坂本雄二視点
試験召喚大会第4回戦、一般公開のこの試合、俺と陽介の相手は今まで俺たちの店の営業妨害をしてきた二人組の片割れだ。
「けどよ、雄二、厄介って言ったけどあのモヒカンだろ? そんなに用心するほどの相手なのか? あんま頭よさそうに見えねえけど」
陽介の言うことはわかる。どう見てもチンピラのあいつらだ、普通は成績が良いとは思わないだろう。
「侮るなよ、あいつらはあれでAクラスだ」
「マジで!?」
残念ながら真実だ。チンピラのくせにそれなりの成績をとっているということだ。
「それに三年生は俺たちより一年長く試験召喚獣を扱っているからな。操作の方もそこそこのレベルのはずだ」
俺も陽介もテレビの中という実戦で鍛えてはいるが三年生も一年間の試験召喚戦争経験者だ。
操作能力が確実勝っているとは言えない。明久ほどの腕があれば別なんだけどな。
「それで、なんか作戦とかはあるのか?」
「一応な、といっても小細工はできないから戦い方という形になるけどな」
同学年相手ならある程度情報を持っているが流石に試召戦争に3年生のデータはない。妨害者が出ることは予想できたがそれが誰かまでは実際に現れるまでわからなかったしな。
「ま、なんとか頑張ってみようぜ」
「ああ」
俺と陽介は試合会場に出た。
「来たな、坂本、さっきの礼はしてやるからよ」
モヒカンの先輩が俺たちに声をかけてくる。
「常夏先輩だったか? セコイ営業妨害をしておいて追い返されたら恨むなんて逆恨みもいいところだ」
「てめえ……人の名前すらも覚えれねえほどバカなのかよ」
明久なら覚えてないかもしれないが俺の場合はわざとだ。コイツの名前は常村、相棒の坊主頭の夏川とまとめて常夏コンビと呼んでいるだけだ。
「それで、お前らはなんでこんなことしてるんだ?」
「てめえに教える必要はねえよ」
「ふん、どうせ教頭あたりに推薦でもチラつかされて協力しているってところだろ」
その言葉に常村だけでなく相手の相棒の顔色まで変わる。わかりやすいやつらだな。
「お、おい、雄二、それってどういうことだよ」
陽介が俺に疑問をぶつけてくる。
「状況から予想はしていたことだ。学園内でババアへの反抗勢力になりそうなやつという点と仮にもAクラスの奴が協力してるんだ、推薦というレベルの餌は必要だろう。それが出来るくらいの権力もあるということだしな」
「ちっ、Fクラスのバカのくせに悪知恵だけはあるな」
「常村くん、落ち着くんだ、それを知ったところで彼らは何もできないだろう」
教頭の方は多分他校とも結託しているんだろう、ということは相棒もそれなりの点数か。
「はっ、そうだな、Fクラスのバカやそのダチごときが俺たちに勝てるわけねえしな」
「「「「
俺達が一斉に召喚をする。
Fクラス 坂本雄二
古典 217点
&
ゲスト 花村陽介
古典 175点
今回は三年生の対戦相手と当たりそうな古典は重点的に勉強をしておいた。
そして今回わかったが陽介も話に聞いてたよりも点数は良い。おそらくこいつも頭が悪いわけではなく普段はサボっているだけなんだろう。
遅れて対戦相手の点数も表示される。
Aクラス 常村勇作
古典 224点
&
ゲスト 田中太郎
古典 420点
なんだ、あいつ!? いかにもテンプレなモブ的名前のくせに400点超えだと!?
「常村くんは理系だからね、苦手教科を補完するために文系の僕がコンビなんだよ」
「なんだ、あいつ、モブ名前のモブ顔のくせにドヤ顔浮かべて威張ってやがる」
陽介も驚きの声を上げる。
「思ったより点数は高いが……作戦を伝える。点数が高くても所詮は操作は素人、片方があっちのモブ顔を倒したあと二人がかりでもうひとりのモヒカン野郎を倒す」
この場合は点数が高く、一応は召喚獣の扱いに長けている俺が400点超えのやつと戦うほうがいい。
「陽介、相手は操作が上手いが持ちこたえられるか?」
「任せろ、俺の召喚獣もペルソナと同じで動きは速いぜ!」
確かに陽介は防御が得意だ。召喚獣の装備もナックルの俺より防御向きと言われている小太刀だ。しかも本人の心を映しているせいか向こうと同じで二刀、それに鎧とかを着ないで防刃性のコートを羽織っている。白い学ランの俺より明らかに性能が高い。というより俺と明久の装備は明らかに差別されている気がするけどな……
「いくぞ!」
俺と陽介は飛び出して戦闘を開始する。
「へっ、良いのかよ、坂本素人が俺と打ち合えば速攻で終わるだけだぜ」
普通の素人なら実際そうだろう。点数も操作の経験も上の相手には勝てない、だが……
「てめえこそ素人にボロ負けしたあとの言い訳を考えておくんだな」
俺は陽介が負けるとは思っていない。
「おい、田中、腕輪には気をつけろよ、間違って俺を巻き込むなよ」
「この点数差だと使う必要があるかすら疑問だけどね」
今まで他の二年生と戦っていた経験からかモブは余裕の表情を浮かべる。
「それを負けフラグって言うんだよ!」
余裕の表情で常村の方によそ見したバカに俺の召喚獣が拳を叩きつける。
「な、なんだと……!?」
俺の召喚獣も200点越え、それに……ぶん殴ることはペルソナでもやってることだ。二倍近くの点数を倒すなんて明久のバカは普通にこなすことだ。なら俺だって素人相手になら充分やれる!
「Fクラスのくせに舐めるなよ!」
相手の武器はハルバードか、重量武器を力任せに振り回す。俺はそれを回避しようとバックステップをする。
「ちっ……明久ほど器用にはいかねえか……」
避けきれずに攻撃がわずかにかする。防具を着けていれば防げたんだろうが所詮は学ランだしな……
「ふん、防具すらまともに付けないなんて、本当にFクラスの装備は貧弱だね、射程も禄にないその武器で僕に勝てるはずがない」
そのまま相手は武器の射程を活かして振り回してくるが……
「は! 甘いんだよ!」
来るとわかっている攻撃を避けられないほど操作は下手じゃない。俺は攻撃をかわしつつ重量武器を避けられたことでバランスを崩した敵の召喚獣に一撃を入れて下がる。
しかしこの方法だと時間かかりそうだな……
そう思った俺は少しずつ召喚獣を移動させながら相手を挑発する。
「ヘタクソが、そんな腕で本気で俺に勝てると思ったか? お前はバカと見下したFクラスの俺に負けるんだよ」
「下手な挑発だね。でも確かに逃げ足だけはあるようだ。なら逃げられない一撃を放ってあげよう」
そう言ってやつは腕輪を使おうとする。
「陽介!」
チャンスとばかりに俺は陽介に声をかける。
花村陽介視点
俺は400点超えのやつは雄二に任せて常村とかいう3年生と対峙した。
「やれやれ……俺たちはせっかくお前らが観衆の前で恥かかないようにしてやろうと思ったのにそれが分からないとはな、お前も坂本や吉井と付き合っているだけあってバカなのか?」
モヒカンが俺をバカにするように言ってくる。
「バカで結構じゃねえか、バカのほうが良い結果だすってこともあるぜ」
明久と裕二がバカだということは否定しない。だけど俺はこのバカたちと出会ってからの生活が好きになっている。
「誰かの為にバカになるっていうのは案外悪くないぜ」
常村の攻撃を小太刀で受け流しつつ会話を続ける。
「そう言えばお前の制服見たことあるな」
この試験召喚大会に参加するのは学生ということを示すため、他校の俺たちも制服での参加を推奨されている(義務ではないため明久は一回メイド服で参加し、里中はチャイナドレス着てた)。
「そうか、ニュースだ。殺人事件が起こった学校だな。やっぱ殺されるようなことをするバカがいる学校なんだな」
「てめえ今なんて言ったよ……」
「あ?」
「何も知らねえやつが先輩を悪く言ってんじゃねえよ!」
俺は雄二の作戦……時間を稼ぐということが頭から飛んでモヒカン野郎の召喚獣に切りかかる。
「な、なんで突然切れてるんだ、お前、わけわからねえやつだな……」
俺の反撃に驚きはしたが流石に戦い慣れてるな、攻撃は避けられた。俺はそのまま連続で攻撃を仕掛ける。
「思ったよりは扱いは上手いが、そんな状態で扱えるほど召喚獣は甘くないんだよ!」
けどカウンターで敵の攻撃を食らってしまう。
「くそ……言われっぱなしで負けられるかよ……」
無意識で急所を避けたため俺の点数はまだ残っている。せめて一矢報いて……
「陽介! 落ち着いて! 焦っても戦うよりも周りと状況を見て戦うんだ!」
観客席から聞き覚えのある声が聞こえる。それは戦場……テレビの中で一緒に戦う仲間、明久の声だ。
「サンキュ……そうだな、一矢報いるとかじゃなく勝つこと考えなきゃな」
明久に言われて戦場全体を冷静に見渡してみる。
……あの雄二の動き、何か狙ってるのか。雄二の召喚獣の立ち位置が不自然だ。雄二の対戦相手と俺たちのうち合う場所が直線上になるように動いている。つまり……
「よそ見してるとは余裕じゃねえか!」
モヒカン野郎の召喚獣が俺にトドメを刺そうと切りかかってくる。なら……
俺は両手の小太刀で受け止めて硬直状態に持っていく。
「陽介!」
そのまま力比べに入ったところで雄二の合図が聞こえる。
「おう!」
俺の召喚獣がその声に合わせて小太刀を捨てて逃げる。予想外の動きにモヒカンの召喚獣のバランスが崩れそこにモブ野郎の腕輪の能力……皮肉なことに俺のジライヤの得意な疾風能力が襲いかかる。
Aクラス 常村勇作
古典 DEAD
モヒカンの召喚獣の点数が消し飛ぶ。そして俺と雄二は多少の余波はくらったがなんとか無事だ。
「さて、二対一だが続けるか?」
雄二がモブに言葉をかける。
「こ、降参だ……」
そして俺と雄二の勝利が確定した。
雄二と陽介の試合です。明久の方より分量多い……まあ、明久の方はパートナーな瑞希が強いですからね。こっちは二人分ですし。
ちなみに補足として男子の制服がテレビで流れたというのは小西先輩が死んだあと空気を読まないマスコミが生徒にインタビューしようとして流れたってことです。
では次回もよろしくお願いします。