第五十二話
坂本雄二視点
巽完二を助けて数日が過ぎた。
まだ回復していないようだがひとまず向こうで新たな事件は起きていないようなので俺たち文月側は文化祭に向けての準備を進めるということになっているのだが……
「ストラーイク!」
俺は……というよりFクラスのほとんどがやる気を見せずに本来なら出し物を決める時間に野球をしていた。
「坂本! 貴様がサボりの主犯か!」
そうしているとクラス担任の鉄人がやってくる。
やれやれ……明久がいないと鉄人が俺を狙う頻度が高くなってしまう。仕方ないので俺はピッチャーをやっていた須川にサインを送る。
『フォークを鉄人の股間に』
「おう……って、まてそうしたら俺が鉄人に狙われるだろう!」
鉄人の注意が一瞬須川にそれる。俺ひとりに注意を向けられるより他の連中にも向けさせた方がまだマシだ。
「全員教室に戻れ! この時期にまだ出し物が決まってないのはうちのクラスだけだぞ!」
鉄人の一喝が校庭に響き渡る。狙いは成功して俺だけが責任を取らされる事態は避けられたようだ。クラスの連中も補修室よりはマシとばかりに教室に戻っていく。
教室に戻った俺は実行委員に島田、副実行委員に秀吉を任命し全権を委ねることにした。
俺にとってはクラスで何をするかよりも稲羽から来る連中といかに遊び回るかの方が重要だ。
俺がクラスで何かするよりも色んなところを回ったほうが明久の従兄妹のちびっ子も楽しめるだろうしな。幸い翔子のいるAクラスはメイド喫茶をやるみたいだからあいつに束縛されることもなさそうだし。
最初はやる気のなかった奴らも鉄人の「売上を出してクラスの設備を向上」という言葉に少しやる気も出てきたようだ。
だが意見が多く出れば良いというものではない。だから島田がそれまでに出ている意見3つから多数決をとることにしたようだ。
やはり実行委員に島田を選んだのは正解だったようだな。時間的にギリギリのため新たな意見を却下して三つに絞る決断力を持ち、それでいて女子である島田相手ならクラスのバカどもは新たな意見を却下されたことの不満を言うこともない。
投票用の紙が俺のところにも回ってくる。なんでも良いと思いつつも現在出ている意見の3つに目を向ける。
『写真館』
これは普通に見れば当日何もしなくて良い案だ。ただしうちのクラスにはムッツリーニがいる。100%まともなものにならない、それで営業停止を受けたらクラス代表の俺が鉄人に追い掛け回されることになる。
『ウェディング喫茶』
絶対に嫌だ。そもそもこのクラスには女子が二人しかいない。秀吉を女装させても3人が限度だ。コスプレ系はダメだろう。
『中か喫茶』
さては秀吉、中華の華を漢字で書けなかったな。まあ、Fクラスだから仕方ないか。
だがこれはうまく当日の当番をほかの連中に押し付ければ悪くない案だ。
俺は中華喫茶に一票を投じて目を閉じることにした。結果として中華喫茶に決まったようだ。
放課後、今日は翔子も俺を拉致しようとしないし、稲羽に行く必要もないので帰宅しようとしていた。
「坂本、ちょっと良い?」
島田に声をかけられる。島田も稲羽で事件に関わるようになってから割と話すようになった。こいつの場合は明久のことが好きというのが明らかなので話していても翔子が襲ってくることはないので俺も普通に応じる。
「どうした?」
「坂本も文化祭に協力してくれない? あんたがいないとなかなか纏まらないのよ」
「そうじゃのう、このクラスを纏められるのはやはり雄二しかおらん」
副実行委員の秀吉も会話に入ってくる。
「そんな真剣になるようなことが何かあるのか?」
本気で売上を狙うのならばともかく遊びの文化祭レベルなら島田で充分纏められるはずだ。クラスの設備という理由で俺を動かせるとは思っていないだろうし。
「実は……瑞希か転校するかもしれないのよ」
姫路が転校?
「ふむ、話を聞こうか」
島田の話によるとこのクラスの環境を理由に姫路の両親が姫路を転校をさせようとしているということだ。
「ふむ、それで売上を出してクラスの設備を購入しようということか、だが喫茶店の成功だけでは不十分だな」
そう言って俺は改善すべき3点の点をあげる。
「一つ目はござとみかん箱という設備だ。これは喫茶店の売上しだいでなんとかなるだろう」
俺たちのクラスは四月の試召戦争で負けたせいで本来の最低設備、ちゃぶ台と畳よりさらに下に落とされている。
「二つ目は老朽化した校舎、これは生徒の健康を損ねるということで俺の方から学園に抗議してみる」
「設備と学校自体というわけじゃな?」
まだ暖かいこの季節ならともかく身体の弱い姫路には秋以降辛いことになるだろう。生徒の健康という点を付けば体面を気にする文月学園は動くという確信がある。
「三つ目、これが問題だ。レベルの低いクラスメイト」
「あ、それならウチに考えがあるわ」
そう言って島田が出してくるのは試験召喚大会の用紙だ。
「そうか、これに出るのか、けど確か今年から出場条件が変わったんじゃなかったか?」
去年まではここの生徒同士のペアということだったが、今年から試験召喚獣を導入したいという学校のために文月の生徒と他校の生徒というタッグで出ることになっている。
「うん、だから千枝と組んで出ることにしたのよ」
「ふむ、里中か……」
里中の成績は知らないがその選択は悪くない。外部の生徒は召喚獣の扱いに慣れていないが里中ならペルソナを使い慣れている。明久がいきなりペルソナを使いこなせたように里中も召喚獣をうまく扱える可能性は高い。
「どうせなら明久を誘えばよかったんじゃないのか?」
「ほ、ほら、アキは成績が悪いから……それに菜々子ちゃんも来るんでしょ? だから忙しいだろうなって……」
「相変わらず素直じゃないのう……」
秀吉が呆れたように言う。誘おうとして失敗したのか、こいつは相変わらずだな。
「ふむ、じゃあ俺は学園長に交渉してくる」
「うむ、頼むぞい」
そして俺は学園長室に向かう。
交渉の結果条件付きでの改修は認められた。
条件はFクラス生徒による召喚大会の優勝。
ババアは優勝賞品の如月ハイランドのプレオープンのペアチケットに陰謀があるからというがそれは嘘だということはすぐにわかった。おそらくもうひとつの商品の白金の腕輪絡みだろう。
だが問題は……
「プレミアムチケットで入場したカップルを結婚だと……」
俺はもし翔子がチケットを入手できたら一緒に行ってもいいと約束をしてしまっている……あいつは確実に大会に出てくるだろう。
「これは絶対に負けられねえ……」
俺は優勝するためにはどうすれば良いかを考えながらまずはメンバーの確保のために明久に連絡をした。
今回は雄二視点で文月側の話です。
美波と雄二の友人関係は自称特別捜査隊に入ったことで原作の清涼祭時点より仲良くなっています。だから明久を通さずに普通に相談を持ちかけました。
試験召喚大会の出場条件変更はペルソナ組も出したいという作者の趣味です。そのためにペルソナ側もいろいろ手間が増えるんですけどね。といってもまだペルソナ戦闘経験のない完二くんは出場はなしです。美波・千枝コンビ以外は近いうちに発表します。
では次回もよろしくお願いします。