僕たちは雄二と合流してマル久豆腐店にやってきた。そこにはすでに人だかりができている。
「ん、あれははなにやってるんだ」
「あれ? 足立さんじゃないかな」
マル久豆腐店の前ではなぜか足立さんが交通整理をしていた。
「刑事さん、何かあったんですか?」
陽介が足立さんに話しかける。
「いやぁ……野次馬が次々と車で押しかけて、商店街の真ん中で止まろうとするからさあ」
「久慈川りせを見に来たのかな?」
足立さんの言葉に僕は聞いてみる。
「あ、君らもしかしてもう見た? 居たの? どっち?」
足立さんもりせちーに興味あるのかな? 逆に問いかけられる。
「いえ、俺たちも今来たところですから」
陽介がそう説明をする。
「交通課でもない刑事がこんなところで何やってるんだよ?」
暢気にしている足立さんにいらついたのか完二が少し荒っぽい口調で訊ねる。
「え……あ、いや、えっと、稲羽署小さいし、人手が足りなくてさ、じゃ、まだ仕事あるし……またね」
そう言って足立さんは慌てて帰っていく。
「しかしただごとじゃねーな。警察が出てくるなんて」
「あの刑事が個人的に野次馬に来た可能性は否定できないけどな」
「はは、確かに警備に来たにしては頼りにならなそーっスね」
さすがにサボって見に来たわけではないと思う。そんなことしてたら叔父さんに怒られるだろうし。
「けどどうしよう、この状況じゃりせちーがいるかわからないよ」
人が多くて店の中がわからない。
「ああ、それなら問題ない。聞いてみれば良い」
「聞いてみるって誰に?」
僕の疑問に雄二が無言で指を刺す。ってあれは!?
「ムッツリーニ!?」
そこには見覚えのある人物がいた。
「…………明久? なぜここにいる」
「いや、ここ今は僕の地元だから! ムッツリーニこそ何でここにいるのさ!?」
「…………通りすがり」
文月に住んでいるムッツリーニにその言い訳は苦しいだろう。
「久慈川りせの写真を撮影にわざわざ来たってとこだろう」
「…………そんなことはない」
いつものように首を振って誤魔化すが女の子の写真のためならこいつはそのくらいやるだろう。
「まあまあ、それで、りせちーはいたのか?」
陽介が本題に入る。
「いないんじゃないか? いたならこいつがのんびり俺たちと話しているわけがない」
たしかに、ムッツリーニなら僕たちとの会話なんかより撮影を優先するはず……
「…………甘いな、もう少し様子を見てみろ」
「へ?」
ムッツリーニの言うとおり少し下がって様子を見ることにする。
「はい、失礼、ちょっと道開けて」
そう言葉をかけて店から出てきたのは……
「叔父さん!?」
「明久か、こんなところで何やってるんだ?」
となるとやっぱり足立さんはサボってたわけではないんだ。
「なにって……りせちーを見に来たんだけど」
「そう言えばお前ファンって言ってたな……」
「そ、そうなんスよ。俺たちもファンで……」
僕の言葉に陽介も続ける。
「そっちのは初顔だな」
叔父さんはムッツリーニのほうに視線を向ける。
「あ、うん、雄二と同じで向こうの学校の友人のムッツ……」
「…………土屋康太」
僕の言葉にムッツリーニが被せて言う。
「……はぁ。まあ良い。いくら芸能人だろうとここは自宅だ。迷惑にならないようにするんだぞ。勝手に写真を撮るとかの行為はしないように」
ムッツリーニの持っているカメラに視線を向けてそう注意をする。その言葉にムッツリーニも渋々と頷く。
そして確認して叔父さんは去っていく。
「刑事がいたからムッツリーニは無理な撮影をしなかったの?」
「…………まさか注意までされるとは思わなかった」
叔父さんが声をかけてきたのは僕のせいだよね。ムッツリーニには悪いことをしたかも。
「しかし明久の叔父さんまで来てるってことは警察も久慈川りせが狙われる可能性を考えているのか」
雄二がそう呟く。
「それになんか先輩方疑われてないっスか」
「僕たち一度補導されかかってるからね……」
あの時は武器を持ってるだけで補導されるとは思わなかった。
そう話していると店の中にいる野次馬がぞろぞろと店から出てくる。
「んだよ、婆さんだけでりせちーいないじゃん」
「もうこの町にいるって聞いたけど、ガセネタ踏まされたってことかな」
その会話が周囲にも聞こえたのかそとで集まっていた野次馬もみんな帰っていく。
「え!? ガセネタ!? いねーの!?」
そして陽介が悲痛な声を上げる。
「ぷ、なんだ今のダセー声」
完二が陽介の様子を見て笑うが、
「ち、翔子がいないチャンスなんて滅多にねーのに」
「だよね、美波がいないときに会っておきたかったのに」
僕と雄二はこのチャンスを逃すことを悔しがっていた。
「…………安心しろ。ちゃんといる」
ムッツリーニが僕たちにそう声をかけてくる。
「本当!?」
「…………俺の嗅覚をなめるな」
ムッツリーニが自信ありげに僕の言葉に答えてくれる。
「そっか、俺自腹でなんか買うから入ってみようぜ」
さっきの態度と裏腹に陽介が張り切って中に入ろうとする。
「あ、俺豆腐食えないわ」
「あ……んならがんもでも買えばいいじゃないっスか」
「僕が夕飯で使う分買うから大丈夫だよ」
話をしながら僕たちは店に入る。
「いつもの婆ちゃんしかいないんじゃねーか?」
薄暗い店内に入ると割烹着姿の人影がひとつ見える。それに対して陽介が疑問をあげる。
「…………いや、あれが久慈川りせだ」
「うん、だよね」
「ああ、婆さんには見えないな」
「お前らおかしいだろ!? なんでこの薄暗い店内でわかるんだよ!?」
普段から闇討ちに危険性を知っていればこの程度なんともないと思うけど……
「……何? あんまり店内で大声ださないでほしいんだけど」
陽介の言葉に女の子が振り向く。間違いない、りせちーだ。
「…………写真撮影を許可してほしい」
叔父さんに釘を刺されたからか珍しくムッツリーニが許可を取って撮影をしようとする。
「悪いけどそう言うのは断ることにしてるから」
「…………そうか」
ムッツリーニががっくりと落ち込む。
「用はそれだけ?」
「そうじゃないよ、夕飯用に豆腐を買いに来たんだ」
「あ、俺も、がんもを」
僕と陽介がそれぞれ注文をする。
「わかった、待ってて」
それに対してそう答えて袋に入れてくれる。
「な、なんかテレビで見るのとイメージ違うな」
「芸能人なんだからそんなものじゃないか?」
陽介の言葉に雄二が答える。
「作ったキャラより素で接してくれる今の方がいいと思うよ」
せっかく知り合ったんだからテレビで作った性格よりも普通に接してくれたほうが僕は嬉しい。
「はは、明久先輩らしいっスね」
「それより本題に入るぞ」
「本題って? りせに会えたからこれでミッションしゅうりょ……ってそうだ、ただ野次馬に来たんじゃなかった!」
雄二の言葉に陽介が本題を思い出したようだ。
「あ、あの、最近変なことなかった?」
陽介が声をかける。
「変なこと? ストーカーとかって話?」
「明久、ストーカーは犯罪だぞ」
「僕はやってないからね!?」
「えっと、君たち私のファンってこと?」
僕のストーカーのところはちゃんと冗談と受け止めてくれたようだ。
「オレは違うけどな」
完二がそう答える。
「僕はファン」
「お前よく堂々といえるな」
「花村先輩もファンでしょ、あの胸……あの腰つき……そしてあの無駄の無い脚線美とか言ってたじゃないっスか」
「わーわー、お前余計なこと言うな!?」
完二は教室での言葉をあっさりバラす。
「お前たちバカ話はその辺にしておけ。ところで真夜中に映るテレビの噂を知っているか?」
雄二が話を本題に戻す。
「……昨日の夜のやつ? マヨナカテレビだっけ」
「あ、知ってるんだ」
「え!? 昨日見たの?」
ということは自分が映っているのを見てしまったって事!?
「…………何の話だ?」
ムッツリーニが問いかけてくる。
「エロとは関係ない話だ」
「…………なら良い」
ムッツリーニは大変わかりやすくて助かる。
「噂は知り合いから聞くことがあったし。でも昨日映ってたの私じゃないから、あの髪型で水着撮ったことない」
水着という言葉にムッツリーニが反応しているように見えるが今は放置。
「それに胸が」
「は?」
「胸、あんなないし」
「…………確かに公式で発表されているよりもサイズが小さい」
胸のところにだけ反応してムッツリーニが呟く。幸い聞こえてないみたいだけど。
「あれって何が映ってるの?」
「僕たちもはっきりしたことはわからないけど、もしかしたらあれに映った人が誘拐されるかもしれないんだ」
僕の言葉に彼女が驚いた顔をする。
「信じられないかもしれないが可能性はある。だから身の回りには注意をしてほしい」
雄二が続けて言う。
「ふうん、あれやっぱり夢じゃないんだ。昨日は疲れてたんだけど眠れなくてちょうど雨降ってたから聞いてた噂試しただけなんだけど……わかった。ありがとう。気をつける」
僕たちの説明で周囲には気をつけるようにしてくれたみたいだ。
そのあと僕たちは豆腐をおまけしてもらって帰ることにした。
活動報告にも書きましたが私のパソコンがお亡くなりになりました。今は知人の使わなくなった古いノートを無償で借りているんですがさすがにいろいろ不便な状態です。
その他にもここ数ヶ月色々個人的トラブルがあって金欠状態……買い換えるまで2ヶ月近くかかりそうです。それまでは少し更新ペースが落ちるかもしれません。週一くらいで上げれるようにはしたいと思いますがご了承ください。
では次回もよろしくお願いします。