マル久豆腐店ではりせちーが店番をしている。僕たちはばらけて見張りにつくことにした。
天城さんと里中さんは世間話をしているように見せかけ、陽介と完二は通行人。僕とムッツリーニは隠れて潜む。足立さんは割と堂々と姿を出している。
「オレ達、何往復するんスかね」
「立ち止まるな! 犯人が来たら気付かれるだろ!」
割とみんな目立っている……
「…………明久」
みんなの様子を見ている僕に話しかけ電柱の上を指さす。
「え? 犯人か!?」
そこには小太りでカメラをぶら下げリュックを背負った男が電柱に登ってマル久豆腐店の様子を探っていた。
「誰だ!」
足立さんが男に問いかける。
「!?」
その声に反応し男はその体に似合わない速度に逃げ始める。
「あ、逃げた!」
「急いで追いかけないと!」
「待ちやがれ!」
足立さんに言われて僕たちは慌てて犯人を追いかける。
そして車通りの多い道で犯人は止まり追い詰める。
「もう逃がさないよ!」
「く、来るな!」
僕の言葉に犯人は焦ったように言う。
「るせ、んなの聞くバカが……」
完二の言う通りここで犯人を逃がすわけにいかない。
「飛び込むぞ、僕が車に轢かれてもいいのか!?」
「勝手に轢かれろ!」
今まで二人の人間の命を奪い、さらに二人をテレビに放り込んで危険にさらしたやつが勝手に轢かれようと知ったことじゃない。
「だ、駄目だよ! 被疑者が怪我したら警察の責任を問われていっぱい怒られ……」
構わずに飛び掛かろうとする僕を足立さんが止める。
「マジで飛び込んじゃうぞ! ホラ、行けよ、もう!」
足立さんの言葉に調子に乗って犯人は僕たちを追い払おうとする。
「…………甘い」
いつの間にか回り込んで犯人の視界から外れていたムッツリーニがスタンガンを構えて飛び掛かる。
「ぶぎゃ」
スタンガン(改造済み)を食らい犯人が潰れたカエルのような声を上げる。
「ナイス、ムッツリーニ」
「…………明久たちが注意を逸らしてくれたおかげ」
僕たちはそのまま犯人を引きずって道路から離れさせる。
「きっ、君らね、善良な一般市民にこんな真似して……」
「るせえ! 人様ぶっ殺しといてテメェはそれか!? あぁ!?」
犯人の言い様に完二は怒りの声を上げる。僕も同じ気分だ。
「明久! 何があった!」
「遅いよ、雄二! もう全部終わった後なんだから」
そこに今更雄二たちが現れる。
「……何があったの?」
「全部終わったって……まさかこいつが殺人犯人?」
霧島さんと美波も僕たちに問いかける。
「はぁ? ちょっとタンマ!? 殺人とかって何のこと!?」
「とぼけるなよ!」
この状況でまだ言い訳しようとするのか。
「ちょっと待て、とりあえず状況を説明してくれ」
雄二が犯人と言い争うとする僕を止める。
「うん、わかったよ」
「それじゃ、僕はこいつを連行するから。犯人逮捕にご協力感謝します!」
話を始めた僕たちに足立さんが声をかけてきて犯人を警察まで連れていく。なので僕は雄二たちに状況を説明する。
「バカか! お前ら、あいつはただのスト-カーだ! 急いでマル久豆腐店に行くぞ」
「え!?」
雄二に言われて僕たちは急いでマル久豆腐店に戻る。
豆腐屋ではお婆ちゃんが一人で店番をしていた。
「あ、えっと、りせさんは……」
「りせに用事かい? 生憎あの子は出かけちゃったみたいだよ」
僕たちの問いにお婆ちゃんが答える。
「ついさっきまでいましたよね?」
「たまにあるんだよ、黙って出て行っちゃってね。まあ、色々くたびれているようだし、許してやっておくれね」
「くそっ、お前ら、なんで全員で追いかけたんだ!」
雄二が悔しそうに言う。
「す、すまん。犯人だと思ってつい……」
雄二の言葉に陽介が謝る。
「いや、すまん、ここに来るのが遅れた俺たちにも責任がある」
雄二が冷静さを取り戻したのか、頭を切り替える。
「……今夜も雨が降るはず」
霧島さんが天気予報を僕たちに伝える。
「そうか、もし誘拐されたとしたら今夜のマヨナカテレビに映るはず」
「そうだな……さすがにこの状況じゃ気になる。明日遅刻はするが俺は今日こっちに泊まろう」
陽介の言葉に雄二が答える。そうか、雄二は直接マヨナカテレビを確認する気なのか。
「…………何の話?」
しまった!? 誘拐事件のほうに夢中になっててムッツリーニの存在を忘れてた!?
「えっと……マヨナカテレビっていうのは真夜中に流れる……エロ番組だよ!」
僕は慌ててマヨナカテレビの存在を誤魔化す。
「…………俺も泊まろう」
「しまったーーーー!? ムッツリーニ相手じゃ逆効果だった!?」
「それじゃ、ウチらも泊まろうか?」
ムツリーニの決意が固いことで諦めたのか美波が雄二に問いかける。
「いや、翔子と島田は帰って良い。俺達と揃って遅刻したらFクラスで暴動が起きる」
確かに事件が起こったとしたら無駄に命の危機を増やすのは不都合だ。
僕の家に二人泊めるのは無理だということで雄二は陽介の家に泊まることになり、ムッツリーニは僕の家に泊まることになった。
「…………明久、テレビは何時からだ?」
「えっと、12時だよ、何だったら寝ててもいいよ、時間になったら起こすから」
僕は何とかムッツリーニを騙して眠らせて一階でマヨナカテレビの確認をする。
そして12時……
テレビに鮮明な画像が映る。これは……
『マルキュン! りせチーズ! みなさんこんばんは、久慈川りせです!』
そこには劇場みたいな場所で水着姿の久慈川りせが映った。
『この春からね。私進級して、いよいよ花の女子高生アイドルにレベルアップ、やたー』
彼女のことをよく知らないからかもだけど今のところ天城さんや完二の時ほどの違和感を感じない。
『今回はですね、それを記念して、もうスゴイ企画に挑戦してしまいます!』
スゴイ企画?
『えっとね、この言葉、聞いたことあるかなぁ? スゥ・トォ・リィッ・プゥー』
スゥ・トォ・リィッ・プゥー? スゥトォリィップゥー……ストリップ!?
『ん、もう、ほんとにぃ?』
それを聞きたいのは僕のほうだ!くっ……想像しただけで鼻血が……
その瞬間、2階の僕の部屋のほうから
ブハァァァ!
大きな音が響き渡る。
「ま、まさか……」
マヨナカテレビも、そのあと少しして終わったので僕は急いで部屋に戻る。
「うわ!?」
部屋の中は血まみれになっていた。
「明久、今の音は何だ?」
そこにタイミングが悪く叔父さんも上がってくる。
「おい、なんだ、この部屋の惨状は!?」
血まみれの部屋を見て叔父さんの顔が刑事に切り替わる。
「…………あ、明久」
「なにがあった!?」
声を出すムッツリーニに叔父さんが声を聞き取ろうとする。
「…………ストリップ」
その言葉を聞き血の発生源がムッツリーニの鼻と認識した叔父さんが刑事の顔から叔父の顔に戻る。
「明久、お前もそういう年頃だ。そういうのを見るなとは言わないが……奈々子もいることを気遣ってくれよ。あと部屋をきちんと掃除しておけ」
そう言って僕の肩をたたいて部屋から出ていく。
結局、その後ムッツリーニに輸血して部屋の掃除をしていたら夜は明けていた……
そのころ花村家
「なあ、雄二、明久が電話に出ないんだが……」
「ああ、あのマヨナカテレビだ。今頃鼻血の処理に追われているんだろう」
「はは、まさか、いくらなんでもあれで鼻血はないだろ」
「明久がドジしてムッツリーニにマヨナカテレビを見せたら確実に血の海だがな」
りせ編に本格的に突入しました。ちなみに明らかにムッツリーニ参戦フラグ立ってますが今回はアルカナクイズはなしです。ムッツリーニじゃ正解者数が多くなりすぎそうだし……
では次回もよろしくお願いします。