突然現れた美少女、衛宮士郎は顔を赤くしながら彼女に近づく。しかし、彼女はただの新聞記者(部活)ではなかった。そう、彼女はスーパー美少女☆記者 文様であったのだ」
「おい」
「もう、度々なんですか? ギャラですか? ギャラなら再来週ですからね!」
「違う! なんでここにいるんだよ!?」
「そりゃあ、公園だからですよ? 衛宮君大丈夫ですか?」
話が通じない。ああ言えばこう言うというのはまさにこの状況を言うのだろう。しかし衛宮士郎は諦めない。なぜならば藤田文が持つあの手帳に書かれているネタを晒されるわけにはいかない! そう! あれは去年の夏休みの頃! と衛宮士郎が回想に入っているころ、藤田文は手帳で口元を隠しながら、衛宮士郎を見つめていた。表情全てが見られていたならば、何時もとは違う藤田文に衛宮士郎は戸惑っていただろう。
「(果たして、衛宮君は何処までやってくれますかね。この際私は最後の切り札として今回は見てあげますよ)」
藤田文は衛宮士郎の回想を強制終了させる呪文を唱えた。
「そういえば先ほど、織斑さんを見ましたよ?」
「本当か!?」
「ええ、街の方で」
「街の方だな、分かった!」
そういって衛宮士郎は走りだろうとした。が、それを藤田文は止める。足払いで。
衛宮士郎は地面と猛烈なキスをして、その場で痛みを堪えつつもゆっくりと立ち上がり、藤田文を見る。その表情は満面な笑顔だ。そう、例えるのならば「この笑顔、守りたい」というところか。
「もー。衛宮君ってば、地面さんと猛烈なキッスなんてして、私の前ではしないで下さいよー」
クネクネと恥ずかしそうに衛宮士郎を見る。がその程度でごまかされない。
「行き成り何するんだよ!」
「だってー。待ってください! な~んて言っても止まってくれないじゃないですかー。だからちょっと冷静になって貰おうと決意して行動に移しただけですよ?」
「だからて!」
「織斑千冬さん、今のままだとやばいですよ」
「え?」
藤田文の急に冷徹な表情に衛宮士郎は固まった。次いで、言われた言葉が頭の中で山彦の様に何度も響いた。冷静になり、言葉の意味が分かってから衛宮士郎はゆっくりと問う。
「どういうことだ? 何か知っているのか?」
「はい、まず先ほどの街で見かけるというのは誤りです、どれほど真剣か試させてもらいました」
「なんで試す必要が」
「聞きたいのなら、必ず助けてあげてくださいね? 『正義の味方』」
「わかった」
即答であった。いや、「助けて」の時点で衛宮士郎の中では答えは既に決まっていたのだ。自分が目指す「正義の味方」とは自分を救い、育ててくれた衛宮切嗣(じいさん)の為にも、叶えるべきモノだ。
「では教えましょう、先ほど織斑さんの自宅で私、見て、聞いてしまったのですよ。自宅前でスーツ姿の男性が織斑さんに援助交際の取引する様子を、ね」
「!!?」
「衛宮君、アナタに問います。今織斑さんがお金に困っていることは知っています。その上で、援助交際という手段を取った織斑さんを辞めさせるのですか? 正直私は自分の為ではなく、弟さんの為にやろうとしている織斑さんを辞めさせるというのは、あまり感心しません。それとも衛宮君が全て養うのですか? 1人暮らしをしているあなたが。」
ゆっくりと、淡々とした言葉で、衛宮士郎を追い詰める様に、責めるように言う。どうやって止めるのか、お金はどうするのか。現実的に一体、なぜ、どうやって、どのように、最も効率がよく、犠牲がなく、皆が笑顔になれる為に、お前は何をするんだ?
「なぁ、藤田」
「なんですか?」
「自分の大切なモノと自分の夢、どっちか取れないとしたら、お前はどうする?」
「愚問ですね。大切なモノですよ。
知っていますか?『大切』っていうのは『大』を『切』るのですよ」
「ッ!」
「『大』を『切』れば残るのは、限りない『小』」
「大切、か。ん、ありがとうな藤田」
「いえいえ、気にしなくてもいいですよ? それで? 私の問いはまだなのですが?」
「藤田、織斑がどこにいるか、教えてくれ」
衛宮士郎はそれが答えだと、藤田文に応えた。そのことに藤田文もまた笑顔で1枚の紙を渡す、二つ折りにされた紙を渡された衛宮士郎は小さく、「ありがとう」と言って新都の方へ走り出す。
「全く、可愛げのないガキですね~。まぁ男としては合格と言ったところでしょう」
「あら? あなたがそう評価するのも珍しいわね?」
「……一体いつから見ていたのですか? 八雲紫さん」
走る、駆ける、疾走する。
二つ折りにされた紙を走りながら見て、場所を何度も確認しながら新都の街を走る。すでに周りは電灯が付いており、冬木市に相応しい冬の寒さだ。喉はすでに冷たく痛い。腹部も冷たくなっているだろう。脇腹もだんだんと痛くなってくる。
それでも尚、己の信念と間桐慎二と藤田文の言葉を思い出すたびに歩こうとする足は力を取り戻す。
メモに書かれていた場所に着いたが、そこには雑踏警備がいるほど賑わっている。確か今日はデパートのイベントで有名歌手やらバンドやらが来る日という事を思い出し、周りの人間に舌打ちをする。
人、人、人。
大勢の人の壁で背が低い衛宮士郎は探すのが困難になっていた。これほどまでに背が低い事を恨んだ事が無い。今度から毎日牛乳を飲もうと決意しながら、織斑千冬を探す。しかしながら、日本に置いて『黒髪』というのはごく普通の色であり、女性ともなれば髪が長い者などそこら中にいる。
しかし、ながら彼女特有のオーラだけは、マネが出来ない。
圧倒的な圧力のある「鬼神」とまで呼ばれた織斑千冬の『鬼気(オーラ)』は他人では出せない。
「いたっ!」
顔ではなく、『鬼気(オーラ)』で織斑千冬を見つけた衛宮士郎は人込みをかき分けながらそちらへと向かう。
かき分けていくと、そこには項垂れながら私服姿のミニスカートを履いている織斑千冬とスーツ姿の男性だった。スーツ姿の男性は織斑千冬に手を伸ばし、肩を掴もうと
パシっ! スーツ姿の男性の手は衛宮士郎によって弾かれ、唖然とする織斑千冬の手を引っ張り、人込みの中へ入り込む。後ろから織斑千冬を呼ぶ声はするが、すべて無視だ。
「お、おい、衛宮!? なんで、お前が、ここ」
「教えてくれたんだよ! なにをやっているんだ! 織斑がこんなことをする必要なんてない!」
「ッ!? だ、誰に教えて」
「今は黙ってろよ!!」
衛宮士郎は自分に怒りながら人込みを通り、新都の街を離れていく。何も考えてはいない。ただ、織斑千冬をこの場から離すことだけしか今の衛宮士郎の頭の中にはなかった。
織斑千冬はなぜ引っ張られるのか、混乱しつつも。どこか、嬉しいという感情が心の中から出てくる。先ほどまでは絶望だったのが、衛宮士郎が来てからこれほどまでに変わるモノなのか、自分の感情が解らなくなり、衛宮士郎に手を引っ張られながら走る。
新都の丘にある言峰教会、2人は教会の前まで走ったのだ。
そして、扉の前に2人して座り込む。
「衛宮、なんで、お前が来たんだ?」
「……織斑を、守りたかったから」
「わ、私を?」
「なぁ、織斑」
「な、なんだ」
「織斑は、大切なモノと自分の夢、どっちか取れないとしたら、どっちを取る?」
衛宮士郎はこんな質問をする自分に少し苦笑する、この質問も今日で何度教えてもらっただろう、今まで考えた事が無かった。唯々、自分の夢を、衛宮切嗣(じいさん)の夢を叶えたかった。出来る事を出来る限りやってきたし、これからもするつもりだが。
「大切なモノと自分の夢か……。なぜ衛宮がこのような質問をするかはわからんが、私は、うん。「大切なモノ」を取る」
「そうだな、俺も、今回は大切なモノを取っただけだ」
「ッ!!?」
この日、教会の前で2人して顔を赤らめながら、時は過ぎていくのであった。
ただし、2人はそれぞれ別の意味で顔が赤いという事だけは変わりようのない事実である。
とりあえず、今日はここまで。
さて、ここで牧師を出すか、迷いますが、そこはおいおいやっていきます。
本編も書かないといけませんね……。
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