こうして私は衛宮邸で居候になった1
衛宮士郎が今日の授業が終わり早めに食糧調達へ中学校から帰る途中にある誰も近づかない大きな公園がある、大人だけでなく子供たちでさえ大きなその公園では遊ばず、少し遠めの小さい公園へ行くほどであり、誰もが数年前に冬木市で起こった大火災による名残ある公園へは近づきたくないのだ、大火災から整備されたハズの公園は明るい色ではなく灰色であり空気が重く、空は暗く見える。
そんな誰もいない公園に立ち寄った衛宮士郎は普段ならば気が付かないであろう公園の風景の差に衛宮士郎は気が付いた。公園の木々に隠れて蹲っている人がいる。それに気が付いた。
『正義の味方』、衛宮士郎が幼いころから目指しているモノであり、今もなおその夢を目指している。誰もが小さいころは必ず憧れた存在であり、いつしか諦める、覚めてしまう見えない職業。しかし中学生である衛宮士郎は今だに本気で目指している彼の瞼に残るのは赤い炎か、それとも誰かの悲鳴か。
みんなが笑顔で暮らせる、災害で失った笑顔を取り戻す存在になる。衛宮士郎は常にそれを目標に、日々の生活を送っている、故に木々で蹲っている存在に衛宮士郎はどうしようもなく気になって仕方がない。そちらへ歩を進める。
木々で蹲っているのは黒く美しいポニーテールを持つ者、女性だ。御父の教育により女性に対してちょっとした頑固なところがある衛宮士郎は助けになろうとすぐに考え、さらに木々へ向かう、今度は体が見えてきた。体操座りし、顔を隠している女性、いや女子は同じ制服の女子中学生のようだ。
「どうしたんだ?」
衛宮士郎は言葉を投げかけた。
同じ中学の女子であろう蹲っている者は1度ビクリと体を震わせ、衛宮士郎の方を見た。その顔に衛宮士郎は見覚えがあった、去年同じクラスメイトであり凛としていてどこか威圧感、またはカリスマというべきか、体から発するオーラのようなモノが有り、近づくとわかる。誰かと一緒にいるところを見たことがなく、一輪のバラのごとく気高い。
剣道では全国大会優勝した経歴をもち、その体つきには思えない身体能力と筋力があり1部のものからは『オーガ』と恐れられており、もう1部から『女王様』と崇められている。
また中学で入学してから1位の成績を持ち、不思議な性格している『天災』と呼ばれる篠ノ乃束の親友――織斑千冬だった。
しかし、いつもは凛としている彼女が今は瞳には力強かった光がなく、まるで枯れかけているバラのようだ。 正義の味方を目指している衛宮士郎にとってその光景は断固として許せなかった
「お前は……」
「士郎だ。 衛宮士郎、去年と同じクラスだっただろ?」
「ああ、束が言っていたブラウニーか」
「ブラウニーって……」
少し、少しと話をし始めるが織斑千冬はしょぼくれたまま、瞳には光は戻らない。家で騒いでいるであろう大きな虎の世話は後にしておこう。今は目の前にいる織斑千冬についてだ。っと心に決め衛宮士郎は生徒会での仕事から始まり、機械いじりなどの様々な話をしていった。 1時間だろうか、2時間だろうか。ようやく少し瞳に光を宿した織斑千冬をみて、衛宮士郎はほっとした。
「フッ、しかしそれでは自分に得がないのではないか?」
「まぁ、それもそうなんだけど、趣味でしていることが誰かの助けになる。なんて思ったら受け取らなくてもいいかって思ってな」
「そうか、だが相手の気持ちを受け取らないのは可哀そうだ。少しは受け取ってやれ」
「俺はいらないんだけどな……」
ふと織斑千冬の足元に雑誌があることに気が付いた。それを目にした瞬間――衛宮士郎はそれをすぐに拾い上げ、シャーペンで挟まれていたページを見る。織斑千冬は一瞬呆気に取られてしまった衛宮士郎に取られた雑誌に顔を青くする。体が震える。
雑誌を取った衛宮士郎は雑誌から織斑千冬へ目線を変える、問い詰めるがごとく眼はきつくなり、目検に皺が寄るのがわかる。
「……織斑。俺はお前とは初めて話をした。だからあまり深く突っ込まない方がいいと思っていた。けどコレを見たらそうとは言えない、どうしたんだ? 何があったんだ? プライドが高い織斑がコレを持って、しかもシャーペンで目印されている箇所は」
その問に織斑千冬は答えない。いや答えられない、少し前まで織斑千冬が持っていた雑誌は所謂、風俗系の18禁雑誌だった。そしてシャーペンで力を込めたのだろう、ゆがんだ丸で囲まれてしたのは風俗求人募集であった。どれも「100万!」など、それ以上の金額が描かれており、見えればお金に困っているのがわかる。
だが、今まで聞いた、見た織斑千冬という人物は借金などするタイプではないと確信していた衛宮士郎は雑誌を強く握る。織斑千冬は答えられなかった、その場で逃げることもできただろう、しかし動くこともできず震えながら顔を俯くだけ、そしてぽつり、ぽつりと話をした。
「今日、家に帰ったら、置手紙が、あったんだ」
「置手紙?」
「これだ……」
力を失ったように織斑千冬はポケットからくしゃくしゃの手紙を取り出し、衛宮士郎に手渡した。
受け取った衛宮士郎はそれを広げ、字を読んでいく。手紙にはこう書かれてあった。
『 千冬、一夏へ
悪いけど、お母さんたちは借金で手が回らなくなりました。
こんな人生、私にとっては最悪と言っていいわ。
だからやり直すことにしました。
お父さんはどっかに行きました。
千冬、アナタは賢くて頼りになる子、私がいなくても大丈夫でしょう。
私がいなくなっても頑張りなさい。
母より』
「なんだよ、何なんだよ!? これ!」
「朝までは、笑顔だった、母さんからの、最後の手紙だ。 家の通帳には100万しか、無かった、しばらくは、大丈夫、だが今からでも、稼がないとって思ったら……」
その雑誌を手に出していたと織斑千冬は語った。その瞳に涙が流れる。衛宮士郎はそれを呆然と見ていた。そして激しい怒りが彼の心に残った。
何もかもが理不尽だ。 現在中学生の衛宮士郎と織斑千冬にとって100万はかなりでかい数字だ。しかしそれで生きていけるなどとは思っていない。 衛宮士郎でさえ保護者の藤村雷河になって貰い、娘の大河に通わせ世話になり(世話をして)月々にお金を貰っているのだから。
もしも中学の部活帰りに突然、両親が消え100万という貯金の中であとは勝手に生きろなどと言われたとき、アナタはどうする? 誰もが呆然とするだろう、1日は呆然とするかもしれない、2,3日目からは自覚が出て警察や区役所へ行くものもいるかもしれない。働こう、バイトしようと思うものは年齢を偽ってアルバイトを始めるかもしれない。 1人暮らしならば生きていけるかも、知れない。
アナタは中学生のころに『生活保護』という制度は知っていましたか? 作者は知りませんでした。
織斑千冬もまた知らず、働かなければという思いで一杯一杯だったのだろう、プライドを震えながら捨てこの雑誌を手にし、誰もいない場所を探しこの公園へ来たというところだろう。
「私、は別にいい、だが弟が、一夏だけは……!!」
その瞳から流れる涙をみて衛宮士郎の心は決まった。
守ろう。 どんなことからも、織斑が涙を流さないように
この決意は新たなるFate。運命の神様がいるのか、サイコロのツンデレ女神様がいるのかはわからない、わかるのは今、この時、この場所で織斑千冬の心と体を守れるのは彼、衛宮士郎しかいないという事だ。
衛宮士郎は涙を流す織斑千冬をそっと抱きしめる。そして離さないとばかりに力を強く、強く抱きしめる。 突然男性に、しかも涙を見られた相手に抱きしめられた織斑千冬は一度ビクッ!と震えたが、衛宮士郎の温かさとその力強さに安心感を徐々に覚え始める。
そして、衛宮士郎の胸の中で一生に1度になる大量の涙と枯れるほどの声を上げた。
過去編です。
シリアス風味にしてみたかったんです。
ごめんなさい。
もう少し頑張って士郎らしくしたいです。
誤字脱字やご意見等ご感想にてお願いします。