バカと田舎とペルソナ   作:ヒーホー

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第九十三話

「おおーう、なかなかツボに来るクマね」

なぜかマッサージ機に座って肩コリをほぐしている見覚えのある着ぐるみ姿。

「なんでここにクマがいるのさ!」

思わずクマに対してツッコミを入れてしまう。

「やっときたクマなー。待ってたクマ」

「ってお前いつからここにいたんだよ!?」

雄二も驚いたのか全力でツッコむ。

「こっちの霧が晴れるのを待って出てきたクマよ」

「そもそもあんた出てよかったの?」

美波もツッコミに回っている。

「つか、出れるのかよ!?」

「そりゃ出口あるから出れるクマよ。今までは出るっていう発想がなかっただけクマ。でもみんなと一緒にいたらこっち側に興味がムックリ出たクマよ。初体験していいものか迷ったけど考えるより先に体が動いてしまったクマよ」

「考えるより先に体が動くか。明久の悪い影響が出たようだな」

「そうね、アキのせいなら仕方ないわ」

雄二の言葉を美波が否定する。

「え!? なんでここで僕が悪い流れになるの!?」

「うん、それで考えてみたら行くとこないからここでみんなを待ってたクマ」

「明久みたいに後先考えないからそんなことになるんだな」

「ちょっと、陽介まで流れで僕をバカにしてない!?」

最近陽介まで雄二たちと一緒に僕をバカにする流れに加わっている気がする。

「あ、さっきお名前聞かれたからクマだって言っておいたクマよ」

「……熊田ね」

クマだと名乗ったら熊田と勘違いされたってことか。

「……雄二、話が逸れていってる」

霧島さんが思い出したように言う。

「ああ、そうだったな」

「あれ? 本題ってなんだったっけ?」

「お前は3歩歩いたら忘れる鳥頭か」

「ち、ちょっとど忘れしただけだよ」

「クマ、お前こっちの霧が晴れてから来たって言ってたよな。その前に向こうに誰か来なかったか?」

雄二が僕を無視して問いかける。そうだった。モロキンが殺された件を確認するんだった。

「誰も来なかったクマよ」

「ホントか? ほんとに誰も来なかったか?」

「来なかったちゅーとるでしょ! 相変わらずクマだけでした」

確認を取る陽介にクマはムキになったように言う。

「鼻が詰まってたとかじゃねーんだな?」

「しっつこいクマね。ほんとに一人よ。だから来たって言ったでしょーが! まー信じてくれないならいいですけど。ボク前から探知能力落ち目ですしね」

しつこい陽介にクマはついに拗ねる。

「ふむ、やはりか……」

「さすがユージクマね。ヨースケと違って分かってくれるクマ」

「どうしてそう思うんだ」

「昨日のテレビに映っていないことと……そして前の二つの事件と比べるとアパートの屋上ってのは登りやすい気がしてその可能性もあるかもって思っただけだ」

前の二件というと電柱と民家の屋根だけ。確かにアパートの場合は登れるようになってるところもある。

「え? つまりそれってモロキンあっち側に入らなかったってこと?」

里中さんが雄二に問いかける。

「おそらくな」

雄二がそれに答える。

「つまりどういうこと?」

「明久……ちょっとは頭を使え。今回の事件は殺害に向こうの世界を使わなかったかもしれないということだ」

「ねえねえ、クマどこかに行きたいクマ」

そこでクマが横から口を出す。

「あ……今それどころじゃ……つか、帰る気なしかよ。はぁ……どっかって例えば何処だ?」

結局クマに問いかけるあたり完二は優しいと思う。

「これをりせちゃんに渡すクマよ。クマからのフォー・ユーって」

そう言ってクマは眼鏡を取り出す。そういえばそろそろ回復したかも……

「これからはきっとりせちゃんがクマをバックアップしてくれるクマよ。でもってクマはこれからみんなとバリバリ全開で戦うクマよ。クマをこれまでと同じただのプリチークマと思わないでいただこう。戦ってよし、守ってよし、笑顔も良しのクマスペック2! 今ここで新たなクマ伝説が幕を開けるのだ!」

クマがやる気にあふれている。

「伝説! おおー」

そして天城さんが伝説という言葉に激しく感心している。

「あれ? でも雄二、殺人で向こうの世界を使ってないってことはクマの出番ってあんのか?」

「ああ、まだわからないことが多すぎる。せっかくやる気なんだし水を差さないでおこう」

後ろで陽介と雄二がそう話していた。

 

 

その後クマがあまりに目立っていたので一度フードコートに移動することにした。

「もう一回しつこく確かめるけどさ。あっちの世界の霧が晴れたまでお前ひとりだったんだな?」

「そう言ってるクマ」

陽介の再度の確認にクマが答える。

「マヨナカテレビにも映っていなかった」

「つまりさっき雄二が言った通りモロキンがテレビに入れられてないっていうのは確かみたいだな」

里中さんの言葉に陽介が続ける。

つまりテレビの世界で殺されていないってことは……

「じゃあどこで殺されたのさ?」

「普通に考えるとこっちの世界だろうな」

僕の問いに雄二が答える。

「なんでモロキンだけテレビに入れなかったんだろう?」

「ひょっとして、もうテレビに入れても殺せないって思ったとか」

里中さんの言葉に天城さんが考えて答える。

「え? どうして? 実際にテレビに入れて二人殺してるんだよね?」

同じ方法で殺せると考えても不思議じゃないはずだ。

「……そのあと3人私たちが助けているから」

霧島さんが言う。つまりどういうこと?

「そっか、テレビに入れてもウチらが助けるから手段を変えたってことね」

美波が補足する。あ、そっか、そういうことか。

「んで、今度こそしくじらないようにいよいよ外でやりやったってことか。クソ、そうならもう犯人抑えないと防ぎようがねえぞ」

「いや、もしその仮説が正しいなら問題はない」

黙って話を聞いていた雄二が答える。

「どういうこと?」

「お前は少しは頭を使え」

雄二にそう言われて考えるがわからない。他のメンバーもわりと困惑顔だ。それを見て雄二が解説する。

「俺達が犯人を抑えようとしたのはテレビの中の世界っていう超常現象があり、それを警察が見つけるのが不可能だからだ。しかし犯人が外で犯行を起こしたならそれを見逃すほど警察も甘くはない」

「あ、そっか、外でやったってことは普通に殺人か……」

そう言いつつも雄二は妙に浮かない顔だ。

「雄二、何か気になることがあるの?」

「まあな……ひとまずそれはそれとして事件を追うことはやっておこうと思う」

「え? 警察に任せるんじゃねーの? まあ、俺としても気になるし事件追うのは賛成だけど」

雄二の言葉に陽介は答える。

「それでどうするの?」

「そろそろ久慈川りせに話を聞けないか?」

「そうだね。とりあえず行くだけ行ってみようか」

方針は決まった。

「はぁ~それにしてもあっついクマね」

「確かにそんなにふさふさだと暑そうだね」

シャドウ相手に自爆をした時から回復して今のクマはふさふさだ。今の季節を考えると暑くて当然だろう。

「……取ろ」

「うん、暑いし取ってしまった方が……ってちょっと待った!」

思わず賛同してしまいそうになったけど考えてみればクマの中身って空だよ! こんな人目に付く場所で中身からっぽの着ぐるみが動いているとか危険すぎる。子供も見てるんだしトラウマになるよ!

「あーっち、もう限界クマ」

僕が止めるのも聞かずにクマが着ぐるみの頭を外す。

「ふぅ~、良い風」

そして出てきたのは金髪の少年。

「生き返るって感じ」

そしてそのままそこに置いてあるジュースを飲む。

「「「って人間が生えてきた~!?」」」

クマの中身を見たことのある僕と陽介と雄二の声が響いた。

「……何を驚いてるの?」

「いや、だってこいつ前頭取ったときは中身なかったんだぞ!?」

それを見たことのない他の人たちは僕たちほどは驚いていないようだ。

「…………確かに、中身があったら前回みたいにペラペラになった場合はかなりグロテスク」

ムッツリーニが発言する。確かに、それは文月でグロテスクに慣れている僕としてもできれば見たくない光景だ。

「女の子たちを逆ナンしようと思って頑張ったクマよ」

「頑張って生えてくるもんじゃねーだろ!」

確かに頑張って人間が生えてくるもんじゃない。

「ところで着るものとかないかな? ボク、生まれたままの姿だから」

「な、なんか口調まで違うわね……」

美波も驚いたようにクマを見る。

「っていうか。中身あるのは良いけどここで全裸とかまずいだろ!」

確かに、そうなると立場的に陽介が一番困るだろう。

「そ、そうだよね、着るものね、行こう、とにかく」

里中さんが何とかしようと行動する。

「あ、ああ、とりあえずクマの件は任せた。俺たちは先に久慈川のところに行くから」

あとから考えるとみんな混乱していたんだろう。男のクマの服を買いに女子に行かせるとか雄二が女の子に遭いに行くのに霧島さんがクマの方についていくとかありえない事態になっていた。

「わ、わかった、それじゃ、またあとでね」

こうして僕たち男子は先にマル久豆腐店に、女子たちはクマの服をそろえに向かった。

 




あれ?おかしいな、りせが仲間になるところまでいかなかった。
しかしこういう時雄二の存在が大きいなあ。こういう推理的意味の頭の回転は翔子とかと比べても雄二の方が優秀だと思うんですよね。
では次回もよろしくお願いします。

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