エヴァンゲリオンはじめました   作:タクチャン(仮)

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19話 その2《エヴァンゲリオン参号機》

 

 エヴァンゲリオン参号機。弐号機の後に建造されたプロダクションモデルで、現時点では最高の基本性能を誇る最新鋭機。既に使徒侵食の後遺症調査と、破損部の修復は終了しており、周囲を威圧する様な漆黒の巨体は今、ネルフ本部実験場で再び目覚める時を待っていた。

「エントリープラグ挿入完了」

「LCL注水終了」

「A10神経接続開始」

「双方向回線開きます」

「第一次コンタクト、スタート」

「ハーモニクス全て正常値」

 順調に進められる再起動実験を、管制室でリツコ達は緊張した面もちで見守る。使徒の存在は厳重な探知で否定されているが、それでも実験には細心の注意が求められていた。

「参号機、起動準備が整いました」

「分かったわ。……鈴原君、準備は良いかしら?」

『何時でもOKですわ』

「では実験を第二フェーズへ移行します」

 リツコの号令で技術局のスタッフ達が再び作業に取りかかる。起動プロセスが次々にクリアされていき、やがて起動ボーダーラインまで到達。

 一同がゴクリと息をのむ中、参号機に鋭い眼光が宿った。それは先の事件の赤い輝きではなく、エヴァが本来宿すべき白い光。

「エヴァンゲリオン参号機……起動しました」

 マヤの報告を受けて管制室には、安堵のため息が溢れた。

 

 無事起動実験を終えたトウジが管制室にやって来ると、上機嫌なリツコが彼に問いかける。

「お疲れ様。エヴァに乗った感想はどう?」

「何や、変な感じですわ。こう……自分が自分じゃ無い感じちゅうか……」

 リツコの質問にトウジは少し自信なさげに答えた。

「徐々に慣れていけば良いわ。シンクロ率も初めてにしては上出来だし」

「へ~どれどれ……ふ~ん。馬鹿にしてはそれなりじゃない」

 アスカはリツコが手に持った実験記録を覗き見ると、彼女なりの賞賛をトウジに送った。数値自体は三人に遠く及ばないが、それでも初めてシンクロしたと考えれば十分だろう。

「……馬鹿とシンクロ率は関係ないわ」

「はは、二人ともきついわね」

 遠慮の欠片もないアスカとレイに、ミサトとトウジは苦笑するしか無かった。

 

「それで鈴原君。これから貴方には、エヴァの搭乗訓練を受けて貰う事になるけど」

「初号機が中破してる事もあって、貴方の訓練をちょっち急ぎ足でやりたいのよ」

 本来であれば実戦配備されてるエヴァが三機あるため、トウジの訓練スケジュールには余裕があったのだが、先の事件で初号機が破損。シイも半謹慎状態になった事もあり、戦力の確保は急務だった。

「こっちの都合で申し訳無いけど、良いかしら?」

「勿論です。足手まといになるのはご免やさかい、ガンガン鍛えて下さい」

 トウジには確固たる意思があった。その為には厳しい訓練だろうと耐え抜く覚悟もある。いや、そのつもりだったのだが。

「だ、そうよ。それじゃあリツコ。後の説明はよろしく」

「ええ。鈴原君、貴方には三つの訓練プログラムから、一つを選んで欲しいの」

「三つでっか?」

 選択権がある事に驚くトウジにリツコは頷くと、手元の資料を順に読み上げていく。

 

「まず一つ目。『弾よけ、誕生』プログラムよ。これは本当に基礎の基礎を叩き込んで、最低限他のエヴァの足を引っ張らないレベルを目指すわ」

「いっちゃん簡単で優しい奴ね。自信が無いならこれを選ぶことを勧めるけど……」

「ま・か・か、唯一の男性パイロットであるあんたが、こんなんで妥協する訳無いわよね?」

「と、当然やないか! リツコさん、次たのんます」

 アスカに煽られたトウジは、鼻息荒く一番レベルの低い訓練を拒否して次を要求した。

 

「良いわ。次は『せめて戦力らしく』プログラムよ。こっちはより実践的な訓練ね。近中遠、全ての距離での戦闘方法を叩き込み、他のエヴァのフォローに回れるレベルが目標となるわ」

「作戦部長としては、これを消化してくれれば有り難いわね。ちょっちハードだと思うけど」

「さいですか。なら……」

「ふ~ん。へ~。そ~なの~。あんたは取り敢えず戦力ってレベルで満足しちゃうんだ?」

「な、何やて!」

 わざとらしく挑発するアスカに、しかしトウジは簡単に乗せられてしまった。口での勝負で彼女に勝てるのは、それこそ大人組とレイ位だろう。

「もしシイなら『私はみんなを守る為なら、どんな訓練でも耐えます』とか言うでしょうね~」

「……似てないわ」

「一々煩いわね」

 自分でも自覚していたのか、アスカは少し照れながらレイに鋭い視線を向ける。

「はいはい喧嘩しないの。鈴原君、アスカの言う事を聞く必要は無いから、このプログラムを――」

「次、たのんますわ」

 ミサトのフォローも虚しく、トウジは更なる高みを目指してしまった。

 

「最後に提示するのは『DEATH&REBIRTH』プログラムよ」

「わ、私も初めて聞くプログラムだけど……何よその不吉なネーミングは」

「一日二十四時間、全てを訓練に費やすわ。訓練の質、量共に考え得る最上級の物を用意。まさに死ぬ程厳しい訓練を耐え抜いて、真にエヴァのパイロットとして再生するのが、このプログラムなの」

 Sの気質がうずくのか、リツコは嬉しそうにプログラムの解説を始める。そのマッドぶりにトウジやアスカ達だけでなく、管制室のスタッフ達も完全に引いていた。

「私が全面監修をした自慢のプログラムよ。ふふ、期待してくれて構わないわ」

「し、しかし先輩。それはあまりに危険過ぎます!」

「あら、達成できる可能性はゼロでは無くってよ」

 堪りかねてリツコに声をあげるマヤだったが、リツコはサラッとそれを流す。

「てかあんた。今ゼロじゃ無いって言ってたけど、そもそも訓練は消化出来る前提で組みなさいよ」

「求めるレベルが上がれば、当然訓練の難度も上がるわ」

「限度ってモンがあるでしょ! 鈴原君、こんなリツコの趣味に付き合う必要ないから」

「どうせ脅しでしょ? 幾らリツコだからって、そんな無茶なプログラム……」

 アスカは呆れたように肩をすくめながら、リツコの資料をひったくり軽く目を通す。だが数十枚ある資料の一番上、それもほんの数行を読んだだけで顔が引きつり言葉を失ってしまう。

「あんた、悪いことは言わないわ。止めときなさい」

「……貴方が死んだら、代わりは居ないもの」

 アスカの隣で資料を覗き見たレイも、トウジを諭すように告げる。

「な、何や急に。そんなえらい代物なんか?」

「一言で説明すれば、地獄よ」

「……多分REBIRTHまで辿り着けないと思う」

 さっきまでの茶化す様子はまるで無く、アスカとレイは真剣にトウジを思い留まらせようとしていた。それだけでこのプログラムの過酷さが容易に想像出来る。

「鈴原君。自分を大切にしなさい」

「先輩はやる時はやる人なの。お願いだから自重して」

「実力なんて少しずつ付けてけば良いわ。だからほら、二番目のを選んどきなさい」

「……そうすれば?」

 口々に説得する面々にトウジも流石に状況を飲み込んだのか、リツコに断りを入れようとする。

「そやな。ならリツコさん。わしは二番目の……」

「もしこれを消化出来れば、間違いなくシイさん達の力になれるでしょうね」

 誰に向けるでも無くポツリと独り言を呟くリツコに、トウジの言葉が止められてしまう。

「うっ!?」

「訓練を終えた貴方がエヴァチームのエースになるのは確実。人類を守るのに大変貴重な戦力になると思うけど……まあ、貴方がそれを望まないなら、無理強いは出来ないわね」

 さも、このチャンスを逃すなんてあり得ないと残念がるリツコ。わざとらしい小芝居にミサト達は呆れるのだが、トウジの反応は違った。

 何かを悩むように俯いていたが、やがて拳を思い切り握りしめると真っ直ぐリツコを見据えた。

「……やります。わしがやります」

「「なっ!?」」

 余りに無謀な決断を下したトウジに、ミサト達は目を大きく見開いて驚く。

「あら良いの? 生半可な気持ちならば、止めておいた方が良いと思うけども?」

「やらせて貰いますわ。わしはエヴァンゲリオン参号機のパイロット、鈴原トウジですから」

 トウジとリツコの視線が真っ直ぐにぶつかり合う。

「貴方の覚悟、確かに受け止めたわ。早速始めるから着いてきなさい」

「はいな、姐さん」

 まるでスポ魂漫画の様なノリで、リツコとトウジは管制室から出ていってしまった。

 

 残されたミサト達は唐突な展開について行けず、呆然と二人が出ていったドアを見つめる。

「あの馬鹿……本当に死ぬわよ」

「シイちゃんに何て言おうかしら……」

「……言わない方が良い。多分泣くわ」

 既にトウジが訓練を達成できない前提で話を進めるミサト達。

「えっと一応聞くけど、MAGIの見立てはどんな感じ?」

「全会一致で訓練途中でのリタイアを予測しています。達成確率は、0.0000………1%」

 マヤの申し訳無さそうな報告に一同は表情を更に曇らせる。

「ヒカリにはあの馬鹿は遠い所に行ったって言わなきゃ」

「シイちゃんにもそう伝えた方が良さそうね」

「……さよなら、鈴原君」

 リツコの魔の手に落ちたトウジの未来を案じて、ミサト達は誰からともなく両手を合わせるのだった。

 




少し小話っぽい雰囲気の話になりました。ひと時だろうと平和って良いですね。

鈴原トウジは正式にフォースチルドレンとして参入しました。ただ……リツコのしごきで初陣前にリタイアかもしれませんが。

次回もまたお付き合い頂ければ幸いです。

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