バカと田舎とペルソナ   作:ヒーホー

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第四十一話

5/16 月 曇

 

 

放課後、雄二たちは移動に時間がかかるため僕たちは教室で話していた。

「昨日の彼、やっぱ彼だよね……」

「巽完二か……見るからに絡みにくそうだよな」

里中さんの言葉に陽介が答える。

「そう? 話して見ないとわからないかもよ」

「吉井くん、この前の特番見てないの? スッゲー怖いよ」

里中さんはそう言うけど……

「叔父さんが話したことあるみたいだけど暴走族っていうのは嘘でお母さんのために暴走族を潰したらしいよ」

「マジかよ……でもひとりで暴走族潰すとか十分怖いって……」

「あの子、小さいときはあんな風じゃなかったんだけど……」

「雪子、彼のこと知ってるの?」

里中さんの問いに天城さんは頷く。

「今は全然話さなくなっちゃったけどね。あの子の家、染物屋さんなんだけど、うちで昔からお土産仕入れているの。だから今も完二くんのお母さんとはたまに話すよ」

「へーそんな繋がりあったんだ」

天城さんの話に感心する。染物屋の息子と旅館の娘と、確かに納得だ。

「あ、染物屋さん、行ってみる? 話くらい聞けると思うけど」

「雄二たち来るのいつだっけ?」

「もう少し時間あるね、先に話聞いておいても良いんじゃないかな」

陽介の問いに僕は答える。

「そうだね、あんまり大人数で良くと迷惑だし」

里中さんがそう言い、雄二にメールで知らせておいて僕達は先に染物屋に向かう事にした。

「あ、でも彼が暴れて危なくなったら男衆よろしく」

「そうなると雄二がいた方が心強いと思うけどな……」

「大丈夫だよ、お母さんのために族潰すくらいだもの、自分の家の前で暴れたりしないって」

 

 

「こんにちは」

僕達が巽屋に訪ねるとそこにちょっと小柄な、僕達よりちょっと下、中学生くらいの男の子とお店の主人らしき女性と話していた。

「あら、雪ちゃん、いらっしゃい」

「それじゃあ、僕はこれで……」

「あんまりお役に立てなくてごめんね……」

何か聞かれていたのか、お店の主人は謝って男の子を送り出す。

「いえ、なかなか興味深かったです。ではまた」

男の子はそういって頭を下げ、僕達のほうにも軽く頭を下げて帰っていく。

「なんだ……? 変な奴だな」

「見ない顔だよね」

陽介と里中さんが言う。二人とも見覚えが無いってことは地元の子じゃないのかな?

「中学生くらいだよね? 観光客かな?」

「今の時期に学生が旅行にくるかな?」

僕達が今の男の子に話していると、

「雪ちゃん、相変わらず綺麗ねえ。お母さんの若い頃に似てきたわよ」

お店の主人の方から声をかけてきた。

「今日はどうしたのかしら? お友達とお買い物?」

「あ、いえ、その……ちょっと話を聞かせてもらいたいんですけど」

思わず目的を忘れるところだった。天城さんが応じる。

「最近変わったこととか無いですか?」

「テレビの人たちが来て完二と揉めてて騒がしかったことくらいかしら」

天城さんが話している間に僕達は店の中を見渡す、こういうところ初めて入ったからなあ。

「あれ? このスカーフ、どこかで見たことあるような……」

里中さんの声にみんながそのスカーフに視線を向ける。

「ん、あー、見覚えあるな、どこかで見たような……」

陽介がそういう、僕も見てみたら言われてみればどこかで見たような……

「わかった! あそこだ、テレビの中?」

「え? 芸能人の誰かがつけてたっけ?」

それなら見覚えがある気がして当然かも、でも誰がつけてたんだっけ……

「違うよ」

里中さんに即座に否定される。

「あ、そうか、顔なしのポスターのあった部屋の!」

陽介に言われて思い出した。初めてテレビの中に入ったとき迷い込んだあの部屋に輪になって吊り下げられていた……

「つまりこれ、山野アナの?」

「あら? 貴方たち山野さんのお知り合い?」

僕が思わず上げた声があっさり肯定される。

「もしかして山野さん、これと同じもの持ってました?」

「ええ、それは元々彼女に頼まれたオーダーメイドだったの、男物と女物のセットだったんだけどやっぱり片方しかいらないって言われてね。仕方なくもう一枚は売りに出しているの」

「やばいよ……最初の事件と関係あるじゃん、どうしよう……」

「どうしようって……」

思わぬ接点に僕達は驚く。

ピンポーン

「毎度、お荷物です」

そうしているとおそらく自宅と思われるほうから音と声が聞こえる。

「あ、はーい、ごめんなさい、ちょっと外すわ」

「あ、いえ、あたし達もう帰りますから……」

 

 

「最初の事件と確かに繋がってるけど……スカーフのオーダーメイド程度で襲われるのかなあ……」

「でもそれで言ったら天城さんも泊まってた旅館の娘ってだけだよね……」

繋がりがあることはわかったけどそれでも襲われる理由に結びつかない。

そうして僕達は話をしながら外に出る。

「あれ? 完二くんだ」

「ちょっ、お前ら、隠れろ」

陽介に言われて僕達は路地裏に身を隠す。

そこから見ると完二くんはさっき店にいた男の子と話をしていた。

そのまま二人の会話を聞いてみる。

「あ? 明日なら別にいいけど……あ? 学校? も、もちろん行ってっけど……」

「じゃあ明日の放課後、校門まで迎えに行くよ」

あ、あの子は完二くんの友達だったのかな? それなら店にいたのも納得だけど。

話は終わったのか男の子は帰っていく。

「きょ、きょうみって言ったか、アイツ? 男のアイツが男の俺に興味?」

え!? そういう話なの!?

「な、なんかやばい感じしね?」

陽介がそう口に出すが、それで完二くんは僕達に気付く。

「あん? なに見てんだ、ゴラァッ!!」

完二くんがそのまま怒ってこっちに来る。

「あ、別に覗いてたわけじゃなくて、ちょっと話があるだけだよ」

「の、覗いてたのかよ! てめえ!!」

しまった、墓穴掘ったかも!

「そ、そうじゃなくて……ほら、陽介もなにか言ってあげ……っていない!?」

気が付けば完二くんの迫力に驚いたのか陽介も里中さんも天城さんもいなくなっている。

「ったく……見てたからどうだってわけじゃねえんだけどよ……」

僕が置いていかれたのが分かったのか少し落ち着いてくれた。けど……

「アキ、あんたなにやってんのよ?」

そこには雄二と霧島さん、そして何故か美波が通りかかっていた。

(雄二、なんでここに美波が居るのさ?)

僕は雄二にアイコンタクトで問いかける。

(すまん、付いてくるって言うのを止められなかった……)

(この人が巽完二なんだよ、とりあえず美波を事件に関わらせないように誤魔化さないと!)

雄二が俺に任せろと合図を出す。よし、雄二、ここは君に任せ……

「明久、男をナンパするのはやめておけと前から言っておいただろう」

なんて事を言い出すんだ、このバカは!?

「ちょっと! アキ、どういうこと!!」

「な、ナンパだと、て、テメエ男だろ! ふざけた事を言ってんじゃねえ!!」

なんで二人とも信じてるの!? そしてなんで完二くんもさっきと比べ物にならないほど怒ってるの!?

「さらば!」

恐ろしい攻撃力を持った美波と暴走族を一人で潰す完二くん、二人に襲われたら僕の命が危ない、即座に逃亡に入ることにする。

「ちょっと、アキ、待ちなさい!」

「テメェ、逃げてんじゃねえぞ、ゴラァ!!」

 

 

坂本雄二視点

 

 

「ちょっと予想と違ったな」

全力で逃亡する明久とそれを追いかける二人を見て俺はつぶやく。

「……どうなると思ったの?」

「島田のほうは予想通りだが、巽完二の方は気持ち悪がるか呆れるかで退散すると思っていた」

まさか怒って殴りかかるとは予想外だった。まあ明久だし問題は無い。

「それじゃ、今のうち俺達は陽介から情報を聞き出すぞ」

 

 

俺は陽介に連絡を取り、合流した。

「よう、雄二、ところで明久は見なかったか?」

「明久なら現在逃走中だ」

陽介と合流したところ気まずそうに問いかけてくる。

「え!? あたし達が置いていったせい?」

里中が不安そうに聞いてくるので俺は事情を説明してやる事にした。

「お前は鬼か!」

事情を話すと即座にそう言われる。

「テレビの中に入るときならともかく推理するのにあいつは必要ない、島田を振り切るのに使えるなら十分役に立ったというべきだろう」

「いや、そう言い切ってしまうのもどうかと思うが……とりあえず状況を説明するな」

3人から状況の説明を受ける。

「それで、昨日の映像はやっぱり完二くんだと思う」

本人にあったことで天城が確信を持ったようだ。

「ふむ……ならとりあえずのところは好都合だな。明久を追い掛け回しているうちはさらわれる事は無いだろう」

「……目立ってもいるし安全ではある」

「しかし共通点は一応あったけど……でもあまりにも遠すぎるな」

被害者がオーダーメイドした店の店主の息子だと既に他人だ。

「母親の方は該当してるんじゃないか? 女性だし」

「でもテレビに映ってたのは息子のほうだよ」

陽介の意見に里中が返す。

「ふむ……両方マークした方がいいが……天城、母親の方にはそれとなく警告しておいてくれ」

「うん、わかった」

俺はどうするべきかを考える。

「ふむ、とりあえずは息子の方を重点的に警戒しよう。天城のときもどちらかといえば天城の母親の方が関わりは深かったわけだろう?」

「え? う、うん、山野さんの接客してたのはお母さんだから……」

「なるほど、だから今回も母親じゃなくて息子ってこと? でもそれじゃほんとに意味不明じゃん、口封じとかにもならないし……」

里中がそう言う、だがそもそも天城が手がかりを持っていなかった時点で動機に関してはわからなくなった。

「読み違えてるのか? そもそも最初の事件から動機とかなかったとか……それとも染物屋に何か秘密とか?」

「それは無いだろう。動機に関しては今考えても分からないことだ、今回の事件を阻止することを第一に動く」

このままだと予想ではなくただの空想になってしまう。

「どうするの? もう本人に直接聞いちゃう?」

「あ、そう言えばさっき変なちびっ子と話してなかったか? 学校に迎えに行くとか……完二って入学早々学校サボりまくりって聞いたけど……なんか怪しくね?」

里中の問いに陽介が思いついたように言う。

「ふむ……この時期に巽屋を訪ねて、そして完二にも接触か、確かに気になるな」

偶然とは考えにくい。

「なら明日、学校からお前らが尾行してみてくれ、あと巽屋のほうも見張っておいた方が良い」

平日だから俺や翔子が学校終わってからじゃ遅い。

「わかった、明久も含めて二つに分かれて当たることにする」

今日出来るのはこんなところか……

 

 

吉井明久視点

 

 

なんでこの二人はこんなに身体能力高いの!?

文月時代は日々逃げ回って、今はバスケ部で運動している僕に二人は付いてきている。

「このままじゃ捕まえられないわね、あんたはそっちから回りこんで!」

「あぁ? な、なんで俺があんたのいう事を……」

「早く!」

「う、うす!」

やばい、今まではバラバラに追ってきた二人が連携を始めた。

僕は逃げ道を探す、商店街の裏道を僕はあまり通らない、地の利が無いのは致命的か……

「あ、そっちは行き止まり……」

「チャンスよ、追いかけて息の根を止めるわよ!」

「そ、そこまでやらなくても……」

そして僕は追い詰められる……

「アキ……覚悟は良い?」

「み、美波? 落ち着こうよ、さっきのは雄二のでたら……ぎゃぁぁぁぁあ!?」

「お、俺はこのへんで……」

完二くんは処刑に参加はしなかったけど……そのまま僕は美波の攻撃を食らった……




いきなりバカテスペースに巻き込まれた完二でした。
そしてもう一人新キャラがチラッと出てきた回です。明久が中学生呼ばわりしてるけど高校一年生なんですけどね。
では次回もよろしくお願いします。

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