剣と槍が交差する。
甲高い剣と槍のぶつかり合いは森中に知らしめるが如く。
されど2人は互いを潰し合う、己が生き残るが為に、願いを叶える『聖杯』を手に入れるために。
「おら、おら、おらぁぁぁ!!!」
「フッ! ハッ! タァ!!」
黒騎士と白騎士、2人の戦いを見つめる1人の青年、ユーノ・スクライアは複雑な想いでこの光景を見ていた。
ユーノ・スクライアは聖杯戦争に参加を決め、召喚したサーヴァント、セイバーから真名を聞いてスグに地球にわたり、三日かけてセイバーの過去、即ちモードレッド卿が生きていた時、つまり生前の事をスクライア式の魔法を使い調べつくしたのだ。
第97管理外世界、通称『地球』。
この世界には魔法が存在しない。時空管理局は『魔法文明』がある世界のみを管理する、いや、管理という名の搾取だろう、管理することでその魔法文化を取り入れ、危険な魔法や質量武器と呼ばれる魔法を使わない武器をすべて廃止させる。そして管理するために人材が必須、その人材は魔法が使える者しか出来ない故に管理した世界から人材を奪う。
質量武器で補っていた所を奪われれば一気に平和は崩れるのは当たり前だ。
しかし、管理しなくても良い世界。つまり『魔法文明』がないと判断された世界には旨みがない。
だが、ユーノ・スクライアはセイバーを召喚してから知った。第97管理外世界:地球には『魔法文明』があるという事に、そして危険なロストロギアと言っても過言ではない『聖杯』、そして『聖杯』をめぐる『聖杯戦争』。
数十年前、海鳴市の隣の市で起こった『聖杯戦争』では街全てが炎に包まれるという大火災を起こし、当時子供たちが行方不明になったという。その数年後にはガス漏れという事故で次々に人が倒れ、長物による武器で殺されると言った事件があった。
考えてほしい、もし『聖杯』が魔導士(いや地球では魔術師というが)によってミッドチルダに持ち込まれたら、中途半端な魔力文明を持つミッドチルダでは混乱するだろう。
それに、
「(それに、サーヴァントがなのは達を襲うことになれば、僕は後悔するだろう。)」
だから今は手助けを要らないと言ったセイバーとランサーとの闘いを見つめるだけしかできない。下手に手出ししてサーヴァントとの関係が崩れればこの先戦い抜くのは難しいだろう。
それこそ、サーヴァント自身を『物』として見ぬ限り。
「(だけど僕にはセイバーを物として見ることは出来ない。だって)」
ガキィィィンと、先ほどよりも甲高い音を立てながら、セイバーはいつの間にかユーノ・スクライアの横に立っていた。その表情は悔しそうで、眉間をゆがませている。
「チッ、ラムレイまで来るなんてな、ランサーなのかライダーなのかどっちかにしろってーの!」
先ほどまでセイバーと斬り合っていた黒騎士はユーノ・スクライアが考え事に没頭しているうちに黒い馬に乗っている姿はライダーと思われても仕方がない事だろう。
セイバーの直感は魔法を超える、目の前の黒騎士がランサーというのならば、ライダーでは無いのだろう。
「悪いが、モードレッド卿、お前はここで敗退だ」
その言葉と同時にラムレイと呼ばれた馬は大きく鳴き、セイバーへ猛スピードで走り出す、こちらに来る馬のスピードに驚きながらも、どこかラムレイという馬が、大きな黒いトラックの様に思えて来た。
「マスター!」
セイバーが叫ぶ。返事をする前にセイバーに襟首を持たれ
「邪魔なんだよ!!」
「へ?」
空へ、放り投げられた。少しの間呆然としていたが、ユーノ・スクライアはすぐに浮遊魔法を使い空へ舞う事で戦争に巻き込まれず、状況の確認が出来る様になった。この時ユーノはふと思った。
なぜマスターがこの場に居ないんだ? っと。
無論、サーヴァントの戦いにマスター自身はいらない。単純に言えばマスターは魔力タンクとしてサーヴァントを現世に留めているだけなのだ。しかし戦争の場に居なければ状況に応じて『令呪』を使うことは出来ない。
ユーノ・スクライアが見る限りではサーチャーの類は見当たらない。また魔法を使っているようにも見えなかったのだ。
マスターが戦闘を見ないで補助など出来る筈が無い。
ならばサーヴァントと感覚を繋げているしか方法はなく、そうなればユーノ・スクライアが見つけることは出来ない。
しかし、なぜだろうか。背中に流れる汗は油断するなと言う様にユーノ・スクライアに言っているようで『いない筈なのに敵がいる』という直感があるのだ。
ユーノ・スクライアは自身の周りにバリアを纏いながらセイバーとランサーの戦いを見ながらサーチャーで森の中を探索させる。
「ふふふ、拍車をかけてやろう、耐え切れるかな?」
「ハン! この、オレを舐めるんじゃねぇぇ!!」
戦いはさらなる境地へ導かれる。
セイバーの邪剣はさらに速く、重くなり、ランサーの槍は適格にセイバーの体を捕らえる。
ラムレイと呼ばれた黒馬は戦車の様に、ランサーの槍は矢の様に、2つは合わさりその突きは神速の槍の如く。
「チィィ!!」
ギリギリで躱し、地面を転がりながらもセイバーは頭の中では冷静に状況を見極めていた。いや、セイバー自身が知っている事なのだ。
目の前にいるランサーのサーヴァント、アーサー王と名馬であるラムレイによるコンビの力はセイバーが、モードレッドが良く解っている。
「だから諦めるなんざ、オレらしくない。アーサー王はオレの敵なんだ。ならラムレイごと蹂躙するまで!」
セイバーは立ち上がり、剣を両手で持ちながら、肩に乗せる様に構える。生前から騎士道を、剣術を見て学びながらも変わらない構えは他人から見ればふざけており、バカにしていると思うだろう。
しかしセイバーにとってはこの構えは剣を肩に乗せる事で無駄な力を抜き、剣の重さが安心感を与える。精神集中の構えであった。
目の前で反転しながらやってくるアーサー王の槍を紙一重で避け、自身の渾身の一撃を与える。この山での戦いではこのやり方が一番いいだろう。
この山に森が一部無いのだから
セイバーとランサー、互いの集中力が極限に高まった瞬間―――。
「武器を捨てなさい! こちらは時空管理局機動六課、ライトニング隊隊長、フェイト・テスタロッサ・ハラオウンです」
1人の女性の割り込みによって集中力が切れてしまった。
セイバー対ランサーの初戦 ラストです。
リリカルな非日常生活ではここまでまず書きたいです。
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