5/2 月 雨
明日から連休、連休中は僕が旅行に行くということを伝えているので集まっての勉強もない。
僕は旅行の準備をしながら菜々子ちゃんとテレビを見ていた。
テレビではATMを襲った強盗の話が流れて菜々子ちゃんは不安そうにしている。
「大丈夫だよ、おじさんは休めると言ってたんだから」
刑事だってそんな少人数ではない、よほどの大事件じゃない限りそれが原因で休みがなくなるということはないと思う。
「うん……」
そう話していると家の電話が鳴る。
「あ、電話……はい、堂島です」
菜々子ちゃんが電話に出る。
「もしもし、お父さん? うん、だいじょうぶ……うん……うん」
何を話しているかはわからないけど菜々子ちゃんの顔がどんどん曇っていく。
「うん…………わかった」
そして僕に電話を渡してくる。
「代わってって……お休み取れなくなったって……」
「え!?」
「大丈夫だよ……お仕事だもん、仕方ないよ……」
そう言ってもすごく落ち込んでいる……とりあえず電話には出ないと……
「もしもし、明久です」
「お前か。悪いが今日遅くなる。戸締りして早く寝てくれ。それと4日と5日の休みの件なんだが……実は若いのが一人身体壊してな……抱えている事件の内容から穴は空けられん。俺が出るしかなさそうだ」
「そんな!? 菜々子ちゃんすごく楽しみにしていたのに!」
「すまんな……急なことで……」
叔父さんが悪いわけじゃない。体調不良の人が出たことだし、刑事という仕事上仕方ないことだとはわかっている……
「悪いが……気にしてやってくれ」
そして堂島さんも苦しんでいることはわかるから……
「うん……」
僕もこれ以上何もいうことはできなかった……
5/3 火 雲/雨
「あ、おはよ」
「おはよう、菜々子ちゃん」
見た感じいつも通りだけど……
Prrrr Prrrr
電話、相手は……雄二?
「もしもし」
「よう、たしかお前の旅行は明日からだよな? じゃ今日は暇だよな」
そういえば旅行がキャンセルになったことを話していなかったっけ。
「うん、元からその予定だし、それにキャンセルになったからGWはずっと暇だよ」
菜々子ちゃんには聞かれたくないからちょっと離れて話す。
「そうなのか? そうか、それは残念だったな」
雄二が僕に同情するなんて珍しい……
「お前が不幸になるのは喜ばしいがちびっ子の方は可哀想だろ」
「僕の不幸を喜ぶな!」
「ま、それなら今からそっちに遊びに行く、ついでに他のやつにも声かけるから暇ならちびっ子も連れて来い」
「あ、うん、わかった」
そして雄二の電話は切れる。
「菜々子ちゃん。今から僕の友達……この前、家に泊まった雄二とかと遊ぶんだけど一緒に遊ばない?」
「一緒に行っていいの?」
「もちろん!」
雄二とはジュネスのフードコートで待ち合わせることにしているので先に里中さんと天城さん、陽介と合流することになった。
「で、雄二の他に誰が来るんだ? 霧島か?」
「いや、僕も誰に声かけるとかは聞いてないけど……」
そうやって話していると……
「おう、明久!」
雄二が数人を連れて僕の方に来る。
霧島さんにムッツリーニ、秀吉、それに……美波?
「お? 霧島はともかく他に女子二人とか、雄二、お前よく生きてここに来れたな」
陽介が声をかける。確かに男友達一人に女友達二人を連れてくるとか霧島さんに殺されても不思議じゃない。
「なにか勘違いしておらぬか、ワシは女子じゃな……」
「へえ、吉井くんの友達にこんなに可愛い女の子が二人も」
「いや、だからじゃな……」
「けど意外だね、美波も来るなんて」
「さ、坂本に誘われただけよ! それよりアキ、いつの間にこんなに女の子に囲まれるような生活送ってるの?」
「誰もワシの話を聞いてくれぬの……」
やばい、美波の目が攻撃色だ!?
「わー、すごい、みんなお兄ちゃんの友達?」
小さい子がいることで美波の攻撃態勢に躊躇いが出る。
「お兄ちゃん? アキ、この子は?」
「あ、うん、僕の従姉妹の菜々子ちゃん、居候先の娘だよ」
「あ、従姉妹なんだ……アキがロリコンになっていたのなら殺さなくちゃいけないと思ったじゃない」
危なくここで別の殺人事件が起きてしまうところだった……
「やっぱ明久の学校って物騒だよな……」
「大丈夫だよ、陽介、美波はうちの学校でも物騒な方だか……痛い痛い!? 僕の関節はそっちには曲がるようにできてないよ!?」
僕の腕が折られそうになる。
「暴力はダメだよ」
「え……あ、そうよね」
菜々子ちゃんに咎められて美波はおとなしくなる。さすがの美波も幼い子のトラウマになるようなことはしないみたいだ。
「あのさ、盛り上がってるとこ悪いけどまずは自己紹介しない?」
里中さんが遠慮がちに声をかけてくる。
「そうだな、島田、久しぶりに明久に会えて嬉しいのかもしれないが、まずは自己紹介からだ」
「べ、別にウチはアキに会えて嬉しいとかは……」
「ははは、なに言ってるのさ、僕を攻撃できて嬉しいならともかく会えて嬉しいなんて美波が考えるわけないじゃない」
「あ、当たり前よ……」
「「「ふーん……」」」
なぜか陽介に里中さん、天城さんからも呆れた目を向けられている。
「明久は相変わらずじゃのう」
「…………進歩がない」
「さて、それじゃ自己紹介をしていこう、まずは俺たち文月側からだ」
大きいテーブルの方に移動して雄二が仕切る。
「俺は必要ないとして……ちびっ子は翔子と会うのは初めてだな」
「うん」
「……雄二の妻の坂本翔子」
「え? 雄二お兄ちゃん結婚してるの?」
「お前は子供に嘘を言うな!? 違うからな! こいつの苗字は霧島だからな!?」
「翔子おねえちゃん、よろしくね」
「……よろしく」
雄二の言葉はスルーされる。
「次はワシじゃな、木下秀吉じゃ、こう見えてもワシは男じゃからな」
「「「ええ!?」」」
秀吉の言葉に僕たちは一斉に驚きの声を上げる。
「待つのじゃ、初対面の3人はともかく、なぜ明久とムッツリーニまで驚いておる」
「だって秀吉が男とかありえないことを言うから!」
「…………(こくこく)」
「あー、前に吉井くんの女友達で名前上がって驚いたけどこれなら納得」
「うん、どこから見ても女の子だよね」
「くっ……ワシはここでもこんな扱いを……」
「よろしくね、秀吉お兄ちゃん」
菜々子ちゃんに言われて秀吉の顔が喜びに輝く。
「おお、この子は明久と血が繋がってるとは思えないくらい良い子じゃな!」
「…………土屋康太」
ムッツリーニがそれだけ言って自己紹介を終える。
「ムッツリーニ、他に何かないの?」
「ねえ、お兄ちゃん、ムッツリーニってどういう意味?」
流石に菜々子ちゃんにムッツリスケベから付いたあだ名とは言えないし……
「ただのあだ名だよ」
「ふーん」
「そのムッツリーニの呼び方で全てを物語ってるな」
「…………(ブンブン)」
陽介の言葉に首を振る。否定してもすぐバレるだろうに……
「次はウチね、島田美波、去年ドイツから来た帰国子女で日本語がおかしいかもしれないけどよろしく」
「わー、外国から来たんだ、かっこいい」
「それで、島田さんは吉井くんとどんな関係なの?」
里中さんは何を言ってるんだろう、ここに来たということは友達ってことなのに……
「た、ただの友達よ、ここに来たのだって追われている時に駅で坂本たちに会って、アキのところに行くって言うから逃げるついでに来ただけで……」
「雄二の最初の動機も逃げてきたんだよな、お前の学校そういうこと多すぎだろ……」
「まあ、明久が転校してチャンスとばかりに清水が積極的になってるからのう……」
「文月側は以上だな、それじゃあ次は陽介たちの方で……」
こうして見ると前の学校の友人たちは結構変わっているということがわかる。そのあとの陽介たちの自己紹介はツッコミも入らなくて自然に終わった。
「ふ~ん、それじゃあ仕事で旅行がキャンセルになったわけか」
「仕事とは言えそれは災難だったね……」
自己紹介が終わったあと天気も悪いということでその場で雑談をすることになった。
「刑事という仕事柄仕方ないとは言えるがのう……」
「ね、だったらさ、来月の清涼祭にアキと一緒に遊びに来ればいいんじゃない?」
同情的な雰囲気に美波が提案をする。
「清涼祭?」
「うん、ウチらの学校の学園祭、アキの家ってまだあるんでしょ? 二日開催するから泊まりがけで」
「お、それ良いかもな! 俺たちも一緒に行こうぜ」
「うん、有名な文月学園、私も興味あるし」
「……千枝と雪子は私の家に泊まればいい」
「菜々子も行っていいの?」
「叔父さんの許可が取れればになるけど、行こうよ」
「うん!」
その後叔父さんの許可も取れて来月の清涼祭に行くことが決定した。
「ねえ、坂本、あの子達とアキって仲良いの?」
「ん? 結構仲良いみたいだな、大抵陽介も含めた4人で行動しているらしいし」
「ふ~ん……そうなんだ」
バカテスメンバーが揃うだけでなかなか本題に入れないことに……菜々子コミュは既に発生しているからこのシーンの目的は清涼祭へのお誘いなんですけどね。清涼祭にあんまり興味ない雄二以外のキャラを持ってこようと思ったらこんなことになりました。
瑞希がいないのは現時点では小学生の頃のクラスメイト程度の繋がりしかないからですね。隠している感情的な面は別として。
では次回もよろしくお願いします。