手紙を手伝ってくれた男の子と男性が居なくなってから、なぜか高町なのははそこに居づらくなり、ピュー!と効果音が出そうなくらいな速さで家へ戻る。そこからはいつもと同じ出会った。多少お風呂の入浴時間が長くなってしまったのはポストの件を思い出したからだろう。その際お風呂で顔が火照っても仕方がない。
高町なのはは少し後悔したことがあった。
「おなまえ、ききそびれちゃったなぁ」
冬士と呼ばれた男の子の名前だが、いちにぃという男性が言っていたので間違いはないだろうが、自分で聞き出したかったという思いが強い。そして無理矢理に考えを変える。
「まだ、みょうじ、きいてないもん。だからおなまえきいてもいいよね?」
先ほどまでサンタのことばかり考えていたとは思えない。しかし手紙と冬士の名前はどちらも大切なのだ、と言い聞かせるように自分をごまかしていた。
ベッドに入って目をつぶっても、眠れずにいた。それほどまでに男の子とサンタのことが気になって仕方がなかった。ベッドの中でごろごろと態勢を変えて寝よう、寝ようとするも眠れない。
そんな時、コンコンという音が聞こえて来た。なのははベッドから起き上がり、ドアの方を見る。またコンコンという音が聞こえた、だが音の方はドアではなく窓のある方からであった。なのはは少し恐怖心を覚えながら恐る恐る後ろを振り向くと金色の瞳に綺麗な髪をしたサンタ服を着た女性が窓の前に立っていた。
なのはは歓喜しながらすぐに窓へ行き、開ける。女性は浮いているソリからなのはの部屋へ入り、次いで赤い髪をした女性が入ってきた。きっちり靴を脱いで。
「ふむ、次の子はこの子で合っているようだな」
「あの! あの! サンタさん、ですか!?」
「む? その通りだ。年に1度の聖誕祭、子供たちにプレゼントを配る「サンタ・オルタ」だ」
「うわぁぁぁあ!!!」
「ほら、キミの手紙だろ?」
そう言ってサンタ・オルタは懐から手紙を出した折り紙で二つ折りにされた、なのはが書いたサンタへの手紙を。
子供のなのはは知らなかった。真実のサンタクロースは子供にとっては残酷な事であるという事を。しかし今の高町なのはにとってはどちらでもよかった。今まで会おうとしても会えなかったサンタに会えたのだから。けれど分からないことは分からない。
「あ、あの! サンタさん! そちらのおんなのひとは?」
「あ、私のことか。私は「トナカイだ」
「え?」
→ウン、トナカイデスヨー
え、やっぱりトナカイなの?
「ウン、トナカイデスヨー」
瞬間――。なのはのサンタクロースに関する夢が崩壊した。
「えぇぇぇぇぇぇ!!? トナカイさんって! 女の人だったの!? サンタさんも女の人だけど!」
「む? 何を言う、人が男と女に分かれているのならば、サンタも男と女で分かれているのは当たり前だ。それに私は今回、ヤツから仕事を奪ってきたしな」
「え、じゃあ、サンタさんのおふくが黒いのは?」
「フッ、簡単だ。赤い服で空を飛べば、スグにサンタだとわかってしまうだろ?」
「う、うん」
真剣な顔で話すサンタ・オルタにドキドキしながら見守るトナカイ。それはまるで母親が子供を見守るようでもあった。
「すると、だ。私のこの袋の中身を奪おうとする者が現れ、撃ち落とされるのだ」
「撃ち落とされるのぉぉぉ!!?」
「ああ、だが私はサンタ。子供たちの為に撃ち落とされることなど出来ぬ。故に夜の闇に紛れるために黒いのだ」
「そ。そうだったんだ!」
子供のなのはにサンタを疑うという事を知らない、全てが真実だと思い込んでしまう。たとえサンタ・オルタの後ろでトナカイが頭を抱えていたとしても、子供の味方であるサンタは疑うことはない。
「じゃ、じゃあ! なんでサンタさんは剣を持っているの?」
「これか? これはな、袋を狙ってくるやつらを撃退するためのものだ」
「じゃあ、なんで寝ているときに来るの?」
「フッ、例えば良い子が2人、悪い子が4人の6人兄弟の家に起きているときに行けば1VS6だ。親も来れば二人プラスされる。そうなれば袋を取られるだろ? だから子供のプレゼントは余程でない限り寝ている時に行くのだ」
「そ、そうなんだ。よほどってなぁに?」
「むぅ、そうだなものすごくよい子にしか行かないのだ」
その言葉を聞いてなのはは驚いた。自分自身良い子だったのかと思って仕方なかったのだ。しかし、それを見越してサンタ・オルタは続けて言った。
「タカマチナノハ。 お前は幼いながらも迷惑を掛けまいとし友達にも親にも心の内を離さず、ただひたすらに自分自身の孤独と耐えて来た。だがな、キミは女の子だ。幼子だ。まだ親に頼れ、甘えろ。名一杯迷惑をかけてやれ」
「で、でも! お父さんはにゅういんしてるし、お母さんはおしごとでいそがしいもん。お兄ちゃんもお姉ちゃんもおてつだいしてるし……」
「親に迷惑を掛けまいをする心は良い事だろう。だが、それは子供の仕事ではない。子供の仕事は甘え、迷惑をかけ、学び、成長するのだ。明日にでも抱き着いてやれ、目の前でいて見せろ。そうすればやつらもお前を視界に入れ悩みを聞き、一緒に時間を過ごすだろう」
「ほんとうに……?」
高町なのはの言葉にサンタ・オルタは右手をなのはの頭にのせ、優しく撫でる。冷たい雰囲気とは違い優しくて、温かい。サンタ・オルタは膝をつき、持っていた剣と袋を床に置き、なのはを優しく抱きしめる。
サンタ・オルタに抱きしめられたなのはは優しく撫でられて、泣き始める。今までの全てを晴らすかのように涙を枯らさんばかりに。
サンタ・オルタも冷たい雰囲気とは裏腹に冷たいながらも優しく微笑みながらなのはが泣き終わるまで抱きしめ、撫でていた。後ろではトナカイがグスンと涙を少しばかり浮かべていたのは置いておく。
パート2! 次はサンタ・オルタ登場です。後ろにはトナカイさんもいます。
25日まで残り約2時間! 頑張ってパート3書いていきます!
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