エヴァンゲリオンはじめました   作:タクチャン(仮)

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9話 その1《アスカ来日済》

 惣流・アスカ・ラングレー。二年A組に転入してきたドイツからの帰国子女。

 美しい顔立ちと抜群のプロポーションを誇り、日本語、英語、ドイツ語ペラペラの才女。それが第一中学校に在籍する生徒達からの、アスカの評価だった。

「どいつもこいつもアスカアスカ。あのいけすかん女の何処がええっちゅうねん」

「外見だろ。はい、毎度あり」

 トウジのぼやきを聞き流しながら、ケンスケは目の前の男子生徒から小銭を受け取ると、代わりに写真を手渡す。それを大切そうに胸に抱きしめながら、男子生徒は足早に去っていった。

「全く情けないのう。みんな見かけにコロッと騙されよって」

「そう言うなよ。お陰で大分儲けてるんだからさ」

 ケンスケは不機嫌なトウジを宥めるように言う。彼らは小遣い稼ぎの為、定期的に校舎裏で写真を販売していた。勿論普通の写真ではなく、ほとんどが女子生徒の隠し撮りだったが。

「来る奴みんなアスカばっか買うてるな」

「そりゃ転校したてで旬だからね。みんな興味があるのさ」

「確かに、シイも最初の頃は凄かったのぅ」

「うん、多分男子生徒の九割以上には行き渡ってると思うよ。流石に最近は落ち着いてきたけどね」

 友人だからと言って二人が遠慮する事は無かった。寧ろ他の女子生徒よりも接する機会が多いため、必然的に写真の数も多くなっている。

「勢いは甲乙付けがたいね。第一中学校の二大アイドルって所かな」

「シイの奴、ありゃアイドルちゅうのとは違うやろ」

 アスカの場合、純粋にその美貌やプロポーションに惹かれる男子が多いが、シイの場合はどちらかと言うと庇護欲をかき立てられる保護対象、マスコット的な人気が高かった。

「容姿はともあれ、プロポーションの戦力差は圧倒的だからね」

「写真は性格を写さへんからな」

 本性を知っているトウジは、アスカの写真を見て呆れたように呟くのだった。

 

 そんな友人達の暗躍を知るよしもなく、シイはヒカリと何時も通り登校していた。

「鈴原君と相田君、どうしたんだろうね?」

「分からないけど、たまに二人揃って消えるのよね。全く何してるんだか」

 いつもはミサト目当てに向かえに来ている二人が、今朝は珍しく来なかった。アスカの人気が想像以上に高い為、急遽写真の早朝販売を行っていたのだが、事情を知らないシイは首を傾げるしかない。

「どうせロクでもない事してるのよ。大体鈴原は何時もそうなんだから」

「……ヒカリちゃんって、鈴原君には特に厳しいよね。どうして?」

「えっ!? べ、別にそんな事無いけど……」

 予想外の問いかけに、ヒカリは顔を赤くして俯いてしまう。分かりやすい反応なのだが、そんな乙女心が分かるほどシイは大人ではなかった。

(鈴原君の事嫌いなのかな? でもそれなら一緒にご飯とか食べないだろうし……ん~)

「へローシイ、グーテンモルゲン」

 考え込んでいたシイの背後から、明るい声の挨拶が聞こえてくる。シイとヒカリが振り返ると噂の少女、アスカが自信に満ちた笑みを浮かべて二人の元へと歩いてきた。

「惣流さん?」

「おはようアスカ。今日も元気だね」

「まあね」

 アスカは視線をシイの隣に立つヒカリへと向ける。

「確か……委員長だったわね」

「うん、洞木ヒカリちゃん。お友達なの」

「ふ~ん、冴えない子ね」

 値踏みするようにヒカリを見つめ、バッサリと切って落とした。オブラートに包まない発言に、ヒカリは反応できずに固まってしまう。

「違うよアスカ。ヒカリちゃんはとっても優しくて良い子なんだから」

「あんたにとっちゃ、その辺歩いてるおっさんも良い人でしょ」

「むぅ~違うの。本当に良い子なんだってば」

 必死にヒカリをアピールするシイ。彼女にとっては自分が馬鹿にされた事よりも、友人が認められない事の方が大事だった。 

「はいはい分かったわよ。えっとヒカリって言ったっけ。悪かったわね」

「ううん、気にしないで。クラス委員長をしてるから、分からない事があれば聞いてね」

 大人の対応を見せるヒカリに、アスカは少しだけ認識を改める。同級生はガキばっかりだと思っていたが、目の前の少女は少々勝手が違うらしい。

「そうさせて貰うわ。それでシイ、ここに居るんでしょ?」

「私が?」

「あんた馬鹿ぁ? ファーストチルドレンに決まってるじゃない」

 主語を抜かれては誰も分からないと思うが、アスカにそんな言葉は通じない。

「綾波さんも同じクラスだけど、今日は来ないよ」

「はぁ? 何でよ」

「零号機の改修がもうすぐ終わるから、最終調整の為に本部で色々やる事があるんだって」

 シイも詳しくは聞いていないが、今日から数日間は本部に詰めっぱなしらしい。

「ふ~ん、まあ良いわ。どうせ後で本部に行くんだし」

「アスカも呼び出されてるの?」

「弐号機もようやく修理が終わったから、起動テストがあるのよ」

「私も新武装のテストがあるから行くの。ねえ、一緒に行こうよ」

「ま、構わないわよ」

 上から目線のアスカに笑顔を向けるシイ。ケンスケの言葉を借りれば、二大アイドルである二人が向かい合っているこの状況は、当然人目を引く。

 いつの間にか周囲に出来ていた人垣に、自分は場違いだと感じたヒカリだが、周りを囲まれてしまっては逃げるに逃げられず、予鈴が鳴るまで非常に気まずい思いをするのだった。

 

 

 ネルフ本部の一角にあるリツコの研究室は、主の性格を示すように機能的に整頓されていた。コーヒーの香りが漂う室内で、リツコは黙々と作業に打ち込んでいた。

「零号機は一週間程度、弐号機は今日のテスト後に実戦投入可能ね」

 端末を凄まじいスピードで操作し、モニターを高速でスクロールする数値を読みとる。こうした常人離れした事を平然とやってのけるのが、赤木リツコという女性だった。

「初号機の新武装もプロトタイプが完成。順調だわ」

 予定通りに進む作業に、リツコの顔に笑みが浮かぶ。やがて仕事をキリの良いところまで進めると、リツコは机の引き出しから一枚の写真を取り出す

 そこには、大きなクマのぬいぐるみを抱きしめるシイの姿が写っていた。

(ふふ、良いわ。ミサトもたまには仕事するじゃない)

 うっとりと頬を染めて写真に見入るリツコ。すっかり油断しきっていた彼女が、いつの間にか自分の背後に来客が居ることに気づいたのは、後ろから抱きしめられてからだった。

「少し、痩せたかな?」

 突然の行為に驚いたリツコだったが、聞き覚えのある男の声に身体の緊張を和らげる。

「そうでもないわよ。体調管理は完璧だもの」

「その管理の行き届いた身体を、是非とも拝見したい所だね」

「相変わらずね、加持君」

 リツコは身体に回された手を振り解くと、椅子を回転させて振り返る。そして長い髪を束ねた軽薄そうな男、加持リョウジの姿を見ると、小さく笑みを浮かべた。

「や、しばらく。あの時はろくに挨拶も出来なかったからな」

「ミサトはカンカンだったわよ」

「ま、その内機会を見て謝っておくさ」

 加持は苦笑を浮かべて答えると、視線をリツコが持つ写真へと向ける。

「随分お熱の様で。少し嫉妬してしまうな」

「加持君はどうなの?」

「俺か? 確かに将来有望そうだが、流石に幼すぎるな。それにあの父親の娘に手は出せないさ」

 肩をすくめて戯ける加持に、リツコはつられて笑みを零した。

 

「例の新武装も、彼女の為に完成を急がせたのかな?」

「耳が早いわね。まだテストもしていないのに」

「第四使徒戦の後から、技術局が総力を挙げて開発に取り組んでいる新装備。噂にならない方がおかしいさ」

 加持は室内に設置されたコーヒーメーカーを勝手に使うと、湯気をたてるコーヒーを軽く啜った。

「急いだのは使徒に対して有効だと思われたからよ。他意はないわ」

「近距離、遠距離、そして広範囲、全ての領域に対応するマルチウエポンか」

 どうやら既に資料にも目を通しているらしく、加持は開発中である筈の武装コンセプトを簡単に言ってのける。リツコはそんな彼に呆れたような視線を向けた。

「来日早々から勤勉な事ね。興味があるなら、午後のテストを見学しても構わないわよ」

「そりゃ魅力的な提案だ。ただ今興味があるのは、目の前の美しい女性だけどね……」

 加持はカップを机に置くと、リツコの顔に自分の顔を近づけていく。そのまま二人の唇が重なろうとした瞬間、新たな来客が訪れた。

 

「リツコ~。午後のテストだけど、時間ずらしてくれない? やっぱどっちも見たい……し」

 頭を掻きながら入室したミサトは、室内の光景を見てそのままの姿勢で固まった。狭い室内に二人きりの男女。額がくっつきそうな程近づいた顔。極めつけに男は軽薄で有名。

 これらの情報から、何が行われようとしていたのか分からないほど、ミサトはお子様では無かった。

「あ、あ、あんた、何してるのよ!」

「よう葛城」

「あらミサト。残念だけどテストは予定通りの時刻で行うわ」

「な、何平然と返事してるのよ! 大体リツコはともかく、どうしてあんたがここに居るのよ!」

「俺だってネルフの職員だ。おかしくないだろ」

「ドイツ支部所属でしょ。弐号機の受け渡しはとっくに終わってんだから、さっさと帰りなさいよ」

「それが先日辞令が出てな。本部所属になった。よろしく頼む」

 からかうように一礼する加持。ミサトは様々な感情が渦巻いてしまい、上手く言葉を発せなかった。

「良いじゃない。旧友との再会は素直に喜ぶべきよ」

「流石りっちゃん。また昔みたいに連めるしな」

「だ、誰があんた何かと」

 ぷいっと顔を背けるミサト。そしてそんな彼女に、やれやれと言った視線を向ける二人。それはまるで仲の良い友人達のじゃれ合いに見えた。

 

「それで特殊監査部のあんたが、何でリツコの所に居るのよ」

「例の新武装に興味があってな。見学許可を貰った所さ」

 ミサトの本当か、と言う視線を受けたリツコは無言で頷いた。加持の目的が許可を貰う事だったかは不明だが、自分が見学許可を出したことには変わりない。

「何しろ赤木が自ら設計開発した自信作だ。興味がない方がおかしいだろ」

「ま、そりゃね……」

 リツコはエヴァンゲリオンの開発責任者だが、所属は技術局の一課だ。基本的に武装開発は他の課で行われている為、リツコが自ら指揮を執ることは極めて珍しい。

「そう言われるのは悪い気分じゃ無いけど、あくまで試作段階。過分な期待は遠慮して欲しいわね」

「確か……全領域兵器だっけ? 名前は『マ――」

 ミサトの言葉を遮る様に研究室内に警報が鳴り響いた。複数ある警報の中でも、最も緊急レベルの高いもの。それが意味するのはただ一つ。

「使徒!?」

 七番目の使徒の襲来だ。




学校でのアスカは確か猫を被っていたと思います。ヒカリに対しての態度は、シイが親しくしていたので、少し突っかかったと言う感じですね。
二人が仲良くなる障害は無いので、きっと友達になれるでしょう。

リツコの開発した新兵器は、アレです。
本来原作に登場しない武器を出すのは微妙でしたが、公式のゲームにも採用されているので、使わせて頂きます。

次回もまたお付き合い頂ければ幸いです。

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