「手を貸せる? ちーちゃんはお前より圧倒的に強いんだよ? なのになんでお前が手を貸すことが出来る?」
「確かに俺は弱いさ、織斑は俺よりずっと強い。けど、織斑が弱っている部分を助けることぐらいなら、俺は助けることが出来る」
「ハン! だったら私がちーちゃんのその『弱っている部分』を助ければ良い事だ!」
「じゃあ、最近、織斑が弱っている姿を篠ノ乃は見たのか?」
「ッ!」
この時篠ノ乃束は体を大きく揺れ、言葉が詰まった。最近篠ノ乃束は学校でもプライベートでも衛宮士郎が言う『弱った部分』を見た事が無いし、その姿を想像することは出来なかった。
小さい頃から共に分かり合いながら育ってきた2人であったが、最近は最低限の接触しかしていなかった。篠ノ乃束が最近見つけた『人体にある不思議な力』の解明に勤しんでいたのもあるが、『小さい頃からの夢』を叶えるのにも必死であったからだ。
衛宮士郎の事を知れたのも、昨日の事だ。篠ノ乃家に遊びに来ていた織斑一夏を迎えに来る際に夕食に来ていた織斑千冬がぽつりと呟いた言葉からだったからだ。
嫉妬、一言でいえば今の篠ノ乃束の心の中に占めている感情だ。誰よりも知っている、どんな表情を出すかも知っている篠ノ乃束にとって、衛宮士郎の存在はまるで自分のパートナーが取られたかのように思いであり、見逃せない存在であり、裏があるとしか思えなかったのだ。
「俺は織斑が弱っているところを見た。そんな姿を見たら、必ず助ける」
「……なんでお前はそんなことをするんだよ」
泣きそうになる。篠ノ乃束は目の前にいる格下であるはずの衛宮士郎がなぜか自分と同じどこか狂ったような存在に思えて来た。
『普通の人』とは違う、それは誰から見ても差別される。拒絶される。遠ざける。嫌がられる。篠ノ乃束は今までその様な扱いしかされなかった。ただ織斑千冬と織斑一夏そして自分の妹以外は居なかったのだ。だからこそ彼らを篠ノ乃束は大切にする、守ろうとする。物語に出てくるような悪の存在から隠そうとする。
しかし織斑千冬は篠ノ乃束と同じく『普通の人』とは違う、自分以上の身体能力を持ち、冷静沈着。いずれは隠しきれない。だからいずれが来る前に『アレ』を作るかオリンピック選手になって貰おうと考えていたのだ。
目の前にいる衛宮士郎は徹夜して徹底的に篠ノ乃束は調べ切った。
冬木で起こった大火災によって生き残った者、引き取った男は裏ルートの様なモノを持っていた事しか分からなかったが。しかし、成績は上の中であり身体能力は普通より少し上、趣味で機械いじりが好き、評判は調べるほどでもない。勝手に耳に入ってくる。だから自分と同じ狂った存在では無いと確信していた。
だが。
「目の前で涙を流している奴を見過ごすことなんて出来ない。悲しんでいる姿を放っておけない。死にそうになっている奴らを見たなら、俺は助けたい! 俺は!『正義の味方』になるんだから……!」
唖然とした。しかしそれ以上に篠ノ乃束は
「は、ハハハ、アハハハハハ!!! なんだよソレ! せ、正義の味方って! ハハハハハハハハ!!」
笑う、嗤う、哂う。
衛宮士郎の夢を哂い、その姿を嘲笑い、同じ『普通の人』ではない者を見つけうれしそうに笑う。すでに篠ノ乃束の瞳には涙が流れており、その表情は嬉しく、悲しく、バカにするような表情であった。
「ハハハハ、あー。笑わせて貰ったよ」
「むっ、そんなに笑う事か?」
「当たり前じゃん。この年になって「ぼくのゆめはせいぎのみかたです!」だよ? 笑うしかないよ!」
「むっ……」
「まぁいいさ、衛宮士郎、キミ、ちーちゃんを助けるんだっけ?」
「ああ」
「やってみなよ、けどね、覚えておくといい。お前がちーちゃんを悲しませたら、私は全てを使ってお前を潰す」
衛宮士郎は篠ノ乃束の瞳には先ほどの様な侮辱したような瞳ではなく、ただ真っすぐに、真剣な瞳であった。
「わかった」
ただ一言だけが、篠ノ乃束に返す言葉。それだけで十分だろう。
「それじゃあ、頑張りな。『正義の味方』」
篠ノ乃束はそういって衛宮士郎の横を通り過ぎ、公園から出ていく。衛宮士郎はその姿を見届けてから、行動に移ろうとした。
こうして、天災☆女性☆篠ノ乃束は『正義の味方』衛宮士郎に投げキスをし、その場をその姿はまるで不思議の国のアリスのごとく、柔らかい表情で妖しく華麗に去ったのであった。公園に一人残された衛宮士郎は投げキスに手を当て、何を考えたのか、自ら頬を赤くさせながらも、右手をグッっと空へ伸ばし叫んだ。ただただ、大きく、誰もが聞けと言う様に、己に気合を入れ衛宮士郎は頼もしい足取りで公園を出ていく。行くのは「鬼神」織斑千冬が居るであろう、彼女の自宅! その先に衛宮士郎を待ち受ける者とは一体!?
彼女の自宅に着いた衛宮士郎が迎えたモノは剣か槍か、いや弓が待っているのか!
次回! 文々。新聞 「漢、ただ助けるために」 来週はこれで決まりですね!!」
「おい」
「はい? なんですか? あ! ギャラについてでしたら再来週お待ちくださいね? 私たちも部活動とはいえ真剣にやっているんです。これ以上部費が無くなればキツイですから! 大丈夫! 売れた新聞×100円出しますから!」
衛宮士郎の後ろにいたのは同じ中学校の生徒であり、同じクラスメートでもある。藤田文、記者としての名前は射命丸文。パパラッチであり、記事全てがほとんど出鱈目だ。
この同じクラスになったならば己の幸運値を恨むしかないだろう。幸運値Eぃ……。
はい、とりあえず、居候編そろそろ終わらせたいですね。
おかしいです。コレで少なくとも終盤に近づけると思ったらまだまだになった。
あ、藤田文さんは士郎君と同じクラスメートです、
可哀そうに。度々手伝わされたりします。
誤字、脱字、ご意見ご感想があれば「感想」にてお願いします。