「雪子!!」
部屋に踏み込んだ僕たちが見たのは和服とドレスの二人の天城さん。
「やっぱりだ……天城が二人!」
『あら? あらららら~? やっだ、もう王子様が4人も! もしかして~途中出来たサプライズゲストの4人さん? いや~ん、ちゃんと見とけばよかったぁ!』
「まて、天城! 俺を入れるな!?」
「……雄二……浮気は許さない」
「いや、この場合俺の責任では……ぐぁぁぁ」
雄二が処刑されるのは良いとして……
「やっぱり、僕は王子様に相応しいんだよ、365度どこから見ても美少年だからね!」
「5度多いぞ……」
「それよりなんで人数が4人ってとこに誰も突っ込まないのよ!?」
「そりゃ4人目はクマでしょーから」
「「「「それはない」」」」
「し、しどいクマ……」
処刑中の雄二も含めて綺麗にハモった。
『つーかぁ、雪子どこかに行っちゃいたいんだ。どこか誰も知らない遠く。王子様なら連れてってくれるでしょ?』
さすが影、僕たちに釣られずマイペースだ。
「むっほぅ、これが噂の逆ナンクマか?」
「逆ナン!? よし、僕がどこか遠くに……」
「……吉井くん? 状況分かってる?」
「なんでもないです……」
「俺も地獄の果てまで追ってきそうな幼馴染がいるから無理だな……」
僕達は女子たちの迫力に押されて黙り込む。
「で、4人目ってもしかしてあたし?」
『千枝……ふふ、そう、私の王子様』
「ええ!? 天城さんってそっちの趣味なの!?」
「いや、落ち着け明久、俺達もしっかり王子様分類に入ってる、そして霧島は入ってない」
「ということは里中さんを男子と勘違いしてる!?」
「ちょ、どういう意味よ!」
う~ん、里中さんは美波と違って胸が膨らんでいるから間違えるのは難しいと思うけど……
『いつだって私をリードしてくれる、千枝は優しい王子様……王子様だった……』
「だった……?」
『結局千枝じゃダメなのよ! 千枝じゃ私をここから連れ出せない、救ってくれない!』
「……雪子」
「……天城は私と似ている。雄二に依存している私と……」
「や、やめて……」
影の様子に今まで黙っていた天城さん本人が動く。
『老舗旅館? 女将修行!? そんなウザイ束縛まっぴらなのよ! たまたまここに生まれただけ、なのに生き方、死ぬまで全部決められている! あーやだ、嫌だ、イヤァー!!』
「そんなこと……ない」
『どこか……遠くに行きたいの……ここじゃないどこかへ……誰かに連れ出して欲しいの……一人じゃ出ていけない……一人じゃ私には何もないから……』
「やめて、もうやめて……」
『希望もない、出てく勇気もない、だから私は待っているの! ただじーっと王子様が私に気づいてくれるのを待ってるの! どこでもいい、どこでもいいの! ここじゃないならどこでも! 老舗の伝統? 町の誇り? そんなもんクソ喰らえだわ!』
「なんてこと……」
『それがホンネ、そうよね、もうひとりの私』
これが天城さんが抱えているもの……どうすればこれを天城さんに受け入れさせることができるんだろう……
「……吉井、無理やり説得しても受け入れさせることはできない」
「確かにな、俺達が後ろから言っても逃避にしかならねえ……俺たちにできることは手伝いだけだ」
「霧島さん……雄二……」
「でも!?」
二人の言葉に里中さんは反発しようとするが……
「……大丈夫、見つめ直せば受け入れられる。雄二は私にそうしてくれた、里中、天城を信じて……」
「わかった……」
シャドウと戦う覚悟をして今は二人を見守ることにする……
「違う! あなたなんか私じゃない!!」
そして天城さんは自分の影を否定する……
『うふふふふ、いいわぁ、力が漲ってくる、そんなにしたら私、うふ、あはは、あははははは』
彼女のシャドウは周りに火のついた燭台のある鳥かご付きの赤い人面の鳥に変化する。
「雪子!」
「アレ止めないと危ないクマ!」
「よし、みんな、影の暴走を止めるよ!」
「わかってる!」
「雪子、今助けるから!」
『我は影、真なる我……さあ、王子様、激しくダンスを踊りましょう?』
「まってて、雪子、あたし、全部受け止めてあげる」
『あらホントォ……? じゃあ私もガッツリ本気でぶつかってあげる!!』
「見るからに火を使ってきそうだよな……明久、お前のペルソナで有効そうなのはあるか?」
「有効ってことは氷属性の魔法が得意なやつ?」
炎のモンスターは氷に弱いのがRPGの定石だ。
「弱点を探るのは翔子を中心にして色々試せばいい、まずは耐えることからだ」
「わかった……」
僕は雄二に返事をして自分の心の中を探る……
これは……魔術師……陽介との絆で……
「オロバス!」
馬の姿で二足歩行するペルソナを呼び出す。
「しかし……明久のペルソナ、全部が明久でもあるんだよな、さしずめこれは馬車馬のようにこき使って欲しいという表れか?」
「わー。やめろ、雄二、この馬やイザナギならともかくエンジェルとかの女性型ペルソナも明久とか考えたくねえ!」
「あー、すまん……」
「僕には女装趣味とかはないんだからね! あれはなんていうか……ほら、僕の中の料理とかそういう家事的スキルの表れなんだよ、きっと!」
僕だって自分が女ペルソナとかはあまり考えたくない。
「……内面的に異性の人格を有するのはおかしなことではない」
「え? そうなの?」
「……心理学的には普通にあり得ること」
さすが霧島さんは頭良いなあ……そんなことも知ってるなんて
「いいから戦ってよ!?」
「あ、ごめん、それじゃ、僕も弱点探しに参加するよ」
ふむ、属性攻撃において雄二は役立たずとして里中さんがブフを使えるし陽介はガル、霧島さんは色々使えるけどまだこれは使えなかったはず……
「アギ!」
『あらぁ? 回復してくれるの?』
「このバカがーーーー!! どう考えたって効くはずもない魔法使うな!」
「さ、最初だから良いじゃないか! 何事も試すのは大事だよ! 雄二みたいな魔法使えないパワーバカと一緒にするな!」
「お、おまえら、この状況で喧嘩してんじゃねえ!?」
「……こいつ、弱点無い」
僕と雄二が言い争っているあいだに魔法を使って戦っていた霧島さんが言う。
「ちっ……なら普通に戦っていくしかねえか」
弱点のないシャドウ相手となると雄二なんかと争ってる暇はない。
『うふふ、それでも5対1はいやね、いらっしゃい、私の王子様……』
彼女がそう言うと王冠をかぶった三頭身くらいのシャドウが現れる。
「ふむ……明久が王子様ならあれもありか……」
「ちょっと待って、僕あれと比べるとずっと美少年だよね!?」
「んなこと言ってる場合かよ!」
「ふざけてないで戦うよ!」
「……油断できない」
「ちょっと、だれか何か言ってよ! 僕あれよりはましだよね!?」
「とりあえず本体を狙うぞ、こういうのは本体落とせばなんとかなるもんだ!」
なんか目から汗が出てくる……僕達は一斉に天城さんのシャドウ本体に攻撃を仕掛ける。
『王子様、助けて!』
天城さんのシャドウの声に反応して王子様の手から癒しの光が出る。
「ちっ、俺のディアより高位の回復魔法だ!」
「王子様がまさか回復要因だとはな、すまん、俺の判断ミスだ」
「しょうがないよ、相手のこと全部わかるわけじゃないし」
「……まだ挽回可能」
僕の容姿に関してはフォロー入らないけど雄二にはフォローが入る……
「トモエ!」
まずは回復役の王子様を潰そうと里中さんのトモエがブフを放つ。
カキーン
王子様が凍りつき明らかに動きが鈍る。
「あいつは氷結弱点クマ!」
「……そういうことならあっちは私と雄二が相手する」
「そうだな、里中は天城をなんとかしたいだろうし、氷結使える翔子とあとは俺で王子様は倒してやる、お前らは本体を頼む」
動きの鈍った王子様に雄二のウラが拳を叩きつける。
『あらあら、あなたたち3人が私の相手? 王子様3人なんてどうしましょう!』
天城さんの影が僕に炎を叩きつけながら言う。
「その程度の炎は僕のオロバスには……」
雄二の忠告通り火炎に強いペルソナつけておいてよかった……攻撃力は不足しているけどそこは……
「行け! ジライヤ!」
「トモエ!」
僕が攻撃を防いで二人の攻撃に任せる。
『なによ、本気の私とやろうっていうの? ……ダメじゃない……エスコートしてくんなきゃ!』
シャドウの目が怒りに染まり広域に炎を撒き散らす。
「きゃっ!?」
「里中さん!?」
僕のペルソナで防ぎ切れずに炎に弱い里中さんが吹き飛ぶ。
「へ、平気……あたしはまだ戦えるから……」
「無理しないで良いよ、陽介、回復してあげて」
「お、おう……でもお前……」
「大丈夫、しばらく僕ひとりで抑えてみせるから……」
火炎に強い僕と違って陽介の方もかなりダメージを受けている。ここはしばらく僕が抑える!
『我は汝……汝は我……』
そう、僕には他のペルソナの力もある。
「ベリス!!」
馬に乗り甲冑を纏った騎士が僕の呼びかけに答える。刑死者の力……近くで王子様と戦っているバカとの力だ。
『今更力が増えてどうなるって言うの!』
シャドウが炎を出すが……
「悪いけど……」
その激しい炎の中から無傷のベリスが出てくる。
「それじゃあこいつは傷つかない!」
ベリスが……そして僕自身が武器を振るう。
『炎だけが武器じゃないのよ』
シャドウがベリスに体当たりをして吹き飛ばす。
「明久!」
「大丈夫……打たれ強さには自信あるから……」
ちょっと足元がふらつくけどまだこの程度なら戦える……
「無茶してんじゃねえよ、馬鹿」
ふらつく僕を雄二が支えてくれる。
「雄二……? 王子様の方は?」
「……問題ない、倒した」
霧島さんが雄二に続いてくる。
『え……王子様! 王子様!?』
シャドウが再び王子様を呼び出そうとするが……
『なんで、なんで来てくれないの……』
しかしもう王子様が来る気配はない。
「なら再び5対1ってわけだな」
「陽介、里中さん、ダメージはもう大丈夫なの?」
「うん、もう大丈夫」
「それより今はお前の方が重傷だろ」
陽介と里中さんがやってきて僕に回復魔法をかけてくれる。
『ケッ、やっぱり見込み違いだったわ……やっぱりあんたらは王子でもなんでもない……死ね、クズ男ども!』
「へっ……焦ってやがるぜ」
「もうあと一歩ってところか」
「里中さん、行ける?」
ここは最後は里中さんが締めるべきだ。
「ダメージの方は大丈夫だけど……」
シャドウの方には炎が集まっている、大きな攻撃が来そうだ。
「そこは僕がなんとかする。里中さんは突っ込んで一撃を入れることだけを考えればいい。雄二、陽介、霧島さん、里中さんの攻撃の援護をお願い」
僕の言葉に3人が頷く。
『くたばれ!!』
シャドウが炎を放ち……
「スライム!!」
里中さんとの絆のペルソナ、スライムを召喚し里中さんの前に炎耐性の障壁を張る。けど……
「うわ!?」
思ったより効くなあ、弱点属性の攻撃をくらうのは……
「明久くん!?」
「大丈夫、いけぇ里中さん!」
「うん!」
僕の声を受けて里中さんが走る。
「ウラ、タルカジャだ!」
雄二が筋力をあげ……
「ジライヤ、スクカジャ!」
陽介が速度を上げ
「……キビツヒコ」
霧島さんが氷で道を切り拓く。
「守って……トモエ!!」
そしてトモエの槍がシャドウに叩きつけられる。
『キャァァァ!?』
その一撃を受けシャドウは倒れる……
「う……」
「雪子!」
僕たちは天城さんに駆け寄る。
「雪子、怪我は……?」
「私……あんなこと……」
天城さんは自分の影に向かって震える声で言う。
「……私もあなたと同じだった」
霧島さんがそこで声をかける。
「……私も雄二に依存して……自分が変わることを恐れていた。そしてそれから目を逸らしていた」
「雪子……ごめんね」
続いて里中さんも天城さんに向かって話す。
「あたし……自分のことばっかで雪子の悩み、全然わかっていなかったね……あたし、友達なのに……ごめんね」
「千枝……」
「あたし、ずっと雪子が羨ましかった……雪子はなんでも持っていた、あたしには何もない。そう思ってずっと心細くて……不安で……だから雪子に頼られていたかったの、本当はあたしが雪子に頼っていたのに……」
「千枝……」
「……私たちは互いに支えあうはずなのに……それを見失ってはダメ」
普段あまり話さない霧島さんも一生懸命言葉を紡ぐ。
「私も千枝の事見てなかった、自分が逃げることばかり……あなたもありがとう……えっと」
「……霧島翔子」
「霧島さん、ありがとう」
「逃げたい……誰かに救って欲しい……確かに私の気持ち」
天城さんは自分の影に向き合う。
「あなたは……私だね」
その言葉に影は頷く。
そしてシャドウはペルソナに変化する。
そしてそのままふらつく。
「雪子!」
「大丈夫?」
「うん、少し疲れたみたい……みんな、助けに来てくれたのね」
「当たり前じゃん」
「ありがと……」
「いいよ、そんなの、無事でよかった、ほんとに……」
「んで、キミをここに放り込んだの誰クマ?」
「ちょっと、クマ、今は天城さんを休ませてあげるほうが……」
「いや、大変だろうが話して欲しい。次の被害者が出ないとも限らない」
クマを止めようとする僕を雄二が遮る。
「え……あなた誰? っていうか……なに?」
天城さんがクマを見て疑問の声を上げる、たしかにいきなり着ぐるみが出てくれば驚くだろう。
「クマはクマクマ、で放り込んだのは誰クマか?」
「わからない……誰かに呼ばれた……ような気がするけど、記憶がぼんやりしててわからないの、ごめんね、クマさん……」
「わからないクマか……」
「手がかりはなしか……」
残念そうなクマと考え込む雄二。
「まあまあ、とりあえず天城さんが無事だったし、よかったじゃない」
犯人探しも大事だけどそれより友達を助ける方が重要だと思う。
「そうだな、けど、やっぱり天城をここに放り込んだ誰かがいるってことだ」
「ああ、偶然とかそういう可能性はなくなったって事だ」
「ウムゥ……ってことは、やっぱアキヒサたちの仕業じゃなさそうクマ」
「ええ!? クマくんまだ疑ってたの!?」
「いや、明久の場合は仕方ねえと思うぞ、何度か雄二を殺そうとしてたし……」
「とにかく早く外に出よう、雪子辛そうだし……じゃあ、ありがとね、クマくん」
「え、ちょ、クマを置いてくつもり!?」
「置いてく? 何言ってんだ。お前こっちに住んでんだろ?」
「それは……そうクマ……でも」
「ごめんね、クマさん。また今度、お礼に来るから……それまで、いい子で待っててね」
天城さんがクマを撫でる。
「ク、クマ~ン」
「あ、みんな先帰ってて、僕ちょっとクマに用事があるから」
「おい、明久、木刀取り出してなんの用事だよ、お前!?」
「異端審問会は他人の幸せを許さない! 例え相手がクマでも!」
「クマごときに嫉妬すんなよ……」
陽介に引っ張られ僕たちはテレビの外に戻った。
その後里中さんが天城さんを送って帰った。
天城雪子
アルカナ 女教皇
ペルソナ コノハナサクヤ
学力 Aクラス級
雪子シャドウ編終了です。あとは堂島さんと会話して日常の開始です。
堂島さんとの会話は長引かないと思うから次から日常編かな。
翔子をこの段階で出した理由はどことなく雪子と似たところがあるから、この二人も友人関係を築けそうだなあと思って出しています。まあ、明久の一人称である限り瑞希と翔子みたいに舞台裏で仲良くなる感じになりそうですが。
では次回もよろしくお願いします。