な面白い事を悪巧みかの様に隠して行うバカがここに居る訳だ」

 

その抗議に松島宮はニコニコと微笑みながら無視しつつ、中島社長にそう愚痴る。

その愚痴を聞いた中島社長も苦笑いを浮かべながら、内心では『仲が良い御二人だな』と呟いていた。

 

 

 

暫くして

 

 

「そう言えば……昨日、ドイツがズデーテン地方割譲を明言し、チェコスロバキアに割譲要求を出しましたな」

 

案内の後、一室に通されて、麦茶を飲んでいた時に中島がそう言って切り出した。

 

 

「『ズデーテンはドイツ系住民が多く、チェコスロバキア政府は民族自決権を侵害している』であったか? まあ、割譲要求は前々から出ていたし、チェコスロバキアでは動員令が下っているから、『戦争の危機』ではあるな」

 

松島宮の言葉に中島社長は真剣な表情で滝崎に訊いてきた。

 

 

「……『戦争』になりますかな?」

 

 

「…『今回』はならんでしょう。まあ、『開戦が延びただけ』ですがね。なにせ、英仏は先の大戦の『戦争拒否症』が治っていない。更にフランスはマジノ線と国内企業の統合問題でボロボロ…『戦争を回避した』と思いたいが故の『引き延ばし』ですが」

 

それを聞いた中島社長は腕組みをしながら言った。

 

 

「やはり、避けれませんか」

 

 

「彼方は表立ってチャーチル卿が騒いでいるのみ。此方は……まあ、既に違いますので、比較にはなりません。ちなみに…中島社長、本日、こうして『視察』にお呼び頂いた『本命』にその話題は関係ありますか?」

 

中島社長の問いに答えながら、滝崎はその真意を問う。

すると、中島社長は微笑みながら答える。

 

 

「いやいや、君には敵わんな。実はね、まだ『個人の考え』程度だが、『戦略爆撃機開発』を考えている。なお、この話は山本次官と永田次長には話してある」

 

 

「なるほど……ですが、中島社長。今の日本では…」

 

 

「もちろん、アメリカの様に数百機、数千機と生産は出来ない。だが、開発自体が戦後の技術発展や民間需要を生み出す…と前回の討論会(第18話参照)で話してくれた『富嶽』の件を絡めて、発案してみた。なお、山本次官、永田次長共にこの計画を支持する、と言ってくれたよ」

 

 

「それなら、自分はそれ以上、計画自体になにか言う事はありませんが…それでは、自分を召喚した理由は?」

 

 

「うむ、技術者ではない君にも解るかもしれんが…肝心要なエンジンの、正確には『該当するエンジンはないか』と意見を貰いたくてね」

 

それを聞いた滝崎は腕組みをし、唸りなから困り顔で思案する。

 

 

「既存のエンジンの改良発展では駄目なのですか? 96陸攻の金星エンジンを強力にしたエンジンの開発を山本次官から耳にしておりますが…」

 

 

「残念ながら…それこそ、殿下が滝崎君から聞いているアメリカ爆撃機、特にB29の様な機体であれば余程の大馬力ですし、耳にタコでしょうが、リソース分配の話をするなら、出来る限り数を限っていくしかありません。なにせ、開戦まで約3年。時間も余り無い以上、機体設計から、必要な機材、物資、その配分や完成と配備等を考えれば、とてもではありませんが、既存エンジンの改良発展では追い付く事が出来ません」

 

松島宮の疑問に中島社長が答えると、松島宮もたちまち苦い顔をする。

 

 

「うーむ……滝崎、どうなんだ?」

 

 

「なんとも…既存エンジンの改良発展だって、冷却の問題とかが出てくるから難しい。と言って、アメリカみたいに希少金属を湯水に使えないし、エンジンの整備を捨てて、エンジン生産でカバーするなんて無理。液冷エンジンは日本では主力でないから難しい。新規開発とするにしても……ジェットエンジンは馬力出力としてはいいが、エンジンそのもの耐久性と燃料消費効率が悪すぎる。どれもこれも、一長一短な上に、制約の事を考えれば確信の保障が出来ない」

 

 

「やはり、分野外とは言え、滝崎君の知識内でも難しいか」

 

最終的に三者共に腕を組んでの困惑顔。

暫く、うーん、と考えていると、滝崎がある事を思い出した。

 

 

「あー、中島社長。都合がいいかも知れませんが、既に理論理屈と技術が確立し、50年代に開発され、未だに使われている機体とエンジンが参考になるかもしれません」

 

 

「はぁ? そんな都合のいい話があったのか?」

 

松島宮の問いに苦笑いを浮かべながら滝崎は答える。

 

 

「あぁ、あったよ。既存技術の塊だから、上手くいけば救世主さ」

 

 

 

 

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