エヴァンゲリオンはじめました   作:タクチャン(仮)

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14話 その1《ゼーレ、魂の座》

 

 使徒侵入の危機を乗り越えてから数日が過ぎた。あれから使徒の襲来も無く、学校生活を満喫しているシイ達は、第一中学校屋上で全員揃って昼食を食べていた。

「はぁ、憂鬱だよな」

「ほんまや。進路面談っちゅうても、結局は小言を言われるだけやしな」

 ケンスケの呟きに、おにぎりを頬張りながらトウジは頷きながら同意する。彼らの話題は今朝のHRで連絡された進路相談の面接の事だった。

「それは鈴原達の日頃の行いが悪いからよ」

「ヒカリの言うとおりね。ま、精々絞られると良いわ」

「何やて。そう言う惣流かて、わしらと変わらんやないか」

「お生憎様。あたしはちゃ~んと、教師の前じゃ真面目な優等生で通ってるから」

 勝ち誇った様にアスカはトウジを見下すと、シイの作った弁当に箸を付ける。来日当初は戸惑っていた箸だが、今ではすっかり器用に使いこなしていた。

「惣流は要領と外面だけは良いからな。トウジも少しは見習ったら?」

「アホぬかせ。わしは表裏があるやつは、大嫌いなんじゃ」

「……不器用な奴」

 頑固な友人にケンスケは呆れたようにため息をついた。

「進路面談かぁ。またミサトさんにお願いしなきゃ」

「……そう」

「綾波さんはどうするの?」

「……私は赤木博士が保護責任者だから」

「そうなんだ。リツコさんのスーツ姿って見てみたいな~」

 知的で落ち着いた雰囲気のリツコは、シイのイメージする大人の女性にピッタリだった。そんなリツコのスーツ姿を思い描くシイに、レイはそっと忠告する。

「……期待しない方が良いわ」

「え、どうして?」

「……去年は白衣で来たから」

 リツコは骨の髄まで科学者のようだ。

 

「あ、そう言えば……ねえシイ。結局あんたのお母さんの写真を、副司令は持ってたの?」

「うん、見せて貰ったよ。凄い綺麗で素敵だったの」

 嬉しげに笑うシイに、アスカは興味をそそられる。

「へぇ~。あの司令の奥さんだから、どんな人かと思ったけど」

「見てみる? 冬月先生からデータ貰ったから、印刷してみたの」

「そうね。興味はあるわ」

 シイは鞄から一枚の写真を取り出してアスカに手渡した。写真を手にしたアスカの周りにヒカリ達が集まり、全員で写真をのぞき込む。みんな口には出さないが、シイの母親に興味があったようだ。

 冬月から貰った写真のデータは、リツコに加工して貰ったので、渡した写真には微笑むユイの姿だけがアップで写っていた。

「…………結構美人じゃない。ま、あたしのママ程じゃ無いけど」

「おぉ、これは……」

「えらいべっぴんさんやな」

「うん、凄い綺麗。それに優しそうで、シイちゃんに似てるね」

「えへへ、ありがとう」

 母親を褒められて悪い気がする筈が無い。シイは自分が褒められた時以上に、喜びを感じていた。

「ねえアスカ。お母さんスタイル良いし、私もきっと大丈夫だよね」

「…………」

「アスカ?」

「希望はあると思うわ。でもね、シイ。遺伝は母親だけじゃなくて、父親も関係してるのよ」

「あっ!!」

 気づかなかった事実。シイはゲンドウの姿を思い浮かべ、ガックリと肩を落とした。明るい未来を真っ暗な闇に塗りつぶされたシイは、見ていて気の毒な程落ち込む。

「お父……さん。忘れてた……」

「で、でもさ、あんた碇司令と全然似てないし。ほら、そんな気にすること無いんじゃない」

 あまりの落ち込みように、アスカは慌ててフォローを入れる。そもそも胸の発育と遺伝には関係性が薄いと知っているのに、ついからかってしまった為に罪悪感があった。

「へぇ、碇は親父さんと似てないの?」

「そういや、わしらはシイの父さんの事、一度も見てないのぅ」

「……これ」

 沈黙を守っていたレイが自分の携帯電話を手早く操作して一同に見せる。そこにはサングラスを掛けたひげ面の男が、むすっとした顔で写っていた。

「「…………」」

 母親からは想像出来なかった父親の姿に、ヒカリ達は暫し言葉を失う。失礼な話だがこの二人が並んで歩く姿を全く思い描くことが出来なかった。

「な、何というか……流石はネルフの司令だね。凄い貫禄がある」

「そうやな。強い父親ちゅう感じやな」

「う、うん。厳格そうね」

 引きつった顔でゲンドウを全力で褒めるヒカリ達。正直少し怖かったのだが、娘の前でそれを言うほど彼らは空気が読めなくは無い。

「でも、碇には似てないかな」

「シイは母親似っちゅう訳や」

「ほら、だからあんまり気にするんじゃないわよ」

「うん。ありがとう、みんな」

 友人達が自分を気遣ってくれている事に気づき、シイはようやく落ち着きを取り戻した。

 

 その後シイ達は大切なテストがあるため、昼休みの途中で学校を早退してネルフ本部へと向かった。三人を見送ったヒカリ達は、困惑した様に話し始める。

「……やっぱり、気づいたよね」

「まあな」

「うん……」

 シイの前では言わなかった。だが彼らはユイの写真を見た瞬間、あることに気づいていた。

「綾波に……そっくりだった」

「あの二人、親戚だったっちゅう訳や無いやろ」

「多分違うと思うけど……ハッキリとは分からないわ。でも娘のシイちゃんより似てるのは……」

 彼らが違和感を持ったのは、碇ユイと綾波レイの容姿があまりに酷似している事だった。髪や瞳の色は違うが、それ以外の共通点があり過ぎる。シイも母親の面影があるが、レイとユイはそう言うレベルでは無かった。

「……碇は気づいて無いみたいだね」

「やろうな。随分と浮かれとったみたいやし」

「でも、多分アスカは気づいてると思うわ。口は出さなかったけども」

 六人の中で一番頭の回転が速いのはアスカだ。自分達が一目で気づいたものに、彼女が気づかないとは思えなかった。写真を見て少し黙っていたのは、動揺を抑える為だったのかもしれない。

「綾波はどうだろう」

「さてな。あいつの感情の変化を見分けるんは、わしには無理や」

「……この事は言わないでおきましょ。ひょっとしたら、深い事情があるかもしれないし」

 もしかしたらシイとレイは生き別れた姉妹かも知れない。他にも色々な可能性があるが、少なくとも自分達が詮索して良い程、簡単な事情では無いはずだ。

「そやな。わしらが立ち入って良い話じゃ無さそうや」

「それにシイちゃんと綾波さんが、私達の友達だって事は変わらないもの」

「じゃあ決まりだね。僕らはこれからも何一つ変わらずに、二人と接するって事で」

 トウジ、ヒカリ、ケンスケは互いに頷きあう。彼らのとってシイとレイは大切な友人であり、どんな事情があろうともそれが変わる事は無かった。

 

 

 ネルフ本部の一角にある暗い会議室。そこでは人類補完委員会の会議が開かれていた。キールとゲンドウ、そして他四名の委員が向かい合う中、これまでに殲滅した使徒との戦闘報告が淡々と行われている。

 そして天空より飛来した第十使徒の報告が終わると、委員の一人がゲンドウへ問いかけた。

「第十一使徒。ネルフ本部に侵入との話だが?」

「その件につきましては、探知機の誤報とご報告した筈です」

 男の問いかけに、ゲンドウは普段通りの様子で答える。襲来直後の緊急招集会議の時と、同じ言葉を繰り返すゲンドウに委員達の表情が一斉に険しさを増した。

「信じろと言うのか?」

「話によれば、セントラルドグマへの侵入を許したとか」

「万が一接触が起これば、これまでの全てが水の泡になる所だったのだぞ」

「左様。もし本当に侵入されたのであれば、これは重大な失策だよ」

「誤報です。第十一使徒についてはご報告したことが全て。他に何もありません」

 次々と問い詰める委員達に、しかしゲンドウは動じなかった。彼らの追求には何の証拠も無く、自分を追い詰める事が出来ないと理解していたからだ。

 

 ゲンドウが報告した内容はこうだ。

 確かに使徒の襲来はあった。だがそれは本部内ではなく、本部直上の第三新東京市。それは直ちに地上へ射出された初号機によって殲滅されたと言う事だった。

 使徒の侵食から逃がすために初号機を地上に射出していたので、矛盾は生じていない。

 

「では、第十一使徒の本部侵入の事実は無いと言うのだな?」

「はい。MAGIのレコーダーを調べて頂いても結構です」

「冗談はよしたまえ。事実の隠蔽は君の十八番だろ」

「全てはシナリオ通り……死海文書の記述通りに進んでおります」

「……もう良い。この件に関して、君の責を問うことはしない」

 変わらぬゲンドウの態度に、キールは諦めたように追求を止めた。このまま続けていても碇ゲンドウと言う男は、尻尾を出すような真似をしないと、キールは理解していたのだろう。

「使徒の殲滅。これは確かなのだろうな」

「はい」

「なら良い。だが忘れるな。君が新たなシナリオを作る必要は、無いと言うことを」

「分かっております。全てはゼーレのシナリオ通りに」

 ゲンドウが何時もと同じ言葉を告げて、人類補完委員会の会議は終了した。

 

 その後、ゲンドウを除いた他のメンバーは再度会議を開いていた。

「あの男、やはり危険だな」

「使徒侵入の否認。これは死罪に値すると思うが」

「だが奴にはまだ利用価値がある」

「左様。予言通りなら、まだ使徒の襲来は続くからね」

「……いずれにせよ、碇には注意が必要だ」

 キールの言葉に委員の面々は一様に頷く。ネルフを率いてここまで使徒を殲滅してきた、碇ゲンドウの評価は決して低くない。だがそれは同時に、彼が危険な男であると言う事の証でもある。

「そう言えば、奴には鈴を着けた筈だが」

「報告は受けている。しかし使徒侵入の事実については、確認出来なかったそうだ」

 危険だと認識している相手に何の予防処置も取らない程、彼らは日和っては居ない。既にネルフへ自分達のスパイを送り込んでいるのだが、今のところ成果は上がっていなかった。

「ふん、下らん。信用できるのか? あの男は」

「考えの読めない男だが、彼以上に優秀な人材が居ないのも事実だよ」

「問題も多いがね」

「我らにとって有用なら生かし、有害なら消せば良い」

 荒れ始めた場を再びキールが場を纏める。バイザーをつけた老人は委員長として一目置かれているのか、彼の発言に異を唱える者は居なかった。

「槍の回収もじき終わる……全ては我らの悲願、人類補完計画の実現に向かって進んでいる」

「それまでは碇とネルフに働いて貰いますか」

「うむ。約束の日は近い……」

 人類補完委員会、ゼーレ、そしてゲンドウ。シイの全く知らない所で、彼女を巻き込む計画は進められていた。




原作を見返してみましたが、碇ユイの姿を知っている人って、凄い少ないと改めて思いました。ネルフでは多分ゲンドウと冬月、リツコくらいじゃ無いかと。

シンジが写真は全部捨てられた、と言っていたので、多分データ類も全部ネルフかゼーレが手を回して処理したのでは、と考えています。
ユイの姿が公になると、レイとの関係説明が大変そうですからね。

次回もまたお付き合い頂ければ幸いです。

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