バカと田舎とペルソナ   作:ヒーホー

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第九話

4/13 水 曇

 

登校中、またしても事故を起こしててゴミ箱に嵌っていた花村くんを助け一緒に学校に向かうことになった。

「いやー、二日連続でお前にみっともないとこ見られちまったな」

「花村くん、もう自転車で登校するのやめたほうがいいよ」

昨日は雨だったからということはあるけど今日は普通に事故っていたし。

「ところで昨日の事件、なんだろうな」

「昨日のって電柱にぶら下げられたっていうあの事件?」

「そうそう、あれ普通じゃねえよな、ってか殺してる時点で普通じゃねえか……」

「そうだよね、臨死体験程度ならともかく殺すまではやりすぎだよね」

「……え?」

僕の発言に何故か驚く花村くん。

「いやいや、臨死体験も普通にないだろ!」

「そう? 僕は月に数回体験してるけど……」

それでも姉さんがいなくなって回数が減ったくらいだ。

「お前どういう生活送ってるんだよ……」

「そんなことより早く行かないと遅刻しちゃうよ」

「あ、ああ、そうだな、行こうぜ」

 

 

放課後、昨日菜々子ちゃんの質問に答えれなかったということから勉強することを決意したおかげで授業の半分位を寝ないで過ごすことができた。

「あー、やっと終わったな、なあ、吉井そろそろこの町慣れたか?」

「うん、命の危険もないし、良い人多いし」

とても過ごしやすくていい街だと思う。

「慣れたのは良いことだけどなんかお前の発言物騒なこと混じってね?」

別に僕は普通のことしか言ってないと思うけど。

「一度お前がどんな生活送っていたか聞いてみたい気もするな……」

「別に特別なことは何もないと思うけど」

「そ、そうか……まあ、この町ってさ、都会に比べれば何もないけど、逆に何もないがあるっ……ての? 空気とか結構美味いし、あと食いモンとか……あ、ここの名物知ってる?」

「昨日里中さんたちに聞いたよ。染物とか焼き物だよね?」

「それは食いもんじゃねーだろ、ここの名物はビフテキだぜ。すごいっしょ野暮ったい響き」

へー、ビフテキか。塩と砂糖と水で生きていた僕にとってはなんでも美味しそうに感じるけど。

「俺安いとこ知ってんだけど、行っとく? 奢るぜ、昨日と今朝、二回も助けてもらったお礼に」

「本当!?」

花村くんなんて良い人なんだ!

「あたしには、お詫びとかそういうのないわけ? 成龍伝説」

花村くんの奢りで行こうとする僕らに里中さんが声をかけてくる。成龍伝説って言うと昨日自転車でこけた時に花村くんがヒビを入れたDVDか。

「う……メシの話になると来るな、お前」

花村くんが焦った顔をしている。

「雪子もどう? 一緒に奢ってもらお」

そんな花村くんに追い討ちをかける里中さん。

「いいよ、太っちゃうし。それに家の手伝いあるから」

天城さんはもう旅館の手伝いとかやってるんだ、すごいな。

「天城ってもう女将修行とかやってんの?」

「そんな、修行なんて、忙しいときちょっと手伝ってるだけ。それじゃ私、行くね」

天城さんはそう言って帰ってしまう。

「仕方ない、じゃ、行こっか」

「まじ二人分奢る流れ……?」

「花村くん、別に僕の分は無理しなくてもいいよ」

奢りのご飯は惜しいけどせっかく出来た友人に無理をさせるのは気が引けるし。

「いや、お前は気にしなくていいよ、これはお礼なんだしな。それに天城も含めた三人分にならなかっただけマシだ」

隙があればトランプでの賭けで僕の生活費を奪っていた文月の悪友たちと比べなんて良い人なんだ。

 

 

そして僕たちは今日もジュネスに来ていた。フードコートも結構充実してるなあ。

「安い店ってここかよ……ここビフテキなんかないじゃんよ」

「お前にも奢るんならあっちのステーキハウスは無理だっつの」

「だからって自分ち連れてくることないでしょーが」

「別に俺んちってわけじゃねーって」

「まあまあ、里中さん奢りなんだからそんな贅沢言う事でもないよ」

せっかくの食事なんだから仲良く食べないとね。

「ん、まあそうだね」

「んじゃ、これ歓迎の印ってことで」

こうして歓迎してもらえるとすごく嬉しいな。

そのあと僕はここのことをいろいろ教えてもらっていた。諸岡先生のあだ名が諸岡金四郎だからモロキンだとか、ジュネスができてからあんまり町の商店街とか行かなくなったとか……

そうやってしばらく話していると

「あ……小西先輩じゃん。わり、ちょっと」

休憩している店員さんを見かけて花村くんが席を立ってそちらに向かう。

「もしかして……花村くんの彼女!?」

たしかに花村くんは良い人だし恋人がいても不思議じゃない……

「はは、そうなら良いんだけどね」

でも僕の疑問に里中さんが笑いながら答えてくれる。

「小西早紀先輩。家は商店街の酒屋さん……けどここでバイトしてるんだっけ」

「ああ、良かった、彼女じゃないんだ。僕は花村くんとは良い友達になれそうだよ」

「あはは、彼女持ちだったら友達になれないってやつ?」

「僕はモテないからね。彼女持ちとかだったら羨ましくて」

里中さんは僕の発言を笑って流す。

そうして里中さんと話していると小西先輩が僕たちの方に来る。

「キミが転校生? あ、私のことは聞いてる?」

「うん、今聞きました」

「都会っ子どうしはやっぱり気が合う? 花ちゃんが男友達を連れてくるなんて珍しいよね」

え!? ということは花村くんは女の子を連れてくることは多いの!?

「べ、別にそんなことないよ」

「こいつ友達少ないからさ。仲良くやってね」

そっか、女の子が多いんじゃなくてバイト先にはあまり友達とこないってことかな。

「でも花ちゃんお節介で良いやつだけどウザかったらウザいって言いなね?」

「そんなことありませんよ。花村くんはいい人だと思いますし」

「あはは、知ってる。冗談だよ」

小西先輩は笑顔で言う。

「せ、先輩~、変な心配しないでよ」

花村くんの態度も僕たちと話してる時と違う。これはいくら鈍いと言われてる僕でもわかる。

「さーて、こっちはもう休憩終わり、やれやれっと。それじゃあね」

そして小西先輩は休憩時間も終わったらしく仕事に戻っていく。

「あ、先輩……」

元の学校にいた頃の僕だったら異端者として放っておけないけど……花村くんの様子を見ていたら応援しても良い気がする。

「はは、人のことウザイだろ? とかって小西先輩の方がお節介じゃんな。あの人弟いるもんだから、俺のことも割とそんな扱いっていうか……」

「弟扱い、不満ってこと? ふーん、やっぱそういうことね」

二人共弟扱いでそう言うけど……

「花村くん、姉がいる身として言っておくけど……」

弟扱いなんて何を言ってるんだ。

「弟扱いだったらあんな態度とらないよ。僕の姉さんは弟を女装させたり寝てるあいだに着替えさせたりするんだ」

「なんかお前の前の生活の話ってすごいことばかりじゃね?」

くっ、確かに僕の姉さんは普通とは大きくかけ離れているかもしれない……

「ま、まあ吉井くんの生活は置いておいて花村に良いことを教えてあげる。マヨナカテレビって知ってる?」

マヨナカテレビ? 様子を見ると花村くんも聞いたことないみたい。

「雨の夜の午前0時に消えてるテレビをひとりで見るんだって。で、画面の中に映る自分の顔を見つめてると、別の人間が映っている……ってやつ。それ、運命の相手だってよ」

へー運命の相手を見るおまじないってやつかな。

「なんだそりゃ?何を言い出すかと思えば……お前よくそんな幼稚なネタで盛り上がれるな」

花村くんはそういうのを信じないタイプなのか即座に否定をする。

「よ、幼稚って言った? 信じてないでしょ!?」

里中さんはちょっと怒ったように言う。女の子ってそういうおまじないとか好きだしね。

「信じるわけねーだろうが!」

「だったらさ、ちょうど今晩雨だしやってみようよ!」

「やってみようって……オメ、自分で見たことねえのかよ! はぁ……久々にアホくさい話聞いたぜ」

「でも試すだけだったらやってみても良いんじゃない?」

手間がかかるわけでもないし試すくらいならしてもいいと思う。

「お、吉井くんはノリがいいね」

「無駄だと思うけどな……」

 




さて、物語もようやく進んできた感じがします。
次回はマヨナカテレビを見ることになりますね。
しかしこの噂が文月学園に流れたらすごいことになりそうです。特に雄二にとっては死にも等しい現象ですからね、これ。
では次回もおろしくお願いします。

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