バカと田舎とペルソナ   作:ヒーホー

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第六十話

「なんでこんなことに……」

試合場……そこで対戦相手は僕たちを待っていた。

「吉井くん、どうかしたんですか?」

「姫路さん、今は僕の名前を呼ばないで欲しい」

僕は先ほどのAクラスの騒ぎから直接試合場に来ていた。

メイド服から着替えるのを忘れて……

「大丈夫ですよ、似合ってますから」

「僕は男だから女装が似合ってても嬉しくないからね!?」

そう、女装しているのだ、そしてそれを知り合いに見られるのは恥ずかしい……

陽介や雄二たちのように一度同じ苦労を共にして一度見られている相手なら我慢できる。だけど……

「なんで……」

けど事情を全く知らない……友人に見られるのはきつすぎる。

「なんで一条くんがここにいるのー!?」

 

 

「それでは第三回戦を開始します」

先生がそう言って召喚フィールドを展開する。僕は相手に顔を見られないようにしながら姫路さんと一緒に戦場に出た。

「一条くん、パートナーの方はわかりませんけどもう一人は学年でもトップクラスの成績です」

あれ……一条くんに気を取られて気づかなかったけどパートナーって秀吉……? いや、声が違う、ということはお姉さんの木下優子さんかな。

「わかりました」

あれ? 一条くんもなにか様子が違う。なんていうか余所行きの声を出している気がする。

「それでは試合を始めてください」

「「「「試獣召喚(サモン)」」」」

 

Aクラス 木下優子

現代社会  345点

   &

ゲスト 一条康

現代社会  243点

   VS

Fクラス 姫路瑞希

現代社会  417点

   &

ゲスト 吉井明久

現代社会  104点

 

うわ、僕だけ点数が圧倒的に低い、でもこれなら操作でなんとか……

「え? あれ? 吉井?」

一条くんが僕の方を見て声をかけてくる。

「人違いです!」

「いや、だって名前表示されてるし」

しまった!? 点数と一緒に名前が表示されるこのシステムのせいか!?

「くっ、よくぞ見破ったと言っておこう……」

「いや、名前出たらわかるだろう……」

「あの、一条くん、このバ……吉井くんとお知り合いですか?」

「ああ、はい、学校の友人です、すみませんが彼との対戦は譲ってもらえませんか?」

「まあ、私もそのつもりでしたから……」

木下さんは姫路さんと戦うつもりらしい。

「で、吉井、こんなところでメイド服着て何やってるんだ?」

「ぼ、僕はもともとこの学校通ってたから……一条くんこそなんでここに?」

「俺? 俺はお仕事、うちの実家の知り合いがここのスポンサーでさ、高校生の俺が一度試験召喚システムを体験しに来たってわけ」

そういえば一条くんは良い家のお坊ちゃんだと言ってたっけ……

「パートナーも学園側から用意してもらったしな」

そういうことなら優等生の木下さんと組んでいることも納得できる。

「もしかして長瀬くんも来てるの?」

「いや、来てないよ、俺も家の都合で来てるから遊ぶ暇もなくてさ」

そう言って苦笑を浮かべる。

「ま、でも来てよかったよ、面白いもの見れたし、長瀬にも良い土産話ができたな」

「ちょっと、待って!? このことは長瀬くんには秘密に!?」

「ハハ、俺に勝ったら考えてやるよ、この前の1on1の借りを返しておきたいからな」

くっ、この前のバスケの練習のことか! こうなると僕も負けるわけにいかない!

「男同士で1on1とか素敵な響きですよね、しかも他に第三の男の存在も匂わせてますよ。優子ちゃん!」

「ちょっと美紀、どこから出てきたの!? それに私とあんたの趣味と一緒にしないでと前から言ってるじゃない!?」

なぜか向こうで三つ編みの女の子が紛れ込んでいる。

「素敵な言葉が聞こえたものでつい」

「ついじゃありません、玉野さん、試合中に他の生徒は入らないでください。一般公開は4回戦からです」

先生に怒られて玉野さんは外に放り出される。

「私の趣味は三次元ではないのよ……」

木下さんが小声で何か言っている。

「き、気を取り直して勝負と行こうぜ、吉井」

「う、うん、そうだね」

聞かなかったことにしたほうが良い、僕も一条くんも同じ結論に達したようだ。

一条くんの方が点数が高い。だけど……

「くっ、吉井すげーな、随分器用に召喚獣を操るな」

一条くんの召喚獣は点数が高いこともあり鎧に刀、ゲームのサムライ的な格好だ。

「一応去年一年いろいろやっているからね、操作技術には自信あるんだ!」

相手は今日初めて召喚獣を使う一条くん、点数差を充分補える!

「でもお前のは今までの対戦相手や木下さんより上手いって」

話しながらも刀を振り回す、僕はそれを避けながら木刀で少しずつ相手の点数を削る。

 

ゲスト 一条康

現代社会  189点

 

でも木刀で鎧に打ち込んでいるわけだから当然ダメージは少ない。一条くんも致命傷を避ける程度には動けている。

「さすがは観察処分者ね、日頃から雑用で働いていただけはあるわ」

姫路さんと戦いながらもこちらの様子を伺っていた木下さんが言う。

「観察処分者?」

やばい、このままでは一条くんに僕がバカだと思われる!

「ちょっぴりお茶目な16歳に与えられ……」

「バカの代名詞です!」

誤魔化そうとする僕の言葉に木下さんがきっぱりと言う。

「吉井くんはちょっと勉強ができなくて常識に欠けていて勉強ができないだけですよ!」

「姫路さん、それフォローになってないよ!?」

ここに僕の味方はいないような気がする……

「ハハ、吉井、お前の通ってたとこも楽しそうな学校だな」

一条くんがそれを聞いて楽しそうに笑う。せっかくの学園祭、家のことだけじゃなくて楽しめたのは良いことだと思う。ぜひ楽しんでいってほしい、僕の女装を忘れるくらい……

「でも一番笑えたのはお前のメイド服だけどな」

「それは忘れてよ!?」

僕の悲痛な一撃が笑っていて集中力が途切れかけた一条くんの召喚獣に刺さる。

 

ゲスト 一条康

現代社会  0点

 

「あーあ、負けちゃったか、約束通り俺が見たものは秘密にしとくよ、木下さん、すいません、負けてしまいました」

「あ、いえ、私も負けましたから」

見ると姫路さんも勝ったみたいだ。

「それじゃ、吉井、また学校でな」

「え? 学園祭で遊んでいかないの?」

「一応家のこともあるしな、残念だけど遊んでる暇ないんだよね」

「わかった、それじゃ、またね」

 




明久の女装を晒すためだけにゲストで登場した一条です。
文月学園への出資者に関する設定は裏設定にしておくつもりだったんですけど一端として関わってもらいました。まあ、一条家が直接ってわけではないんですが家同士の繋がりで来てるって感じですね。
原作で不戦勝で終わるとこをわざわざ描写してるから話が進まないんですよね。清涼祭、意外と長引いています。そしてまだまだ続きます。
では次回もよろしくお願いします。

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