エヴァンゲリオンはじめました   作:タクチャン(仮)

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7話 その2《シイと初号機2》

 

(でね、その後大変だったの)

 シンクロテスト中のエントリープラグで、シイはエヴァに向けて昼間の出来事を愚痴る。内容は勿論ミサトに関してのことだ。

 進路相談は無事に終わったが、あの後シイは男子生徒から質問攻めにあい、逃げるように本部へとやってきたのだった。

(ミサトさんはとってもいい人だけど……どうしてか恥ずかしいの)

 シイの抱く感情は家族を他人に見られるのを恥じるという、思春期特有のもの。ただそれが今まで味わったことのない感情だった為、シイは戸惑いを隠せなかった。

(貴方にも家族は居るのかな)

 返事は無く、シイもそれを気にせずに心の中で言葉を紡ぎ続ける。会話とも呼べない一方的な語りかけだが、シイにはシンクロしている初号機が、自分の言葉に反応してくれているのを感じていた。

 

「プラグ深度固定して」

「はい」

 実験制御室でリツコはマヤに指示を出すと、困ったように眉をひそめる。前回のテストと同様の事態が起こった事で、あれが偶然起こったものでは無いと証明されてしまった。

「シイさん……少し不味いわね」

「そうですね。テストの数値は好調なんですけど」

「入り込みすぎてるわ。油断してたらあっという間に汚染区域に突入だもの」

 深刻な顔で会話を交わすリツコとマヤ。二人の会話を小耳に挟みながら、ミサトはモニターに映るシイを見つめる。目を閉じてシンクロを続けるシイの顔は、何処か穏やかで安らぎを感じている様だった。

 

 セントラルドグマは発令所などネルフ本部の中心区画。ネルフの中枢とも言えるエリアの為、その保護は最優先に行われている。なのでエヴァの起動実験などは、そこから離れたエリアで行われており、テストを終えると結構な距離を移動しなくてはならない。

 今回も例に漏れず、一同は昇降機でセントラルドグマへと向かっていた。

「ねえシイさん。エヴァとのシンクロで、何か変わったことはあったかしら?」

 その途中で不意にリツコがシイに話しかける。精神汚染区域突入未遂が二度続いたとあって、今後の対策を立てる為に本人の言葉を聞いておく必要があった。

「変わったことですか?」

「ええ……数値の伸びが良かったので、少し興味があったの」

「特には何も。今日もお話をしてただけですし」

 何気なく答えたシイに、リツコはギョッと目を見開く。

「話って……エヴァと意思疎通が出来るの?」

「そ、そんなハッキリとでは無いです。ただ何となくエヴァの感情が伝わってくる感じで……」

 食い入るように尋ねてきたリツコに、シイは少し怯えた様子で答えた。

(感情が伝わる……神経パルスの逆流? でもその反応は無かった筈だわ)

「……今日はどんな事をエヴァと話したの?」

「えっと……今日学校で進路相談があって……その……ミサトさんの事とか」

「ちょっとシイちゃん。エヴァに告げ口なんてずるいんじゃない?」

 不穏な空気になりかけていた場を和ませようと、ミサトはあえて軽い口調で文句を言う。それが功を奏したのか、強張っていたシイの表情が自然とほぐれていく。

「あはは、ごめんなさい。でもエヴァも面白そうに聞いてくれましたよ」

「大変ですよ、葛城さん。あんまり印象が悪いと、命令聞いてくれないかも」

「日向君までそんなこと言って~」

 ブーたれるミサトに、昇降機が笑い声で包まれる。ただその中で一人、リツコだけが何か考え込むような難しい顔をしていた。

 

 話題は先の戦いで破損した零号機へと移る。

「んで、改修の目処は立ったのかしら?」

「大破ですからね。ほとんど新作になりますから、予算ギリギリですよ」

 ミサトの問いに日向は肩をすくめる。零号機は加粒子砲のダメージで全身が融解。大破扱いとなっていた。エヴァの修復には多額の資金が必要とあって、壊れたから直ぐ直すとはいかない。

(そうそう上手くはいかない、か)

 ミサトは今後も初号機が単機で戦うのは厳しいだろうと考えていた。だが零号機が修復を終えて戦線に加われば、作戦効率も上がりシイの負担も大幅に減るとも想定している。

 ただ今の話から修復作業が遅れる事を察し、ミサトは僅かに表情を曇らせた。

「綾波さんは……大丈夫なんでしょうか?」

「あくまで検査入院だから、明日にでも退院できると思うわ」

 マヤに優しく教えられ、シイは嬉しそうに笑みを零す。

(明日は綾波さんに会えるんだ~。一緒にお昼食べたいな)

 自分とヒカリ達、そこにレイが加わった五人で一緒にお昼を食べる。その光景を想像するだけで、シイは幸せな気分になるのだった。

 

「これでドイツから弐号機が来れば、少しは楽になりますかね」

「分からないわよ。逆に修繕費がかさむ可能性だってあるのだし」

「使徒の処理もただじゃ無いですしね」

「まったく、人類の命運を握る組織にしては、お金にケチなのよね」

 日向の言葉を切っ掛けに、口々に予算について話し出す大人達。邪魔しないように黙っていたシイだったが、気になる単語に疑問を投げかけた。

「あの、エヴァって他にもあるんですか?」

「言ってなかったっけ?」

「初耳です」

「……実戦稼動しているエヴァは、ここにある零号機と初号機だけよ。起動実験まで終了しているのがドイツの弐号機。完成間近なのが米国の参号機と四号機ね」

「そんなにあるんですか……」

 リツコの説明にシイは驚きを隠せない。ここに来るまで見たことも聞いたことも無かったエヴァンゲリオン。それが幾つも存在しているなんて、想像すらしていなかったからだ。

「負けられない戦いだからね。少しでも勝算を上げるためには、数が多いに越したことはないわ」

「でも、米国は手放さないでしょうね」

「特に四号機に関しては、こっちにも情報を殆ど公開してませんし」

「??」

「ま、大人の事情って奴よ。とにかく、弐号機がここに来るってのは間違いないわ」

 話に着いていけないシイに、ミサトはさり気なくフォローを入れる。そこにはシイが知る必要の無い、大人の話を聞かせないと言う配慮も含まれていた。

「司令の出張もその件でしたね」

「ええ。この時間だともう会議は終わってる筈だけど」

「お父さん……司令は居ないんですか?」

「大事な会議に出席してるわ。戻るのは明日になるでしょうね」

(お父さんも……みんなを守るために頑張ってるのかな?)

 シイは遙か彼方に居るであろう、ゲンドウを思い浮かべるのだった。

 

 セントラルドグマに着いた一同は、それぞれ目的の場所へ移動する。日向とマヤは発令所へ、シイとミサト達はリツコの研究室へと向かう。

 長いエスカレーターに身を任せながら、シイはじっと何かを考えていた。

「…………」

「どうしたのシイちゃん。難しい顔なんて似合わないわよ」

「むぅ、私だって考え事位します」

 からかうミサトにシイは頬を膨らませて反論する。

「考え事ってひょっとしてさっきの事?」

「はい……ずっと気になってたんですけど、エヴァが負けたら人類はみんな死んじゃうんですよね?」

 これは確認の為の質問。その通りだと頷くミサトとリツコに、シイは本題を投げかけた。

「それって、どうしてなんでしょう?」

「…………」

「シイさんは、セカンドインパクトを知ってるかしら?」

 黙ってしまったミサトに代わり、リツコが言葉を発する。

「えっと確か、南極に隕石がぶつかった災害ですよね」

「表向きはそうね。ただ真実は違うわ」

「え?」

「十五年前、人類は南極で最初の使徒と呼ばれる、人型の物体を発見したの。その調査中に原因不明の大爆発が起こった。それがセカンドインパクトの真相よ」

 

 十五年前に起きたセカンドインパクトは、地球と人類に大きな影響を及ぼした。大爆発による津波と、南極の氷が融解した事で多くの陸地が海へと沈んでいった。失われた人命は数十億人とも言われており、まさに空前絶後の天災。その発端が使徒だったと聞かされ、シイは身体の震えを止められなかった。

(私は……そんな敵と戦ってたんだ……)

 

 怯えた様子のシイに気づきながらも、リツコは話を続ける。目的をハッキリさせる事が、シイの為になると判断したからだ。

「そして使徒を殲滅出来なければ、同規模のサードインパクトが起こると言われているわ」

「サード……インパクト」

「起きればまず人類は滅びるわ。それを防ぐ為のネルフとエヴァンゲリオンなの」

 初めて聞かされたエヴァが戦う理由。あまりに規模の大きな話に、シイはただ困惑するだけだった。

 

「……それとミサト。例の件、予定通り明日やるそうよ」

「……分かったわ」

 不機嫌そうに答えるミサト。先程までは普段通りだった筈なのに、どうもセカンドインパクトの話をしてから様子がおかしい。

「ミサトさん……何だか怒ってません?」

「……ごめんねシイちゃん。いずれ話すから、今はまだ」

 僅かに震えるミサトの手を見てしまったシイは、それ以上何も言えなくなってしまった。

 




シイに関してですが、シンクロ率やハーモニクスについては、この時期の原作シンジと同等か少し低い位のイメージです。

前話の子供回とはうって変わり、今回は大人回でした。シイにはまだ知らされていない情報が沢山あると言う事で。

次回もまたお付き合い頂ければ幸いです。

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