衛宮士郎が藤村雷画に話を持ちかけ、条件を突きつけられてから7日立った、未だ衛宮士郎の中では答えが出し切れていなかった。誰かを救いたい、あの人の様に綺麗な夢を持って見たい。『正義の味方』になって、みんなが笑顔でいられるようにしたい。
けれど、その裏に1人でも犠牲があるのならば、一体どうすればいいんだ? 救える者と救え切れない者。二つを救おうとしても救えないのなら、『正義の味方』は一体どうやればみんなを笑顔にできるんだ?
「はぁ、織斑にあんな顔させたくない。けど救えば違う人が救えなくなる、かぁ」
この問題に学校でも私生活でも悩んでいるためか、身に力が入り切れない。大掃除と同じようなモノだろう、完全に捨てるゴミ、大切なモノ、そして捨てきれない思いが籠ったモノ。捨てようか、いやこれは取っておきたい、が生活の中では完全に使わないモノであり、無くせば少し広く使える。そんな思いだった。
こんな思いをみなさんはしたことあるだろうか?
「すこし、散歩するか」
衛宮士郎は気分転換として私服に着替え外へ歩くことにした。外の空気を吸えば何か変わるかもしれない。何かいいきっかけがあるかもしれない。
衛宮邸を出て公園へ向かう。新都にある大きい公園だ。しかし誰寄り付かない公園だ。
ここで織斑と会った、いや見てしまったと言っていいか。
「え~みや、何してるんだよ」
後ろから声が聞こえて来た。しかもかなり聞き覚えのある声だ。ゆっくりと振り向くとそこには同じ中学の同期で衛宮士郎にとっては数少ない友達の一人、間桐慎二だ。
「なんだ、慎二か」
「なんだじゃないさ、お前なんでこんなところに一人でいるんだ?」
「ただの散歩、悩んでたら気分転換したくなったんだ」
「ふぅん、衛宮にも悩みなってあるんだな」
「失礼だな、俺だって悩みの一つや二つはあるさ」
「へぇ、じゃあ最近変なんのは、その『悩み』が原因ってわけか」
いきなり食い込まれた。少し、口が閉じると間桐慎二はニヤァと小ばかするように笑う、それを見て衛宮士郎はぶすっと口を閉じた。
「話してみろよ、このボクがお前の悩みを解決してやろうじゃないか」
「ン……」
「それに衛宮だって、気分転換、いや何かきっかけが欲しいんだろ?」
それもそうだ。確かに何かきっかけが出来るかもしれない。衛宮士郎は閉じていた口を開けた。間桐慎二は少しクセがあり、人を見下すような口調だが、よくよく考えるとアドバイスとなることが有ったりする。
まぁ、誤解されることが多数あったが。
「そう、だな。じゃあ、慎二、もし、自分の夢を叶えたかったら、大切なモノを諦めろ、って言われたらどうする?」
「……」
「……」
「バカだな、衛宮は……」
「え?」
今一番悩んでいる事がなぜかバカにされた。衛宮士郎は何度も瞬きし、間桐慎二を見る。いつも通り、自信たっぷりで腕組んでニヤニヤとコチラを見ている。
「まぁ、衛宮なら仕方ないな。そうだね、ボクなら『大切なモノ(プライド)』を取る」
「じゃあ、夢を諦めるってことか!?」
「ハン! その程度で終わる様な夢なら余計にボクは『大切なモノ(プライド)』を取るさ、ボクにとっての夢ってのは『必ず叶える』モノ、だから『大切なモノ(プライド)』を取られる(汚される)位なら、夢を少し遠回りに行くだけさ」
間桐慎二は自信満々に衛宮士郎の前で言った。そこには信念の様なモノを感じ、気迫すら感じる。衛宮士郎はこんな間桐慎二を見るのは初めてであり、少しうれしかった。
「そっか、ん、ありがとな慎二」
「気にしなくていいさ、でも、こんなので何時までも悩んでいるなんて、ダメだなぁ衛宮は」
「そうだな、けど、いいきっかけが出来た」
「当たり前だろ? このボクが悩みを聞いてやったんだからな、それじゃあな、衛宮。さっさと悩みなんて解決しちまえよ」
間桐慎二は言うだけ言って、衛宮士郎の目の前から去っていく。公園を出ていき姿が見えなくなるまで、その後姿を見続けていた。
衛宮士郎はよしっと、気合を入れなおし、改めて考えていく。
あの日、『士郎』が生まれた冬木市で起こった大火災、生きなければと思いながら、他の生きていた人たちの声を呪いの様に聞きならがら火災の中を歩いた。倒れ、出会ったのは衛宮切嗣、その人の嬉しそうで、悲しみに満ちている顔はよく覚えている。けど、その顔はどこか、綺麗だったという事も覚えている。
あの人の様に、誰かを救える『正義の味方』になりたくて、けど何をすればいいか分からなかった。
この夢を叶えたい。あの人に「俺はじいさんの夢を叶えた」と胸を張って言いたい。
なら……
「お前だな、最近、ちーちゃんに会ったのは……」
……再び誰かの声がした。今度は聞き覚えの無い声で、うむ、俺じゃないな、ちーちゃんって誰のことだよ。っと思いながら再び没頭しようとする。
「無視するなんて、この束さん相手に言い度胸だね」
ん? たばね? そういえば同じクラスにそんな名前のやつがいた気がするっと考えつつ、後ろを振り向く。が、スグに前を向いた。
いや、絶対に違う、だって髪がピンクだし、ウサギの耳ぽいの付けてるし、なんかドレスだし。っと考えていると
視界が急に回りだした、上が地面で、下が空で。体ごと回転していき、受け身も取れないまま、衛宮士郎は地面に激突した。
「いつつ……! い、一体何なんだ!?」
「ふん! この束さん相手に無視しようとするからだ」
倒れた状態で衛宮士郎はよ~くその声の人物を見ることにした。
青と白の不思議の国のアリスを思わせるようなゴシックドレスを着た女性、だがその髪はピンクで、カチューシャ……と言って良いのか分からないが、とりあえず、ウン。ウサギ耳を付けている。
「全く、この束さんがわざわざお前に話しかけてやっているんだ。答えるのが当たり前だろ」
「いや、それはめちゃくちゃじゃないか?」
「お前の答えなんか聞いてない。私の質問だけを答えてくれればいい」
「むっ」
「で? お前なんでちーちゃんに構ってるんだよ」
「いや、ちょっと待ってくれ。その前にお前は誰なんだ!? それにちーちゃんって誰のことだよ!?」
衛宮士郎は目の前にいる女性に向かって叫ぶように言う、いや言わないと聞いてくれない気がしたのだ。今でも衛宮士郎を虫の様に見ているこの女性は初めてだ。こんな初めては嫌だが……。
「ふん、篠ノ乃束。ちーちゃんってのは織斑千冬のこと、で?サッサと答えろよ」
な、なるほど、この女性、篠ノ乃束は慎二と同じで面倒な性格をしているようだと衛宮士郎は語った。そして、地面から起き上がり、体に着いた砂を払う。
「え、えっと俺は衛宮士郎」
「お前の名前なんか聞いてないよ、サッサと私の質問に答えろ」
「むっ、自己紹介は大切だろ? はぁ、織斑に構ってる、っていうのは助けたいからかな」
「助けたい? ちーちゃんを? 私にも勝てないお前が?」
織斑千冬――中学でも身体能力は群を抜いており男子生徒はおろか教師も勝てはしない。まるで武の神に愛されているかのように、柔道部、剣道部では個人大会優勝確定、野球部ではホームランは確定事項、バスケット部では一人無双、テニス部ではリスク無し片手波動球は当たり前、バレーボール部ではボールが地面にねじ込み、陸上部ではオリンピック記録を更新させ、サッカー部ではまさに少林サッカーといった具合だ。
その美貌と凛とした雰囲気が孤高の存在と決めつけ、高校生ヤンキーをボッコボコにした生徒は彼女を『鬼人(オーガ)』又は『姐さん』と親しめられている。
「確かに、勝てない。けど……」
衛宮士郎が思い出すのはこの公園で見てしまった彼女の弱った姿。
「手を貸すことなら出来る」
新年あけまして、おめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
っと、かなり遅れましたが、居候編第4話でした。
信二の名前が出てこなくって、なぜか間桐ワカメとしか、思い出せず、
悔しくて、思い出すまで書くもんか!っとおもってたらかなり遅れました。
仕事中も、信二を思い出し
「えっと、間桐、なんだっけ、ワカメじゃなくて……」
という日々。ようやく終わりました。
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