艦これ外伝〜Memory of Crossroads 〜   作:えいえいむん太郎

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第4話の冒頭の文章・・・


13.疑惑

時間に厳しい男だった、と評するのは黒田の大学生時代の友人だ。

 

「とにかく彼は分単位でスケジュールを組んで動く男でした」

 

黒田のニックネームの名付け親と言うアメリカ時代の同僚も、

 

「クロタはまるでロボットのように時間に正確に動いていた。誰かが1分でも遅れると、とても怒った」

 

 

そしてついたあだ名がドクター・クロック。

 

黒田のクロと、時計のCLOCKを掛けたあだ名らしい。

 

 

私はそんな彼と、一緒の独房にぶち込まれていたことがある。上司の不正会計を告発した私は、財務部と癒着した上層部によってその身を幽閉された。額が額だけに、海軍省は私の告発をなかったことにしようとした。正義が、権力の前に敗北した瞬間だった。

 

 

十数年前、アメリカ合衆国、位置情報不明 ある独房

 

ルーク「・・・・ここは?」

 

私がぶち込まれてた独房には、窓が高い位置に取り付けられ、外の様子を伺うことは出来なかった。

 

目隠しされ、気が付いたら位置情報不明の独房に幽閉されていたのである。

 

ーーこの国の正義とは、一体なんなのだ。アメリカの崇高なる信義は、既に死んだのか?

 

この国を愛し海軍に入隊してから、祖国を疑ったことはなかった。だが、私は上司が不正に金を横領している場面に遭遇し、内部告発しようとした。

 

だが上層部は私の告発を揉み消し、虚偽の告発として私に濡れ衣を着せた。

 

まんまと嵌められた訳だ。

 

「君は、なんの罪でここに来たのかね」

 

振り返ると、そこにはひどく痩せたアジア人が、訛りのある英語でそう聞いてきた。

 

「私は・・・海軍で上司の行っていた不正を告発しようとしたが、上層部に嵌められ逆に悪者にされたのだ」

 

「海軍? ・・・ほう。いや、失礼。私はヨシカズ・クロタ。日本人だ。私もアメリカ海軍の研究所で働いていた」

 

「私はルーク・ハワード。アメリカ海軍少佐だ。日本人の方だったか。研究といっても、なんの研究をしていたんだ?」

 

 

 

「海軍の人間なら知っているとは思うが、艦娘という単語に聞き覚えは?」

 

「聞いたことはあるが、実際に見たことはない。サンディエゴの方では、ネヴァダやコロラドが転生したと聞いている」

 

「私は、人工的に艦娘を建造する研究をしていた」

 

「人工的に?それはどういう・・・」

 

「無理矢理この世に転生させるということだよ。基本沈んだ軍艦しか艦娘として転生しないと言われている彼女らを、眠りから叩き起こし、力を与える」

 

「そんなことが・・・それが本当にできるなら、ミズーリやアイオワも復活できるかもしれないのか」

 

「まだ試験段階だがな。艦娘というのはまだまだ謎が多い。艦娘発祥の地、日本ですら、研究はまだ発展途上だ」

 

「興味深い話だ。ところで、クロタ、貴方はなぜこの牢屋に幽閉されたんだ?なんの罪を犯した?」

 

 

 

「鹵獲した深海棲艦、駆逐艦イ級のサンプルDNAデータとその細胞の一部を日本に持ち帰ろうとした。流出が発覚し私は研究所を追い出された」

 

 

「・・・・・・・・な・・・深海棲艦を、鹵獲・・・?」

 

 

「おや、知らなかったのかね?この国の海軍は艦娘の保有数ではまだまだ日本に遠く及ばないが、やはり優秀だ。日本ですら成功しなかった深海棲艦の鹵獲をやってのけた」

 

 

「知らなかった・・・ということは、今アメリカのどこかには生きた深海棲艦がいるということか?」

 

 

「そうだ。場所は既に移されているだろうが。解剖するにはまだまだ惜しい。電気、薬物、放射線、痛覚実験・・・奴らに感情はあるのか、拷問さながらに実験が行われているだろう」

 

 

「生物実験というわけか。それで奴らの生態のことが解明されれば、弱点もわかるかもしれないな」

 

 

「ハワード、君はフェアリーを信じるかね」

 

 

唐突にクロタが聞いてきた。その顔は真剣そのもので、冗談ではなさそうだった。

 

「フェアリー?・・・ティンカーベルみたいなやつか? 残念ながら、私はもうネヴァーランドに招待されることはなさそうだが」

 

「まあ、似て非なるものだ、時折海軍関係者の中には妖精が見える人間が現れる。その確率は1万人に1人と言われている。ヨーロッパ発祥の妖精ならば君たちにも馴染みはあるだろう。この妖精は、艦娘や深海棲艦より謎に包まれた存在だ。開発、建造、出撃、妖精がいなければ何もできまい」

 

 

「聞いたことがないな・・・艦娘はそれが見えるのか?」

 

 

「見えるどころか、艤装と呼ばれる艦娘の武装は妖精が制御しているのだ。まさに一心同体だな」

 

 

「貴方は妖精が見えるのか?」

 

 

「・・・・見える。だが、見えるだけで会話することは出来ない。艦娘は彼ら、いや彼女らの言っていることが理解できるらしいが」

 

 

「妖精は喋るのか?」

 

 

「私には聞こえんがね・・・身振り手振りで何かを伝えようとしているのは理解できた」

 

 

「へえ、私も一度会ってみたいものだ、その妖精とやらに」

 

 

「妖精が見える人間にはある条件があるらしいが、後天的なものでもあるらしい。生活の中でいきなり見えるようになったという話を聞く」

 

 

その数年後、私は釈放され、無罪となった。

 

 

なぜか、私は妖精が見えるようになった。

 

 

私がサンディエゴ海軍基地の提督になったのとほぼ同時だった。

 

 

 

そして私は今、提督になって以来、経験したことのない場面に遭遇しているーー。

 

 

 

 

 

 

「アメリカ政府及びアメリカ海軍に対する観艦式へについての意見書及び誓願書」

 

 

 

その日、私を訪ねてきたネヴァダ、エンタープライズ、コロラド、ペンシルベニア、アーカンソー、インディペンデンスが提出した書類には、そう書かれていた。

 

 

 

ルーク「これは何かね・・・・?」

 

 

 

ネヴァダ「これは何、だと?失望したぜ、ルーク。あんただけはあたしらの味方だと思っていたのによ。あたしらをハメようとしやがって、どういうつもりだ!?」

 

 

コロラド「落ち着きなさい、ネヴァダ!! 提督、突然で申し訳ありませんが、私艦娘で話しあった結果、アメリカ政府が企画しそして私たちが参加する観艦式について幾つかの疑問点が浮上いたしまして、納得のいく回答を希望いたします」

 

そう言うコロラドの表情は厳しいものだった。

 

 

エンタープライズ「私たちは観艦式自体には反対ではない。アメリカ海軍の力を世界に示すいい機会であるし・・・だが私たちが疑問視しているのはその中身だ」

 

 

ペンシルベニア「提督さんさ、私たちクロスロード組を集めてさ、それっぽいこと言ってたけど・・・私たちを政治に利用するっていうのは、酷いんじゃないのぉ」

 

 

アーカンソー「・・・・提督、あの・・・正直に答えてください。ネヴァダさんが、一番傷付いています・・・」

 

 

インディペンデンス「私たちの直属の上司は貴方だ。貴方には質問に対し回答する義務がある」

 

 

 

ルーク「ま、待ってくれ。観艦式に関しては確かに君たちも参加するが、クロスロード作戦において標的艦となった娘だけでなく全ての艦娘に、政治利用される娘など1人も存在しない。ただ、アメリカ海軍の指示で、かつて敵対していた日本の艦とアメリカの艦が共に仲間として友好的でいる姿を世界に発信することで、日米の絆の強固さをアピールするという狙いがある。クロスロード作戦に参加したネヴァダや日本の長門が共に握手し共同宣言することで、過去を乗り越え未来に向けて前進するという意志を再確認する、ということだ」

 

 

ネヴァダ「・・・・・あたしの地元は過去にも核実験場になってるんだ。あたしにとって核ってのは・・・・地獄なんだよ。あたしはそれを身をもって体験してる。あたしだけじゃねえ、それを他の娘まで思い出させて苦しめるってなら、ルーク、あたしはあんたを許さねえぞ」

 

 

 

ルーク「・・・・・わかった。約束しよう、君たちを裏切るようなことはしない」

 

 

 

ネヴァダ「頼んだぜ、ルーク・・・」

 

 

 

 

 

 

ハワイ、パールハーバー

 

 

アイオワ「ミズーリ、Long time no see...I am here. Meだよ・・・・As Ship girl, 転生したの・・・・」

 

 

アイオワは、戦艦ミズーリの上で、最上甲板に跪き、手を当てて話しかける。

 

 

アイオワ「ミズーリ、いつかまた、会えるといいわね・・・・」

 

アイオワ「待ってるから・・・・・」

 

 

 

 

アリゾナ・メモリアル

 

 

アイオワ「アリゾナ・・・Meだよ、アイオワだよ、わかる?艦娘として転生したの。あれから何十年も経ったけど、

 

 

アメリカは、平和だよ・・・。私たちが守ろうとした、貴女が守ろうとしたアメリカは、誇りある星条旗とともに、発展しているよ。

 

 

今は世界を守るために戦っているの。今の敵は、日本じゃなくて、深海棲艦っていう深い海の底から来たモンスター・・・・

 

 

貴女が愛したアリゾナも、ハワイも、Meたちが守るから・・・・

 

 

今は、安らかに眠ってね・・・・・

 

 

Meたちは、ずっと一緒だよ・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

アイオワはそっと目を閉じ、祈りを捧げる。

 

 

 

 

 

 

花束を供え、

 

 

 

 

 

戻ろうと振り返ろうとしたその時、

 

 

 

 

 

(・・・・Thank you, Iowa)

 

 

 

アイオワ「アリゾナ・・・・・・?」

 

 

 

 

アイオワ「そんな、まさかね・・・・」

 

 

 

ふ、とアイオワは自分の頬を伝う涙に気づいた。

 

 

・・・・・tear.

 

 

why?

 

 

 

 

 

ハワイのアリゾナメモリアルの下には、アリゾナとともに沈んだ乗組員たちが艦とともに眠っている。

 

 

撃沈されたアリゾナからは、70年経った今も、オイルが海に流れ出ている。

 

 

 

 

これはアリゾナの黒い涙と呼ばれており、

 

 

 

今もアリゾナはハワイで眠り続け、

 

 

ミズーリはそんなハワイを見守っている。

 

 

 

 

アイオワ「このハワイで全てが始まり・・・・・そしてミズーリの上で戦争は終わった・・・」

 

 

 

 

 

 

アイオワ「Meだってアメリカを守るために戦ったけど、・・・・・戦争はやっぱり悲しいものね」

 

 

 

 

エカテリーナ「いつの時代だって、戦争は悲しみしか生まないわ。平和がどれだけ尊いものか、人類は二度の世界大戦を通してやっと学習したの」

 

 

 

 

アイオワ「そうね・・・・・・」

 

 

 

 

 

日本と、Meは戦争したんだ・・・・・

 

 

 

Meは・・・・

 

 

 

日本が悪いとか、アメリカが正しいとか、そういうことじゃなくて、

 

 

 

たくさんの人が死んだんだよね・・・

 

 

 

日本の攻撃で、そしてMeの攻撃でも・・・

 

 

 

 

 

 

エカテリーナ「stop. アイオワ、それは考えちゃダメよ。戦争なんだから。確かに貴女は誰かを殺したかもしれない。でもそれって貴女だけじゃないわ。今の貴女と前のIowaは違うわ。貴女はIowaの名前を受け継ぐ艦娘というだけ。誇りや矜持は持つべきだけど、過去のことまで引きずる必要はないわ。そもそも、軍艦というのは国を守るため、敵を倒すために作られた海の守護神。戦争において生きるか死ぬかの瀬戸際で、いちいちそんなこと考えていたらキリがないわ。日本も、アメリカも、ロシアもたくさんの間違いを犯した。でも、大切なのは、過去を反省して未来に活かすことじゃないかしら」

 

 

 

 

 

アイオワ「 Yeah....シリアスになりすぎたのかな・・・・O.K。ダメね、感傷的になってしまうわ」

 

 

 

 

エカテリーナ(アイオワは確かに最強の戦艦にして最強の艦娘だけど、それでも、感傷的というか他の娘が考えもしないようなことで悩んでしまう・・・・

 

 

無理矢理転生させた代償かしら・・・・。これが副作用だとしたら・・・)

 

 

 

 

 

アイオワ「Sorry, Dr. I gonna get some air to calm down. (ごめんなさい、ちょっと風に当たってくるわね)」

 

 

 

 

 

 

 

 

アイオワは大きな椰子の木にもたれかかり、大きくため息をついた。

 

 

 

 

 

 

アイオワ「Meってば、どうしてこう余計なことまで考えてしまうの・・・Meっておかしいのかな・・・」

 

 

 

 

 

 

 

「何ヲ悩ム必要ガアル?兵器トイウモノハ殺スタメニアルニ決マッテイル。当然ノ事ダ」

 

 

 

突然の声。

 

 

後ろを振り返る。

 

 

 

 

 

 

黒いフードから恐ろしいほどの笑顔を見せたその少女は、

 

 

 

直感で

 

 

 

 

敵だと

 

 

 

 

本能が伝えた。

 

 

 

 

 

アイオワ「ーーーーーーーッ」

 

 

 

 

咄嗟に距離を取る。

 

 

 

 

フードの少女はおどけたように、

 

 

 

 

 

「オイオイ、ソウ驚クナヨ。挨拶ニキタダケダ。ワタシノシスターニナ」

 

 

 

 

アイオワ「Sister...?」

 

 

 

 

「強イ反応ガアッタカラハワイマデ来テミレバ、マサカIOWAトハ。オソレイッタ。

 

 

マア、ワタシニハ敵ワナイダロウガ・・・・」

 

 

 

 

アイオワ「Youは何者なの・・・・?まさか、深海棲艦・・・・?」

 

 

 

 

「鋭イナ。半分、正解ダ。敬意ヲ表シテ名前ヲ教エテヤル。

 

 

 

I am Regina. マタノ名ヲーー

 

 

 

RE.」

 

 

 

 

アイオワ「Re...? regina...?」

 

 

 

Russian Sisterモ元気ソウダナ。セイゼイ、ガンバッテ観艦式ヲ成功サセテクレタマエ」

 

 

 

 

「アソビニイクカラ・・・・キミタチノ大統領ニモ挨拶シナケレバイケナイカラナ・・・」

 

 

 

 

「ツギハ、イスラエルノシスターニ会イニイク。ジャアナ、Iowa.」

 

 

 

 

 

その瞬間、フード姿の少女は目の前から消えた。

 

 

 

 

何者だったのだ、あの少女は・・・・

 

 

シスター、とはー

 

 

気づくと、手にいつの間にか紙切れを持っていた。

 

 

いや、持たされていたのか・・・・?

 

 

 

 

その紙切れを開くと。そこにはこう書かれていた。

 

 

 

 

 

I am RE. I will "Re" turn. That's why I was named RE....(私はRe。リターン、戻ってくる。だから私はReと名付けられた)

 

 

Be prepared, Sis.(準備しておくんだな、シスター)

 

 

I shall return....(私は戻ってくる・・・)

 

 

 

アイオワ「あれは、間違いなく敵ね・・・まだ鳥肌が止まらないわ」

 

 

海風が、ビュッとアイオワのブロンドの髪を凪いだ。

 

 

 

 

 

「私はアメリカ大統領から、日本の戦線を突破してコレヒドールからオーストラリアに行けと命じられた。その目的は、私の了解するところでは、日本に対するアメリカの攻勢を準備することで、その最大の目的はフィリピンの救援にある。私はやってきたが、

 

 

 

必ずや私は戻るだろう(I shall return.)

 

 

 

ーーダグラス・マッカーサー」




父親の復讐を達成するため動く長女。

復讐に生きるのを止め上官とさらに絆を結んだ次女。

父親と同じ研究の道を進んだ元艦娘の三女。

上官を殺し自分を見失いつつある四女。

ただし、他の娘をシスター呼ばわりしているのはレジーナだけである。







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