タッグトーナメント2戦目。
たまには真面目な中の人でもどうぞ。
「…………。」
「…………。」
無言。俺は喋れない訳だが、何も発声しない事を苦痛に感じるのは久しぶりだ。俺の隣に並び立つラウラたんは、無駄なお喋りをせずにただ悠然と構えている。はぁ……これからAブロックの最終戦なわけで。組み合わせとしては、俺&ラウラたんVSイッチー&マイエンジェルといった具合だ。
やはり、1回戦の内にイッチー達とは当たる運命か……。まぁ、1回戦の内で助かったってのはあるんだけどね。これからとあるトラブルが起き、学年別トーナメントは中止になるだろうから。本当に良かった……。あのまま行くと、モッピーと共に挑む2回戦はセシリー&鈴ちゃん組みになるところだったぞ。
「……先の試合。」
(ほぇ?)
「やはり貴様が実力者である事は解った。だが……他人に合わせているようでは困る。言っておくが、私に余計な気遣いは不要だ……良いな?」
ようやくラウラたんが話しかけてくれたかと思ったら、内容としてはあまり良い物ではなかった。何と言うか、忠告?みたいな感じに聞こえる。ラウラたんの様はまさに、臨戦態勢に入っている獣が如く。……触れれば噛みつかれる気しかしない。要するに、行動次第ではラウラたんに攻撃されるのも有りうるという事か。
「あ、あの~……そろそろ出番なので……。」
「了解した。ほら、解っていてもいなくても早く飛べ。」
俺が否定も肯定も出来ないでいると、ピットの教師が大変に恐縮した様子で出番であると伝えた。いやぁ……スミマセン。俺が喋られないわラウラたん軍人オーラ全開わで、かなり殺伐とした雰囲気が流れていたらしい。とにかく、俺が先に行かんとラウラたんが出れない。俺は少し慌てつつ、カタパルトから即出撃した。
「ボーデヴィッヒと組んでくるって、なんか黒乃らしいって思うぜ。」
「流石に2人と同時にタッグなのは予想外だけどね……。」
試合開始になるまで心に余裕を持とうと努めるが、そんな最中にイッチーが話しかけてきた。いや、別に俺が提案した事じゃ無いんだよ?マイエンジェルも、そんな苦笑いを浮かべられても困るって。少しばかり和やかな感じとなったが、イッチーは急に顔つきを引き締める。
「ボーデヴィッヒ、今日は良い試合にしような。」
「貴様……随分と余裕だな?貴様程度が、この私に善戦できるかも怪しい物だ。」
「いいや、勝つさ。黒乃や千冬姉の強さが見えないんなら……ボーデヴィッヒに負ける訳にはいかないんだ。」
イ、イッチー……キミに悪気は無かろうし、挑発で言ってるつもりじゃないのは解るよ。でもさ、でもさ、それって煽りにしかなってないからね?だって、俺の隣のラウラたん……顔には出てないが、あからさまに不機嫌オーラが噴き出てるんだもの。俺くらいの小心者になるとね、気配でそういうのは解っちゃうんです。
「……良いだろう。そこまで言うのならば―――」
『試合開始。』
「どれほどやれるか見てやろう!」
「くっ!」
ラウラたんは試合開始の合図と同時に、レールカノンをイッチーへ向けて発射した。とんでもない速度で発射されるわけだが、直線的攻撃ならイッチーは何とか避けれてしまうらしい。そう……何とかね。ラウラたんは間髪入れずに、プラズマ手刀を展開……と同時にイッチーへ斬りこむ。
「喰らえ!」
「させないよ。」
(させないよ返し!)
「えっ!?うわぁ!」
まぁ逸る気持ちも解りますよ。けどね、これはタッグマッチなわけでね……マイエンジェルからすれば、ラウラたんがイッチー狙いなのなんてお見通しだったみたいだ。イッチーの前に滑り込むようにして、アサルトカノンのガルムを構える。そこですかさずオイラも
同じくラウラたんの前に割り込むようにして、下からガルム目がけて驟雨を振り上げる。俺の割り込みが急すぎたせいか、マイエンジェルは対応しきれない。結果、マイエンジェルは万歳するような感じとなり……ガルムは明後日の方向へ火を噴いた。
「貴様……助けはいらんと言ったろうが!」
(ふぉおおおお!?あ、危ないぃ!)
「ああっ!」
「シャルル!この、滅茶苦茶な奴……!」
まさかのタッグマッチで、味方からのロックオン警報である。ラウラたんがそう叫びながらレールカノンを撃つもんだから、慌てて宙返りするようにラウラたんの背後に回る。すると俺のハイパーセンサーに映ったのは、砲弾が直撃したマイエンジェルだった。なるほど、俺が目くらましみたいになった効果だな……。
「これが私の戦いだ!文句があるなら力で示せ!」
「ああ良いさ、見せてやるぜ……俺の強さ!」
(おおう……盛り上がってるぅ。)
「アハハ……お互い大変だね、黒乃。」
盛り上がっている2人を差し置いて、俺もマイエンジェルも冷静なものだ。自然に戦いの手は止まり、互いの苦労を分かち合う。しかし、マイエンジェルはだけどと前置きをすると、ラファール・リヴァイヴ・カスタムツーのショットガン、レイン・オブ・サタディを構えた。
「一応は試合なんだから、僕とキミも傍観ってわけにはいかない。」
(まぁ……足止めてたらヤジが来そうだし。)
「僕の全力、キミにぶつけさせてもらうから!」
そう言うマイエンジェルの表情は、何処か楽し気に見えた。しかし、マイエンジェルが無策にショットガンで攻めにくるとは思えない。なんて考えている間に、すぐそこまでオレンジ色が迫っているわけだが。よしっ、それならば……ギリギリまで引きつけるぞ。マイエンジェルが引き金をひくタイミングを狙って……。
「速い……!ううっ!?ま、まだまだ!」
俺は極々出力の低い
(問題ない……
「予想通り……。一夏!」
「任せろ!」
(ほわぁ!?ゆ、誘導されたか!)
俺が
「流石だな、黒乃!」
(いやいや……ラッキーだっただけだよ……どへぇ!?)
「邪魔だ、藤堂 黒乃!」
ギチギチと驟雨を震わせつつ、雪片の刃を受け止めていた。さて……ここからどうしようかと思案していると、横入りして来たラウラたんに蹴っ飛ばされる。じゃ、邪魔だって言われましても!あぁ……まずいよ!こんな吹っ飛ばされた状態……マイエンジェルにとっては格好の的じゃん!
「一夏!」
「ああ!」
(何ぃ!?)
「ぐうっ!?小癪なハエが……!」
吹っ飛ばされた俺は総スルーして、マイエンジェルはラウラたんへと突っ込んでいく。ある程度の距離へ寄ると、ショットガンを乱射。あの距離感なら大したダメージにはなってないだろうけど、ラウラたんは鬱陶しそうにマイエンジェルをAICで捕らえた。
(ラウラたん、それ悪手!悪手!)
「今だ!」
「何だと……!?」
(お、俺かい!?このっ……!)
マイエンジェルは動きを封じられたが、今度はイッチーがフリーだ。急いで救援に向かおうとすると、予想に反してイッチーは俺へ斬りかかってくる。雪片相手に叢雨、驟雨は心許ない……。2本は鞘に納めて、急ぎ神立を抜刀。コンパクトに神立を振りかぶり、しっかりと雪片に勝ち合わせた……は良いけど。
「それは私の獲物だ!」
「よそ見しても良いのかな?」
これはもしかして、常に攻撃できる方を2人で同時に攻める作戦か!?きっとイッチー達は、俺とラウラたんの足並みが揃わない事を予想していたんだろう。そのため、こうやって入れ代わり立ち代わりで細かいスイッチを繰り返して……。現にイッチーも、マイエンジェルがAICから脱出したと同時にターゲットをラウラたんへ変えた。
「またな、黒乃!」
(な、なんつう潔の良い引きっぷり……。)
爽やかな様子でそう言うもんだから、思わず知らず取り逃がしてしまった。あぁもう!またラウラたんが囲まれてるじゃないか!クソッ……どうする、どう動くべきなんだ……。と、ここまで考えて思いついた。俺は、いったい何を必死こいて勝とうとしているのだろうか。
(結局のところ、アレが発動しないと困るってのもあるし……。)
物事には順序ってもんがある。今までだって、決まり通りに進めて……決まり通りに生きてきた。今回の場合は、ラウラたんは倒され、アレが発動し、イッチーとの対話が代わるきっかけになる。それが正しい流れなのであって、俺が変に頑張っちゃったら余計な事態を―――
「教官から与えられた課題を、この私が……こなせない訳にはいかんのだああああっ!」
「っ!?流石はボーデヴィッヒさん……一筋縄じゃいかないね。」
「ああ。だけど、俺達が押してるのは間違いない!このまま押し切るぞ、シャルル!」
―――いや、今の前言撤回。違う……全くもってそうじゃない。だって俺が言った事は、流れ通りじゃないとラウラたんが変われないと……そう言ってるようなもんじゃないか。ラウラたんがイッチー達に負けて、イッチーに答えを与えられる事でしか……変わる事が出来ないって決めつけたりなんかしちゃダメだ!
変われる。ラウラたんはきっと、自分の頭で考えて答えを見いだせる。流れに沿って負けにいくなんて言語道断!だから勝とう……イッチーとマイエンジェルに。勝って課題とやらをこなしてくれ。それがきっと、キミの次なる1歩に繋がるだろうから。
(恐れるな、考えるな、でもイメージは止めるな……常に強い自分を想像して―――
「一夏、危な―――」
「なっ……ぐふっ!?」
「藤堂 黒乃……!?」
全力。ああ、なんだろうか……その言葉を念じて飛ぶだけで―――こうも身体は軽く感じる物なのか!俺は100%の
「早く体勢を―――」
(間に合わせなんかしない!)
「ぐああああっ!」
吹き飛ばした端からすぐに追いつき、神立の刃でイッチーの胴体を斜めに斬りこんだ。そのまま勢いに乗せて空中で逆さまになると、イッチーの露出している腕目がけて足を延ばす。鳥類の構造をした刹那の足で捕まえると、グルグルと回転して―――
「う……うおわああああ!?」
(すまんね、マイエンジェル!)
「へ……?い、一夏!?ひゃっ!」
「っ!?そこだ!」
「ぐっ……っ……!」
遠心力をつけ、マイエンジェルにイッチーを投げつける。空中で姿勢の制御が効かなかったのか、イッチーは見事にマイエンジェルへ激突した。それまでマイエンジェルと交戦中だったラウラたんだが、これは好機と言わんばかりにレールカノンを発射する。その砲弾は、吸い込まれるようにイッチーへと命中した。
(まだ終わらん!)
「……まだ来るの!?」
「ろくに体勢も整わせてもらえな―――」
(ふんぬ!)
「キャアッ!?」
「ぐわっ!」
神立を鞘に戻せば、続けて疾雷と迅雷を抜く。そのまま
「藤堂 黒乃……。貴様、まだ出し惜しみをしていたのか!?先ほどとはまるで動きが違うではないか!」
「違うよボーデヴィッヒさん!黒乃の動きが良くなったのは……絶対に出し惜しみなんかじゃない!」
「シャルルの言う通りだ……。それこそが、千冬姉にも通じる強さなんだ!本当はお前にももう……見えてるはずだぞ!?」
「教官の強さ……藤堂 黒乃にも通じる……?解らない、私には……。」
なんというか、ラウラたんの言葉も正解だし……イッチー達の言葉も正解に近い気がする。でもまぁ、俺の強さがちー姉に通じる……ってのだけは否定しておくよ。俺はそこまで気高くも誇り高くもない……汚い人間だもん。だけど今はせめて、どんな形だって良いんだ……1つの答えをラウラたんに見せてあげたい。
「シャルル……決着をつけよう!」
「……うん!」
(ラウラたん、ボーッとすんな!試合はまだ終わっちゃいな―――)
「黒乃おおおおっ!」
ええい、なんでこっちに来るんだい!?イッチーは解りやすい事に、俺の名を呼びながら突っ込んで来た。さっきと似たような状況だが、レーザーブレードの疾雷と迅雷なら問題ないだろう。俺は疾雷、迅雷を交差させるようにして、正面から受け止めた。
「……ありがとうな黒乃。お前のおかげで、大事なものは伝えれた。後はボーデヴィッヒ次第だ……だから!」
(くぉっ!?まずい……ラウラたんから引き離されてしまう!)
イッチーは随分と押せ押せで、白式のスラスターを全力で吹かしちからづくにも俺を後退させる。
(ラウラたん……ラウラたんは!?)
「クソッ!解からない……!解からない……!」
「これで……とどめ!」
ラウラたんは迫るマイエンジェルにレールカノンを放って応戦してる……が、その表情は不安でいっぱいいっぱいの子供のようだ。きっとだけど、イッチーの言葉に思うところがあるんだろう。答えを見いだせてはいるが、それを認められない……と。オーケー……だったら、あともう少しじゃないか。怖がることなんてない……胸を張って、その答えに自信を持ってくれ。
(ただそれは……勝った後だって出来るさ!)
「しまった!?」
俺はこの時にはもう悟っていた。マイエンジェルの攻撃を止めるには、もう手遅れだと。だが、ラウラたん……まだキミの盾になるって選択肢は残されてるからね!本気になった俺の想いって名の盾……貫けるもんなら貫いてみな!俺は
「「!?」」
「で、でも……そのまま!」
(がっ……かはっ……!?)
ズガン!と爆薬が炸裂する音と同時に、俺の左わき腹へととんでもない衝撃が走る。
「このっ……何故、何故なんだ!どうして貴様は、そう頑なに私を庇う!?」
「みい……出して……答えを……。」
「!?」
「手を伸ばせば……きっと……きっと……届くから……!」
ラウラたんは、俺の腕から簡単に抜け出す。それもそうだ……俺の腕には、ろくに力なんて籠ってないもの。まだ戦えない事も無い……けど、もうリタイヤも同然だ。だからせめて伝えたい事があった。俺はラウラたんへと手を伸ばすと、シュヴァルツェア・レーゲンに包まれた手を握る。
「だから……戦って……!」
「戦……う?」
この時の俺は、それがラウラたんにとって最良だって思ったんだ。だからこそ、俺がラウラたんを追い詰めた。自分に……酔ってしまっていたのかも知れない。だって俺の言葉が、アレの引き金になってしまったから……。俺は、とんでもない過ちを犯してしまったんだ……。
◇
「…………っつ!」
(なんだと……いうんだ……!)
度重なる私を庇うという行為……今までのだったらまだ理解が及ぶ。しかし、藤堂 黒乃は……絶対防御に回せるエネルギーもほとんどない状態でパイルバンカーを私の代わりに受けたのだ。バリア貫通の衝撃が凄まじかったのか、藤堂はまるで立ち上がる事が出来ない。それどころか、左脇腹を押さえて小刻みに震えている。
「このっ……何故、何故なんだ!どうして貴様は、そう頑なに私を庇う!?」
「みい……出して……答えを……。」
「!?」
「手を伸ばせば……きっと……きっと……届くから……!」
私が憤りと不満をぶつけると、藤堂は無表情ながらも……必死な様子で私にそう伝える。答えを見いだせ……?そんなもの、とっくの昔に見えている。私に足りん物とは、教官のように絶対的な力……。そのはず……なのに……!どうして私は、藤堂や織斑 一夏やシャルル・デュノアの言葉に……恐怖を覚えているんだ!?
知るのが怖い?理解するのが怖い?……そんなはずはない!教官の力の出所が、そんな甘っちょろい要因なはずもない!だからもう止めろ……。私は藤堂に、教官と同じものを感じ始めていた。それどころか、教官と藤堂が重なって見える幻影すら浮かぶ。
(違う……違う違う違う!そんなはずはない!認めてたまるか、そんな事!そうだ……力だ……私にもっと力さえあれば、こんなまやかし……すぐに消え失せるハズなんだ!)
「だから……戦って……!」
「戦……う?」
『力が欲しいか?』
藤堂の戦えという言葉の後に、然りと私は聞いた。力……?そう、力があれば、力があれば、力があれば……!戦わねば、戦わねば、戦わねば……教官を穢す全てと、教官の栄光を蔑にする全てと。教官のように絶対的で、唯一無二で、比類なき力で戦わねばならんのだ。
そう……私が示す、私が教官と同じに、私が教官、私が織斑 千冬。私が私、絶対的で唯一無二で比類のない私。私にならねば、戦わねば、力があれば、私にならねば……!私は……私になるんだ!……瞬間、意識がどす黒い何かに飲まれるような感覚を覚える。
「あっ……ああ……ああああああっ!」
藤堂が私を掴んでいた手離ると、私の意識はますます深い黒へと沈んでいく。その様相は、まるで底なし沼を呈していた。何処か、身を委ねてしまいたくなるような……。しかし、それは甘い罠。深い黒のそこには……何もない。そう……空っぽな私が墜ちるには、ふさわしい場所であった……。
(勘違い要素は)ないです。
今回ばっかりは、何かそういう要素を含めるのは違うかなと。
まぁ言い訳にしかなりませんけども……。思いつかなかったのも確かなので。
申し訳ありませんが、こういった事態もあると思われます。
どうか皆様の広い心でご容赦していただけると有難い。