今年もよろしくお願いいたします。
今回は三作品を更新します。
本当は一話で纏めるつもりでしたが、やっぱり、前後編になりました。
5月19日……自動車製造事業法が否決される。
史実では国内製造啓発と国防の観点から国外資本を排除する形になった法律だが、『現代の日本の技術では信頼性と量産性が確保出来ない』との事で否決された。
代わりに後日『自動車製造提携法』が制定され、外国資本との積極的な取り込み・提携により、自動車製造・信頼性向上を目指す事となった。
11月25日……日独『技術提供』協定締結。
史実で『日独防共協定』が締結される筈であったが、態勢を立て直した陸軍、海軍、政府内で滝崎の主張を支持し『ドイツとは技術・通商関係に留める』との方針を取り、技術提供協定に限定した。
なお、これ以後はドイツとは通商関係の協議を続けたものの、滝崎の助言の通りに主眼はイギリスとの連携強化を水面下で進め、更に密かにフィンランド・トルコと接触を図っていった。
12月13日 夕刻 舞鶴 松島宮邸
「やっぱり、張学良はやりやがったか」
新聞紙面の『西安にて蒋介石が張学良に拘束される』との内容がデカデカと書かれた夕刊を見ながら呟いた。
史実同様、12日に発生した『西安事件』は上海に居た共同通信社の緊急電によって発覚、13日の夕刊には詳細な内容で記事にされ、日本でも報道されていた。
「これがそのまま進めば第二次国共合作、盧溝橋事件・通州事件・第二次上海事変、支那事変に発展する訳だな?」
「そして、日米開戦と敗戦、共産主義の台頭と冷戦、混迷の世界へ…だよ」
そう言いながら滝崎は歯痒い思いで奥歯を噛み締める。
言い出しっぺである自分が直接なにも出来ない事が歯痒いのである。
故に復活した『陸軍三羽烏』に全てを託すしかない。
ただ言える事はここで対応を誤れば史実同様に支那事変に嵌まり込む。
そして、支那の戦場で泥沼な戦いを強要された挙句、膨大な戦費と無駄な時間を消耗し、大東亜戦争に転がるのがオチだと言う事だ。
その歴史だけはなんとしても回避しなければならない……支那のデブ男とソ連の髭男、更にアメリカの異常者の思惑の為に日本人を犠牲にされては堪らない。
その上、自分達の悪行を日本に押し付ける様な奴らの為に戦争をやるなんぞ、水素爆弾を叩き込まれるぐらい嫌だ………反対なら喜んでやるが。
「上海での中山水兵射殺事件をもとより、出来る限りを尽くして邦人襲撃事件は寸前に防いだ。確かに心配にはなるが、今回も大丈夫だ」
「あぁ、わかってる……陸軍三羽烏なら大丈夫……だが、やっぱり、心配なんだよ……歴史を弄った後の反動とか…色々とさ」
その場にいないこその不安に滝崎は呟いた。
だが、これだけははっきりしていた。
「蒋介石は2週間後に妻の宋美齢の説得もあって、国共合作を受け入れて解放される。共産党幹部が来るのが17日……この機会を逃せば今までの邦人襲撃を防いだ意味がある無くなる。そして、そうなれば将来的に支那は共産党の天下だ」
真剣な表情で断言した。
12月17日 夕刻 陸軍参謀本部
「現地の機関員から報告です。『TM情報』通り、周恩来以下の支那共産党幹部の面々が到着したそうです」
石原莞爾大佐は現地に潜入させた特務機関員からの情報を報告した。
「やはり、滝崎君の話は間違ってなかったな」
「改めて言うまでもないが…彼は嘘を言う人間ではないよ。根は生真面目だ。ただ、敵には大嘘を吐くかもしれないがね」
大まかではあるがTM情報……滝崎君の未来情報……通りの動きに永田
中将と前田侯爵は素直な感想を述べる。
「皮肉で馬鹿な話だな」
「何がだ?」
小畑中将の呟きにに岡村中将が訊き返した。
「対支那か、対ソ連かで争っていた事がだ。考えてみれば支那共産党が出来た時点でソ連が裏工作をしていた事は当然だった。そこに支那かソ連かで方針対立をする必要は無かった。支那共産党を含めたソ連に対処する、と言う方針でいけば良かったのに馬鹿な遠回りをしてしまったものだ」
小畑中将の言葉に前田侯爵を含めた3人は苦い顔を浮かべる。
無論、それに至るまでに様々な経緯があったのは承知している。
しかし、反省してみれば『争う必要すらあったのか?』と思ってしまう。
「だからこそ、滝崎君の存在は天佑なのではないでしょうか?」
石原大佐が鋭く言った。
「彼はその話をする時『後知恵の傲慢』と言います。確かに詳細を後で知れば何とでも言えます。しかし、それは『彼の世界の話』です。彼の世界で流された多くの同胞の血を彼はこの世界でも流さん為に我々に話してくれた。ならば我々が出来るのはその犠牲と彼の信念と無念さを汲み取って報いる事です。更にこれは終わりではありません、始まりです。米ソの二大大国を相手に堂々と喧嘩を売り、更に歴史に喧嘩を売るのです。それは我々より彼の方が解っているでしょう。ですが、彼が未来の為に戦うと言うのですから、陛下も覚悟を決めた。ならば、次は我々が覚悟を決める番です。既に海軍さんは覚悟を決めています。なら、陸軍も覚悟を決めましょう。何故なら、我々には時間がないのですからな」
「石原大佐の言う通りだ……皆、覚悟を決めて作戦を始めよう」
前田侯爵の言葉に三羽烏も頷いた。
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