艦これ外伝〜Memory of Crossroads 〜   作:えいえいむん太郎

9 / 13
9.不知火と宮元少将(過去編)

「宮元少将の写真ですか?入隊当時の?ちょっと待ってください、人事課の名簿にあったような...」

 

陽炎、不知火、黒潮は検査が終わった後、大淀を訪ねた。昼飯の時話していた宮元少将の写真を見るためである。

 

大淀が探してくれている間、陽炎たちは待ち合い室の椅子に座って雑談していた。

 

陽炎「そういえば不知火、あんた結構検査終わるの遅かったじゃない?なんかあったの?」

 

 

不知火「何やら機械に不調があったようで。予定時刻より長引いてしまいました」

 

黒潮「不知火はウチらと違って特別な機械使わんといかんのやろ?どんな検査なんや?またあの記憶旅行ゆーのやったんか?」

 

 

不知火「基本的なことは貴女たちと変わりませんよ。ただ、医師たちは不知火のデータを録りたくて仕方ないようです。メモリートラベルも...まあ、あまり気持ちのいいものではありません」

 

陽炎「あんたも大変ねぇ、何度も何度も。あたしもやったけど、一回きりだし。あたし、メモトラの後吐いちゃったのよね。頭痛が止まんなくて」

 

黒潮「ウチはやったことないんよねぇ。全員がやるんやないみたいやけど。思い出したくない過去の記憶がある娘もいるし、なんとも言えんなぁ」

 

不知火「不知火は他の娘より多くやってますが、曖昧だった記憶が鮮明にリプレイされることもあります。それはメリットにもデメリットにもなりますね。知らなかった方がいいこともありますし」

 

陽炎「まあ、あんたはあたし達とはまた違う経験をしてきたろうけど、姉妹であることには変わりないんだから・・・無理しないで、自分で全部背負おうとするんじゃないわよ。あたし達に出来ることがあれば何でも言いなさい」

 

黒潮「陽炎の言う通りやで。どうも司令はんと不知火は他の娘にはない秘密みたいなのを持ってるからなぁ・・・一人で溜め込んだらあかんで。いつでも力になったるからな」

 

不知火「二人とも、ありがとうございます。そう言って頂けると助かります。不知火には・・・まだ信頼出来る仲間がいる。それだけで十分です」

 

 

その時、受付の奥から大淀が声をかけた。

 

大淀「陽炎さん、ありましたよ。こちらの名簿に写真がありました。持ち出し禁止ですが、良ければご覧になって下さい」

 

陽炎「ありがとうございます!!・・・ここに、司令の昔の写真が・・・」

 

不知火「・・・・・・・・・・」

 

黒潮「わぁ、楽しみやねぇ・・・陽炎、早く、早く」

 

陽炎「ちょっと待ってて・・宮元、宮元、ま・・み・・」

 

陽炎がページの索引を探す。

 

不知火「宮元勝哉、ありました!!!!124ページ!!」

 

不知火が指差す。

 

黒潮「あっ、この人ちゃう!?」

 

 

三人が名簿を覗き込むと。

 

 

そこには。

 

 

当時18歳の宮元勝哉少将の写真が載っていた。

 

 

陽炎「えええええ!?これが司令!?若っ!!若い!!初々しい!!てか目つき悪っ!!」

 

不知火「初めて見ました・・・髭が全くない司令の写真。確かに若いですね」

 

黒潮「あはは、髭がないとこんな感じなんやなぁ。でも結構イケメンとちゃう?目つき悪いけど、シュッとしてて」

 

陽炎「ええ?・・・うーん・・・イケメン・・まあ、身長高くてスラッとはしてるけど・・・どうなのかしら」

 

不知火「昔は痩せてたというのは本当だったのですね。不知火は・・・こっちの司令も格好いいと思いますけど」

 

黒潮「・・・・(やっぱ好きなんやねぇ。) いや、それにしてもええもん見れたわ。これは他の娘より一歩リードやなぁ。みんなの知らん司令の姿を知ることができた訳やし」

 

陽炎「リード?いや別に誰かと争ってる訳じゃないでしょ。まあ、得した気分にはなるけどね」

 

不知火「陽炎と黒潮は司令のことどう思いますか?良い上官だと思いますか?」

 

陽炎「え?あー・・・普通に良い司令だと思うけど。(いきなり何?もし司令のこと批判したら烈火の如く怒りそうだし・・・いや本心は司令のこと良いと思ってるけど)」

 

黒潮「そうやねえ。海軍の英雄やし、尊敬できる司令かもなぁ(不知火、急すぎるて・・・それにほとんどの娘は司令のこと好きやろ。ただこの"好き"はLikeのことで不知火のそれとは違うものやけど)」

 

不知火「そうですか。不知火もそう思いますが・・・司令は良い上官である、と。不知火は7年間、司令の専属秘書艦としてずっと働いてきましたが、今、客観的に見れば、不知火は盲目的に司令を崇拝してきました。ですが、今の不知火は違います。彼の長所だけでなく短所も見えてきました。司令は不知火の長所、短所をそれぞれ見抜き、最高のコンディションで望めるような指揮を執ってくれました。何様だ、という指摘もあるかと思いますが、不知火は気付いたのです。不知火は完璧ではないし、司令も完璧ではないと。不知火も、司令も暴走しすぎてしまったのでしょう。お互いも思いやるばかりに。司令は、不知火のために自分を犠牲にしようとしている・・・それは不知火の望むことではありません。不知火は、司令に最後の我儘を聞いてもらうつもりです」

 

陽炎「・・・あんたがベストだと思う方法で、やればいいんじゃない?あたしは、見守るわよ。陰ながら、ひっそりと応援させてもらうわ。不知火、あんたなら大丈夫よ」

 

黒潮「実を言うと、今迄ウチ、不知火のことが心配だったんや。司令に一生懸命尽くしてるのは分かってたけど、どこか無理してるように見えてん。だけど、不知火が前向きに考えて行動するのやったら・・・ウチは応援したいと思う」

 

不知火「二人とも、ありがとうございます。これからも迷惑をかけるかもしれませんが、不知火をよろしくお願いします」

 

陽炎「なーに言ってんのよ、あたしら姉妹じゃない。助け助けられ、の関係でしょ」

 

黒潮「そうやで。一人で悩まず、困ったことがあったら周りに相談すべきなんやで」

 

不知火「ええ、そうですね。その通りです」

 

それが、姉妹と言うものだから。

 

 

**

数年前 大反攻作戦が人類側の勝利に終わった直後

 

横須賀鎮守府

 

宮元少将、不知火

 

上官の部屋

 

 

大将「とまあ、君の提案した作戦は大本営で採用され戦果を挙げたが・・・戦略的には勝利していても、戦術的には敗北している。つまり、大局的に見れば目的である敵棲地撃滅は達成していても、細かいところまで目が配れていない。君の指揮した第二水雷戦隊による海上地図作成・・・地図は完成したには完成したが、艦隊機能は壊滅、旗艦たる神通が母校帰投を果たせなかった訳だ・・・この失態、どう責任をとるのかね?」

 

宮元「・・・その件に関しては、全て私の責任です・・・私の指揮不十分、監督不届き、育成不足でした・・・舞風も大怪我を負い、野分も精神的に傷を負いました」

 

大将「ふん。普段からしっかり練度を上げておかないから今回のような事態を引き起こすのだ!宮元君、君は艦娘に私情を挟んでないかね?彼女らはあくまで君の部下に過ぎない。あまり兵器に情にほだされるなよ。度が過ぎるようならば、君の異動も視野に入れる・・・」

 

不知火「お言葉ですが大将閣下、今回の襲撃はゲリラ的なものであり、司令が悪い訳ではありません」

 

宮元「不知火・・・黙ってろ」

 

大将「誰が口を開いていいと言った!!宮元君、君は自分の秘書の躾ひとつ出来ないのかね!!だいたい、貴様の力が足りないから艦隊壊滅まで追い込まれたんだ!!貴様らの育成にも国民の税金が使われていることを忘れるな!!兵器風情が、人間と同じ扱いをしてもらってるだけ有難いと思え!」

 

宮元「閣下、私のことはどのように仰って頂いても構いませんが、彼女のことを悪く言うのはやめて下さい!!全ては私の責任です!!」

 

不知火「司令・・・・」

 

大将「何?宮元少将、あまり私を舐めるなよ。君のクビひとついつでも諮問会に掛け合えば・・・ふん、海軍の英雄だなんだと持て囃されていい気になっているようだが、貴様は無能だと言うことを自覚した方がいいぞ。部下の一人守れないんだからな、貴様は」

 

 

ーー好き勝手言いやがって。司令がどれだけ自分を責めて、自分たちのために動いて働きかけてくれたか知らないから、部外者はそんなことが言えるんだ。司令の指示は正しかった。悪いのは、練度不足の自分だ。自分の姉妹すら守れない自分の無力さだ。

 

大将「まあいい、所詮は、"海軍の厄介者"と"殺戮機械"の厄病神コンビだ・・・とっととそこの書類を取って、帰りたまえ。君はトラブルしか起こさんからな」

 

 

宮元「・・・・では、確かに受けとりま・・・」

 

 

バサッ、と紙の束が床に散らばった。

 

 

大将「おっと、手が滑った。すまんな、全部拾ってくれるか?ちゃんと床に跪いてな。順番も正しく揃えろよ、"海軍の英雄"さんよぉ」

 

 

 

 

 

ブチッ。

 

 

自分の中で何かが弾けた。

 

 

 

不知火「いい加減にしろ、このクソ野郎がっ!!!!!!!!!」

 

 

不知火は海軍大将の胸倉を掴み上げると、顔面をぶん殴った。

 

 

 

 

大将は椅子から転げ落ちて吹っ飛んだ。

 

 

 

不知火は大将に馬乗りになり、殴り続ける。

 

 

 

不知火「司令がどれだけ苦しんでいるか知らない癖に、ふざけたことを!!!!!!!」

 

 

大将「ヒ、ヒィィ!!誰か、誰かーっ!!!助けてくれ!グエッ」

 

 

 

宮元「・・・・・!!不知火、やめろ!!!!死んじまうぞ!!!」

 

 

宮元は不知火を止めに入る。

 

 

だが、宮元の腕力でも不知火はびくともしなかった。

 

 

不知火の瞳が、黒く変色していた。

 

 

不知火「こんなクズ、死んでしまえばいいんです!!!」

 

 

宮元「不知火、いい加減にしろてめえこの野郎!!!!止めろっつてんだよ、このボケ!!!」

 

 

憲兵「憲兵隊だ!!!そこを動くな!!!!!」

 

 

拳銃を所持した海軍治安憲兵隊が突入してきた。

 

 

憲兵「あれだ!!拘束しろ!!!!」

 

屈強な男達が、不知火を拘束しようとするが・・・

 

 

不知火「放せ!!!!邪魔するなら、容赦しませんよ!!」

 

 

大の大人五人がかりでやっと不知火の動きを止める。

 

 

憲兵「鎮静剤を!!早く!!!よし、射て!!」

 

 

不知火「・・・・・ッ!!・・・・・・」

 

 

興奮した不知火は、鎮静剤を打たれグッタリと倒れ伏した。

 

 

宮元「・・・・・不知火、馬鹿野郎が・・・・」

 

 

宮元はぎりりと歯ぎしりして、その場に立ち尽くす。

 

 

憲兵「大将閣下の容態はどうだ?」

 

憲兵「顔中血だらけだ!!気絶しているが、命に別状はなさそうだ!」

 

 

憲兵隊長「署まで、ご同行願えますか、宮元少将」

 

 

宮元「・・・・・ああ。」

 

 

**

ここからは、不知火が不在の際の宮元の話である。

 

海軍大将、宮元の上官(不知火を宮元に紹介した大将)

 

私室

 

宮元は、部屋に入るなり自分の上官であり先生、恩人である大戸島二朗(おおとじまじろう)海軍大将に土下座した。

 

宮元「この度は、自分の部下が多大なるご迷惑を海軍、そして大戸島大将閣下にお掛けして大変申し訳ありませんでしたァ!!!!!!!!!しかしあいつはまだ秘書艦になったばかりで、未熟で世の中を知らない若輩であり、全ての責任は私にあります!!!私にはどんな処分を下して頂いて構いません!!しかし、不知火の処分については・・・どうなるのでしょうか、閣下」

 

大戸島「宮元くん、顔をあげなさい。とりあえず、三つ。ひとつ、君は謝る相手を間違っている。儂より加藤海軍大将に謝るべきだ。そうだろう?ふたつ、儂は確かに君直属の上司であり、定例会議の議長だが、全てが決まるのは大本営の軍事法廷だ。儂には直接の権限はない。そこを間違えないように。みっつ。君は不知火がなぜあそこで怒り狂ったのか、本当に理解しているかね?冷静沈着な彼女が、なぜあそこまで暴れたのか。無論、暴力は許されるものではない。だが、不知火がそうせざるを得ないほど怒った理由、それは、君のためだからだとしたら・・・?」

 

宮元「不知火が怒った理由が、俺のため・・・・?俺のために・・?」

 

大戸島「君は素晴らしい海軍人だ。だが、他人の気持ちを考える、ということには不得手のようだね。艦娘とて人間と同じように感情がある。儂は、君なら任せられると思って不知火を君に紹介したのだ。君たちは似ている。それは同じ海外帰りという共通点だけではない。もっと、根本の部分だよ。少し神通に入れ込み過ぎたようだな。君は不知火の事をきちんと見ていなかったのだ。しばらく、頭を冷やしなさい。謹慎を言い渡す。よーく儂の言葉の意味を考えてきなさい」

 

 

宮元「はい・・・。申し訳ありませんでした・・・失礼します。」

 

 

宮元が退室した後、大戸島大将はふうとため息をつく。

 

 

大戸島「やれやれ、不器用な男よ。力技だけではどうにもならないこともあるのだぞ、宮元くん」

 

 

大戸島「人の気持ちというものはな・・・」

 

 

**

 

数日後

 

加藤「大戸島大将!!宮元少将は確かあなたの愛弟子でしたよねえ!?ということは少なからずあなたにも責任がありますよねぇ!?部下の教育不足は、上官の責任だ!!」

 

大戸島「ほっほ。加藤大将、お怪我の方はもう大丈夫ですかな?ウチの宮元がご迷惑をお掛けしたようで・・・・」

 

加藤「おかげでね・・・鼻が折れてしまいましてね・・・全治1カ月ですよ・・・ご覧の通り包帯でぐるぐる巻きですよ・・・食事すらままならない・・・」

 

ピクッと血管を額に浮かべながら、加藤大将は続ける。

 

加藤「私は今度の諮問会議、宮元少将と秘書艦不知火の責任追及を行うことに決めました!!勿論、被害届けを出しましたよ!!そして大戸島大将、あなたも法廷に召喚されることになる!!議長の立場も危ういでしょうねえ!!私は大怪我をさせられたんだ!とことん追い詰めてやりますよ!!」

 

大戸島「そうですか、まあ、大本営に呼ばれることがあれば、その時は参りますよ。ところで加藤大将。諮問会と言えば、最近、匿名でこんなタレコミがあったのをご存知ですかな?なんでもある艦娘によれば、上官の暴言や暴力に悩まされているとか。そして、深く傷付いたとか。彼女は言うには階級は大将で、この横須賀に勤務しているとね。さらにこんな情報もあります。最近、海軍が管理している艦娘の建造に関する極秘書類が盗難に遭い、なんとその軍事機密が中国に流出したとか。既に逮捕されたその中国のスパイによれば、その流出させた張本人は中国政府から多額の報酬を受け取っていたとか・・・酷い話もあったものですねえ、加藤大将?儂はこの二つの案件を定例会議及び大本営に報告するつもりです。犯人の目星は既についているようですので・・・特定から処分決定まではそう長くかからないでしょう」

 

加藤「・・・・な、何を、なんの話をしている?まさか私がその犯人だとでも言うのか?名誉毀損だ!!!証拠は、あるのか、証拠は?」

 

龍驤「いやそれもう、自白してるようなもんやないか・・・」

 

 

大戸島「加藤大将、既に儂はお前さんと中国のスパイが一緒にいて密約を交わしたという証言を記録したテープを既に大本営に提出済みです。もうそろそろ憲兵隊がお前さんの身柄を拘束して家宅捜査に入る頃でしょう。もう、言い逃れは出来ませんぞ」

 

加藤「・・・・ッ、こ・・・この老いぼれが・・・小癪な・・・」

 

 

大戸島「去ね、この売国奴が!!貴様は日本人失格だ!!」

 

 

加藤「お、覚えていろよ・・・」

 

 

加藤大将はダッシュでどこかに走り去って行った。

 

 

龍驤「あっ、待て!!司令官、逃げるで!追いかけなくてええんか?」

 

 

大戸島「いや、必要ない・・・すぐに捕まるだろう」

 

 

龍驤「しかし、あんな最低の屑野郎もよくいたもんやな。あんなんが上官だった娘が可哀想や」

 

 

大戸島「ああいう輩が時々お前達を傷付ける・・・本当に申し訳なく思う」

 

 

龍驤「なんで司令官が謝るねん!!司令官は悪くないやろ!!むしろ最高の上官やで、ウチにとっては。ウチらは、キミみたいな司令官のためだったら、いくらでも戦えるんや。ウチらの事を一番に考えてくれとる、優しい司令官のために・・・」

 

 

大戸島「そう言ってくれれば、儂らは救われた気分になるよ・・・ありがとう」

 

 

**

数年前

海軍施設 艦娘専用営倉

 

夕方

 

不知火

 

看守「ここで貴女の処分が決まるまで待機してもらいます。夕飯は20:00です。留置場のようなものです。脱走しようとしても無駄です。看守は拳銃を所持していますので・・・」

 

看守は女性だった。看守による性暴力を防ぐ為の処置だというが、こちらを見つめる目は同じ人間に向けるそれではなかった。また、自衛のため武装が許可されていた。

 

不知火「・・・・ん?」

 

営倉の中には、既に誰かが一人入っていた。

 

その艦娘は、こちらを一瞥すると、ふん、とそっぽを向いた。

 

不知火「貴女は・・・霞、ですか?」

 

霞「・・・・・そうよ。直接話すのは、初めてだったかしら」

 

前に鎮守府内で見かけたことはあったが、ふたりきりで話すのは初めてであった。しかも、こんな至近距離で。

 

不知火「ええ。第18駆逐隊以来ですか・・・いや、艦娘学校で一緒だった気もしますね。 なぜ、こんな所に?」

 

霞「別に、どうだっていいでしょ・・・あんたには関係ないし。あんたこそ、何をやらかした訳?」

 

不知火「霞には関係のないことです」

 

霞「あっそ」

 

 

二人の間に沈黙が訪れる。元々喋る方ではない冷静沈着な不知火と、口が悪く高圧的な霞は顔見知りでこそあれ、お互い負けず嫌いであり、気が強い。

 

お互いが何も喋らなくなってから、数時間が経過した。

 

不知火「司令・・・・・・・」壁にもたれる。

 

これで、司令のキャリアに傷を付けた。上官に暴行したとして、艦娘としての自分は終わりだ。何より、自分のせいで司令に迷惑を掛けてしまった。自分の勝手な行動のせいで、司令の軍人としての人生に終止符を打つことになった。感情をセーブ出来なかった。司令を侮辱するあいつが許せなかった。司令は、自分にあんなことを望んでいなかったのに。一番苦しんでいたのは司令なのに。司令の為に怒ったつもりが、大きなお世話だったらしい。司令は、もう自分のことを嫌いになったろう。恨んでいるだろう。自分にせいだ。自分は、やはり失敗作だ。本当に、申し訳ない。司令、司令ーー。もう二度と会えないかもしれないけど、不知火は、貴方のためならーー

 

 

不知火の目は虚ろで、ただ静かに涙が溢れ落ちるだけだった。

 

もう、どうしようもない。

 

陽炎にも、黒潮にも、野分にも、舞風にも、神通さんにも、横須賀の皆にも、大戸島大将にも、司令にも、全員に迷惑を掛けて、恥をかかせた。自分は、何をしたいんだ・・・?

 

 

自分はもう、終わりだ。ここで、解体されて、消えて方が身のため・・・司令のため・・・

 

 

霞は、そんな不知火の様子をじっと見つめていたが、しばらく経って口を開いた。

 

 

霞「私はさ、加藤っていう大将の下に配属されてたのよ。で、そいつは私の仲間に手を出した訳。暴力を振るった訳ね。私は加藤が許せなかった。だから抗議して、直談判した。海軍本部にタレ込んでやったわ。あいつ、なんで私の仲間をぶったと思う?体の小さな駆逐艦相手によ?遠征失敗したからよ・・・それもあいつの編成ミスでね。遠征部隊のみんなは全く悪くなかった。あいつはそれを全部私たちのせいにした。私はそういうクズ司令官は慣れてるわ、ある意味ね。でも、他の娘は、そうじゃないわ。心に傷を負った娘もいる。許せないの。私は良くても、仲間が傷付けられるのは・・・耐えられない。私はあいつに生意気な口を聞いたからね、大将権限で営倉行き、罪状は反逆罪。ま、どうでもいいけど・・・教えなさいよ、あんたは何したの?」

 

 

不知火は霞の言うことを黙って聞いていたが、返事をした。

 

不知火「実は・・・不知火は・・・その加藤大将をぶん殴ったのですよ。司令の目の前でね。上官への暴行罪です。勿論、司令の責任になってしまいます・・・不知火のせいで、宮本少将の地位と名誉をめちゃくちゃにしてしまいました・・・」

 

 

霞「あのクズを、ぶん殴った・・・?へぇ、あんたなかなかやるじゃない。はっ、ざまあみろだわ。むしろ海軍の無能に制裁してやったってことで表彰されるべきね。でも、あんた、そんな暴力に頼るような奴だった訳?理由は何かあるんでしょ?」

 

不知火「加藤大将に司令を、侮辱されたのです・・・不知火の目の前で、彼は屈辱的な行為を無理強いされそうになっていました・・・司令は、それを耐え忍んでいましたが・・・不知火は限界でした」

 

霞「ふーん・・・あんたの上官って、確か海軍の英雄とかって呼ばれてるのよね。でしょ?聞いたことはあるわ。で、なんであんたはその上官が侮辱されて怒った訳?あんた自身が侮辱された訳じゃないんでしょ?」

 

不知火「不知火はいくら侮辱されても構いません、しかし何の事情も知らぬ者が、司令を侮辱するのを看過できません。司令には何の咎められるべき点もありません。不知火は司令を一番近くで見てきましたから、それはよく分かっているつもりです」

 

霞「そう。で、なんであんたが怒る必要があるの?司令は気にしてないんでしょ?じゃあ、あんたが先走って全部ダメにしたってことね。・・・それは"本当にあんたの司令が望んだこと"かしらね?」

 

不知火「いえ、そうは思いません。司令は、腹が立つからといって暴力に訴えるような方ではありません。しかし、未熟な不知火は感情を制御出来なかった。不知火が今回の全ての元凶ですから、それは自覚しています」

 

霞「じゃあ、あんたは解体処分も覚悟してるんだ?」

 

不知火「はい。もとより、死ぬのは怖くありません。艦娘としての死という意味ですが。ただ一つ心残りは、司令に謝ることが出来ないことです。今すぐここを抜け出して、謝りたいです。きっと許しては貰えないでしょうが」

 

霞「あんたも、司令官、司令官って凄いわね。忠誠心が強いっていうか、なんというか。私には理解出来ないわ。私が今まで出会ってきた上官は揃いもそろってクズばっかりだったから。あんたも覚えてるでしょ、 キスカで停泊してた、あの日のことと、その後あの上層部が私たちに何をしたか・・・そして大和を守って坊ノ岬で沈むまで、私にとって"上官"ってのは信用出来ない生き物なのよ」

 

不知火「宮坂司令については・・・今も宮元少将と同じくらい尊敬しています。彼のことについては、残念でした。彼は全ての責任をとって、自決しましたから・・・。不知火は、その一件があったからこそ、上層部であろうと大将であろうと、不当に自分の司令が非難されるのは我慢出来ないのです」

 

霞「そう、なるほどね・・・。いつの時代も、クズ司令はクズ司令、クズ上層部はクズ上層部で変わらないわね。あんたの司令も、よくあんたを手懐けたわね。どんな手を使ったのかしら」

 

不知火「・・・・?手懐ける?どういう意味ですか?」

 

霞「あんたさぁ、簡単に上官のこと信じ過ぎなんじゃないの?」

 

不知火「いえ、そんなことは・・・本当に司令を尊敬できるからこそ、不知火は司令のために働いて来たのです」

 

霞「その司令があんたを裏切らないという保証は?あんたが無事に司令と再会できたとして、謝ったとしても、今までと同じ態度で接してくれるかしらね?」

 

不知火「無理でしょう。それは無理です。最早不知火は司令に許してもらうために謝るのではなく、自分の中のけじめとして謝罪したいだけです。それも叶うか分かりませんがね」

 

霞「じゃあ、あんたは"自分の責任を痛感して許しも期待せず謝罪して司令に軽蔑され憎まれてもなお、上官との関係にけじめをつけたいわけだ"。もし、宮元少将があんたと会いたくないって言ったらどうするのよ」

 

不知火「その時はその時です。潔く解体処分を待ちます」

 

霞「ふーん、そう・・・」

 

 

霞(狂ってるわね。この凄まじい上官への信頼。忠誠心。律儀?誠実?いや、この形の忠誠は一見強固なものに見えるけど、実は脆いもの。盲目的な崇拝も、熱心な反逆も、いずれはどこかで綻びが出る。不知火は依存しすぎて自分から崩壊していくし、私は敵を作り過ぎていずれ潰されるだろうし。でも、不知火ってこんなに誰かに依存するタイプだったかしら?・・・"前"の不知火は・・・)

 

 

霞は、ふと思いついたように、

 

 

霞「なんか、あんたロボットみたいね。艦娘っていうより、ロボットに近い気がする。"私の知っていた"不知火より、少しかけ離れてる気がする。普通じゃないわ、あんた」

 

 

 

 

それを聞いて不知火は。

 

 

 

不知火「否定しません。殺戮機械(キリングマシーン)ですからね、不知火は」

 

 

自嘲するように笑う。

 

 

 

霞「私はさ、別にあんたのこと嫌いじゃないけど。もし解体されなかったら、それはそれで辛いんじゃないの。一応、私も解体される覚悟は出来てるけどね。クズにクズって言って何が悪いのって感じだし。またシャバに出たら、違う生き方を見つけてみたら?余計な御世話かもしれないけどね」

 

 

不知火「・・・・・・はい。霞も、罪が軽くなるといいですね。不知火よりはマシでしょう」

 

 

 

霞「私も、どうせ解体されるなら二、三発ぶんなぐっとくべきだったかしら。提督執務室の花瓶かなんかでさ」

 

 

不知火「死んでしまいますよ・・・・」

 

 

そう無表情で返すと、不知火は自分の腫れ上がった拳を凝視して摩った。

 

**

 

不知火の事件からそう遠くない日

 

宮元少将

 

大戸島大将

 

大戸島大将執務室

 

宮元「大戸島大将、加藤大将のお怪我の具合はどうでしょうか・・・出来れば直接お会いして謝罪したいのですが・・・」

 

 

大戸島「ふむ。そうか。だがそれは無理だ。加藤大将は一週間前に退職されたよ」

 

 

宮元「!!!!!!!!それは、・・・不知火が原因ですか?」

 

苦い顔をして宮元は聞く。

 

 

大戸島「うーむ。それも1割はあるかもしれんな。だが、主な理由は・・・これだ」

 

 

大戸島は一枚の紙を宮元少将に渡した。

 

 

宮元「・・・・・!!これは・・・・!!海軍の大将が、外国に機密情報を流出・・・!?」

 

大戸島「声が大きいぞ、宮元くん。 他言無用だ。今回の不知火の暴行事件と合わせて、大本営はこの不祥事を揉み消すことにした。大反攻作戦の成功で日本はおろか世界から評価が高まっている現在、海軍としてはこのような醜聞は外部に漏らしたくない」

 

宮元「・・・真実を、隠蔽するつもりですか・・・海軍の名誉のために・・・」

 

 

 

大戸島「世の中は綺麗事だけでは動かないのだよ、宮元くん・・・。儂だってこんなことにはもちろん反対だ。だが、皮肉にも暴行事件の被害者は国家機密を流出させた売国奴。普段から艦娘に暴力を振るっていた極悪人だ。こうは考えられないかね、駆逐艦、不知火は奴に膺懲の一撃を与えたと。するとどうだろう、少し過激だったかもしれないが見事不知火は正義のヒロインだ。と、こんなストーリーを・・・我々は"描きたい"」

 

 

宮元「・・・・・!!それは、間違っています・・・!!それに、いくら相手が犯罪者とはいえ、暴力は許されないでしょう!あいつもこんな結末は望んじゃいない・・・」

 

 

大戸島「ほう、では何かね、君は不知火が解体されてもいいと言うのかね、ん?自分の大切な秘書艦が、極刑を食らっても君は平然としていられるのかね。それに、その暴力の基礎を教えたのは宮元くん、君では?」

 

宮元「そういうことでは・・・格闘技を教えたことは事実ですが、ただ、罪はきちんと償うべき、ということです。俺も、不知火も、そうしなければ納得しません」

 

大戸島「なぜそう言い切れる・・・?君の不知火はもしかしたら、今も営倉の中で震えているかもしれんぞ。解体されたくない、と怯えながらな。君が助けてくれるのを待っているかもしれん」

 

宮元「あいつはそんな奴ではありませーーー」

 

 

 

 

大戸島「だから!!」

 

 

 

大戸島「君はなぜ、"そう言い切れる"のかね?艦娘とはいえ不知火は中学生くらいの女の子だ。君は、過度に期待しすぎているのではないのかね?それが彼女の重荷になっていると考えたことはないかね?」

 

 

 

宮元「ーーーそれは、・・・その・・・」

 

 

 

大戸島「君は、確かに優秀な提督だ。数十年に一人の逸材だよ。海軍史上最年少で少将に昇任したのも君だ。海軍の英雄ーー君なしでは大反攻作戦の完遂は難しかったかもしれない。だがな、

 

 

君は艦娘の取り扱いに関しては下手くそだ。荒削りで、繊細さに欠ける。つまりそれは、細かな気配りが出来ていないということだ。

 

 

神通にしてもそうだ。情を移されるなとは言わん。ケッコンしている関係ならなおさらだ。だが、君は知らず知らずのうちに、依存しているし依存させている。私の言う意味がわかるかね?自覚は少しはあったんじゃないのかね」

 

 

宮元「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

 

 

大戸島「君と不知火の処分は、大本営と軍事法廷が決めることだが、不知火が解体され君がクビになるかどうかは儂にもわからん。まあ、ある程度は予想はできるがな」

 

 

 

 

 

 

**

 

 

 

 

大本営直属軍事法廷

 

 

 

 

裁判長「被告、宮元勝哉を秘書艦監督不届きによりーー

 

 

 

 

 

 

 

 

自宅謹慎2カ月と減俸6カ月に処す」

 

 

 

 

 

 

 

宮元「・・・・・・ありがとうございます」

 

 

 

 

 

 

 

海軍艦娘専用営倉、不知火302号室

 

 

 

役人「軍事法廷より通達。判決を言い渡す。宮元少将秘書艦駆逐艦不知火を、上官暴行、反逆罪によりーーーーーー

 

 

 

 

 

 

半年の禁錮処分、執行猶予2年に処す。

 

 

 

なお、これより貴艦は横須賀にて特別勤労奉仕艦として2カ月間ボランティア清掃・鎮守府の業務の手伝いを行う。その間、出撃、演習、遠征、私的外出を禁止する。艤装の装備もこれを認めない。

 

 

2カ月後、貴艦が自らの職務を抜かりなく完了したとみなされば、再び宮元少将麾下の配属となる。

 

 

以上」

 

 

 

 

不知火「・・・・・・・・分かりました」

 

 

**

2カ月後

 

 

海軍寮 宮元自宅(謹慎中)

 

夕方

 

 

宮元「・・・・・・・そろそろ飯にするか」

 

 

宮元は自炊するため、立ち上がってキッチンに向かう。

 

 

すると。

 

 

ピンポン、と呼び出し音が。

 

 

 

宮元「はいはい、今出ますよっと・・・・・」

 

 

 

上層部からの使いかな、と宮元がドアを開けると。

 

 

 

 

 

 

 

 

不知火が、そこに立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

直立不動で、陽炎型の制服を着て、こちらを見据えて。

 

 

 

 

沈みつつある夕陽が、彼女の髪をオレンジ色に染める。

 

 

 

 

彼女は、まっすぐ宮元を見つめて。

 

 

 

 

不知火「お久しぶりです、司令。ご迷惑かと思いましたが、どうしても司令に直接謝らなければ気が済まず、ここまで訪ねさせて頂きました」

 

 

 

 

 

宮元「・・・・・・・・・・・・・」

 

 

宮元は何も言わず、自分の秘書艦を見下ろす。

 

 

 

宮元「とりあえず、中入れよ。寒い」

 

 

 

カラスの鳴き声がどこからか聞こえてくる。

 

 

宮元は不知火を中に入るよう促した。

 

 

すると不知火は。

 

 

 

不知火「この度は、不知火のせいで司令にご迷惑をおかけして、本当に、本当に申し訳ありませんでした!!!!」

 

 

 

言うと不知火は玄関の前で頭を擦り付けるように土下座した。

 

 

 

 

不知火「許して下さいとは言いません。ですが、これだけは言っておきたかったのです!!不知火のせいで、司令の名前に泥を塗ってしまいました!!!取り返しがつかないことをしてしまいました!!今となっては言い訳に過ぎませんが、不知火は、司令が侮辱されて悔しかったのです!!それで、あんなことをしてしまいました。不知火は失敗作です。上官の言いつけも守ることが出来ない欠陥品です!!本当に、申し訳ありませんでした!」

 

 

叫ぶように謝罪する彼女の瞳からは大粒の涙が溢れる。不知火が泣いたところを見たのは、宮元も初めてだったが、

 

 

 

宮元は。その瞬間拳に力を入れすんでのところで不知火を殴るところだった。だが、

 

 

 

代わりに思いとどまって自分を殴った。バキ、と鈍い音がする。

 

 

不知火「・・・?司令・・・!?」

 

 

こいつ、今なんと言った?欠陥品?失敗作?それは、一番言っちゃいけないことだろうが。

 

 

ああ、やっぱり、こいつには俺がいねえと、俺がサポートしてやらねえとダメか・・・。

 

 

宮元「それはギャグで言ってんのか?有能の代名詞みたいなお前がそうなら俺みてえな凡才は鉄くず以下だぜ。自分を物扱いしてんじゃねえよ。自虐にしてもそれは絶対言っちゃいけねえ。人間なんだよ、お前は」

 

 

 

不知火「・・・・・しかし、不知火は、不知火は・・・・司令を・・・」

 

 

宮元「不知火、顔上げろ。俺の目を見ろ。な、お前が着任当時俺に言った言葉、覚えてるか?

深海棲艦どもを・・・

 

 

 

撃滅し、殲滅し、」

 

 

 

不知火、宮元「「絶滅させる・・・・・」」

 

 

 

宮元「この一点に、俺は強く共感するよ。頼もしいことを言う強気な奴だと思ったもんさ。

お前は、罪の意識を感じてんのか?自責の念にかられてんのか?俺の本当のところはな、別にお前に対して怒っちゃいねえよ、恨んじゃいねえよ。俺のために怒ってくれたんだろ?褒めることはできねえかもしれねえが、嬉しいじゃねえか。俺ぁ謹慎喰らおうがそんなことはどうでもいいんだ。屁でもねえ。だからお前の謝罪は受け入れない。許す以前に怒ってねえんだからよ。でももし償いをしたいというならーーー」

 

 

 

 

「これからも俺の側にいて、俺のサポートをしてくれよ。それでチャラでいい」

 

 

 

 

不知火「司令・・・・ありがとうございます・・・」

 

 

 

宮元「ほら、ティッシュやるから鼻拭け。そんなきたねえところで土下座すんなよな・・・お前も一応女の子なんだからよ・・・」

 

宮元は不知火の髪の毛や服を払ってやる。

 

 

不知火「あ、すみません・・・ありがとうございます」

 

 

宮元「ほら、立て。お前の気持ちはわかったから。な、この話は終わり!もう自分を責めたりするんじゃねえぞ!それに、俺に謝るのもこれで終わりな。これからはいつも通り、今迄通り接してくれ。俺もそうするからよ」

 

 

 

不知火「はい、分かりました。不知火もそうすることにします。これからも、不知火をよろしくお願いします。司令」

 

 

 

宮元はニカッと笑って、

 

 

宮元「腹減ったろ!夕飯ウチで食ってけよ。今作ろうと思ってたところだし」

 

 

不知火「そうですね。お言葉に甘えて。お邪魔します」

 

 

宮元「何にすっかなー。魚でも焼くか。さすがにカップ麺はあれだしな・・・」

 

不知火「不知火も手伝いますよ。一応料理も出来ますし」

 

宮元「あれ、お前・・・・まあ、今更驚かねえけどよ」

 

 

 

夜。

 

 

宮元「まあ、さすがに泊まりは(規則的にも他の意味でも)まずいからな、途中まで送ってくよ」

 

不知火「ご馳走様でした、司令。いやでも悪いですよ、一人で大丈夫です」

 

宮元「遠慮すんな、たまにゃ上官に甘えろよ」

 

不知火「・・・・分かりました、では、またまたお言葉に甘えて」

 

宮元「そうそう。素直に年上の好意に甘えるってのも世の中をうまく渡ってくコツだ」

 

不知火「不知火は艦娘ですから、所謂年齢という概念はあまり関係ないのと思いますが」

 

宮元「まあ、そうかもしれねえが、少なくとも今のお前の見た目なら俺より年下だろ。艦の年齢の話なんかしたらみんなババアじゃねえか」

 

不知火「司令、その発言は色々まずいかと・・・」

 

宮元「ハハ、冗談だよ。取り消しにしてくれ」

 

 

 

宮元は自転車を漕ぎ、不知火と二人乗りする。

 

 

さすがに謹慎中の身、原チャリは敷地移動とはいえ使えない。

 

 

 

宮元「見ろよ不知火、星が綺麗だぜ」

 

 

不知火「・・・・本当ですね。満点の星空です」

 

 

艦娘寮の目の前に到着する。

 

 

 

宮元「じゃあ、また来週な。俺ぁそん時正式に提督業務に戻るからよ。したらまたしっかり秘書艦として頼むぜ」

 

 

不知火「はい。もちろん、全力でやらせて頂きますよ。送って頂いて、ありがとうございました。また来週、お会いしましょう。おやすみなさい、司令」

 

 

不知火が艦娘寮に戻ろうとすると、

 

宮元「おい、不知火!」

 

 

宮元は不知火の頭を撫でてから、こう言った。

 

 

 

宮元「お前は最高の秘書艦だよ。俺の誇りだ。これからも、俺をよろしく補佐してやってくれ」

 

 

 

不知火は、柔らかく笑って。

 

 

 

不知火「宮元少将は、最高の司令です。不知火の誇れる自慢の司令です。これからも、よろしく不知火を指揮してやって下さい」

 

 

 

宮元は、ニヤリと笑うとくるりと背を向けて、自転車を押して歩き出した。

 

 

 

 

不知火「司令!おやすみなさい!!」

 

 

 

 

宮元は、答える代わりにピッと二本指で別れの挨拶をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

***

宮元謹慎から

 

翌週

 

横須賀鎮守府提督執務室

 

 

 

宮元「この机も、久しぶりだぜ・・・やっと戻ってきた、という感じだな」

 

 

宮元は自分の仕事スペースである机を撫でる。

 

 

 

コンコン。

 

 

扉がノックされる。

 

 

 

 

宮元「入れ!」

 

 

 

 

 

 

不知火「陽炎型二番艦、不知火です!"本日より"、謹慎より復帰された宮元少将の秘書艦を務めさせて頂きます!!よろしくお願いします!」

 

 

 

 

 

宮元はくっくっと笑って、

 

 

 

 

机の上の電話を操作して番号をプッシュした。

 

 

 

 

宮元「大淀か?マルハチマルマル、宮元勝哉、提督業務を再開する!!」

 

 

 

 

 

その時、横須賀鎮守府中のスピーカーに、大淀の声が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

『宮元勝哉提督が、鎮守府に着任しました!!!!!」

 

 

 

 

 

それを聞いた時陽炎は、艦娘寮の自分の部屋で着替えをしていた。

 

 

 

 

「ふふ・・・おかえり、不知火、司令」

 

 

 

 

神通はその時、工廠で艤装の手入れをしていた。

 

 

 

 

「・・・・・・・提督!!」

 

 

夕張「あっ神通!そんな急いでどこいくのさ!!」

 

 

 

「・・・・・提督が、宮元少将が帰ってきたんです!!」

 

 

 

 

 

 

 

宮元「よし、不知火、早速全艦隊に召集をかけろ!!講堂に集合だ!2カ月ぶりに全員に挨拶だ!」

 

 

 

不知火「了解です!!」

 

 

 

 

 

この後、神通の異動が決まり、宮元にまた変化が起きるのはまた別の話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

誤解を招かないように言っておけば、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この時まだ宮元は不知火より神通に目をかけている。もちろん事件後、より宮元は不知火の重要性を認識したが、それは宮元の中で不知火の位置が単なる部下の一人から個人的に気に入った部下に変化しただけである。

 

 

 

 

 

「ああ、こいつには俺がいなければダメなんだなーーー」

 

 

この言葉はすなわち、不知火を自分がサポートしてやらなければダメだという意識があることを意味している。あくまで、親が子供の面倒を見るように。

 

 

 

 

 

 

 

彼と不知火が究極にお互いに依存するようになるのは、神通がいなくなって代わりに不知火に入れ込みようになるその後からである。

 

 

 

 

恋愛感情なき恋愛。

 

 

 

 

 

彼ら二人は上官と部下を超えた絆を手に入れたが、

 

 

 

 

 

宮元はその代償に純粋な好意を拒絶するようになってしまった。

 

 

 

 

 

不知火は、ある意味で特別過ぎたのである。

 

 

 

 

 

不知火が覚悟を決めた今、

 

 

 

 

 

後は宮元がどう踏ん切りをつけるかである。

 

 

 

 

極端な愛し方と嫌い方しか出来ないこの男が、

 

 

人の愛し方を学ぶのはーーー

 

 

そう遠くない話である。

 

 




Yokosuka to Tel Avivや神通編にも少し出てきた、不知火の暴力事件の一部始終を描きました。
神通と宮元少将の話はまたいずれ。次で不知火と宮元少将編は終わりです。次次話ではアメリカ編に戻ります。

ちなみに霞は改二になった記念に特別出演させました。不知火とも史実での繋がりがあって勉強になりました。 もちろん、ただ出演しただけでなく、彼女と不知火の会話はちゃんとした意味を持っています。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。