艦これ外伝〜Memory of Crossroads 〜   作:えいえいむん太郎

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今回は過激というか少し暴力的な描写が目立ちます。ご注意下さい。


8.Nightmare/Shiranui(2), Eilat.

7年前横須賀鎮守府

海軍大将執務室

不知火

 

海軍大将「宮元くん、彼女が君の秘書艦になる不知火だ。彼女はアメリカからの帰国子女でね。君と通ずる部分もいくつかあるだろう。仲良くやりたまえよ」

 

不知火「初めまして。陽炎型二番艦、不知火です。ご指導ご鞭撻よろしくです。本日より司令の秘書艦を務めさせて頂きます」

 

彼は、初めて自分を見た時、にこりともせず、興味なさそうに無愛想に言った。

 

宮元「宮元勝哉大佐だ。よろしく頼む」

 

それだけ言って、彼はそっぽを向いた。

 

提督執務室、宮元と不知火

 

宮元「俺ァイスラエルに住んでてな。ガキの頃は近所のクラウマガ道場で鍛えられた。日本の柔道も向こうでは結構有名でよ。何かしらの格闘技は自衛のために身につけておいて損はねえ。で、だ。今日からお前に武術を教えていこうと思う。俺が師匠だ。分かったか?」

 

不知火「ご命令とあらば。しかし、司令。水上で戦闘することに特化した我々艦娘が、対人の格闘技を身につけることに意味はあるのでしょうか?」

 

宮元「"だからこそ"だろうよ。深海棲艦どもと殴り合うことは少ないかもしれねぇが、格闘技を通して体の運び方や重心の移動、何より闘争心が身につく。それに、敵はあの化け物だけじゃねえ。お前には、いざという時の俺の矛、そして盾になってほしいんだよ。てめえの身はてめえで守れるように、大切な仲間を守るためにな。ほれ、これに着替えてこい」

 

宮元は袋に包まれた固くて重い何かを投げてよこした。

 

不知火「司令、これは・・・?」

 

宮元「道着だよ。俺からのプレゼントだ。サイズ合ってりゃいいんだがな。お前160cmくらいだろ?それ持って道場行くぞ。まさか制服のままやるわけにはいかねえし」

 

不知火「プレゼント・・・・ですか。ありがとうございます。大切に使わせて頂きます」

 

花束より、アクセサリーより、ケーキより、嬉しかった。何より不知火に取っては司令からの初めてのプレゼントであり、思わず気分が高揚した。

 

道場

 

宮元「ほう、似合ってるじゃねえか。なかなか様になってるぜ、不知火」

 

不知火「それはどうも。でも、少し動きにくいですね、生地が固いです」

 

宮元「まあ最初はな。何度も着て洗濯するうちにやわこくなってくんのさ。慣れだよ。さて、柔軟と準備体操したら始めっか。宮元流格闘技道場、これより開講だ」

 

不知火「よろしくお願いします」

 

数週間後

 

宮元「オラ、腰のひねりが甘いぞ!しっかりひねりを入れろ!!体重を乗せて、"蹴り抜く"んだ!」

 

不知火「はい!了解です!!」バシッ バシッ

 

ミット打ち。

 

宮元「たとえ俺とお前の体格差があろうと、一瞬で勝負を決めることもある究極の急所への攻撃・・・」

 

宮元「目潰しだ。だが、動き回る相手にそうそう当てられるもんじゃねえ。後相手を失明させたら色々めんどくせえことになる。だから、寸止めするのさ。誰だって目や鼻にジャブが飛んでくりゃひるむ。こいつは少林寺の応用なんだが・・・とにかく左手で牽制し、右手の正拳突きで決めるんだ」

 

不知火「なるほど・・・参考になります。しかし司令、急所というならもっと確実にダメージを与えられる箇所がありますが」

 

宮元「ん?どこのことを・・・・あっ」

 

不知火「そう、司令にあって、不知火にはないものです」

 

宮元「・・・・・いや確かに、男相手にゃとんでもない一撃になるだろうが、相手が女だったらどうするんだよ」

 

不知火「同じですよ。人体の急所というものは、全て股間から頭部までを結ぶ一直線上にありますからね。そこを叩きます」

 

宮元「まあ、模範解答だよ。もし後ろから変態に抱きつかれたら、腹への肘打ちやスネ、足の甲を思い切り蹴って一瞬でも怯んだら金的食らわすか、背負い投げで投げてから顔面踏み抜きでだいたいKOだ。問題はそれを女性が出来るかどうかだ。だいたいの女の子は力もないし、怖くて何もできないだろう。いわゆる護身術なんてもんもあるが、実際の場面でそれを出来るかは別の話だ。特に小学生と変わらねえ駆逐艦・・・お前より体の小せえ娘もいるだろう・・・俺はな、上官って立場を利用して部下に手ェ出すクズが許せねえんだよ・・・胸クソ悪くてな・・・駆逐艦相手、自分より弱い娘に欲情し、襲うんだよ、そういう輩は・・・。嘘だと思うか?実際起きてるんだぜ、表にゃ出てこねえだけでな」

 

不知火「・・・・・・・・」

 

宮元は、不知火の肩をガシッと掴み、真剣な表情で、

 

宮元「お前がこの先そういう場面を見たり、自分や仲間がされたりしたら俺に言え。俺じゃなくてもいい、本部に垂れ込め。そうしたら俺と奥井"少将"でそいつを法廷に呼び出してやる」

 

不知火「わかりました。肝に銘じておきます」

 

宮元「お前にゃ、仲間を守って欲しいのよ。いざという時に、何もできねえのは悔しいだろう」

 

不知火「・・・・・・・はい」

 

Re。奴を倒せるだけの力が欲しい。もっともっと鍛えなければ。司令のこの格闘技も、役に立つ時も来るだろう。使えるものはなんでも使え。

 

5年前 オペレーション・シキシマ 大反攻作戦、フィリピン奪還作戦。

 

リンガ泊地、シンガポール、リンガ諸島

 

宮元勝哉大佐 臨時執務室

 

 

 

宮元「宮元勝哉率いる第ニ水雷戦隊の編成を確認する。

 

旗艦 神通

 

陽炎

不知火

黒潮

舞風

野分

 

諸君!いよいよ当大反攻作戦も大詰めだ!!航空偵察部隊の報告によれば、フィリピン諸島近海で敵"姫"クラスが確認されたのこと!!今迄の情報を俯瞰すれば、このフィリピン近海が敵棲地の一つである可能性が高い!!しかもその規模は今迄のもので最大のものである!!現在インドネシア、シンガポール、フィリピン海軍の協力を経て海上封鎖、民間船舶の誘導、避難を実施中である!!

本日1600より作戦行動を開始する!!諸君らの任務は、敵前衛部隊の掃討を視野に入れた威力武装偵察である!!つまり本格的な戦闘は目的ではないし、これを避けなければならない!!敵勢力と会敵しても、牽制及び反撃に攻撃を限定し、決して突っ込むな!!諸君らの情報、海上地図をもとに、金剛型率いる高速戦艦部隊、川内率いる夜戦特化部隊、伊401率いる潜水艦遊撃部隊、赤城率いる空母機動部隊、そして武蔵率いる超火力・主力艦隊が敵勢力敵棲地を撃滅する!!大本営より入電、本作戦を"新決F号作戦"と呼称することを決定した!!神通を中心に、東アジアに平和と安寧を取り戻すため、各人員一層奮励努力し、日本、ひいてはフィリピンの未来を守り抜くのだ!!」

 

全員「「「「「「「はい!!」」」」」」

 

宮元「旗艦、神通!!お前なら出来る。お前は俺の自慢の部下だ。お前ならこの任務を完遂できると信じている。必ず全員生きて連れ帰ってきてくれ。お前は俺の誇りだ。そして・・・人類の宝だ」

 

神通「はい!旗艦、神通、必ずやこの任務をやり遂げてみせます!!華のニ水戦の名にかけて、必ず全員無事に帰投させます!!」

 

宮元「陽炎!!陽炎型の真の実力を世界中に見せてやれ!!ネームシップ、そして二番艦として神通を補佐し、妹達と協力して戦果を上げろ!!期待しているぞ!!」

 

陽炎「いよいよ私の出番ね!!陽炎型のやればできるってところ、見せてあげるわ!!期待しててね、司令!!」

 

宮元「不知火!!お前にはもう多くは語らねえ!!お前は俺の秘書艦としてずっと艦隊を引っ張ってきた!!お前には全幅の信頼を寄せている!!深海棲艦どもを全滅させるため、自分の仕事に集中してやり遂げろ!!」

 

不知火「司令、お任せください。この不知火ーー名誉ある任務を仰せつかったこと、光栄に思います。必ずや戦果を挙げてみせましょう」

 

宮元「黒潮!!お前も陽炎、不知火とともに今迄俺の元で懸命に戦ってきたな!!お前は真面目で、誰よりも仲間思いなことは俺がよく知ってる!!お前ならできるだろう!!あまり気張らず、いつものお前の感じで落ち着いて任務にあたれ!!」

 

黒潮「ほな、黒潮、いっきまーす!!司令はん、ウチに任せてや!!絶対にいい報告を持ち帰るから!!」

 

宮元「舞風!!!お前はまだ着任して日が浅いが、姉妹ともに数多の訓練をこなし、他に引けを取らぬほどの練度になったな!!大丈夫だ、お前にはみんながついてる。無事に帰って来ればそれでいい。お前の笑顔はみんなを元気にする。恐れるなよ、お前ならできる!」

 

舞風「舞風いっきまーす!提督ぅ、舞風の華麗な戦場での踊り、しっかり見ててね!頑張るから!!」

 

宮元「野分!!お前はとても慎重で、いつも冷静だ!!技術的にもかなりの練度だ!全員で協力し、主力艦隊が効率よく動けるように敵をよく観察し、地形や潮の流れに注目しろ!!お前には期待しているぞ!陽炎型の誇りを見せてやれ!!」

 

野分「駆逐艦野分、出撃します!!第四駆逐隊の力、見ていてください!!」

 

 

 

士気は最高、練度的にも申し分なかった。だが、偵察ということで、装備も主力艦隊を想定したものではなかった。慢心はなかった。しかし、心のどこかで、この任務を軽視していた部分があった。強大な敵勢力の現れる可能性はほぼゼロに等しかった。敵棲地の入り口まで近付き、偵察して帰投する。それほど危険な任務ではなかった。

 

 

だから、まさかあんなことになるなんて、今となっては

 

 

もう遅いけれど

 

 

思っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーザザッ こちら神通、提督、敵偵察部隊と思われる軽巡・駆逐を中心とする敵勢力と交戦し、砲撃してきた為反撃し、全敵勢力を撃沈しました。

 

 

ーー了解、被害を報告しろ。

 

 

ーー舞風が敵魚雷を受け中破、黒潮の魚雷発射艦が故障しました。以上です。

 

 

ーー偵察、海上地図の進捗はどうだ?

 

 

ーー近海の地形、潮の流れ、天候、温度など全て記録しました。9割完成です。電探による索敵では、もうこの辺りに敵の反応は見えません。

 

ーーよし、もう十分だろう。作戦終了だ。敵潜水艦、艦載機への警戒を怠らず、舞風をサポートしつつ慎重に帰投しろ。ご苦労だった。宮元、通信を終わる。

 

 

神通「ふう、作戦終了ですね・・・この地図をもとに、主力艦隊が一気に敵棲地を叩く・・・私たちのこの働きが、戦艦や空母のみなさんの助けになればいいのですが・・・ともかくみなさん、お疲れ様でした。ですがまだ作戦行動中です。完全に母港に帰投して初めて作戦完遂ですからね」

 

陽炎「分かってますよ、神通さん。舞風、あんた大丈夫?艤装下ろした方がいいんじゃない?」

 

舞風「いや、大丈夫だよ。ちょっと服が汚れちゃっただけだから・・・心配しないで。野分に肩借りてるから・・・・へーき」

 

不知火「無理はしてはいけませんよ。艤装が使いものにならない今、敵の攻撃を受ければ身動きできないですからね」

 

舞風「うーん・・・あたし、足引っ張ってるよね・・・ごめんなさい」

 

不知火「い、いや舞風あなたは、そのようなことはありませんよ。あなたが中破したのはあなたのせいではありません。むしろ中破で済んだことを幸運に思うべきです」

 

野分「舞風はよくやったわ・・・みんなそれは理解してる」

 

舞風「でもさあ、あたし着任したのこの中で一番遅いし・・・お荷物なってない?」

 

黒潮「ほーら!そうやってすぐ自分を卑下するのやめぇや。誰もは最初は初心者なんや。神通さんだってこんな最初から最強って、わけじゃないんやで。不知火の言う通り大きな怪我なくて良かった思わないかんて。沈んだら元も子もないんやで。それに舞風はすごい頑張ってた!ウチちゃんと見てたから」

 

舞風「そ、そう・・・?ありがとう。そう言って貰えると、嬉しいかな・・えへへ」

 

神通「黒潮の言う通りですよ、舞風。私だって着任したての頃は何もできないひよっこでしたから。でも訓練を重ねて実戦をこなすうち、少しずつ自分に自信を持つことができるようになったんです。舞風。あなたは私の訓練をきちんとこなしてきたじゃないですか。私の教え子は、みな優秀です。だから、自分を誇りなさい」

 

舞風「は、はい!わかりました!」

 

 

 

艦隊の雰囲気はとても良かった。みんなで助け合い、お互いのことをよく知っている。

 

 

これで、作戦は終了・・・気を抜くわけにはいかないが、みな大きな損害もなく、誰一人沈むことなく無事に任務を完遂できた。後は泊地に帰投するだけだ。安堵というか、安心感というか、

 

 

完全に油断していた。

 

 

 

 

 

それは完全な奇襲だった。

 

 

 

 

 

ーーん?遠くに、何か見えますね・・・陽炎、"メガネ"で見てくれませんか?

 

 

 

 

 

 

 

ーー了解・・・あれは・・・人?水面の上に立ってるってことは、艦娘かしら?

 

 

 

 

 

 

ーー黒っぽい服装・・・こっちに手を振ってる?

 

 

 

 

 

ーー陽炎、不知火にも見せてくれませんか?

 

 

 

 

 

ーーん、はい

 

 

 

 

 

ーーどうも・・・あれは、艦娘ではなさそうですよ。一応警戒しておいた方が・・

 

 

 

 

 

ーーそうですね、この距離ではもう遅いかもしれませんが・・・全員戦闘準備をしておいてください。野分は舞風のサポートを。もし戦闘になった場合、私、陽炎、不知火で交戦します。黒潮は支援射撃をしつつ、万が一のため後方警戒と野分の補佐を。

 

 

 

 

 

 

ーーしかし、妙ですね。敵にしろ味方にしろ電探に引っかからないというのは・・・いつからあそこに?

 

 

 

 

 

ザーーーザザーーザザザザ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

頭に何かが鳴り響く。ノイズのような、小さいけれど断続的な痛み。

 

 

 

 

 

 

 

 

頭痛?

 

 

 

 

 

 

ザザーーザザザザザザザザ

 

 

 

 

 

 

 

次第にノイズは大きくなる。

 

 

 

 

 

 

なんだこれは?通信機器の故障か?

 

 

 

 

 

 

 

ザザザザザザザザーーーーザザザザ

 

 

 

 

 

 

耳鳴りが酷い。何が起きているんだ。

 

 

 

ーー不知火、あんた大丈夫?顔色悪いわよ?

 

 

 

 

ザザザザザザザザーーザザッ

 

 

 

頭が痛い。苦しい。

 

 

 

ザザッザザーザザッ

 

 

 

 

 

その時。頭の中に、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Hello, my sister. I AM HERE. I AM

 

 

 

 

 

 

 

 

 

RE.

 

 

 

 

 

 

 

 

声が、聞こえたと思った

 

 

 

 

 

 

 

 

「対空射撃用意ーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

神通さんの叫ぶ声が聞こえて、我に返った。

 

 

 

 

 

上空に、

 

 

 

 

 

 

 

 

おびただしい数の敵艦載機が

 

 

 

 

こちらめがけて襲来してきた。

 

 

 

 

撃って、撃って、撃ちまくっている間、不知火達はその雷跡に気が着くのが遅れてしまった。

 

雷撃だけじゃない、砲撃も飛んでくる。

 

全方面から攻撃からひっきりなしに飛んでくる。

 

 

「舞風、大丈夫っ!?舞風・・・」

 

野分は舞風を庇いながら応戦しているため、なかなか効果的な反撃が出来なかった。

 

 

「うん、なんとか大丈夫。野分こそ、あたしのために・・・ごめんね」

 

 

 

が。

 

 

 

一機の艦載機が、野分と舞風めがけ。

 

 

 

急降下。

 

 

 

 

「ーーー舞風、野分、避けてーーーーッッッッ!!!」

 

 

誰かが叫ぶが、時既に遅く。

 

 

 

非情にも、手負いの舞風と野分に、

 

 

 

投下。

 

 

 

爆発。

 

 

 

「ーーーーーーーーーーー」

 

 

 

野分が、舞風を押し出すように庇い、爆発をもろに被った。

 

 

舞風はゆっくりと倒れ伏し、

 

 

野分は黒煙を吹き上げながら、事切れるように、

 

 

沈ーーーーーー

 

 

 

「舞風ェェーーーーーーーッ!!!!」

 

 

 

「野分!!!!!!!ああああああああ!!!!!」

 

 

 

陽炎、不知火が全速力で二人に駆け寄る。

 

 

二人とも気絶している。艤装が黒焦げだ。強制的に艤装を解除し、それぞれが二人を曳航する。

 

 

 

ーー舞風、野分!?!?大丈夫ですか!?

 

 

ーー舞風、野分ともに大破!!繰り返す、野分、舞風ともに大破!!!

 

 

ーーそんな・・・・沈んではないのですね!?

 

 

ーーはい!!あたしと陽炎で曳航します!!!!

 

 

ーーこのままじゃ、全滅ーーー

 

 

 

「今はとにかく撃って撃って撃ちまくりなさい!!全員、離脱します!!誰か煙幕弾を・・・・」

 

 

「ウチがやります!!」

 

 

黒潮が煙幕弾を発射する。

 

 

短時間でも目眩しにはなるはずだ。

 

 

「全員無事ですか!?複縦陣に移行してこの海域を離脱します!!」

 

 

しかし。

 

 

「ーーーーー!!!」

 

 

 

ーー逃スカ。

 

 

 

黒潮に、砲撃が降り注ぐ。

 

 

 

「きゃああああ!!!」

 

 

不知火「黒潮!?大丈夫ですか!?」

 

 

「中破してもうた・・・主砲がおじゃんや・・・・・」

 

 

黒潮はこれで攻撃能力を失った。

 

 

不知火「自力航行は出来ますね?!早く撤退を!!こっちです!!」

 

 

ーー提督、こちら神通!!帰投中に謎の敵勢力に奇襲を受けました!!只今応戦中ですが、野分、舞風が航行不能!! 黒潮が中破、反撃が間に合いません!!至急応援を要請します!!!このままでは艦隊が全滅します!!!」

 

 

ーー提督、提督!? 聞こえますか!? あの・・・

 

 

 

不知火「神通さん!?提督との通信は!?」

 

神通「わかりません・・・繋がらないんです・・・まるでジャミングされてるみたいに・・・」

 

 

不知火「!?・・・・ジャミング・・・?まさかあいつが?」

 

 

あの化け物が、こちらの通信を妨害しているのか?

 

 

いずれにせよこのままではーー全滅する。

 

 

なんとか動ける残りの全員が死力を尽くして応戦しながら撤退するが、砲撃の雨と敵艦載機、雷撃に足を取られてなかなか速度を上げられない。

 

 

神通「ーーーッ、とにかく舞風と黒潮をサポートしつつ、撤退しなければこのままでは全滅です!!陽炎、不知火、後は任せます。私が囮になります。私が敵を引きつけますから、その間に全速力で逃げてください。それしか方法はありません!」

 

 

陽炎「神通さん!?危険すぎます!!神通さんだけ置いて行くなんてできません!!全員で帰投する、って司令と約束したじゃないですか!!」

 

 

不知火「神通さん、死ぬつもりですか・・・!?陽炎の言う通り、あなただけでは・・・」

 

 

黒潮「神通さん、冗談やろ?そうなんやろ?それはあかんて!」

 

 

神通「分かっています!!!!!でも他に手はないいんです!!誰かがやるしかないんです!!!!私も無事ではすまないでしょう。ですが、提督より旗艦に任命された私の役目は、艦隊を率いることだけではありません。貴女達を、命に代えても守ることです!!!提督より預かった未来ある貴女達を無事に帰投させることです!!貴女達は、生きて帰りなさい・・・。陽炎、不知火、黒潮、舞風、野分、貴女たちは、私の大切な教え子です・・・よく戦ってくれました。もし私が戻らなかったら、提督に伝えてくれませんか? 貴女の神通は、立派に戦ったと。そして、貴方を愛していたと・・・。勿論、貴女たちのことも大好きですよ・・・・達者でね。もし再び生きて会えたら、またいっぱいお話しましょう。みすみすやられるつもりはありませんよ。華の二水戦旗艦、神通・・・・参る」

 

 

 

陽炎・不知火「「神通さーーーーーーん!!!!!!」」

 

 

 

 

 

 

神通さんはフルスロットルで化け物に向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

早朝、加賀の放った彩雲によって、海域近くの小島に座礁している満身創痍、大破の状態で気絶している神通さんが発見された。

 

 

 

 

不知火と陽炎、黒潮、舞風、野分はなんとかリンガに帰投することができた。

 

 

 

 

自分たちは事の顛末を、一部始終をすぐに司令に報告した。

 

 

舞風と野分はすぐにドック入りとなった。本土へ緊急送還されることになった。

 

 

 

司令は舞風と野分の治療から応援部隊の派遣、大本営への報告まで全てを一人でこなした。

 

 

 

そうだ。思い出した。不知火の妹を傷付けたのは、

 

 

 

 

 

あいつだ。

 

 

 

 

Re。

 

 

 

なぜ、あいつが東アジアの海にいたのか、今迄その記憶が飛んでいたのか、そんなことはどうでもいい。

 

 

 

殺す。殺す。殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すーーーー

 

 

 

 

 

復讐してy

 

 

***

 

 

「あああああああ!!!!」

 

飛び起きる。

 

 

ベッドに寝かされていた。

 

 

 

嫌な汗でぐっしょりだ。

 

 

 

「起きたのね。気分はどう?ああ、まだ動いちゃダメよ。安静にしてて」

 

 

声の主はドクターだった。

 

 

「ドクター、不知火は一体何をーーー確かメモリートラベル中では・・・」

 

 

「オーバーヒートしたのよ、機械が。これ以上は危険だと判断してあたしが強制停止させたわ。随分うなされていたけど。よっぽどひどい記憶をみたのね。なにか新しい記憶は思い出した?」

 

 

メモリートラベルは回数を重ねる度昔の記憶がより鮮明に再生される。前は舞風や自分たちを襲ったのは正体不明の敵勢力だと"思い込んでいた"。だが、今回、やっと思い出した。それはそうだ。陽炎たちはあの化け物の正体を知らないのだから。

 

 

自分は前に一回、あの化け物に会っている。

 

 

レジーナ・・・・

 

 

自分たちはあの化け物一体に壊滅させられたのだ。

 

 

憎い。悔しい。許せない。殺してやる。沈めてやる。力が欲しい。誰にも負けない強さが。

 

 

深海棲艦どもを狩って、狩って、狩りまくって、あの化け物は自分が沈めてやる。

 

 

忘れるものか。もう忘れない。復讐してやる。たとえ刺し違えてもーーー

 

 

 

 

 

「と、以前の不知火ならそう言うのでしょうがーー」

 

 

 

「今の不知火は違います。不知火には司令がいる。仲間がいる。確かにここに、みんなに支えられて生きている不知火がここにいる。過去にとらわれず、不知火は今を精一杯生きていきます。勿論、忘れはしません。あの絶望を、あの悔しさを。リベンジする機会はもうないかもしれませんが。不知火は復讐に生きるのはもうやめます。

 

 

 

不知火は、司令と大切な仲間たちのために生きることに決めました。

 

 

もう、迷いません」

 

 

「・・・・そうね。それが一番ね。不知火。やっぱり貴女、変わったわ」

 

 

ドクターがにこりとすると、不知火は柔らかく、微笑んだ。

 

 

 

 

 

*****

*****

 

 

ソマリア沖。ここでは、自動小銃やRPGで武装し、高速ボートで民間船舶を襲撃する海賊が漁業や商船に甚大な被害をもたらしていた。深海棲艦の出現により海上輸送路が破壊され、漁獲量も減ったため、地元のゴロツキが中国製AK47のコピーや旧ソ連時代の横流し品を使って武装し、船員を人質に取り身代金を要求するケースが後を絶たなかった。

 

 

ソマリア、首都モガディシュ

 

ある政府機関のモニタールーム

 

オスカー中佐(イスラエル海軍)、ガリドCEO(イスラエル軍事会社)、ハッサン軍事顧問(ソマリア軍)、

アリ政務次官(ソマリア政府高官)

 

 

オスカー「艦娘というのはご存知ですかな、ミスター・ザーイド?」

 

ハッサン「聞いたことはあります。日本、アメリカをはじめとする先進国、海軍大国が保有する深海棲艦に対応し得る少女の形をした水上二足歩行兵器・・・」

 

アリ「我がソマリアも、日本政府やアメリカ政府と契約して近海の海を防衛して貰っていますが。ご存知の通り我が国の兵力は約5000人。艦娘はおろか軍艦すらない状況です」

 

オスカー「対深海棲艦と人類の戦争が始まって20年以上・・・世界は二度の大戦を経て、今度は海から迫り来る化け物との防衛戦争に臨んでいる・・・そして艦娘は奴らに対抗し得る唯一の兵器・・・」

 

 

オスカー「ですが、艦娘はなにも、深海棲艦だけに対抗するために造られたわけじゃない。すなわち、艦娘を対人間の戦争に使えないか?と、誰かが言いました。艦娘に武装させ、敵艦船を撃沈したり、海岸から密かに上陸し破壊工作を行い、速やかに離脱する・・・彼女らの機動性ならそれが可能です」

 

ハッサン「待ってくれ、それはあまりにも非人道的では・・・あまり我々は詳しくはないが、彼女らはほとんど外見は人間と変わらないのだろう?彼女らには兵士と同じ戦闘は不可能だろう」

 

オスカー「クク、ククク・・・

 

 

 

שמעת את זה? אין להם הבנה של מהות המלחמה.(ガリド、聞いたか?こいつらまるで戦争というものを理解していないぞ)」

 

ガリド「フン。"持たぬ"ものほど人権や正義とかいう綺麗事をほざきだすな。真の強者は、使えるものは全て使う」

 

アリ「・・・?失礼、何を話しておられるのかな?」

 

オスカー「おっと失敬。アラビア語に戻しましょう。申し訳ないが貴方方ソマリア人は全く戦争を理解していないと言わざるを得ません」

 

ハッサン「なに?どういうことだ、それは!?」

 

ガリド「既に大国同士が血を流して国を荒廃させてまで争う戦争の時代は終わりました。冷戦、ソ連の崩壊を経て核の傘による偽物の平和・・・そして深海棲艦の出現・・・現在、世界最大の艦娘保有国は日本です。世界各国は、いかにして日本の協力を仰ぎ、自国の利権を守るか常日頃悪戦苦闘している・・・いいですか、核の時代は既に終わったんですよ、これからは艦娘の時代です」

 

 

オスカー「これから、その意味をお見せしましょう」

 

 

オスカー「エイラート、準備は出来てるか? よし、始めろ」

 

 

ガリド「こちらがエイラートの基本スペックです」

 

 

駆逐艦 エイラート改(元Z級駆逐艦ゼラス)

 

艤装

 

4.5インチ砲

40mm砲

魚雷発射管

 

ステルス機能搭載本機(タービン)

通信妨害ジャミング装置

小型ドローン(折りたたみ式)

艦娘専用対艦ミサイル"ガブリエル"

 

37ノット

排水量 1710トン

 

武装

 

X95 MTAR (サプレッサー)

 

ジェリコ941 (イスラエル軍拳銃)

 

グレネード、フラッシュバン

 

アーミーナイフ

 

予備弾倉

 

 

ソマリア沖、海賊に占拠されたタンカー

 

口元を派手なマスクで覆った男が、AKを人質たちに向けながら叫んでいる。

 

その数優に20人は越えよう。

 

「この船は俺たちが乗っ取った!!おかしな真似をすれば額に穴が空くことになるぜ!!」

 

「ボス!!大変です!!」

 

「なんだ?」

 

「見張りが殺されてます!!恐らく侵入者です!!」

 

「なに、この人数相手に正気か?返り討ちにしてやれ!!そう人数は多くないだろう、おい、人質はしっかり見張っておけよ!!!」

 

武装グループのボスは焦っていた。

 

「(クソ、治安維持部隊か?いや、それにしては早すぎる。俺らだって多額の金受け取って依頼されてんだ、身代金のうちの40%を俺らの分け前にするという条件でな!!それに武器商人からの横流しも優先的に回すと約束した!!非武装のタンカー一隻、俺らにゃ朝飯前よ!)」

 

彼らは3日前に匿名の人物から多額の報酬+身代金の40%で依頼を受けこのタンカーを襲撃した。

怪しいとは思ったが金で動くのが彼らの流儀だ。

 

 

「ーーボス、こちらエディです!!気をつけてください、女がそっちに向かーーぐあっ」

 

 

「エディ!?なにがあった!?女!?なんの話をしている!!まさか女が俺らを相手に・・・?」

 

 

 

 

「なんなんだ、あいつは、化け物が・・・なんで撃っても死なねえんだよ・・・!」

 

武装グループの一員である男は、他の仲間が次々と殺される中、船内を命からがら走り、逃げていた。

 

目元以外をバラクラバ(マスクのようなもの)で隠した、少女のような侵入者。

仲間の死体が足元に転がってくるのを目の前で体感した。

 

やばい、殺されるーー死ぬ。

 

自分たちが犯罪者集団であることは分かっている。が、俺は人を殺したことはないし、何より家族の借金を返すため仕方なく海賊行為をやっている。どれもこれもあの海から来た化け物のせいだ・・・3年前、漁師だった親父は海に出たその日、帰ってこなかった。俺らの国の近海にあの化け物ども・・・悪魔が急に現れたのは丁度あの日だった。親父を失った俺ら家族は生活費に困った。お袋は体が弱くて働けないし、小さい弟たちは満足に飯も食えない・・・何より親父の漁船の借金が俺にのしかかってきた。金を稼ぐには村を出て都会に行くしかなかったが、俺には学歴がない。単純な肉体労働しか出来なかった。いつしか俺は仕事仲間のゴロツキに誘われ、この海賊集団に入っていた・・・

 

 

にちゃ。

 

「ヒッ・・・」

 

あいつの足音だ。床に広がった血を踏む音だ。すぐに隠れなくてはーー。

 

 

長い廊下の途中にある物置きに身を隠す。息を潜める。息を殺す。早く行け、早く通りすぎてくれ・・・

 

 

自分の心臓がバクバク鳴っているのがわかる。気付かれたら死ぬ、気づかれたら死ぬ・・・

 

 

 

にちゃ。にちゃ。にちゃ。にちゃ。にちゃ。にちゃ。にちゃ。にちゃ。にちゃ・・・・

 

 

足音が通りすぎて行く。段々と遠ざかって行く。どうやら、行ったようだ。

 

 

 

安堵してゆっくりと顔を上げた瞬間、

 

 

 

 

 

「みーつけた」

 

 

 

 

銀色の銃口が

 

 

 

俺の顔の前に

 

 

 

 

 

「うわあああーーグッ」

 

 

 

恐怖のあまり絶叫しそうになる。が、銃口をそのまま口の中に突っ込まれた。口の中が切れる。鉄の味がする。俺は、失禁しているのかもしれない。体の感覚が恐怖で麻痺している。

 

 

「手短に聞く。貴様等の、ボスの居場所はどこだ?答えなければ殺す。5秒以内に決めろ」

 

 

「モゴモゴ、ンン・・・」

 

ボスの居場所?確か人質のところに・・・いるはずだ。命は惜しい。もう、答えてしまおう。死にたくない。

 

 

「なに?答えるのか?」

 

「ンンーモゴモゴ」

 

首をかろうじて縦に振る。

 

「よし、静かに喋れ。大声を出せばここで射殺する」

 

その少女は銃口を素早く俺の口から引き抜き、再び俺の額に照準を合わせた。

 

「ゴホッ・・・ボスは・・・人質のところ・・・に。居住区の娯楽室に人質を集めてる!!頼む、殺さないでくれ!俺は好きでこんなことをしてる訳では・・グッ」

 

 

言い切る前に膝蹴りを顔面に食らった。激痛で思わず顔を抑える。

 

 

「欲しいのは親玉の情報だ、貴様のことなどどうでもいい。貴様は既に用済みだ。フン、見逃してやるからとっとと去れ。弾がもったいない」

 

 

「え、助けてくれるのか?あ、ありがとう、・・・」

 

 

どうやら見逃してくれるようだ。何故かはわからないが、今のうちに逃げよう・・・

 

 

俺は彼女の横をすり抜けて、ダッシュでその場を離れた。

 

 

 

***

 

「拳銃で脅されればすぐに情報を漏らす・・・ふん、これではイージーゲームそのものではないか。しかし何故中佐は私にこんな烏合の衆のようなゴロツキに相手をさせるのか・・・いつから私は海上警備員のような仕事を?私は艦娘だぞ。まあ、命令に従うのが兵士の役目だが・・・」

 

 

エイラートはMTARの弾倉を再装填する。親玉の場所は分かった。船内の構造は既に脳にインプットしてある。後は親玉を探し出して始末するだけだ。

 

「中佐、こちらエイラート。親玉の場所がわかりました。これより人質の救助に向かいます」

 

「ご苦労。エイラート、新たな伝達がある。人質だが、もし親玉が人質を盾にとるようならば人質ごと射殺しても構わん」

 

「ーーーーーーー!?!?中佐、それはどういう・・・人質の命が優先では?」

 

「エイラート、未熟で世間知らずなお前に一つ教えてやる。人質というのはな、全てが無実で可哀想な奴らだとは限らんのだよ。なに、どうせもろとも海の底だ・・・」

 

 

「・・・。中佐、あなたは、私になにをさせようとしているんですか?これではまるで・・・」

 

「兵器であるお前が知る必要はない!ただ言われた任務を遂行すればそれでいいのだ!それとも、お前は"解体"されたいのか?」

 

 

「・・・ッ。いえ。わかりました。エイラート、任務を遂行します」

 

「わかればいい。人質はあまり重要視するな。親玉は確実に殺せ。そして速やかに脱出しろ。オスカー、アウト」

 

 

納得いかないが仕方がない。自分は兵器。与えれた任務を完遂するのが仕事。しかし、まるでこれはーー

 

無意味な殺戮ではないか。

 

 

 

親玉がいると思われる部屋の目の前。

 

エイラートは、ドアの鍵を確認する。案の定、ロックされている。

 

ならば。

 

エイラートは小型爆薬をセットし、ドアごと吹き飛ばした。その瞬間に即効性のスモークグレネードを床に転がす。フラッシュバンでは人質を傷付ける可能性があるからだ。

 

エイラートのオッドアイはほぼナイトビジョン、赤外線カメラと同じような能力を持っているため、煙の中でも縛られている人質と銃を振り回している男の区別はつく。

 

 

三人。

 

 

まず、一人をMTARで無力化し、もう一人をアーミーナイフで刺殺。最後の一人を組み伏せ、拳銃を奪い、ジェリコを突きつける。

 

 

「お前がボスか?そうだな?」

 

「・・・驚いた。ホントにガキじゃねえか。へっ、まさか俺の海賊団がこんなメスガキ一人に壊滅させられるたぁ・・・笑えねえな」

 

エイラートは不快そうに顔を歪め、

 

「・・・来世で覚えておけ、私の名はエイラート。イスラエルの誇り高き戦士だ、ボス猿」

 

容赦なく引き金を引いた。

 

 

 

部屋を見渡して人質の数を確認する。四人か。

 

「私はあなた方を助けにきました!!今縄を解きます!!待っててください、すぐに自由・・・に?」

 

 

腹部に痛み。銃口。硝煙が天井に上る。

 

 

「え・・・?」

 

見れば、解放した人質の一人が海賊の拳銃を奪って

 

自分を撃っていた。

 

 

なぜ?なぜ?なぜ?

 

 

突然の出来事に理解が追いつかない。

 

「悪いな、嬢ちゃん。せっかく助けてもらったけどよ、俺らあんたを殺せば金貰えるって言われてな・・・」

 

「あたし達は海賊にわざと捕まっていたのよ。弱者を装ってね。そうでもしないと艦娘の貴女を殺すには一苦労・・・普段貴女は警備されているし」

 

「そういうことさ。君に恨みはないけどねぇ・・・ここで死んでくれよ、へへ」

 

 

なるほど。最初からグルだったわけだ。中佐の言っていた意味も今やっと分かった。

 

 

海賊も、人質も、全部仕組まれていたんだ。おそらく、これは自分の性能テスト・・・

 

占拠されたタンカーに密かに侵入し、人質を救助させて、油断したところをその人質に不意打ちさせる。

 

これは、

 

 

誰も信用するなというメッセージなんだ。

 

 

ああ、もういいや。

 

 

全員、沈めてしまおう。

 

 

彼女のオッドアイーー金色と青色の瞳が黒に染まってゆく。

 

 

深海棲艦の目と同じように、黒く、水底に沈む船の亡骸のような禍々しい狂気と共に・・・

 

 

 

「ガブリエル、発射」

 

 

彼女はそう呟くと、

 

 

スモークグレネードを床に叩きつけ、視界を眩まし一目散に逃げる。

 

 

「クソ、煙幕か・・・追え、追え!!逃すな!!10億は惜しい!!」

 

人質たちも懸命に追いかける。

 

 

エイラートは上部デッキに上ると、柵を乗り越え海に飛び込むが、彼女はまるで地面に着地するように水上に立つ。

 

 

艦娘は、艤装を展開していれば沈むことはない。

 

 

腹部には防弾ベストを着用していたため命に別状はないがあの至近距離では無傷とはいかない。

 

 

エイラートは全速力でタンカーを離れる。フルスロットル。

 

 

100m, 200m, 300m と距離が開いた頃、

 

 

 

猛スピードで飛来した艦対艦ミサイル"ガブリエル"がタンカーを直撃した。

 

 

 

轟音とともにタンカーは炎上し、次々と爆発を起こす。

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ・・・」

 

 

エイラートは手を膝について呼吸を整え、バラクラバを外す。

 

 

大炎上するタンカーを背後に、彼女は通信を入れ、

 

 

「中佐、こちらエイラート。ミッション完了です。人質から銃撃されたためやむなくガブリエルを使用しました」

 

「そうか。ではそのまま帰投せよ。オスカー、アウト」

 

 

タンカーをミサイルで破壊したにも関わらずなんの咎めもない。

 

やっぱり何かがおかしい。問い詰めてやる。

 

あまり私をなめるなよ、人間。

 

 

 

***

オスカー「と、ご覧になられましたように艦娘というのはタンカー一隻ならば簡単に撃沈できるものなのです。海賊たちは私どもが金を払って雇い、人質は囚人どもや政治犯を使いました。まあ、どちらも淘汰されるべき人間・・・良心は痛みますまい」

 

ガリド「先ほど申し上げたステルス艤装は、日本、アメリカ、イスラエルの3国で開発したものです。視覚的にステルスになるだけでなくジャマーと組み合わせることによってほぼ深海棲艦に気付かれることなく接近が可能です。厳密には奴らの通信を妨害するものです。そして対艦ミサイルガブリエル・・・勿論通常の軍艦や商船にも使えますが、日米イスラエル3国は鹵獲した深海棲艦による生体実験の結果、このガブリエルが深海棲艦にある程度の効果を発揮することを突き止めました。エイラートが使用したガブリエルは艦娘の艤装用に小型化してあります。つまり、通常、艦娘用と2種類ある訳です。まあ、あらかじめ攻撃対象の近くにガブリエルの発射装置を設置しておく必要がありますがね。例えば交戦区域近くの岩礁や小島などにね。後は合図一つで秒速240mで飛来したガブリエルが対象にドカーン。駆逐艦イ級クラスなら一発轟沈、ヲ級クラスでもマッハで飛んでくるミサイルを撃ち落とす術はない。せいぜい対空砲火くらいでしょうが・・・中破は確実です」

 

オスカー「本題に入りましょうか。我々は現在、この対深海棲艦ミサイルガブリエルの量産に成功しています。これをソマリア沖沿岸に配置しておけば、万が一近海に深海棲艦が近海に現れた時、抑止力になりましょう。単刀直入に聞きます、我がエイラートとこのガブリエル・・・いくらで買ってくれますか?」

 

ハッサン「つまり・・・イスラエルが我がソマリアの安全保障を買って出るというわけか・・・しかしあなた方は我々やアラブ世界には政治問題を抱えて・・」

 

ガリド「我々"ボーダーレス"には宗教や政治、国や思想は関係ない。それが金になるか、否かだ。ビジネスになるか否か、それが全てなんですよ」

 

オスカー「ボーダーレス。それは、この混沌とした現代の世界を生き抜く秘訣です・・・最早戦争のあり方、国のあり方は変わりました。"適応しないとね"」

 

 

アリ「と、とにかく、大統領や議会と相談させてくれ。我々だけでは決められない。ちなみに、ガブリエル一基いくらで売ってくれるのかね」

 

ガリド「そうだな・・・一基5000万ドルでどうです」

 

ハッサン「5000万ドル!?ぬう・・・少し時間をくれ。上層部と話をさせてくれ」

 

オスカー「いい返事を期待していますよ・・・」

 

ガリド「では、我々はこれで失礼。」

 

***

 

ソマリア、ある駐車場

 

ガリド「しかし、恐れ入るぜ。まさか敵にすらミサイル売り込みにいくとはよ。深海棲艦っつー人類の共通の敵が現れて以来、国同士の紛争は7割減少。軍事産業も変化して、こういうビジネスも出てきた訳だがーー深海棲艦っつーのは本当に敵なのかね?」

 

イスラエル軍事産業CEOのガリドは、タバコを吹かしながら、車に寄りかかって聞く。

 

オスカー「それは、どういう意味だ?」

 

ガリド「奴さんらのおかげで俺ら武器商人は新たな市場を開拓できた部分も否定できねえ。だがその分今までの顧客を失った。俺らは今まで戦争を食いモンにしてたが、こう世界が団結しちまうと兵器が売れなくなる。昨日まで売れてた戦車やミサイル、戦闘機にヘリコプターが一気に売れなくなる。なんとかドローンは売れてるけどな。そこで艦娘っつービジネスよ。要するにだ、いつも戦争の裏には誰か得する奴らがいるんだ。深海棲艦ってやつらは随分急に現れたろ?おかしな話じゃねえか?奴さんらには対話も通じず、ただ人類を襲ってくる・・その割には本気で人類を滅ぼそうとしているように思えん。なんか出来レース的なものを感じてな・・・」

 

 

オスカー「なるほど。なるほど。興味深い。とても的を得ている考えだ。そうだな、艦娘と深海棲艦の発生時期はほぼ一緒・・・そして中には人語を理解する者もいる。人間、艦娘、深海棲艦・・・案外近い存在なのかもしれん。一部ではアメリカが作り出した自作自演の生物兵器という噂もあるようだが・・・コストに対してリスクが高すぎる」

 

ガリド「謎は深まるばかりだな。そういやよ、オスカー・・・あんた階級は中佐だろ?なんだって、そんなにエイラートを連れ回したり外国の政府高官と今回みたいな商談ができる?どんな権限を与えられてんだ?」

 

 

オスカー「そうか、君には言ってなかったか、ガリド・・・俺にはな、

 

 

 

妖精が見えるのさ。

 

 

 

・・・・なんてな。実を言えば、俺の中佐という肩書きはあまり意味をなさない」

 

 

ガリド「あーん?そりゃどういう意味だよ?まあ、"ボーダーレス"の中でもあんたは変人だが・・・どうした?」

 

 

 

 

 

ガリドはオスカーの方を見やると、オスカーの視線の先には、拳銃をこちらに構える一人の少女。

 

目が、黒い。

 

 

 

オスカー「エイラート、なんの真似だ?その拳銃を今すぐ下ろしたまえ。それは上官に対する反逆かね?」

 

ガリド「おいおい、嬢ちゃんーーそんなもん早く仕舞えって。あぶねえよ」

 

 

 

 

少女、エイラートはーーまっすぐ黒い双眸で、オスカーを見据えて。

 

 

「聞きたいことがあります。私の、出生についてです。私は、"誰に建造されましたか?"」

 

 

 

オスカー「・・・・フン。兵器風情が、何を言うかと思えば。銃を下ろせ。今なら不問にーー」

 

 

パン。

 

 

エイラートは、オスカーの足を撃ち抜いた。

 

 

オスカー「ぐあああああああああああああ!!!!・・・・・・・この、失敗作がァァァ!!」

 

 

身悶えながら、地面をのたうちまわるオスカー。

 

 

エイラート「私は、本気です。次は、額に当てます。私は、本気です」

 

 

ガリド「オスカー!!おいおい嬢ちゃん、やめとけよ!!上官殺しは大罪、解体処分だぞ?気でも狂ったのか?銃を仕舞え!!」

 

オスカー「ガリド、何を言っても無駄だ・・・彼女は"反転"している・・・聞いちゃいない」

 

ガリド「反転!?なんのこったよ、ええ?とにかく止血しねーと、死ぬぞ」

 

 

エイラート「私は、なんのために生まれたのですか!?私は深海棲艦と戦うために生まれたのではないのですか!?私は、人を殺すために生まれたロボットじゃない!!今まで貴方の言うがままに従ってきましたが・・・もう限界です」

 

 

 

オスカー「条件付けが甘かったか?もっと薬を使っておくんだった・・・しかしなぜ今?自我が芽生えたというのか?」

 

 

ガリド「オスカー、やばいぞ、殺されちまう。強制停止装置とかねえのかよ」

 

 

オスカー「無理だ。艦娘をロボット扱いできてもロボットと全く同じように停止させることは不可能だ。だから俺はあいつを薬で洗脳していたんだ。それに今の暴走状態では・・・」

 

 

 

 

エイラート「私には生まれた時の記憶がありません。気付いたら銃を持たされ深海棲艦と戦わされていた。もう一度聞きます、私は何者で、どうやって生まれたのですか!?」

 

 

 

オスカー「艦娘の特性・・・自我を持つと、自分の出生、過去にこだわるようになる・・・艦魂の本能か・・・」

 

 

 

 

 

オスカー「いいだろう、教えてやる。お前はな、我が組織ボーダーレスの一員、黒田良和博士によって生み出された人間、艦娘、深海棲艦、アンドロイドのキメラだ!!ベースはイスラエル海軍に編入された英国駆逐艦ゼラス!!黒田博士の試作品としては第四世代だ!!・・・これで満足か、エイラート?」

 

 

 

エイラート「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。なるほど。私は、純粋な艦娘ではないのですか。わかりました。それだけ聞ければ十分です」

 

 

ガリド「キメラ・・・?第四世代?どういうことだよ?オスカー?おい!」

 

 

 

 

エイラート「さよなら、お二人とも。今までお世話になりました。では」

 

 

 

エイラートはガリドの足を撃つ。

 

 

 

そしてオスカーたちの車を奪うとその場から逃走した。

 

 

 

 

ガリド「クソ、あのイカれ女め・・・・・・ん?あの空の影は・・・?」

 

 

 

 

オスカー「ここで、俺も終わりか。まあいい。悔いはない。後は博士がやってくれるさ・・・」

 

 

 

 

エイラートが車で道路を走り抜けている時、丁度ガリドとオスカーのいた駐車場にガブリエルが炸裂した。

 

 

 

 

バックミラーでそれを確認すると、エイラートの目は通常に戻りつつあった。

 

 

 

「もう私は、上官も国も捨てました。せめてあの日本の駆逐艦のように、信頼し合える上官がいれば・・・いや、それも不可能ですかね。シーラは元々転生が決まっていた艦かもしれませんが、私は無理矢理生み出された訳ですから・・・沈んだ艦全てが、艦娘に転生する訳ではない・・・」

 

 

 

 

とすると。人間の体25%、艦娘の体25%、深海棲艦の体25%、後は機械25%で出来ている私は、何者なんだ・・・・?

 

 

 

車を走らせながら、エイラートは葛藤する。

 

 

(そういえば、アメリカで観艦式があるとか言っていたな。そこになら世界中の艦娘たちが集まるはず。私も出る予定だったが・・・アメリカか。そこにいけば何かわかるかもしれない。自分が本物の艦娘と、何が違うのかを)

 

 

 

(上官を殺してしまった私にもう逃げ場はないが・・・オスカーが繰り返しどこかの人物と電話していた時に口にしていた言葉・・・・)

 

 

 

("クロスロードの贖罪"とはなんだ・・・?そして私を造ったという黒田博士とは何者なんだ・・・?)

 

 

彼女は数時間後、ソマリアの首都から姿を消した。

 

 

***

 

 

 

○オスカー、ガリド死亡から17時間後、イスラエル政府はエイラートを廃棄処分決定し、全世界に指名手配した。エイラートは依然として行方不明である。

 

 

○なお、エイラートの艤装にはGPS機能が付いているが、彼女が証拠隠滅のためにガブリエルで艤装ごと破壊した可能性がある。

 

 

○しかし艤装を展開しなければ海上に逃げるのは不可能なため、陸路や空路を使うしかソマリアを出る方法はない。パスポートを持たぬ艦娘が許可なしに飛行機に乗るのも不可能だろう。ボートを盗む手も考えられるが、

 

 

○彼女エイラートは戦闘機、ヘリコプター、自家用プロペラ機、車、バイク、モーターボート等の搭乗操作訓練を全て修了しているため、注意されたし。元々エイラートは特殊部隊で運用が決定されており、銃器の扱い、爆発物・各種兵器の取り扱いにも長けている。体術も大人の数倍の身体能力を持ち、クラウマガを習得しているため注意。ナイフ格闘術も身につけている。また、知能も非常に高く、英語、ヘブライ語、アラビア語、フランス語、ドイツ語、中国語、日本語に堪能である。但し本人は元英国駆逐艦でありながら英語を嫌っている。

 

 

ーイスラエル軍機密レポート、エイラートに関する案件よりー

 

***

 

 




クロスロード、黒田博士、不知火、観艦式、レ級、全てが段々と繋がっていきます。

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