バカと田舎とペルソナ   作:ヒーホー

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第九十四話

「おや、やっぱり来ましたね」

僕達がマル久豆腐店に行くとどこかで見たことがあるような中学生くらいの少年が豆腐店から出てきた。

「…………」

「あれ? ムッツリーニ、どうかした?」

「…………いや、何でもない」

ムッツリーニが何かを考えるようなそぶりを見せたが大した意味はないだろう。

「何処かであった気が……」

見覚えのあるような気がするけどどこで会ったか思い出せない。

「お前の記憶力は相変わらずだな。前にジュネスで完二のことを聞いただろうが」

雄二が呆れたように言う。そっか、完二の情報を教えてくれた少年か。

「また人数が増えているようですが……今度は久慈川りせの懐柔ですか」

「え!? アイドルって特撮番組で着ぐるみ着たりするの!?」

「こいつが言っているのは怪獣じゃない。懐柔だ」

雄二が呆れたように言うが違いが判らない。

「残念だったな、ちびっ子、こいつに皮肉は通じないぞ」

「そのようですね……」

「で、俺たちの要件はわかっているようだがお前は何をしてるんだ?」

雄二が問いかける。何をしているも何も豆腐屋に来る用事は決まっているだろう。

「豆腐を買いに来たんだよね?」

「明久、お前は少し黙ってろ」

雄二が僕を黙らせる。

「そういえばまだ全員には名乗ってませんでしたね。僕は白鐘直斗。例の連続殺人について調べています」

「え!? じゃあ君が警察に協力しているっていう探偵?」

「ええ、そうなります」

前に叔父さんが酔って帰ってきたときに足立さんがそう漏らしていた気がする。

「ところでひとつ、意見を聞かせて下さい。被害者の師岡金四郎さん、一部他校の学校の方もいますが皆さんの通う学校の教師ですよね?」

「うん、僕達の学校の先生だけど……それがどうかしたの?」

白鐘くんの問いに僕が答える。

「第二の被害者と同じ学校の人間、世間じゃ専らそればかりですが、そこは重要じゃない。もっと重要な点がおかしいんですよ」

「ほう」

白鐘くんの言葉に雄二が感心したような声を上げる。

「この人、テレビ報道された人じゃないんです」

「!?」

僕は思わず声を上げてそうになるが何とか堪える。

「どういうことでしょうね?」

「さあな、そもそも小西早紀はともかく山野真由美は職業上テレビに出るのは当たり前だろう。そんなもん被害者の共通点にならないだろう」

「確かにその二人だけだとそうも考えられますね」

そう言いつつ完二に視線を向ける。あれ? 完二はなんで見られる前から目を逸らしているんだろう。

「とにかく、僕は事件を一刻も早く解決したい。皆さんのこと注目していますよ。それじゃ、いずれまた」

そう言いつつ白鐘くんは立ち去る。

「なんなんだ、あいつ」

陽介がそうつぶやく。

「警察の協力員って言ってたな。明久、お前何か知っているのか?」

「あ、うん、なんかどこかの探偵事務所のエースらしいよ。年齢は僕達と同じくらいらしいけど」

「そういうことは言っておけ。ところで完二、お前なんでさっきから黙ってるんだ?」

確かに、完二の正確なら挑発されたら黙ってられなそうだけど。

「べ、別に、なんでもねえよ」

なんか触れちゃいけないような気がする。雄二もそう思ったのかそっとしておくことにした。

「あ、いらっしゃい」

そうして話しているとりせが歩いてくる。

「あ、りせ……じゃなくて久慈川さん」

危ない、思わずファンの時の癖で名前で呼びそうになったけど親しくない女の子には失礼だよね。

「別にりせで良いよ。私後輩みたいだし、この辺あまり知らないから先輩たちには仲良くしてほしいな」

なるほど、転校してきたばかりで親しい友人もいないってことか。それなら

「そっか、それじゃりせって呼ばせてもらうよ」

「俺は久慈川と呼ばせてもらおう。それで、話を聞かせてもらって良いか?」

「雄二、本人が名前で呼んでほしいというのにどうしたの?」

「俺はまだ死にたくないからな……」

そっか、雄二は女の子を名前で呼ぶことによって霧島さんの怒りを買うのが怖いのか。

「明久……お前も立場は変わんねえのに……」

なぜか陽介が呆れたように言う。何を言ってるんだ。僕が女の子の名前を呼んでも誰も嫉妬しないだろう。現に秀吉や美波を普通に名前で呼んでるし。

「あー、先輩って呼んでることは俺とタメか」

完二は白鐘くんといるときと違って普通に話す。

「うん、それじゃ、話をするから……今お婆ちゃんが店番してるから場所を変えよ」

確かにここで話していたらお店の迷惑だね。一応人の来ない場所、神社に移動して話すことにした。

 

 

「浚われる前家にいたことは覚えてるんだけど……気が付いたらもう向こうの世界だった」

「天城や完二の時と同じパターンっぽいな」

雄二が予想していたという感じで言う。

「ところで、さっき白鐘っていう妙なやつにあったんだけど……」

「あぁ。何度も来てるの、事件のこと色々訊かれた。でも向こうの世界のことは話してない。無駄だと思ったし。あなたたちに事も訊かれたけど適当に言っておいた。ジュネスの屋上で気を失っていたところを助けてもらたとかね」

「まあ、他に言い方もないよな」

陽介がそういう。確かにテレビの世界とか言っても理解してもらえるはずないし。

「まあ、それでジュネスに悪い評判立っても困るのは陽介だしな」

「いや、雄二、それ結構シャレになってねえから……」

雄二の冗談に陽介が困ったように返す。

「あの……その……」

「え? どうかした? 大丈夫だよ。警察だってわざわざジュネスの評判が落ちるようなこと言わないだろうし」

足立さんはともかく叔父さんはそういうところを漏らしたりしないだろう。

「そうじゃなくて……助けて貰っちゃって」

そう言って一瞬言葉を止めて

「ありがとね、嬉しかった!」

そのあとテレビで見るりせちーのように明るく僕たちにお礼を言う。

「いや、お礼とかいらないよ、それを言うなら僕たちの方こそありがとう。クマのシャドウの時に無理して助けてもらったしさ」

そういう意味ではお互い様だと思うし。

「…………もともとの俺の動機を考えたらお礼を言ってもらうのは気まずい」

ムッツリーニもそう言って目を逸らす。元の動機はともかくムッツリーニも彼女を助けようと一生懸命だったんだから気にしなければいいのに。

「やば……可愛い。ああ、今やっとホンモノって実感した。確かにりせちーだ」

陽介が感心したように言う。確かにその気持ちはわかる。

「オレにはよくわかんねえな」

完二はりせみたいな子は好みじゃないのかな? あまり関心なさそうだ。

「私最近疲れてて喋り方とか暗かったから……それとも世間では今みたいなのが私の普通なのかな? ごめんなさい私……どの辺が地なのか自分でもよくわかんなくなってて……」

「気にしなくて良いんじゃない? 友達なんだからそんな事気にしないで話せばいいよ」

どれが自分なのかとかはあの世界に入ると考えることだろうけど友達同士なんだから余計なこと考えないで話せばいいと思う。

「そうだな、明久は何も考えずに話すから本音がダダ漏れだしな」

「…………明久はもう少し隠すことは隠したほうが良い」

「余計なお世話だよ!?」

即座に余計な茶々入れをする雄二とムッツリーニに言葉を返す。

「お待たせー」

そうして話していると里中さんたちもクマを連れてくる。

「うお、なんだ、その服!?」

なぜか胸にバラらしき造花を付けた服を着たクマが来る。

「ジュネスの癖に服高いね、翔子がいなかったら花村のツケになるとこだったよ」

「あ、あぶねえ……」

里中さんの言葉に陽介が安堵する。

「もうりせちゃんに話は聞いたの?」

天城さんの言葉に僕たちは彼女から聞いた話を説明する。

「そっか、犯人はわからないんだ……それはそれとしてクマからリセちゃんにプレゼント、クマメガネ~」

そう言ってクマがりせにメガネを渡そうとする。

「あ、その前に……りせも事件解決に協力してくれる?」

確認は必要だと思い僕はりせに声をかける。

「りせ?」

なぜか僕がりせを名前で呼んだことに美波が反応する。

「ちょっと、アキ、いつの間にそんなに親しくなってるのよ!」

「雄二、あとは任せた!」

嫌な予感を感じ僕はその場を逃げ出す。

「ちょっと、アキ、説明しなさい!」

 

 

「ねえ、あの二人って付き合ってるの?」

「いや、現在はそういうわけではないな」

「ふーん、付き合ってるわけではないんだ」

 

 

「だから……友達として名前で呼んでほしいっていうからそうしただけで……美波を名前で呼ぶのと同じだってば!?」

その後30分ほど鬼ごっこをし、関節技を食らいながら必死に説明をする。

「こっちで友達いないからか……そういうことなら早く言えばいいのよ。おかげで無駄に走り回っちゃったじゃないの」

そんな事より僕の関節のダメージの方を心配してほしい。でも昔と比べて美波も話聞いてくれるようになったな……前だったら問答無用で折られたいたかもしれないのに。

ちなみに後で聞いた話だとりせは僕たちの仲間になってくれたみたいだ。そしてクマは陽介の家に居候するらしい。




休日はあったけどP4Gをやっていて執筆が遅くなってしまいました。すみません。
陽介はここで初めてバカテス側参戦の恩恵を受けましたね。お金持ちの家の翔子がいるおかげでクマの服代を払わずに済みました。今までは番長の代わりに明久のせいで被害が増え続けていたのに……
では次回もよろしくお願いします。

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