バカと田舎とペルソナ   作:ヒーホー

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第八十四話

「それで、どこで実行するんスか?」

影を受け入れて貰うにしろ一度シャドウと会わなくてはいけない。

「シャドウがうろついていないところの方が良いよね」

無駄な戦闘は避けたほうが良い。

「そうだな……そうなると候補は普通に拠点にしているスタジオみたいなとこか?」

僕の言葉に陽介が答える。

「そうじゃなかったら商店街か、美波の作ったドイツみたいなところもいないかな」

「商店街か、あそこはあまり行きたくねえんだよな……」

「気持ちはわかるがあそこの商店街にはマル久豆腐店もある。そこにするとしよう」

陽介の言葉に雄二が答えて僕たちは商店街に向かうことにした。

 

 

「特に手がかりはねーな」

もしかしたら手がかりがないかなーと思ってマル久豆腐店に来たけど特に手がかりも見つからなかった。

「ここができたのが久慈川りせが来る前だからな」

雄二も自分で調べるように言っておいて予想していたのかあまり落胆はしていない。

「でも今は男だけで来てるから無事だけど、家を調べてるとことか見られたらまた先輩方シメられてたっスね」

完二の言葉に僕と雄二の顔が引きつるけど完二の言う通り今は男だけだから平気だよね。

「それで、肝心の土屋はどこだ?」

「…………婆さんのものしかない」

事件に関係ないのに一番懸命に家探しをしていてそして勝手に落ち込んでいた。

 

 

「しかし土屋の影でねーな」

「そっスね、こうやって待っているだけってのも退屈だし」

そうやって少し時間もたち僕たちは向こうの世界からもってきておいたジュースを飲みつつ様子を見る。

「そういえばさ、この前雄二に聞いたんだけど文月学園で未来の自分を召喚獣にする実験したんだよね? ムッツリーニの未来はどうだったの?」

退屈なので僕は話題を提供する。

「正確には現在の自分と周囲の思考による未来の自分のシュミレートらしいけどな」

雄二が僕の言葉を補足する。

「ショウカンジュウ? フミヅキガクエン? 何の話クマ?」

そういえばクマには話したことなかったかな。

「雄二たちの学校で召喚獣はなんていうか……自分の学力に応じた分身みたいなもの?」

「現実にもペルソナみたいなものがあるクマね。そしてアキヒサの召喚獣はすごく弱そうクマ」

暗に僕がバカだと言われている気がする。

「それが点数は低いけどこいつは技術が高いから強いんだよな」

陽介、フォローはうれしいけど点数が低いは余計だ。

「坂本先輩のは……なんとなく予想つくっスけど土屋先輩のはどうだったんスか?」

「俺の未来への予想は反論したいところだが今はムッツリーニの話だな、あいつの召喚獣は意外だったぞ」

完二にすら霧島さんの尻に敷かれる未来を予想されたことに不満そうな顔をするが、すぐに表情を変えてムッツリーニの召喚獣を語ろうとする。

「…………あれは堕落した未来」

けど雄二が内容を語る前にムッツリーニが不満そうに言葉をはさむ。

「…………あれは俺じゃなくて夢に破れた哀れな男だ」

『…………わかってるんだろ、今のままじゃお前の夢が叶わないことくらい』

その言葉に僕たちは振り向く。

「うお、土屋先輩の影?」

「で、でもなんか様子がおかしくね?」

そこにいたのはきっちりスーツを着込んだ立派な姿のムッツリーニ。今までのシャドウと違っておかしな服装をしているわけではない。

「…………夢は叶えるものだ。俺はヌー……カメラマンになる」

(((今ヌードカメラマンって言おうとした)))

僕らの思考が重なった気がした。

『…………ヌードカメラマン? 笑わせるな』

(((しかも隠してたのに暴露されたー!?)))

「…………なんだと」

『…………本気でそんなものになろうというのか?』

「あれれ、どっちがシャドウクマ?」

「んっと……エロを否定してる方って制服着てるほうだよな?」

スーツを着ているほうがヌードカメラマンを否定してて制服を着ているほうがヌードカメラマンを肯定、あれ? スーツがシャドウじゃなかったっけ?

その風景に僕たちは混乱を起こす。

「…………信念を……夢を諦めなければ必ずなれる」

『…………本当にそう思っているのか?』

「…………未来の俺と違い俺は信条を持っている」

なんだろう、なんかすごいかっこいい会話をしているような気がする。けどあれは本当にどっちがシャドウ? エロを否定しているほう? 肯定しているほう?

「ムッツリーニのやつそんなにショックだったのか」

「ムッツリーニの未来っていったいどう予想されていたの?」

「ああ、召喚獣だと新聞記者だったな」

なるほど、情報収集力、カメラの腕、行動力、意外と天職かもしれない。ヌードカメラマンなんかよりずっといい未来に思える。

「…………そもそもお前は何者だ?」

『…………俺はお前だ。考えてみろ、ヌードどころか水着ですら鼻血を出して倒れるお前がどうやったらヌードカメラマンに成れるというんだ?』

たしかに!? エロの決定的瞬間を収めようとして鼻血で倒れるなんて日常風景過ぎてその考えには至らなかった!?

「…………弱点は克服するためにある」

『…………克服は諦めて輸血に頼ろうとする男に何ができる!』

脳内シミュレーションで出血を確認してすでに鼻血を出すことは前提で行動しているもんね。

『…………それにお前は本当にエロだけが理由で写真をやっているのか? 最初は写真を撮ることそのものが好きだったのに』

「…………それは言い訳だ。そうやって夢を簡単に諦めるお前など……」

「しまった!? なんかシャドウの方がまともなこと言っているせいでそのまま聞いていてしまった!?」

「よすんだ、ムッツリーニ、それ以上言っては!?」

「…………お前は……俺じゃない!」

『…………そうさ、俺はお前じゃない。俺は俺さ!』

僕たちの言葉は間に合わずムッツリーニのシャドウが具現化する。

 

 

そこに立つのは黒装束をまとい大量のカメラを下げて覆面を付けた忍者? または盗賊かっていう服装をしたシャドウ。

『…………夢? 信念? そんな叶わないものなんて見るだけ無駄というものだ!』

「ゆ、夢の内容があれだからシャドウがまともに言えただけで……」

「ムッツリーニが目を逸らしたかったのは夢を諦める自分だったということか……」

「まったく、雄二の言うことは全然当てにならないよね!」

「それに関しては謝るしかない」

雄二も反省してるようだし、こうなったら仕方ない。シャドウを倒してムッツリーニに受け入れて貰うしかない!

「よし、行くぜ、ジライヤ!」

陽介がジライヤを召還してガルーラを放つ。

『…………遅い』

しかしムッツリーニのシャドウはその攻撃を軽々とかわす。

「な、はやい!?」

「ちっ、クマ、分析を頼む」

「り、了解クマよ」

その様子を見て雄二がクマに指示を出す。

「ならその間にオレが責める! ペルソナァー!」

「完二! 焦らないで、大型シャドウ相手は慎重に!」

しまった、そういえば完二はこれが初戦闘だった。

「タケミカヅチ!」

完二のタケミカヅチが電撃を放つが……

『…………無駄だ』

しかしムッツリーニのシャドウは電撃を反射する。

「ぐあ、くそ、やってくれるぜ」

幸い完二は電撃には体制を持つ。戻ってきた電撃を受けたが完二はまだまだ平気そうだ。

「ちっ、思った以上に厄介な戦い方してくるな」

「ああ、俺も速度には自信があったんだがそれ以上だしな」

『…………今度はこっちから行くぞ』

ムッツリーニのシャドウが構え、放電する。これは……

「雄二、陽介、ガードを!」

僕は叫びつつペルソナをチェンジする。

「シーサー!」

叔父さんとの絆で力を得た法王のアルカナ、シーサーを呼び出し前に出る。

『…………ジオダイン!』

間に合った……僕は前に出てシャドウの攻撃をすべて受け止める。

「分析完了クマ! コータのシャドウはほとんどの攻撃を見切るクマよ、でも火炎攻撃には弱いクマね」

「そういうことなら! 明久を主軸で攻める。電撃魔法を使ってくるみたいだから、完二、明久とともに前に出て盾役になれ! 陽介と俺は後方で援護だ!」

さすがに雄二は指揮慣れしている。

「完二、無理はしない程度に防御重視でな」

「了解っス」

後輩に盾になれと平気で命令する雄二とそれに答える完二。対応してくれるってことは僕たちのことを信頼してくれているんだろう。

「ペルソナ!」

そして完二は指示に従いラクカジャをかけて守りを固める。

「明久、お前は攻めろ、ウラ!」

「援護するぜ、ジライヤ!」

雄二がタルカジャを陽介がスクカジャをかけて僕のフォローをする。

「カハク!」

魔術師のペルソナ、カハクを召還しアギラオを放つ。

『…………む、明久から女の子のペルソナだと!?』

ムッツリーニのシャドウの目が僕のペルソナに吸い寄せられる。やはりこいつのエロは変わってない。

『…………お前は男だ、惑わされないぞ』

しかし動揺は一瞬ですぐに気を取り直す。

「明久、もっと色っぽいペルソナはないのか!」

「お、おい、雄二?」

雄二が霧島さんに聞かれたら命が危うくなるような声をかけてくる。それに陽介も驚いたような声を出す。

「こいつも明久と同じで秀吉を女と思い込むようなバカだ、モノによっては通じるぞ!」

秀吉みたいな女の子と男らしい僕を一緒にしないでほしいが……

「そこまで言うなら試してやるよ!」

僕は心の中にあるペルソナから選択する……あまり使いたくないけどこれなら

「ティターニア!」

ティターニアがスカートを翻しその魔法力を集中させる。

「コンセントレイト!」

姉さんとの絆をあまり出したくないんだけど……色気と良いスキルと良いこのタイミングでは有効だ。

『…………もう少し……』

ムッツリーニのシャドウが体制を低くしてティターニアのスカートを覗き込もうとする。

『…………分析開始、3サイズは……』

「き、気を付けるクマよ、あいつこっちの様子を探っているクマ」

「問題ないよ、これで……とどめだ!」

僕は力を込めてペルソナを召還する。

「これは絆がなくてあまり力を発揮できてないけど……」

絆がないと僕のペルソナはあまり強力な力をつかえない。だけど……

「インキュバス!」

『…………な、なんだと。これは……詐欺だ!?』

ティターニアをのぞき込んでいたら出てきたのが男の淫魔インキュバス、これはショックも大きい。

「アギラオー!!」

そしてティターニアが溜めた魔力を一気に解き放つ。

『…………そ、そんなバカな!?』

その炎に焼かれムッツリーニのシャドウは倒れる。

「お前、結構むごいことするな」

「僕も友人にこんなことするのは辛かったよ」

でも……これもムッツリーニが自分を受け止めるためなんだ。

 

 

「…………」

「ムッツリーニ、大丈夫?」

目を覚ましたムッツリーニがもう一人の自分に目を向ける。

「…………俺は、自分のことすらわかっていなかったんだな」

「自分で自分がわからない……」

ムッツリーニの言葉にクマも考える様子を見せる。

「…………昔は純粋にカメラで写真を撮ることが好きだった。しかしそれをエロに使うようになりエロだけを考えているうちにそれしか見えなくなっていた」

それでこそムッツリーニという気もするけど突っ込まないでおこう。

「…………エロだけを目標にしていてそれを否定することは自分を否定されている気分に……変化していたはずなのに自分の変化を否定するなんてな」

そう言ってムッツリーニは自分の影に目を向ける。

「…………俺はお前で、お前は俺だ」

そして影はその言葉に頷く。

 

 

そしてシャドウはペルソナに変化する。

 

 

「…………明久」

「うん」

「…………それはそれとして久慈川りせのヌードは見たいから今回は一緒に行くから」

それでもムッツリーニはムッツリーニのままだった。

そして僕たちは女子たちと合流するために一度テレビの中から出ようとする。

「ねえ、アキヒサ」

最後に僕が出ようとするとクマが声をかけてくる。

「クマも……クマもコータみたいに本当の自分、見つかるかな?」

そういえばクマも自分が何者なのかって悩んでるんだっけ。

「僕もこの世界にいる間は一緒に探すからさ、頑張って探そうよ」

悩んでいるなら力になってあげたい。僕はそう考えてクマにこたえる。

「アキヒサ……」

 

『我は汝……汝は我

汝新たな絆を見出したり……

 

絆はすなわちまことを知る一歩なり……

 

汝、星のペルソナを使いしとき

我ら、更なる力の祝福を与えん』

 

土屋康太

アルカナ 隠者

ペルソナ ゴエモン

学力 Fクラス

 

ペルソナ解説 ゴエモン

有名な大盗賊石川五右衛門、様々な創作の中で義賊として扱われたことにより人気のある人物。

彼自身その生涯においてはさまざまな伝承がある。その一つとしてかれが伊賀忍者百地三太夫(百地丹波)に弟子入りし忍者の修業を受けたというのがある。そのため忍者としての能力を持つ盗賊とも言われている。

 

ペルソナ能力

耐性・電撃 弱点・火

 

スキル

ジオンガ・マハジオ・素早さの心得・トラフーリ

 

電撃系のスキルの他に素早さの心得(将来的にはマハスクカオート)や見切りなどの自動スキルを習得する。またはトラエストやトラフーリなども覚えるペルソナの仲間にしては珍しいタイプのキャラ。

また戦闘の他にも女性限定のサーチ・アナライズ能力も持つ。

 




ということでムッツリーニ編でした。ムッツリーニのペルソナ予想はわりと忍者系が多かったですが忠義の徒である忍者より盗賊、しかも義賊系のほうが良いんじゃないかと思い鼠小僧次郎吉にするか石川五右衛門にするか悩んで色々調べた結果五右衛門に。
そしてアルカナは今回はクイズにしてなかったけど皆さんの予想通り隠者です。
まあ、色々書くことはありますが今回はここで力尽きたんでこの辺で。では次回もよろしくお願いします。

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