エヴァンゲリオンはじめました   作:タクチャン(仮)

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アホタイムです。


小話《チルドレン救助隊》

 

~チルドレン救助隊~

 

 使徒の侵入とMAGIへのハッキング、そして自律自爆未遂と未曾有の事態を迎えたネルフだったが、リツコを初めとするスタッフ達の活躍もあり、無事危機を乗り越えることが出来た。

 だが使徒が残した爪痕は大きかった。MAGIは再検査を余儀なくされ、汚染区域となったシグマユニットの復興など事後処理は山積みとなっている。

 発令所では、今後の対策が話し合われていたのだが……。

 

(はぁ……)

 目の前で繰り広げられる激しい討論に、ミサトは何度目になるか分からないため息をつく。事後処理の対策会議の筈だったのだが、何故か議題が違う事へとすり替わっていたのだ。

「ここは私が行くべきよ」

「駄目です。先輩が居なくては、復旧作業の効率が格段に落ちます。ここは私が」

「伊吹も技術局だろ。作戦部の俺なら抜けても問題無いはずだ」

「青葉さん、抜け駆けはズルイっすよ。それなら俺も」

「二人とも自重しなさい。男性を向かわせられる訳無いでしょ」

「そうです、不潔です」

「べ、別に俺はやましいこと何か、欠片も考えてないです。ただ心配で」

「そうっすよ」

 リツコ、マヤ、青葉、日向が自分こそ相応しいと主張を繰り返す。これ程までに彼らを奮い立たせる仕事とは……誰が裸のシイ達を救助に行くかと言うことだった。

 

「どうする碇。このままでは、いつまで経っても結論が出ないぞ」

「……問題ない」

 いい加減事後処理の遅れを心配する冬月に、ゲンドウは力強く応えるとスッと立ち上がり、リツコ達の元へと歩み寄った。

「いつまで下らない事に時間を使っている」

「「うっ……」」

 司令の威厳を持って叱責するゲンドウに、リツコ達は言葉に詰まる。

「赤木君、MAGIの再検査の重要性と緊急性が分からないのか」

「も、申し訳ありません」

「伊吹二尉も同じだ。自分の役割を見失う様な者は、ネルフに必要ない」

「すいません」

「お前達は論外だ。対象の精神状態を考慮する事すら出来ないと言うのか」

「「め、面目ありません」」

(流石碇司令ね)

 場をあっという間に静めたゲンドウ。空気の読めない男だと思っていたが、こう言うときには頼りになると、ミサトはゲンドウに対する認識を少しだけ改めた。

「君達の気持ちは分かる。だが、己の役割を忘れてはいかん」

 遅れてやってきた冬月が、気落ちした面々を穏やかな口調で諭す。飴と鞭のようなゲンドウと冬月の存在が、ネルフを上手に運営している秘訣なのかもしれない。

「赤木博士と伊吹二尉はMAGIの再検査を頼むよ。日向二尉はシグマユニットの件の対応をしてくれ。青葉は関係各省への連絡を担当するように」

「分かりました」

「早速作業を開始します」

「「了解」」

 各員にそれぞれが果たすべき仕事を改めて告げる冬月。元教師と言うのは伊達では無く、冬月は反感を抱かせない様に場を上手に纏めてしまった。

「そして、シイ君達の回収だが……」

「問題ない」

 ゲンドウがサングラスを直しながら冬月の言葉を遮る。何か案があるのかと集まる視線を受けながら、ゲンドウは静かに言葉を続けた。

「……私が行く」

「「…………えぇぇぇぇぇ!!」」

 誰もが予想しなかった発言に、リツコ達と一緒に冬月とミサトも驚きの声をあげる。

 

「い、碇司令。それは流石に」

「現時点で動ける人物は少ない。幸い私は手が空いている。何も問題あるまい」

「大ありです!」

「父親が娘を迎えに行く。おかしな所などあるまい」

((き、汚い……こう言う時だけ……))

 思い切りジト目でゲンドウを睨む一同。だが本人はまるで意に介さない。

「では冬月、後を頼む」

「……待て碇。お前には委員会から出頭要請が掛かっているぞ」

「むっ!?」

「先方は大層ご立腹だそうだ。誤報だと指示したのはお前だからな、キチンと釈明するべきだ」

 使徒襲来の一報が入って直ぐにそれが誤報だと言われても、当然納得する筈が無い。もし本当に誤報だとするならば、探知機の管理体制が問題となるだろう。

 いずれにせよ、ゲンドウには説明責任がたっぷりと残っていた。

「だ、だが、今は……」

「自分の役割を見失う者は、ネルフには不要なのだろ。精々上手い言い訳を考えるのだな」

 ぐうの音も出ないゲンドウはガックリと肩を落とすと、一回り小さく見える背中をリツコ達に見せながら、寂しそうに発令所を後にした。

 

「やれやれ、碇にも困ったものだな」

「ですね。それで回収の件はどうしましょう」

「ふむ……おお、そうだ。丁度良い人物が居たな」

 さも今思いついたとばかりに冬月は顔を輝かせる。その様子からは嫌な予感しかしない。

「一応聞きますけど、誰です?」

「私が行こう」

((この助平爺めぇ!!))

 勿論口にはしない。ミサトの二の舞になるからだ。だがそれでもリツコ達は目の前の上官に、心の中で罵倒を浴びせることを止められなかった。

「手は空いているし、私も男性だがこの歳だ。あの子達は孫みたいなものだし、何の問題も無いな」

「いや~流石にそれは……」

「だが悩んでいる時間は無いぞ。既に地底湖のプラグへ接近しようとして、保安諜報部に身柄を拘束された職員の数は、二十を下らないのだからな」

(馬鹿ばっかだ……)

 自分の予想を遙かに超えるスタッフの駄目っぷりに、ミサトは頭を抱えた。

 

「では、私が回収に行くと言うことで」

「……あの~副司令」

「ん、何かね葛城三佐」

「さっきの条件なら、私も満たしているんですけど」

 作戦部であるミサトはこの状況で専念する仕事は無かった。しかも女性でシイ達の保護者でもある。先程の条件に当てはめるなら冬月以上に適任だ。

「……やむを得ないわね」

「若干の不安は残りますが、他に選択肢はありません」

「葛城さんなら……くっ」

「堪えて下さい日向さん。助平爺よりは、葛城三佐の方がマシっすよ」

 何気ない青葉の一言を冬月は聞き逃さない。すっと細い目を一層細めて青葉を見据える。

「ほう、聞き捨てならないな。青葉は減給20%を三ヶ月だ」

「ち、違うんです。ちょっと口が滑っただけで」

「なら心の中では常に思っていた訳だな。減給を30%半年だ」

 直属の上司から告げられる非情の宣告。ガックリと項垂れる青葉の姿に、ミサト達は心の中で手を合わせて心底同情した。

 

「では副司令。シイさん達の回収は葛城三佐に任せると言うことで、宜しいですね」

「むぅぅ……無念だ」

「じゃあミサト、よろしく。ただし、くれぐれも裸を凝視したりしないように」

「あんたじゃ無いんだから。それにシイちゃんの裸なら前にも見てるし」

「「なっ!!!」」

 リツコ達だけでなく、発令所で作業に取りかかっていたスタッフ全員が、一切にミサトへ視線を向ける。嫉妬、羨望、憤怒、様々な感情がミサトへぶつけられた。

「……ミサト、その話詳しく聞かせて貰えるかしら」

「え、別に大した事じゃないんだけど。お風呂からシイちゃんが飛び出して来て、その時にちょっちね」

「副司令」

「うむ、葛城三佐はボーナス無しだ」

「はぁぁ? ど、どうしてですか」

「自分の胸に聞きたまえ。シイ君の裸を見るなど…………」

 その光景を想像してしまったのだろう。冬月は最後まで言葉を紡げずに、そっと視線を逸らす。それは青葉達も同様で、だらしなく鼻の下が伸びていた。

「とにかく、ミサトも不適格ね」

「「異議なし」」

「じゃあどうすんのよ。このままシイちゃん達を、放っておくつもり?」

「どうやら、私が行くほか無いようだね」

 まさかの棚ぼたで、このまま冬月の野望が達成されるかと思われた時、

「おや、皆さんお揃いで何やってるんですか?」

 時田が発令所に姿を現した。

 

「時田課長、何か用かね」

「ええ。本部の施設チェックが終わりましたので、ご報告に。全区画異常なしです」

「ご苦労だったな」

 冬月にしては珍しくぞんざいな対応に、時田は首を傾げるが深くは気にしなかった。人間ならば腹の居所が悪い時もあるだろうと思ったからだ。

「それにしても赤木博士。見事な手腕でしたね」

「あら、誰から聞いたのかしら」

「先程技術局のスタッフから聞きました。何でも、使徒に逆ハックを仕掛けたとか」

「私は自分の仕事をしただけよ」

 同じ科学者に賞賛されるのは悪い気はしない。だがリツコはクールな表情を崩さずに、大した事では無いと余裕を持って答えた。

「いやいやご謙遜を。シイさんも博士を褒めていましたよ」

「そう…………え゛!」

 時田の言葉を一度は流したリツコだったが、聞き捨てならない単語に思わず時田の顔を見返す。それはミサト達も同じで、全員の視線が時田に集中する。

「おや、私は何か変なことを言いましたか?」

「時田課長。シイ君が褒めていたと言うのは、何時の事だ」

「そうですね……およそ一時間程前でしょうか」

「えっと、時田博士。貴方は、シイちゃんに会ったの?」

「会いましたけど、それが何か」

 訳が分からないと時田は不思議そうに一同を見る。だがそれ以上に訳が分からないのは、ミサト達だった。

「それは、本部内で?」

「ええ。何でも実験中に突然プラグが射出されたとか。ただジオフロントの地底湖に着水後、直ぐに医療班に救助されたそうで大事は無かったそうです。今は医務室で休んでいると思いますよ」

「パイロットの所在を大至急確認して!」

「こちら冬月だ! ただちに地底湖のプラグを確認しろ!!」

 リツコと冬月が直ぐさま反応する。そして、彼らは真実を知った。

「シイさん、レイ、アスカの三名を第6医務室に確認。今は眠っているそうよ」

「地底湖のプラグは……無人だったそうだ」

 

 実は緊急射出されたシイ達は、直ぐさま医療班によって救助されていた。医務室へ搬送された時に丁度使徒のハッキングが起こり、発令所にチルドレン救出の報告が出来なかったのだ。

 全てが終わった後、冬月は地底湖周辺を保安諜報部にガードさせていたのだが、既にそこにあるプラグは無人だったと言うわけで。

 

「……MAGIの再検査に入るわ。マヤ、行くわよ」

「はい、先輩」

 リツコとマヤは何事も無かったかのようにMAGIの本体へと向かう。

「さて、シグマユニットの安全確認をするかな」

「日本政府各省、並びにネルフ支部への通達を行います」

「ああ、頼む。私は執務室で、報告書を作るとしよう」

 日向、青葉、冬月もそれぞれ自分の業務へと戻っていった。その場に残されたのは、まだ事情が掴めない時田と、疲れ切った表情を浮かべるミサトだけ。

「あの~葛城三佐。私は何か余計な事をしましたかね?」

「気にすると疲れるわよ。シイちゃん絡みの時は、余計にね」

「はぁ」

 この後事後処理が終わったのは、日付が変わろうかという時間になってからだった。

 




本編では使徒侵入以来、全く出番の無かったシイ達。大切な人材ですから、絶対に直ぐ救助されますよね。
まあネルフは今日も通常運営と言う事で。

本日中に本編も投稿致します。

次回もまたお付き合い頂ければ幸いです。

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