バカと田舎とペルソナ   作:ヒーホー

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第七十話

今日は清涼祭二日目、いよいよ決勝だ。

「明久くん、頑張りましょう!」

パートナーの姫路さんが声をかけてくる。考えてみると霧島さんと天城さんに頼んで勝つよりは僕たちが実力で勝った方が意味はある。

「俺たちも応援してるからな」

店の方は昨日僕を追い回してサボったのを理由にFFF団に押し付けたので仲の良い友人たちは見に来てくれることになっている。

雄二のおかげで午前中に受けた補充試験はかなりの点が取れた。

「それじゃ、決勝戦に行こうか」

僕と姫路さんは決勝戦の舞台に行く。

 

 

対戦相手は霧島さんと天城さん、操作技術でも点数でも今までの相手と比べ物にならない強さだろう。

先生が観客に試験召喚獣の説明をする中、霧島さんが僕に話しかけてくる。

「……吉井、悪いけど雄二と出かけるのは私」

え? 出かけるってなんの話?

「……吉井と雄二がデートではなく、仲の良い友達として如月ハイランドに行きたいのはわかる。でも私も雄二と行きたい」

「ええ!? デートじゃないんですか!?」

霧島さんは僕たちにそういう趣味がないことを理解してくれている。でも……

「姫路さん! 僕にそういう趣味なからね!」

そもそも僕はプレオープンの日には如月ハイランドに行けないのに……天城さんそのことを霧島さんに話してないのかなあ……

「ねえ、天城さ……」

僕がそのことについて天城さんに問いかけようとしたけど……

「それでは、試合開始!」

説明を終えた先生が試合開始を宣言してしまう。

「「「試獣召喚(サモン)」」」

「くっ……試獣召喚(サモン)

試合が始まったからには召喚をしないと敵前逃亡になってしまう。女の子達に続いて僕も召喚をする。

 

Fクラス  姫路瑞希

日本史   403点

   &

ゲスト   吉井明久

日本史   192点

    VS

Aクラス  霧島翔子

日本史   437点

   &

ゲスト   天城雪子

日本史   395点

 

このハイレベルの戦いの中僕だけが点数が低い、救いは姫路さんがギリギリ腕輪をつけていること、天城さんがギリギリ腕輪に点数が届かなかったことくらいだろう。

「吉井くん、随分点数伸ばしてるね」

天城さんが驚いたように僕の点数を見る、

「……うん、吉井相手ならこの程度の点数差ないと思ったほうがいい」

それに二人共この点数差でも油断する気配など全くない。昨日戦った常夏コンビは点数差で侮ってくれたのに……

どうやってこの二人と戦うか……天城さんはともかく問題は霧島さんだ。

点数は圧倒的に高く、ここの生徒なので召喚獣は扱い慣れている。幸いFクラスとの戦争では召喚獣は使っていなかったらしいけどそれでもテレビの中での経験がある。

姫路さんは戦争でFクラスのエースとして参加したらしいけどそれでも霧島さんに勝つのは難しいだろう。

「僕がやるしか……ないか」

「吉井くん、私が霧島さんと戦います」

決意を込めて霧島さんと戦おうとする僕に姫路さんが声をかけてくる。

「姫路さん、でも……」

「ここまで私はずっと吉井くんのお世話になりました。最後くらいは私にも頼ってください」

最初の方は姫路さんに任せっぱなしだったし木下さんの相手をしてもらったのも、常夏コンビの時も姫路さんのおかげで勝てたんだけど……

「それでは、行きます!」

僕が止める前に姫路さんの召喚獣が大剣を振るって霧島さんの召喚獣に向かう。

「それじゃ吉井くんの相手は私だね」

救援に向かおうとするが僕の前には天城さんが立ちはだかる。

「……雪子、吉井は二倍くらいなら逆転させれる。気を付けて」

「うん、千枝はかなりの点数差で負けたからね、翔子も気を付けて」

天城さんは両手に鉄扇を構え、守り重視の戦闘態勢を取る。短期決戦も難しそうだ。

「それじゃ、行くよ、天城さん」

点数差だけでなく武器の差もある。僕が木刀一本、向こうは鉄扇を両手に持ってるので二本、救いは天城さんの召喚獣は和服なので防御力は高くないことだろう。

僕は木刀で天城さんに打ち掛かる。だがそれを片手で軽々と止めてもう片方の手に構えた鉄扇で反撃を仕掛けてくる。その攻撃はなんとか回避するけど……

「こちらが両手で攻撃してるのに受けれるなんて筋力に差があるなあ……」

「うん、召喚獣なら出来るけど私のペルソナの力じゃこんなことできないけどね。これはこれで面白いかも」

確かに天城さんのペルソナは魔法タイプ、物理スキルは使えない。普段できないことをやるのは楽しいだろうなあ……

僕は天城さんと戦いながら姫路さんと霧島さんの戦いの方の様子を見る。

なるほど、確かに姫路さんも戦い慣れているだけある。点数で劣っているのに霧島さんと上手く戦えている。

「……さすがにFクラスは試召戦争慣れしているだけはある。思ったより強い」

「霧島さんこそすごいです。代表だからあまり戦場に出ていないはずなのに操作が上手ですね」

二人の試召戦争の経験は姫路さんは二つのクラスで最前線で戦っていて、その後ほぼ同格の久保くんと一騎打ちをして勝っているらしい。

それに対して霧島さんはCクラスと試召戦争をしているらしいが代表なのでほとんど戦闘はしていない。Fクラスとの一騎打ちも召喚獣ではなくテストの点数で戦ったから戦闘はしていない。ただ霧島さんは僕たちと一緒にテレビの中での戦闘経験がある。

姫路さん召喚獣の大剣を霧島さんの召喚獣が刀で受け止める。このまま反撃するかと思ったけど受け止めたまま力比べに入る。召喚獣をうまく使えばあの攻撃は受け流せると思うんだけど……でもこの調子なら勝てる可能性もあるし。勝てないにしろしばらくは任せても良さそうだ。

僕は天城さんとの戦いに集中することにする。

「さすが吉井くん、翔子たちのほうを見る余裕があるなんてね」

「向こうでも自分が戦いながら戦場全体を見ていたからね、慣れだよ」

戦いながら戦場全体を見渡す。これは向こうでも僕と雄二は割と当たり前にやっている。そしてこういうスキルは試召戦争でも割と活かせることがわかった。雄二は敗戦による戦争禁止期間が終わったら活用するんだろうな。

話しながらも攻撃を仕掛けるが天城さんはなかなか防御が上手い。僕も他の教科と比べたら動きも速いのにその動きについてきている。

反面攻撃はあまり得意じゃないのか僕自身もダメージはない。

「私の方がスピードも力もあるのになんで当たらないの!」

「あはは、攻撃っていうのはそれだけじゃないからね。攻撃の軌道を読んだり受け流したりすれば力や速度に劣っていても防げるもんだよ」

天城さんも僕の攻撃を予測して防いでるところもあるし。

「あー! コノハナサクヤならアギが使えるのに!!」

天城さんに腕輪がなくてよかった……魔法を使い慣れている彼女なら腕輪の能力もうまく使えただろうし……

「あ!」

そうか、そういうことか……霧島さんも、天城さんも防御は上手いけど物理攻撃が下手なのはそういうことか。そういうことなら!

僕は召喚獣にわざと隙を作らせる。

「チャンス、行くわよ!」

当然天城さんはその隙を逃さず打ってくるが……

「隙有りはそっちも同じだよ!」

僕はその攻撃に全力でカウンターを入れる。

「くっ……」

「キャッ」

 

ゲスト   吉井明久

日本史   99点

    VS

ゲスト   天城雪子

日本史   DEAD

 

天城さんの攻撃を完全に避けきることはできずに肩をかすめるが僕の木刀は天城さんの召喚獣に致命傷を与える。

天城さんと霧島さんのペルソナは魔法タイプ、防御の方は向こうで慣れているけどペルソナによる物理攻撃は不慣れだ。なら一番隙ができるのは攻撃の瞬間だ。

しかもカウンターで入ったから威力も高まっている。

「あ~あ、負けちゃった」

「紙一重だよ。天城さんも召喚獣を使うのはこの大会が初めてなのにすごいよ」

「うん、ありがと」

僕は天城さんと会話を交わす。

「!?」

視界の端で光が見える。これは腕輪を使ったのか!?

僕は慌てて姫路さん達の方の方を向く。

 

Fクラス  姫路瑞希

日本史   DEAD

    VS

Aクラス  霧島翔子

日本史   289点

 

互角に戦っていたが結果としては姫路さんの敗北。でも霧島さんもかなり点数は減らしている。

そうか、霧島さんは直接攻撃は苦手でも魔法を使う経験で腕輪を使えるわけだ。

他のメンバーはペルソナ慣れしていてもスキルなしで戦っているようなもんだけど霧島さんは腕輪の能力によるスキルもあるということだ。

「……吉井、勝負」

こうなると天城さんに点数を削られたのが厳しい。ほぼトリプルスコア、しかも霧島さんには腕輪があるわけだし。

もっとも、姫路さんだからこそ霧島さんの点数を100点以上削れたんだろうけど……

霧島さんの召喚獣が刀を構えてこちらに向き直る。木刀と刀……装備でも劣るし、しかも霧島さんの召喚獣みたいにしっかり鎧を着込んでいると木刀で殴ってもダメージを与えられる気がしない。せめて真剣なら……

「ごめんなさい、吉井くん、もう無理しないでいいですよ」

攻めあぐねている僕に姫路さんが声をかけてくる。

「そういうわけにいかないよ、この勝負負けられないんだ」

シャドウとの戦いみたいに命がかかっているわけではない。でもこの戦いにもかかっているものはあるんだ。

「どうして吉井くんはそんなに一生懸命に……?」

「姫路さんの転校……」

「え?」

「僕は転校が悪いことだけではないと思っている」

僕は転校して陽介や里中さん、天城さんと友達になれたし転校しても雄二たちとの関係も続いている。

「でもそれでも身近に転校した結果苦労した友人もいるから」

転校というわけではないけど美波は去年大きく変わった環境で馴染めずに苦労した。

陽介はジュネスの息子ということで苦労をしている。

「だから僕は姫路さん自身が決めるなら転校しても良いと思ってる。せめて自分で選べる状況にはしたいと思っているから」

Fクラスがあまり良い環境じゃないことは確かだと思う。でもこの学校が楽しいということも間違いない。決めるのは両親じゃなくて姫路さん自身であってほしい。

「だから霧島さん、全力でいかせてもらうよ!」

僕は気合を入れ直して召喚獣に向き直る。

 

『我は汝、汝は我』

 

その時頭に声が響き僕の召喚獣が変化する。

学ランっぽい服装はあまり変化はないが高下駄に身の丈ほどもある太刀、何よりその仮面……その姿はまるで……

「イザナギ……」

そう、僕のペルソナであるイザナギがデフォルメした姿に変化した。

「……ペルソナ?」

霧島さんも表情はあまり変わらないけど驚いている。

観客の方からも驚きの声が上がる。

「お、おお! 吉井くんの召喚獣が変化した!」

実況席ではこれが学園側の用意したものと思っているのか盛り上げるが審判の先生の驚いた顔を見る限りこれが不測の事態だとわかる。

そうか、これがイザナギなら!

「イザナギ、ジオだ!」

僕も腕輪を使った時みたいに魔法が使えるかも!

期待して僕はいつもの感覚で魔法を放とうとするが……

 

シーン

 

「魔法スキルは使えない!?」

「……危なかった」

警戒してた霧島さんがほっとしたように言う。

「……魔法がないなら」

霧島さんの召喚獣が攻めてくる。

「やらせない!」

僕の召喚獣の武器はもう木刀ではない。重量があり十分威力もある太刀だ。

「……強い」

そして僕にとっては今は召喚獣以上に馴染んでいるイザナギ、技もスピードも前より上がっているような気がする。

「……ならこっちも」

霧島さんの腕輪が発動する。

「……イザナギの弱点は疾風」

霧島さんの腕輪の能力もペルソナと同じで複数の属性か!

「なら使われる前に倒す!」

魔法スキルが使えないなら物理ならどうだ!

「スラッシュ!」

イザナギが太刀を振るう。

 

 

ゲスト   吉井明久

日本史     1点

    VS

Aクラス  霧島翔子

日本史   DEAD

 

 

「……私の負け」

「勝者、吉井明久、姫路瑞希ペア」

審判が僕たちの勝利を告げる。

「痛い、体中が疾風に切り刻まれうように痛い!?」

なぜか復活したフィードバックに苦しむ僕を背景に……




翔子の腕輪の能力って未だに謎ですよね。最終巻では出るのかなあ。でたら修正必要かも。
ということで決勝でした。
明久の召喚獣の覚醒については次回話します。このくらいしないと翔子に勝てないだろうという強引な手段なんですけどね。
瑞希にあまり活躍させれなかったのがちょっと心残りです。
では次回もよろしくお願いします。

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