第二十話
深夜12時、マヨナカテレビを見る時間になった。
今日もぼんやりとテレビが映る。
この前見たのと別の人、髪の長い和服を着た女性に見える。
「でもこれだけじゃわからないなあ……」
考えているうちに映像は見えなくなる。
でもマヨナカテレビに映ったってことは人が入ってるのかな。
とりあえず雄二に連絡してみることにした。
『もしもし』
「あ、雄二、マヨナカテレビなんだけど……」
『なにか映っていたか?』
「うん、なんか和服を着た長い髪の人が写っていたよ」
『そうか……俺の方ではマヨナカテレビは見えなかった。ということはやはり稲羽限定なのか……』
「へー、そっか、この地方独特の現象なんだね」
『そう言われるとまるで自然現象だな』
「それで雄二、どうするの?」
『明日学校終わったら俺もそっちに行く。その時一度クマにも聞いて状況を確認してからだな。それと明日は土曜だしそっちで泊まることも考えよう、お前の家に泊めてもらって大丈夫か?』
「う~ん、多分大丈夫だと思うけど……」
『なら一応陽介にも頼んでおく』
とりあえず明日か……なら今日は疲れたし休もう。
「あれ? ここは……」
部屋で寝ていたはずなのに前にも一度来たこともある青い部屋にいた。
「ようこそ。ご心配めさるな、現実のあなたは眠りについてらっしゃる」
「ええ!? 僕は夢遊病だったの!?」
まさかあの姉からの防衛本能に目覚めて寝ながらでも行動可能に!?
「いえ、私が夢の中にて貴方をお呼びしたのです」
「ということはこれは夢?」
「ええ、夢という形でこちらにお越しいただいております」
つまり……
「そっか、夢なんだ、じゃもう一眠り……」
「ボケてないで主の話を聞きなさい」
イゴールさんはともかくマーガレットさんから美波や姉さんをも上回る殺気を感じて僕はその場で正座して聞く姿勢をとる。
「さ、さて、再びお目にかかりましたな」
イゴールさんも殺気を感じたのか、前のことをなかったことにしたいという感じで話をはじめる。
「そ、そうですね、お久しぶりです」
「ここは何かの形で契約を果たされた方のみが訪れる部屋。あなたは日常の中で無意識に目覚めを促され、内なる声の導く定めを選びとった……そして力を覚醒させたのです」
マーガレットさんが何かを説明してくれているみたいだけど……どうしよう、何を言ってるのかさっぱりわからない。けど怖くて聞き返せない。
「これをお持ちなさい」
イゴールさんから何かを渡される。
「鍵?」
「今宵から貴方はこのベルベットルームのお客人だ。貴方は力を磨くべき運命にあり、必ずや、私共の力が必要になるでしょう」
「えっと……僕が力を磨いて何かするよりマーガレットさんがやってくれればいいと思うんだけど……」
「なにかおっしゃいましたか?」
「だからマーガレットさんの方が強そうだから……」
「な・に・か?」
「なんでもありません……」
だめだ、逆らってはいけない。
「貴方は契約を果たされたのでそれに従い、ご自身の選択に責任を取らなくてはいけません、私共ができるのはそのお手伝いだけなのです」
「え? 洗濯ですか?」
なんで家事のこと? もしかして家の家事……菜々子ちゃんの服とかかな? でも家じゃ姉さんの服とかも洗濯してたし……小さい女の子の服とか特別な手順とか必要なのかな?
「新しい洗濯機とか特別な洗剤とか譲ってくれるんですか?」
「何を考えているのかわかりませんが『せんたく』違いですな」
イゴールさんは紙に『選択』と書いて見せてくれる。
「つまり自分の選んだことに責任を取れということ?」
「ええ、先ほどからそう言っているつもりでしたが」
よくわからないけど自分で決めたことは自分でなんとかしないといけないってことか。
「貴方が手に入れられたペルソナ……」
「ええ!? なんでペルソナのことを知ってるんですか!?」
「それが私共の役割に関わることだからです」
「主、こちらのお客様に対して難しい説明は避けるべきと思いますが」
「そのようですな」
なんかまた僕がバカ扱いされてるよ!?
「ペルソナとは何かを説明しようと思いましたがそれは省略させていただきまして……」
うん、多分説明してもらっても全く理解できない。
「貴方のペルソナが他の方々、例えばペルソナに目覚めた御友人二人のものと違い特別なものということです」
「特別?」
「そう、貴方の力はワイルド……」
ワイルド? その言葉は雄二の方が似合うと思うけど……
「野性的ということではなくトランプなどで言うワイルドカード、特別な札という意味でございます」
僕の表情から読み取ったのかイゴールさんが説明してくれる。
「貴方の能力は空っぽに過ぎないが無限の可能性を持つ、つまり数字の0のようなもの」
「えっと……空っぽとかってもしかして僕がバカって事?」
くっ、まさかここでもバカにされるなんて!? 最近こういうことが多い気がする。
「いえいえ、今でこそ空ですが無限の可能性を秘めているということです」
「ということは彼女ができる可能性もあるんですね!」
「え、ええ、もちろんその可能性もございます」
よし、これはいいことを聞いた。
「さて、本題になりますが……ペルソナ能力は心を御する力……心とは絆によって満ちるもの、他者と関わり、絆を育み、貴方だけのコミュニティを築くとよろしい」
「主、お客様は理解できずに煙を吹いております」
「……つまり色んな人と知り合って仲良くなればペルソナ能力が伸びるということです」
わかりやすく説明できるならはじめからそうして欲しい。
「また、コミュニティはお客様の旅路を照らす光にもなるでしょう」
「貴方にお目覚めになりましたワイルドの力はどこに向かうことになるのか……ご一緒に旅をしてまいりましょう……フフ」
そしてイゴールさんとマーガレットさんは笑みを浮かべる。
「ではその時まで……ごきげんよう」
そして僕の目の前がぼやけていった……
明久をバカ扱いする人たちがどんどん増えていきます。そしてマーガレットさんを少し暴走させてしまいました。
さて、新章突入です。また張り切って書いていこうと思います。今回はマヨナカテレビとコミュ説明回なので別段特別な展開はありませんでしたが。
では次回もよろしくお願いします。