バカと田舎とペルソナ   作:ヒーホー

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第二十二話

「それじゃ行く前にちょっと買い物していくか」

家に向かおうとする僕を雄二が引き止める。

「いや、菜々子ちゃんと一緒に買い物する約束してるから」

「菜々子? 誰だ?」

「うん、居候先の子で僕の従姉妹」

「それでもジュネスに来てるんだから今買い物して行ったほうが効率的だろ」

「うん、そうなんだけど菜々子ちゃんが一緒に買い物に行くのを楽しみにしてくれてるからね」

「ま、それなら仕方ないか」

雄二が納得してくれたようなので一度家に帰って菜々子ちゃんを迎えに行くことにした。

 

 

「おかえりなさい」

「ただいま」

「ほー、ここが明久の住んでいるところか」

「え? えと……」

雄二をみて菜々子ちゃんが戸惑う。そういえば僕と初めて会った時も人見知りしていたっけ……それなのに雄二のゴリラみたいな外見は怖いかもしれない。

「大丈夫だよ、見た目はゴリラだけど意外と良いところもあるやつだから」

「くっ……坂本雄二だ、よろしくな」

雄二から一瞬殺気が漏れるが自分に怯えている菜々子ちゃんの前で僕に暴力を振るうのは自重したみたいだ。

「えと……堂島菜々子です……」

そう言って僕の後ろに隠れる。

「それじゃ、菜々子ちゃん、一緒にジュネスに買い物に行こうか」

「ジュネス? うん、行く!」

 

 

「ところで買い物って何を買うんだ?」

ジュネスに着くと雄二が尋ねてくる。

「うん、夕食の材料をね」

「そういえばお前一応一人暮らししてたものな、料理くらいは出来るか」

「うん、それに家族のいた頃から割と料理はしてたしね」

「前までは買ってきたご飯だけど、今のご飯の方が美味しくて好き」

菜々子ちゃんが嬉しいことを言ってくれる。

「前までは塩と水だけで暮らしていたのに、今は割とまともな生活してるんだな」

「家族がいるとさすがにね。それに僕はともかく育ち盛りの菜々子ちゃんにはちゃんと食べてもらわないと」

「家族……?」

「ゲームとマンガに生活費をすべて費やしたやつとは思えないな。意外にしっかりと兄貴もやっているみたいだし」

最初、雄二に怯えていたから菜々子ちゃんと手を繋いでいたけど、その繋いだ手を見て雄二がからかうように言う。

「お兄ちゃん……」

「なら飯の方は明久に任せるとして、ちびっ子、好きなお菓子はあるか? 買ってやるぞ」

「あ、雄二、じゃあ僕の分はポテチを……」

「お前の分は自分で買え」

「ならお兄ちゃん、お兄ちゃんの分は菜々子が分けてあげるよ」

「え? 本当! ありがとう菜々子ちゃん」

 

 

『我は汝……汝は我

汝新たな絆を見出したり……

 

絆はすなわちまことを知る一歩なり……

 

汝、正義のペルソナを使いしとき

我ら、更なる力の祝福を与えん』

 

 

 

夕食、雄二も手伝ってくれたおかげで久しぶりなのにパエリアも美味しく作れた。

「わあ、雄二お兄ちゃんも料理できるんだ」

「いや、今回は俺は手伝っただけだ、また今度作ってやるな」

「うん!」

いつもは悪逆非道な雄二だけど菜々子ちゃんに対しては優しい。

「うん、お兄ちゃん、これすごい美味しいよ」

菜々子ちゃんも買い物と美味しい料理のおかげで雄二にも慣れたみたいだ。

「ただいま」

そうして穏やかに食事をしていると叔父さんが帰ってきた。

「ん、明久の友達か?」

叔父さんが雄二を見て尋ねてくる。

「はじめまして、明久の前の学校の友人の坂本雄二といいます」

こいつまともな挨拶できたんだ。

「ああ、こいつの保護者の堂島だ」

「あのね、お父さん、今日のお兄ちゃんのご飯すごい美味しいよ、あとこのお兄ちゃんも料理できるんだって」

「ん? そうなのか、なら俺もいただこうかな」

「それじゃ、準備するね」

叔父さんも早い時間に帰ってきてくれたから作りたての食事を振舞うことができた。

「ははっ、確かに美味いな、あの姉貴の息子とは思えないな、義兄さんの方の血か?」

「叔父さん、もしかして母さんの料理を食べたことが?」

「……まあな」

食卓に沈黙が訪れる。

「明久、お前意外と苦労してるんだな」

珍しく雄二が同情的な声を上げる。今日は雄二が妙に優しい気がする。もしかして菜々子ちゃんには雄二のような荒んだ心でさえも癒す作用があるのかも……

食事が済んだあとは菜々子ちゃんも交えてトランプなどで遊んだ。菜々子ちゃんの楽しそうな様子を見て叔父さんも雄二の宿泊は認めてくれたし。

 

 

そして12時、菜々子ちゃんを寝かせてマヨナカテレビの時間。

「さて、いよいよか」

マヨナカテレビの条件は一人で見るというのもある。雄二は僕の部屋に、僕は居間の方で見るということになった。

『こんばんは~、え~と、今日は私、天城雪子がナンパ、逆ナンに挑戦してみたいと思いま~す』

「……え?」

突然のことに思考が追いつけず呆然としてしまった。

『題して! ヤラセなし、突撃逆ナン! 雪子姫の白馬の王子様探し!!』

ど、どういうこと!? 天城さんの逆ナンって……落ち着け、落ち着くんだ、僕、まずは天城さんに逆ナンされるための王子様っぽい服を買うところから始めないと……

『見えないとこまで勝負使用、ハート、みたいなね』

そしてカメラアングルがスカートのアップから胸元のアップに……

ブハッ

「な、なんて恐ろしい攻撃なんだ……シャドウめ、まさかこんな方向から攻めてくるなんて……」

鼻を抑えつつ更なる光景を求めてテレビの方を見る。

『もう私専用のホストクラブをぶっ立てる勢いで~、じゃあ行ってきます!』

残念ながら更なる光景は拝めずそのまま天城さんは建物らしきところに入っていく。

そのあと少し呆然としたけど雄二もマヨナカテレビを見れたのかな確認するために部屋に戻る。

「…………」

部屋に戻ると雄二が呆然としていた。

「雄二、どうしたの?」

「あ、ああ、ちょっと想像と大きく違うもの見てしまったからな……今までもこんな感じだったのか?」

「いや、今まではもっとぼんやり映っていたし喋ってもいなかったよ」

「ということはここに来て今までと大きく変化があったわけか……」

雄二が考え始める。

 

Prrrr Prrrr

 

「あ、陽介からかな。もしもし」

『お、おい、見たか、今の?』

電話の相手が陽介であることを確認してスピーカーモードに切り替えて雄二にも聞こえるようにする。

「うん、驚いたよね、まさか天城さんが……」

『あ、ああ、確かに天城だよな、名乗ってたし、けど言ってることおかしくなかったか?』

「うん、普段の天城さんなら言いそうにないよね」

「普段言いそうにない発言……服装も普段のものと違う……陽介、天城の電話番号分かるか?」

『い、いや、分かんねえ……』

「なら里中に電話して天城が今いるか確認させろ」

「ど、どうしたの、雄二」

「あのテレビに映ったのは俺と陽介の時のように天城のシャドウかもしれない」

『そ、そういうことか、わかった、里中に連絡してみる』

「今すぐクマにも確認取りたいが……ジュネスはもう閉まっているか……」

『そうだな、なら朝一でジュネスに集まろうぜ』

「ああ、じゃ明日な」

陽介との電話が切れる。

「こっちに泊まって正解か……」

「うん、もし天城さんがテレビに放り込まれているのなら助けないと……」

いつも雄二が泊まったときは遅くまでゲームをするけど今日は明日に備えて休むことにした。




早い段階で菜々子コミュも発生、雄二の子供好きの力も借りて菜々子ちゃんと仲良くなることもできました。
雄二と一緒に見せようと思ったけど確認したらマヨナカテレビの噂って一人という制約ついてたんですよね。ちょっと頭から抜けていました。
鮮明な時は見れるはずではありますが(実際に終盤でみんなで見てますし)いつそうなるかは明久たちにはわかりませんからね。
では次回もよろしくお願いします。

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